閑話 ユキサイド『結』
セイルーン王城全体が寝静まった深夜。
度々遊びに来るのでいつの間にか作られていたユキの部屋で、アルテミスとユキが今後について話し合っていた。
明日や明後日という近い未来ではなく、数年、数十年先について・・・・。
「みっちゃんはまだアイリーンさんを待ってるんですか~?
もう300年になりますよ~」
「たった300年、とも言えるけどな。転生するにしても頻繁に起こる事でもないだろうし、数百年は覚悟していたさ」
アルテミスがセイルーン王国に固執する理由はタダ1つ。
過去に出会った友人と再会したいからである。
その可能性が最も高いのは同じ血族のセイルーン王族に転生する事だと考えたアルテミスは、300年と言う途方もない年月アイリーンを待ち続けていた。
「まぁ私達からすればそんなに長くはないですけど、大会以外の時は深層に引きこもってるだけでしょう?
もっと人生楽しんだ方がいいですよ~。人と接するのが嫌なら海の中とかオススメです~」
2年毎にセイルーンにやってくるアルテミスは、それ以外の時間をダンジョンの奥底で静かに過ごしているので、それはユキからしてみれば退屈な日常に思えた。
基本的に神獣と言われる生き物は、住処から全く動かない『不動タイプ』。
信仰の対象として人々の近くから手助けする『崇められタイプ』。
そしてアルテミスのように時たま顔を見せる『暇つぶしタイプ』の3種類である。
しかも彼女の場合は不動タイプと暇つぶしタイプを混ぜたような生活なので、言わば『神獣版ニート』。
だからこそ「待ってる間も何かするべきだ」とユキは言っていた。
もちろん友達ともう一度会いたいと言う事に反対はしていない。むしろ根気よく待ち続けられるアルテミスの事を尊敬すらしていた。
「ああ・・・・もう待つのは止めようと思う。
イブ達を見て感じたんだ。アイリーンの血は間違いなく受け継がれているってな。イブの自由奔放さ、マリーの容赦のなさ、そして2人の容姿、その他にも親しくなればなるほど全員に何かしらの面影があった。
きっとアイリーンが生まれ変わっていたとしてもわからないだろうな。今までもそうだったけど、そのぐらい似ている王族が多かった事に今更ながらに気付かされたよ」
そんなユキの提案を聞いてアルテミスは新しい道を探す決心をする。
それこそ記憶を持ったまま転生しない限り彼女は友と再会することは出来ないだろう。
「じゃあこれからどうするんですか~?」
「そうだなぁ・・・・・・取り合えずイブ達と生活してみるか。
それが気に入ったら子供や孫の代まで面倒を見てもいいし、飽きたら友達になれそうなヤツを探してもいい。ルークが美味しい龍フルーツ料理を作ってくれたら広めるのもいいな」
フィーネやユキと同じ結論に至ったアルテミスは、現状最も親しい人物であるイブやマリーの傍に居る事に決めた。
もちろん好物を世界に浸透させることも忘れてはいない。
「神獣様のありがたみ無くなりそうですね~。たまに会えるからこそ崇められるんですよ~?
朝起きて廊下で神獣とすれ違ったりしたら、それはもうただ長生きしてるだけの人じゃないですか~」
王城で暮らすことに賛成はするものの、自分の事を棚に上げてそれで良いのかと尋ねるユキ。
彼女は王城メインのアルテミスとは違い、ヨシュア中どこにでも現れる精霊王なのだが・・・・。
さらに言えば精霊を崇める人間は神獣を崇めるより多いので、その分ユキの正体を知った時の失望の多さも計り知れない。
そんな事を思いつつ、長年の付き合いからツッコんでも無駄であることを知っているアルテミスは、ユキの心配を問題ないと言って否定する。
「一部の人間だけに神獣である事を伝えて、それ以外には魔族の客人だとでも言ってもらえばいいさ。神獣として大会前の顔合わせも続けるつもりだし」
「おぉっと~、これは王子様の初恋相手としてラブコメ展開になるパターンですよ~。魔獣に襲われる王子様、そこに颯爽と現れて助け出し正体を明かすみっちゃん!
『ア、アルテミス・・・・君が今まで僕達を守ってくれていたんだね』
『それが私の生きる道だからな』
『じ・・・・実は・・・・ずっとそばに居てくれた君の事が・・・・・・アルテミスゥゥゥーーーッ!!』
ダバダバダ~で朝チュンですー!」
数百年来の友人でエロい妄想を膨らませるユキが、アルテミスの前で一人二役の告白シーンを熱演し始めた。
「カッカッカッ! 神獣を落とせる男が居るなら100年や200年ぐらい喜んで妻になろうじゃないか! 年の差1000歳の夫婦とか面白すぎるわ!」
相変わらずの大根役者であったがアルテミスには伝わったようで、その光景を想像して笑い出す。
少なくとも人類は古龍にとって恋愛対象にはなるらしい。
「楽しめるといいですね、王城生活」
「ああ! 想像したらワクワクしてきた!
まずはドラゴンフルーツの総称を龍フルーツに変えようと思う」
こうして少女としての生活が始まったのである。
「と言うわけで世話になる」
「部屋は私と共用で良いそうです~」
翌朝、城内の誰よりも早く起きたユキとアルテミスの2人は、国王であり責任者でもあるガウェインが朝食を取っている最中に宣言した。
「「「はぁ・・・・」」」
20人は座れるであろう巨大なテーブルではガウェインの他に数人の重役達が一緒に食事をしてたが、全員事情が掴めないらしくイマイチ反応がよろしくない。
すでにアルテミスは来客として歓迎されている立場なので、彼らの予想より長く暮らすと言う神獣様に対して自然とこういう反応になっていた。
「おやおや~? みっちゃん、みっちゃん、あまり歓迎されてないっぽいですよ~」
「むぅ・・・・もちろん迷惑を掛けるつもりはない。むしろ最低限の衣食住だけで護衛を名乗り出ているのだが、どうだろう?」
何も言わない城の主を前に、困惑しつつ今一度詳しく説明するアルテミス。
「「「はぁ・・・・・・・」」」
こういう時に強い女性陣がやってくるまで男連中は同じ反応を続けた。
「つまりアルテミス様を来客として扱えば良いと言うわけですわね? いえ、独立した近衛兵でしょうか?」
「イブやマリーだけでなく王族全体の護衛、さらには騎士団の教育係としてセイルーン王国の発展に協力していただけると?」
「凄いじゃない! 神獣の護衛なんてセイルーン至上初よね!
・・・・こんな大ニュースにも関わらずガウェインさん達は何故喜んでいないのかしら?」
「「「はぁ・・・・・・」」」
一瞬で事態を把握した3人の女王が喜び合っている中、未だに何の反応もしない男達は取り合えず話を聞きながら食事を続けていた。
どちらかと言えばアルテミスの事は女王達に任せて、自分達は早くいつも通りの仕事に取り掛かりたいのかもしれない。
ユウナ達理解者が現れるまで何度も交渉していたユキとアルテミスも、しばらく前に彼らへの説明を諦めて今は静かに朝食を取っている。
「モグモグ・・・・をををっ? 前に指導した事を守っていて素晴らしい下処理ですね~。美味しいです~」
「あぁ、この腕があれば龍フルーツの調理も夢ではないかもしれない」
いや、2人で料理に舌鼓を打っているので静かではないが・・・・とにかく王城で暮らす件への話し合いには参加していない。
(((これだから男は・・・・)))
王国を裏で操る女王達は、役に立たない国王に呆れつつ今後のアルテミスへの対応について相談を始めた。
食後、そのまま仕事の話を始めたガウェイン達。
一方食べ終えたユキとアルテミスは寛ぎ始めた。
「これでフィーネさんも迂闊に国を落とせなくなりましたね~」
「ルークが望めばいつでも国を落とすとか言っていたな。まぁ私はイブ達が生きていれば王族である必要は無いから別に守らなくても」
「「「ちょ、ちょっとお話があります!」」」
アルテミスの立場を決める前に、彼女が戦力として手を貸す詳しい条件を聞き出すことになった女王達。
この件に関して何もしない事を決めたガウェインは、国王としての仕事に黙々と勤しんでいる。
(ユキさんが来てからと言うもの、私の立場がドンドン無くなっている気がする・・・・)
話し合いに参加させてもらえないので心の中で泣いている可哀そうな男だ。
ルーク達が闘技場に集まるまで、3人の女王とアルテミスによる会議は続いた。
「取り合えずアルテミスさんの角は飾りと言う事で」
「「賛成~」」
「正体を隠すなら羽も出さない方がいいだろうな。いや魔族なら角と羽を生やした奴も少なくないから良いのか?」
「窮屈でなければ角だけでお願いします。
アルテミスさんはイブとマリーの家庭教師と言う事でいいわね? あぁ・・・・神獣様に指導していただけるなんて母親として鼻が高いわぁ~」
基本イブと一緒に居ると言うアルテミスだが、客人として王女の傍に置くのは怪しいと考えたユウナは教育係を提案する。
「ちょっとユウナさん、ズルいですわよ」
「そうね! ズルいわ! 出来れば子供達全員を担当してください」
すると当然ながら反対する2人の女王は、『神獣に家庭教師をしてもらえる機会を逃すものか』と不平不満をぶつけてきた。
「いや人間に教えられる知識なんて戦闘方面しかないんだが・・・・。まぁこれを機に私も人間社会について学んでみようかな」
アルテミス、王城で家庭教師の地位を獲得。