百六十二話 金持ち
4日間に渡って行われた交流試合が終わり、そのまま閉会式に移ったんだけど動くに動けない状況なので俺達は相変わらず観戦席の床に座っていたりする。
王族達を取材しようとして出口にマスコミがわんさか居るんだよ。
だから俺達が出るのは最後ってわけだ。
高校生の個人戦決勝を見た感想としては『よくわからなかった』だな。
互いの攻防が高レベル過ぎてとてもじゃないけど理解出来なかった。
そりゃエリート王国騎士街道まっしぐらで、数ヶ月後には魔獣相手に無双するような連中がする試合なんて子供の俺が見て楽しいもんじゃないさ。
あ、好成績を収めた人達は王国騎士団から内定出てるらしいです。
「わたしも来年はあんな人と戦いたいな~」
「ワンパン君、効く?」
「当たりさえすれば防御を貫通しますよ~。今のイブさんの身体能力では当たらないでしょうけど~」
わからなかったって言ってるのに、なんで君らは戦いたそうにしてるんだい?
少しは俺に話を合わせてくれてもいいじゃないか。
そんな俺の内心を察したのか、みっちゃんが妙な忠告をしてきた。
「次の大会はルークも他人事じゃないぞ。選手としては難しいだろうけど、ヒカリやイブの付き添いとしてマスコミに取材されるかもな」
『ルークさんのメイドを私にください!』
『いえ是非ウチのチームに!』
『イブ様の持っている魔道具はなんですか!?』
『何故王女様と一緒に行動しているんですか!?』
間違いなく活躍するヒカリへの勧誘や、強力な魔道具の生みの親であるイブに質問の嵐。その対応に追われる俺。
あ、有り得る・・・・。
実際レオ兄は個人戦に出場してないにも関わらず結構街中で声を掛けられていた。
どうせ大会終わったら2人は俺の傍に居るだろうし、レオ兄以上の活躍(悪目立ち)をしてしまうヒカリ達への勧誘の人数は想像もしたくない。
「ヒカリは出場辞退しよう。イブは魔道具を作ったらまず俺に見せるように。もちろん大発明をしたら封印だ」
「「え~」」
「『え~』じゃない! 俺の平穏は君達に掛かってるんだよ! 頼むって!!」
早速対策を講じる俺へブーイングする2人。
もしもヨシュアから観戦できるようにユキがしてくれるって言うなら話は変わって来るけど、ユキがそんな役立つ事をするわけないし、ヒカリ達も近くで応援してもらいたいだろう。
つまり彼女達には大人しくしててもらう他ないのである。
全ては俺の平穏のために!
「面白い事になりそうなので私も大会に出場してみましょうか~? たしか大人向けの大会もありましたよね~」
「お、いいな。フィーネやロア商会に居る強い奴等も連れて来よう。知り合いの古龍にも声掛けるか」
「いいですね~。私も知り合いを大集合させましょうか? きっと盛り上がりますよー!」
ユキとみっちゃんが恐ろしい事を言い出した。
ダメっ! それ上位陣全員が俺の関係者になるから!
これ以上俺の平穏な日々を壊そうとしないで!
「「・・・・ニヤァ~」」
アタフタし始めた俺を見て黒い笑顔を浮かべる2人。
「「精霊 VS 神獣をやってみましょう(みよう)」」
や~め~て~。世紀の対決実現しちゃうじゃん。
それ間違いなく変な事になるから。激突した衝撃で異空間への穴が空いたり、未知の強敵やってくるから!
「そもそも戦う場所が異空間ですから大丈夫ですよ~」
「そうだな。この闘技場でも良いが・・・・結界が耐え切れず王国は崩壊するな」
「「「やめて!?」」」
俺はもちろん、近くに居る王族達も全力で2人を止める。
最も影響を受けるであろう国王のガウェインさんはトロフィー授与のために下に降りていたので、順調に進行しているにも関わらず急に慌ただしくなった特等席を見て不思議そうな顔をしていた。
その後、帰って来たガウェインさんに「国を挙げてマヨネーズとドラゴンフルーツを撲滅させる」と宣言されて鎮静化したユキとみっちゃん。
俺もその案に賛成して「ロア商会でのマヨネーズ生産を止める」と脅してやった。
日常的にそんな規模の話をしてるんだから、学生がいくら強くても驚きはしないのである。
試合は終わっても祭りはまだまだ終わらない。
閉会式が夕方だったので遠方から来ている人達は今から帰るわけにも行かず、4日目も泊まるのである。
つまり露店を出してれば儲かるし、食堂なんかは『祝賀会』もしくは『残念パーティ』の開催場所として満員御礼状態だった。
「・・・・もしもなんだけど、ヒカリとユキが優勝するのに賭けてたら倍率どのくらいになる?
いや、目立つの嫌だし金儲けがしたいわけじゃないけど、ちょっと気になったんだ」
絶対勝てるギャンブルって素敵ですよね。夢ですよね。
自分が賭けをするとは思ってもみなかったので、今回行われた倍率を見ていなかったのだ。
そんな時に頼るのは、ユキ&ヒカリの異様なまでに俺の知りたい情報を知っている解説者コンビ!
この話にはユキが知っていると名乗り出てきた。
「たしか高校生の無名選手は30倍を超えてましたよ~。世界大会とかで1位から3位まで順番通りに当てたら1000倍は行くんじゃないですか~?」
「誰か抽選を弄れるヤツ居るか!? ユキ、フィーネ、みっちゃんで上位を占めれば大金持ちじゃい!!」
世界大会の抽選方式は知らないけど、交流試合や個人戦はBOXから番号が書かれた玉を取り出す方式だった。
つまり何かしら魔術で不正することが可能なのだ。
何か・・・・何かないのか!?
「ユキが精霊に言って玉を入れ替えたらいいんじゃないか? 自然界に居る精霊なら魔力探知に引っかからないだろう?」
「まぁ今回と同じだったら出来ますね~」
「金だ! 金だ!! ギャンブルで食っていけるぞー!!」
まさかこんなにも美味しい話が転がっていたとは・・・・っ!
なんてチョロイ人生なんだ!
「・・・・ルーク、ロア商会の年商いくらか知ってる?」
舞い上がる俺にヒカリが変な質問をしてきた。
昔はともかく、色々な事業に手を出し始めた今となっては最早予想もつかない。
1つ言える事は、ロア商会は世界のために利益度外視で頑張ってるって事だけである。
「・・・・え? ロア商会って薄利でやってるから儲かってないんじゃないの?
元々困窮した世界を救うために作った商会だし、みんなに格安で商品を提供してるから部門によっては赤字すらあり得ると思ってんだけど」
「あのリバーシが銀貨1枚は安い」
「マヨネーズ500gが銅貨3枚も格安です~。本当はあるだけ欲しいんですけど皆さんが買う分を残すために我慢する日々ですよ~」
イブとユキがその通りだと俺の意見に賛同してくれた。
ほら、原価と人件費だけでギリギリそうだ。
「・・・・・・金貨2万枚だよ」
「・・・・は? ・・・・あ、あぁ~、売上げね! 費用を差し引く前の商会全体の売上げ。
凄い儲かってるように感じるけど、純利益は金貨100枚行くかどうかって話だろ?」
「ううん。純利益で2万枚」
小売業をやっていた俺が売上げあるあるを説明するけど、ヒカリは「そんな事わかってる」と再び同じ金額をわかりやすく言い直した。
「いくら売れてるとは言え利益はそんな出てないはずだろ!? まさか俺の知らない所でボッタクリ価格にしてるんじゃないだろうな?」
「違うよ。たしかに加工が必要な物は儲かってないけど、農作物とか塩、砂糖、魔獣肉、各種素材は原価ほぼゼロ。むしろ魔獣討伐してくれたお礼とかで貿易品をもらったりするよ。
人手が増えて強い護衛も多くなったから商品を運ぶ時に遭遇した盗賊達もロア商会の旗を見て逃げ出すし、悪徳業者は寄ってこないし」
俺の知ってる頃より桁違いに規模が大きくなったので、同じ価格でも大量生産によって利益が出るようになったらしい。
職人が増えて魔道具とかの生産スピードが上がったってのもある。
「つまり俺が不正をしてまで金貨数枚で、はしゃいでたのは?」
「恥ずかしい事」
イヤァァァァーーーーッ!! イブさん言わないでぇぇぇーー!!!
だ、だって必勝のギャンブルで生活できるとかテンション上がるじゃん!
ある意味、夢だろ!?
「ユキちゃんが深層で魔獣討伐したら金貨数千枚だけどね」
そもそも強い連中を使うなら世のため人のためになる稼ぎをしろと言うヒカリ。
たしかに賭け試合の金って人から奪ってるようなもんだけどさ・・・・。
「お金欲しいならブラックドラゴンでもひと狩りしてきます~?」
「おっ、ドラゴン討伐なら私も付き合うぞ」
「いいなぁ」
意気揚々とダンジョン踏破へ乗り出した2人、と同行したそうな顔をしているヒカリ。
あの・・・・しなくていいです。
倍率を聞いて小遣いの銀貨を賭けて稼ごうと思ってた自分が恥ずかしい。
ってかフィーネさん教えてくれてもいいじゃんかよ。
そんな稼いで何に使うの? 別に生活水準上げる必要無いし、欲しい物は全部ユキ達が採って来るから使い道無くない?
「ルークが暮らすヨシュアを世界最大の街にしたいって言ってた」
「王城作る?」
「おっと~、セイルーン王国の危機ですね~。ルーク王国の誕生ですか~?」
ヒカリ、その話をした時に呼んで欲しかった。
イブ、家族全員でヨシュアに移り住もうとするな。
ユキ、国はそんな簡単に作っていいもんじゃない。
まぁいつものように俺のツッコミは聞かずにドンドン具体的な話に発展していってるけどね。
「ルークって実はハブられてるのか?」
「言うなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっっっ!!!!」
アルテミスさんから客観的意見を言われた俺はそれを否定することが出来ず、大声でかき消すしかなかった。
お祭りムードの中で食べたお好み焼きは涙の味がした。