百五十九話 鉄壁の城
『泊まる所は王城にしよう』とイブがやけに積極的なので、言われるままに王城へとやって来た俺達。
そこは1年前に数日泊っただけなので懐かしくもなく、綺麗な城だけど来る者を威圧する何かがあった。
まぁそう感じているのは今のメンバーの中では俺だったらしい。
世界トップクラスに堅牢な作りをした城もイブにとっては見慣れた我が家でしかなく、例え守衛達が常に睨みを利かしている門だろうとお構いなしにトコトコ入っていく。
と言うか王女様なので頭を下げられている。
「どーもー」
最早『第2の自宅』と言ってもいいぐらい通い詰めているユキも慣れたもので、彼らに労うような言葉を掛けてスタスタ入っていく。
何故かイブ以上に丁寧な挨拶をされている。
「・・・・」
みっちゃんは何も言わず入っていく。
誰にも止められないって事は客人として迎えられているのだろう。
「こんにちは!」
人見知りしないヒカリは屈強な守衛達に元気よく挨拶して入っていく。
そんな天真爛漫な少女を見て、仏頂面だった彼らは歓迎するように微笑んでいる。
イブの友達だと思われたんだろう。
最後は俺だな。
「お邪魔しま~す」
「「止まってください」」
「なんでだよ!? どう見てもイブの関係者だろ!?」
俺だけ2人居る守衛に止められた。
いや、門の横に立っている2人の後ろから受付みたいな事をしている2人も参戦したから合計4人だ。
彼らの眼光は鋭く、その体からはネズミ1匹たりとも通さないと言わんばかりのオーラが立ち上っていて、とても冗談を言っている雰囲気ではない。
つまり・・・・本気だ。
もちろん俺はすぐに声を荒げ、身振り手振りも交えつつ抗議して詳しい理由を問いただしてやったよ!
「プププ~。ルークさん、不審者だと思われてますよ~」
「この流れで止められるってよっぽどだよ・・・・」
「仕方ないだろう。実は私も初めて会った時、ルークの視線があまりにも気持ち悪いから殴りかかりそうになったんだ」
なんとか城内に入ろうとする俺と、頑なに入れようとしない守衛のやり取りを見てユキとヒカリは助けるでもなく笑っているし、アルテミスに至っては俺の精神を折りに来ている。
もうみっちゃんって呼ばないぞ! 料理もしないからな!!
俺は門前で止められているのでその事を目線で伝えるとアルテミスは素直に謝罪してきた。
「かっかっかっ! スマン、スマン。
その後でユキから『ルークは獣の部分に性的興奮を覚える変態だ』と言われて納得したから許してくれ。私が角を消せば問題なかったと反省した」
許せるかっ!
あと絶対に角は出しとけよ! じゃないと友達止めるからな!!
いやこれはケモナーとかじゃないですよ? ほら・・・・アレだ・・・・あのぉ~・・・・・・そのぉ~・・・・アレだよ、アレ・・・・・・ほら・・・・・・。
そうっ! 個性! 個性を出すために仕方なく、ね?
みっちゃんの変身があまりに上手なので神獣だと言う事を忘れそうになるんだけど、それはどうかと思うんだよ。だって人々に崇められる存在な訳じゃん。だから俺もその立派な角を見て『あ、龍だ』と思い出せるってわけだ。
だから今後も大切にしろよ、角。
そして料理が美味しかったらお礼に触らせてね。
「ルーク君は婚約者」
「「ははっ! どうぞお通りください!」」
イブの一声で何とか通してもらえたけど、帰るまでにお前らが俺を止めた理由聞くからな?
雰囲気が犯罪者っぽいとか、目が痴漢するヤツの目だったとか言ったら怒る。
しかし城内に入ってからも俺の扱いは変わらなかった。
「クスクスクス~。不審者が入って来たって皆さんこちらを見てますよ~」
「守衛さんに許可されて入ったのに、こんなに注目される事って普通無いよね?」
「おっ、あそこのメイドなんて駆け足で逃げていったぞ」
なんで俺ばっかり!?
もう止めて・・・・マントを、顔を隠せるフード付きマントをください!
俺が一体何をした!
「たぶん、私の婚約者を見に来てる」
俺の顔を見ては去っていく城内の人々のせいで人間不信になりかけていると、イブが自分のせいだと言い出した。
どうやら1年前のパーティで『王女様に婚約者が出来た』と言うニュースが城内に広まったのが原因らしい。
「氷の王女とまで言われたイブのハートを射止めた男はどんな奴だ?」
メイド達を中心に誰もがそんな疑問を持ったけど、最低限の人間しか出席していなかったので詳細に覚えている人など居るはずもなく、様々な憶測が飛び交った結果として『イブが男を連れてきたらソイツだ』と言う事になった。
で、今まさにその状況ってわけ。
「つまりメイドさんや王国騎士は興味津々だった俺を見てあまりにも平凡な男だから笑ったと?」
「そう」
・・・・そこは嘘でもいいから笑ってないと言って欲しかったなぁ。
あと仮にも王女の婚約者相手にその対応はどうなんだろう?
もしも俺やイブが後継者になったらアンタ等が気まずくなるんじゃないか?
と思ったらイブが嫁ぐのは決まっているので、城の人達にとって俺はタダの子供だと言われたよ。
皆から『イブに政治は無理』って諦められているらしい。
「しかも恋人同士の距離にヒカリさんが居ますからね~。皆さん、『まさかの二股!?』とか『イブ様との婚約解消!?』とか色々噂してますよ~」
「ユキ、今すぐ否定して来い! 急いで!! 国王様の耳に入ったら俺、殺される!」
デマだとしても娘ラブなあの人が何もしない訳がない。
「それも面白そうなので断ります~」
ムカつくほど素敵な笑顔で断られたけどな!
どこまで効果があるかわからないけど、イブが近くに居たメイドさんに、「ルーク君は遊びに来ただけ。ヒカリは友達」と言って一応だけど広まるのを食い止める努力はした。
そして俺は今、お泊まりの許可を貰いに王族の方々に挨拶している。
イブさん、城に泊まって欲しいと自分の気持ちを言っただけで誰の許可も貰ってなかったのである。
だから流石に大人の許可を貰った方が良いだろうと思った次第です。
「1年振りになりますがルークです。イブに誘われて来ました。つきましてはしばらく泊めていただけないかな~と思いまして・・・・・・」
交渉力皆無なイブは仕方ないとして、ユキやみっちゃんも後ろでボーっと突っ立っているだけでフォローなど一切ない。
ヒカリはすれ違う人の戦闘力を測っている。
「ワシ、隠居ジジイなんじゃが・・・・」
国王様は忙しいみたいなので先代国王のアーロンさんを捕まえて交渉中だ。
話の通じそうな人を口説き落とすのが1番楽だと考えた俺は、人当たりの良さそうな王族をイブに教えてもらったらこの人を紹介された。
本当は知り合いのマリーさんが良かったんだけど不在だったし、彼女が大人かと言われたら微妙な気がしたので祖父のアーロンさんに決定。
「先代がOKと言えば他は事後承諾でも良いんですよ。知らない仲じゃないんですし、ここはパパッと即決で」
「まぁイブの婚約者じゃし、構わんと思うが」
「はい、じゃあ俺達泊まりますね」
強引すぎやしないかって?
お爺ちゃん探しの途中で知ったんだけどこのアーロンさん、以前のパーティで変装してまで俺を見に来たフットワークの軽い面白爺さんだったのだ。
聞けば城内でも希少なギャグキャラだと言うし、挨拶しただけで話しのわかる爺さんだと理解出来たので、このぐらいが丁度いいと思ったんだよ。
何はともあれ王城生活スタートだ!
「どこに泊まります~? 大会があるので前に使った来客用の塔は一杯ですし、私かイブさんの部屋ですかね~」
もう完全に城の人間となっているユキが早速難題を持ち出した。
客室空いてるって言ってたのに・・・・やっぱり城内事情を知らないイブが勝手に空いてると思っただけなんだろうな。
しかし俺の答えは決まっている。
間違いなく1人部屋で、大きなベッドがあって、俺も仲の良い人が居るじゃないか。
「もちろん我が心のオアシス、ユウナさんの部屋『ドゴンッッ!!』 グフッ!」
答えている途中で凄まじい衝撃が俺を貫いた!
「ユキさん、『これ』ちょっと威力強い」
「もっと強くても良いよ、イブちゃん」
最近ユキによって強化され続けているイブの突きが俺の鳩尾にクリティカルヒットしたのだ。
しかし非力な少女が数ヶ月鍛えただけでこの威力を出せるものだろうか?
食後だったら間違いなく吐いてたし、人を殴って出る音じゃなかった。
こ、これ? 何か変な魔術使ってます?
ヒカリさん、もっと強くって今でも気絶しそうですけど・・・・もしかして怒ってらっしゃいます?
廊下に倒れている俺が目線で問いかけると、イブが拳を開いて手の中にあった握りやすそうな石を見せてきた。
「ワンパン君1号」
ワ、ワンパン君? 何それ?
「ルークさんの魔道具に感銘を受けたイブさんが正当防衛に役立つ魔道具を作ったんですよ~。私もちょっと手伝ったらこんなの出来ました~」
この魔道具なんてことはない。パイルバンカーの要領で、魔力を込めた瞬間に拳から貫通衝撃破が打ち出されるのである。
もちろん貫通なので鳩尾に喰らった俺は内臓もろとも貫かれて見事にノックダウン。
ワンパン君の名に恥じない一撃だったよ。
2号の火力が抑えられる事を願う。
あ、ユウナさんは第2夫人だから夜のアレコレが無い限り1人だと思ったんです。
お祭り状態で忙しい時期なのでそれも無いかな~と。
でも嫉妬深い少女達が居るからダメみたいです。
嫁(予定)と幼馴染から容赦ないツッコミを喰らった俺は、休む間もなく『廊下で倒れられては迷惑』と気遣い一切ないまま回復させられてイブの部屋に連行されてしまった。
「泊まる場所だけど、順当にいけばヒカリがイブと同じ部屋で、俺がユキの部屋かな」
体は回復しても精神は回復しないので、持ち前の切り替えの早さで何とか乗り切った俺は今夜寝る場所を決めている。
「まぁそうなりますよね~」
「私は別に構わないぞ」
「わたしも~」
全員賛成のようなのでそれで行こう、と決めかけたその時!
「ルーク君と一緒が良い」
イブから反対意見が出た。