百五十七話 見た目って重要よね
大会3日目の個人戦なんだけど、話せることは何もなかったりする。
だってアリシア姉はご存知の通りリタイアしたし、レオ兄は代表に選ばれてしまったから仕方なく出場しただけで個人戦はやりたくないと言うのだ。
そんなわけで皆がお祭りムードで盛り上がっているところ悪いんだけど、オルブライト家一同は観戦する必要が無くなってしまったのでヨシュアに帰ろうかって話をしている。
薄情? いやまぁその発端が出場者本人のアリシア姉なんだから構わないだろう。
誰から聞いたのかは知らないけど、団体戦終わりに念話が飛んできて、
「フィーネが鍛えてくれるんでしょ!? だったら一刻も早く帰りましょうよっ!」
と言ったから。
で、俺達は早速家族会議を始めた。
「父さん達はどうすんの? 俺はもうちょっとイブ達と遊びたいけど」
元々この夏休みを使って婚約者と親睦を深めようと思って王都まで来たのだ。
この大会だって遊ぶ時に何かイベントがあった方が楽しいと考えたからで、ぶっちゃけついでだったりする。
「私は帰っても良いと思うわよ。あまり家を留守にするのもアレだし、イブちゃんと一緒に居たら王城のパーティにでも参加させられそうだから」
「そうだね。子供の活躍を見るって言う目的は果たせたからアリシアとレオが出ないならそれも良いかもね。仕事も溜まってるだろうし」
相変わらずパーティ嫌いな母さんと、仕事の虫の父さんはアリシア姉と共に帰宅するらしい。
ヒカリは俺について来るって言うし、ユキも当然遊びたい派閥に属する。みっちゃんはそもそも俺の料理目的だから俺が帰らないとヨシュアに行く意味が無い。
残るはフィーネなんだけど・・・・。
「ああ言ってしまった以上は仕方ないでしょう。
私はアリシア様を鍛えながら一緒にヨシュアへ帰ります」
まぁそうなるわな。
なので俺は今、出場選手ではなくなり『面会厳禁』と言う規則から解放されたアリシア姉とレオ兄に久しぶりに再会している。
実はアリシア姉と1日以上離れるのは人生初だし、レオ兄とは2年振りなので結構嬉しかったりする。
その照れ隠しもあってルーク不良バージョンで挨拶してみた。
「おう、おう、おうっ! あんちゃん強くなったらしいが貴族としての勉強はちゃんとやってんだろうな? あぁん?」
「ルーク、今更キャラクターを作っても・・・・。念話はこっちにも届いてたから。
それにしても大きくなったね。僕はもちろん文武両道がモットウだから父さんの後を継げるように頑張ってるよ」
チッ、これで弟の急変振りに動揺したら面白かったのに、相変わらず真面目な兄貴だ。
もうちょっとボケとツッコミについて勉強した方が良いんじゃないか? ユーモアって大事だぞ。
「気が向いたらね。
それよりずいぶん人が増えたみたいだけど、紹介してもらえるかい?」
未来永劫、絶対に勉強しないであろうセリフを吐いたレオ兄は、イブ達の方を見ながら挨拶したいと言い出した。
ここは俺の出番だな!
「イブとみっちゃん」
「だからそれがどんな人かを聞いてるんだけどな」
「王女と神獣」
フッ、我ながら完璧な紹介だ。
名前と立場を伝えれば十分だろう。
「え~~~っと・・・・・・イブちゃんがセイルーン王国の王女様で、みっちゃんさんが人の姿になってるドラゴン「あんなデブと間違えるな! 古龍だ! そして名前はアルテミスだ!」・・・・あ、スイマセン。古龍ね。
ルークの兄のレオポルドです。レオって呼んでね」
レオ兄、スゲェな!?
絶対通じないと思いきや、持ち前の対応力と推理力で全く動揺した様子もなく完璧な自己紹介する。
「ブラボー、ブラボー。王女であるイブを一瞬で俺の婚約者だと理解してちゃん付けで呼び、みっちゃんを龍と察する勘の良さ、素晴らしい!」
「最近王城に白い少女が我が物顔で出入りしているって噂は聞いてたし、イブちゃんがルークの傍を離れないから何となくね。
アルテミスさんは龍のTシャツ着てて、頭に角が生えてるからそうじゃないかな~って」
こ、これがモテ男の実力なのか・・・・!
きっと隣の席の女の子に『髪切った? 似合ってるよ』とか平気な顔して言ってんだぞ。
俺なら恥ずかしくて女性の変化を指摘したり出来ないし、そもそも本当に変わったか自信がないので絶対に触れない。
「相変わらずヘタレですね~」
いつも通り女性関係に臆病な俺への辛辣なコメントをするユキに同調して全員頷いている。
え? そんな事ないよな? 普通だよな?
「僕も自分からは言わないよ。『髪切ったけどどうかな?』とは聞かれるけど」
はい、出ました~。既に好意を持たれてる相手から話題を振られるパターン!
自分から動かなくても楽々女の子をゲット出来る妬ましいヤツめ!
想像の遥か上を行くモテ兄だった。
(((ルークもそうじゃん)))
一通りレオ兄を弄り倒していたら、何故か俺が白い目で見られていた。
俺が一体何をした!?
そんな家族の戯れタイム。
折角オルブライト一家が全員集合したので、大会3日目はのんびりまったり王都観光と洒落込むことになった。
唯一王都出身者のイブにオススメスポットを聞いたところ、「・・・・知らない」と想像通りの答えが返って来たから俺達は適当にブラブラしている。
メインは近況報告も兼ねた会話だから目的地なんて必要ないのだ。
レオ兄も王都に2年住んでいるから案内ぐらい出来るだろうけど、「オススメの店を紹介するよりは各々が気になった店に立ち寄ろう」と言ってガイド役を拒否した。
きっとデートスポットしか知らないんだぜ。やーい、モテ男、モテ男ー。
「ちょっとあっちに行かないか? 時間は取らないから」
するとあてもなく歩いていたはずなのに、みっちゃんが急に商店街の片隅を指差して俺に話しかけてきた。
「別にいいけど、なんかあるのか?」
「300m先で龍フルーツが売っていそうな気配がする」
気配かいっ!
まぁ目的がある訳じゃないので言われるがままに進むと・・・・。
「本当に売ってるし」
八百屋の店先には確かに『ドラゴンフルーツ』と書かれたPOPがあり、その上にはカゴ毎に『アップル』や『マンゴー』と書かれた値札と共に数種類の果物が並んでいた。
どれもこれも聞いていた以上に気持ち悪い見た目をしている。初めて食べたヤツ勇者だな。
「やはりここでもドラゴンフルーツ・・・・っ、オヤジ! この値札はなんだ! 何故龍フルーツと書いていな、もがっ!?」
「はいは~い。みっちゃんは大人しくしてましょうね~」
店主に謎のクレームをつけ始めたみっちゃんをユキが押さえつける。
「は、放せ! 今こそ改革の時っ!」
「みっちゃんさん、もしもユキを振りほどいたら先にヨシュアへ帰った私が全てのドラゴンフルーツを消しますよ。当然ルーク様の手料理など食べられませんね」
「!?」
フィーネの『ドラゴンフルーツ殲滅発言』によって大人しくなったみっちゃんは、せめてもの抵抗なのか忌々しそうに看板を睨んでいる。
「あの・・・・これとこれ、ください」
「ま、まいど」
俺は知り合いが意味不明なクレームを付けたお詫びとして店に売っていたドラゴンフルーツをいくつか購入することになってしまう。
料理する前に食べてみたかったってのもあるから別にいいけど。
「あ・・・・」
すると店主から品物を受け取ろうとしている俺に再びみっちゃんから声が掛かった。
「まだ何かあるんですか~? 本当にドラゴンフルーツ消されますよ~」
「い、いや違う。買うならそっちの龍アップルの方が糖度が高いし、龍マンゴーはこっちの方が新鮮だと伝えたかっただけだ」
アルテミスさん、流石は自他共に認める『ドラゴンフルーツマニア』だけあって一目で良し悪しを見分けられるらしい。
「んじゃそれで」
もちろん美味しい品を選んでくれる事に異論などない。
買ったドラゴンフルーツを紙袋に入れてもらい、どこか休める場所を探して公園へとやってきた俺達は、丁度いいベンチを見つけたので早速試食を開始する。
「ユキ、ナイフ」
「どうぞ~」
ユキが丁度いいサイズの小さなナイフを氷で作り出して渡してくれた。
「わかってるなっ! そう、ドラゴン・・・・いやいや、龍アップルを切る時は冷やすことが重要なのだ!」
好物を目の前にして興奮したのか、思わずドラゴンフルーツと言いそうになったみっちゃんが慌てて訂正しながら美味しい食べ方を説明してくれる。
「いや、食べた事ないんだからそんなの知らなかったよ。単純に切る物がなかったから出してもらっただけなんだけど・・・・」
「ん? 手で割けばいいじゃないか」
皮は固そうだけど案外ミカンみたいに手で剥けるのかと思い、言われた通りにやってみたけど全然割れる気配がなかった。
それ、アンタが古龍だから出来る芸当じゃないのか?
ちなみに子供達全員が挑戦した結果、ヒカリは素手で割れて、アリシア姉とレオ兄は無理だった事を記しておく。
結局ユキのナイフでスッパリ切ったドラゴンフルーツ。
「うげぇ・・・・なんだよこの色」
俺が食べようとしていたのは『ドラゴンアップル』と言う、ドラゴンの背びれに似ているらしい糖度の高い果実。
で、その中身なんだけど・・・・・・まさかの蛍光色で『ド』が付くぐらいのピンクだった。
これは人の口に入れていい物じゃない。
心なしか蠢いてる気がするし、プルプルしたピンク色のナマコって感じだ。外側が紫なのはまだ許せるとしても、蛍光色って自然界に存在して良いのか?
「ふっ、相変わらず食欲をそそる色合いだな」
え~、龍族にとってはそう感じる?
果実と言うだけあって匂いが良いのは認めるけど、色合いは完全にアウトだろ。
周りの反応を見ると、俺の予想通りみんな青ざめ・・・・てなかった。
「ユキ、早くフォーク出して」
「8,9,10人・・・・人数多いから食べられる量少ないわね」
「ハチミツがあったら最高なんだけどね」
あれ? 皆さん平気なご様子ですね?
これ食べるんですか? ドピンクですよ?
シャクシャクシャクっ!
「爽やかな甘みが口の中を駆け巡り、飲み込んだ瞬間の独特なのど越しが堪らない!
たしかに父さんが言うようにハチミツがあればさらに美味しくなっていたな。残念ながらこれだけじゃ物足りなさがある」
結構クセがあるので絶品とは言いにくいけど、ブドウとリンゴを混ぜたような果実は色さえ気にしなければ美味しかった。
「なんで流通してないんだ? これだけ美味しかったら見た目を気にせず全然食べられるけどな~」
「だろ? だろ!? 主食にならないのが不思議だろっ!?」
ドラゴンアップルを食べたアルテミスさんがただでさえハイテンションなのに、俺の素朴な疑問を聞いて『正義は我にあり!』と言わんばかりに迫って来るのが鬱陶しいのはさて置き。
ドラゴンフルーツ専門店があってもいいぐらいの果実だけど世間に浸透してない理由でもあるのだろうか?
そんな俺の疑問に答えたのは父さんだった。
「色々あるけど、大きな要因は3つかな。
この果実を好むドラゴンが運んでる時に嗅ぎつけて寄ってくる事。
味付けが難しくて一歩間違えば生ゴミになってしまう事。
初めて食べる人はこの見た目から手を出しにくい事」
入手難易度は低くてもドラゴンと遭遇する可能性がある以上、そこまでの危険を冒して売りたい品ではないので何かのついでに少量採るのが一般的なんだとか。
しかも厄介な事に、食べられない皮にも寄ってくることがあるので調理した後の処理が面倒臭いらしい。
味付けに関しては、今食べているドラゴンアップルならばハチミツ以外の調味料が合わないので同じ味で食べ続けるしかないんだけど、それではどんなに美味しくても絶対飽きるし、味が濃厚なので大量に食べたいとは思わないのだ。
実際俺も手のひらサイズのこれを全部食べられるか、と言われたらNOと答える。
ドラゴンフルーツとは薄味な物でも1個完食は難しい果実だった。
「美味しいのにな~」
そう言いながら袋から2個目を取り出したみっちゃんは1人寂しそうに食べて続けた。
「まぁ何とかなるだろ。味自体は悪くないんだし、一口サイズの菓子にすれば全然食べられるさ」
「本当か!? 楽しみにしてるからな!!」
「痛っ!」
よほど嬉しかったのか勢いよく俺にヘッドバッドをかましたみっちゃん。
頭がぶつかると言う事は口と口がくっつきそうなほど近距離に居て、当然そのスレンダーな胸は完全に俺との間で押しつぶされている。
・・・・近い・・・・・・アルテミスさん近いよ。
真横以外から見たらキスしているようにしか見えないかもしれないけど、そんなロマンチックなもんじゃない。
興奮して瞳孔が開ききった捕食者の目をした龍は怖いんだよ。
「・・・・消しましょう。ドラゴンフルーツ。世界中から」
「エリーナちゃん、その紙袋貸して。跡形もなく砕くから」
「ユキさん。ホウさんを呼ぶ魔法陣ってどうやって書くの? 倒したい神獣が居るんだけど」
「レーヴァテインの魔法なら倒せないかしら? ちょっと全力で使いたくなったんだけど誰か魔力回復してくれない?」
ほら、怖~い女の子達が動き出したから早く離れて!