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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十一章 王都大会編
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閑話 ユキサイド『転』

「ところで、みっちゃんはどうしてここに顔を出すようになったんですか~?

 大会前の賑やかな時に墓参りするのは人類の習慣ですよ~?」


 墓参りを済ませた一行は白霊山から降りているのだが、美味しい料理を食べるためついて来たアルテミスが王族と交流を始めた理由が未だにわからなかった。


 もしも友の命日だと言うなら毎年来るし、龍である彼女は忙しくもないので時々忘れると言うのも妙である。


「あ・・・・あぁ・・・・うん・・・・・・まぁ」


 しかしユキからの質問に対して曖昧な回答をするアルテミス。


 どうも言いにくい事らしい。


(((気になる)))


 自分達に関係している事なのでイブ達も興味津々に聞き耳を立てているが、彼らに出来るのはユキに目線で催促して追撃させる事だけである。


(((聞け・・・・もっと聞け・・・・詳しく聞け)))


「で、何でですか~?」


 イブ達の願いだ届いたのか、ユキが容赦ない質問を続けた。


 まぁそもそも最初の疑問に答えていないので当然の流れである。


「・・・・・・アイリーン亡き後、少ししてこの場所に定期的に血族が集まっている事を知ったのだ。

 先ほどドラゴンフルーツと言う名称が気に入らないと言ったが、人の意識改革をするならまずは権力者から、と言うわけで王族に『龍フルーツ』を広めてもらおうとしただけの話だ」


「でも広まってないですよね~? みっちゃんが言えば皆さんそれなりに頑張ってくれると思いますけど」


 アルテミスは好物にドラゴンと付くことが相当嫌だったようだが、彼女イチオシの『龍フルーツ』と言う総称は一切広まっておらず、イブ達王族ですら初めて聞く言葉だと頷いている。


「そうっ! ヤツ等は私が黒龍の姿で現れた瞬間に、話を聞く間もなく勝手に崇め始めた!

 やれ『アイリーン様の2周忌に神獣様が墓参りをしてくれた』だの、やれ『今後は白霊山を守っていただける』だの・・・・」


 そんな尊敬の眼差しを向けてくる人々に「果実の総称が気に入らない」と言える空気ではなく、気が付いたら墓参りに来るようになってしまったと言う。


 しかも何をするわけでも無く、ただ突っ立っているだけという全く無意味な役割のため、つい数年単位の昼寝をしてしまい来れない事も多いらしい。


「どうせ寝るならここで寝たらいいじゃないですか~。みっちゃん、いつもダラダラしてるだけでしょ~?」


「ダラダラって・・・・まぁそれも以前試した事がある。

 そしたらイブのような王族らしく無いヤツから『神獣様がそんな姿を見せちゃダメ!』と怒られた。なんでも威厳を出すためには寡黙に佇んでいて、決まった儀式の時にやってくるのが通らしい」


 どうせ龍フルーツを広められないならどうでもいい、とそれを守った結果、彼女は今日まで王族と交流しなかったと言う。


 だからと言って話しかけられる機会も多かったのに無視していたのは、元来他人に興味がなかったと言うものあるのだろう。



「・・・・(ボソ)これは歴史から抹殺すべきだろうな」

「・・・・(ボソ)そうですね。神獣様は今まで通り崇めましょう」

「・・・・私、話しかけない方が良い?」


 ユキとアルテミスの会話を聞いた王族の間で密約が交わされていたりするので、2年後の大会の時も『みっちゃん』ではなく『アルテミス様』として威厳が保たれる事だろう。



「みっちゃん、大会中はどうするんですか~? 私達が帰るのは来週になるので美味しい食事はその時までお預けですけど」


 山を下りたユキ達の予定は決まっているので、アルテミスがどうするのかを聞いて来た。


「何故山を下りてからそれを言った!?

 ・・・・まぁやることも無いし、久しぶりにユキと行動を共にするか」


「つまりイブさんと一緒ですね~」


「よろしく」


 と言うわけで古龍(少女バージョン)が仲間に加わった。




「では我々はこのまま会場に向かう。明日の開会宣言のリハーサルもしなければならないからな」


「イブ、本当に王族席に来ないの? ルークさんと一緒が良いのはわかるけど、観客席は人が多いわよ?」


「大丈夫・・・・たぶん」


 下山した所で待っていた馬車の中で今後の予定を話し合うイブ達。試合の観戦は別れて行うようだ。


 ここで『王女だから危険』と言う考えはユキ達が居るので当然出てこないが、イブにとって初めてとも言える大衆の中での行動に一抹の不安を覚えたのか、ガウェインとユウナは心配そうである。


「大会か。たしか人間同士の模擬戦だったな。むろん見たことなど無いが、時折話には聞く」


「そこにルークさんと言う素晴らしい料理人が居るんですよ~。明日紹介しますね~」


「クックック・・・・龍フルーツの新たな扉を開いてくれるわ」


 料理を楽しみにするその顔は、誰がどう見ても普通の少女だった。


 そして意地でもドラゴンフルーツとは言わないようだ。



 夕方からはイブも将来の勉強として大会運営についての話し合いに参加したため暇になったユキはルーク達と合流した。


 アルテミスが城の料理人達とドラゴンフルーツについて熱心な会話を延々と続けていたので流石のユキも飽きたのである。


 まぁユキもルーク達と夕食を食べただけですぐに帰って来たのだが。




 アルテミスが懐かしいと言いながら王城内を散策した翌日。


 いよいよ大会本番である。


 闘技場の前には数百人は居るであろう長蛇の列が出来ていた。


「こう人が多いと思わずブレスを吐きそうになるな。一網打尽感が半端じゃない」


「きっとルークさんも同じような事を言ってますよ~。ちょっと押しただけでメルディ倒しになりますよね~」


 『メルディ』とはこの世界に昔からある将棋のような駒の遊戯。つまり将棋倒しのアルディアバージョンである。


「ああ、尻尾でひと薙ぎするだけでどれだけの被害が出る事か。考えただけでワクワクする」


「私は地面を凍らせて転ばせてみたいですね~。1番長く立っていられた人の勝ちです~」


 そんなくだらない話題で盛り上がるユキ達の横ではイブが人の多さに圧倒されていた。


「・・・・・・人、多い」


 最近改善されてきたとは言え、やはり人が苦手な事に変わりはないらしい。



『では入場開始でーす! 特別チケットをお持ちの方からお先にどうぞーーっ!!!』



 場内アナウンスによってゾロゾロと動き出す人の山。


 出場者の親族ではないが、当然イブ達も特別チケットを持っているので優先して会場入りすることが出来た。


「・・・・・・・・ゴメン・・・・無理」


 が、待ち時間10分ほどの間にイブの精神が限界を迎えてしまい、気持ち悪そうにその場に座り込んでしまった。


「あ~、これは帰った方が良いですね~」


「こんな連中に合わせる必要はないだろう。ちょっと威圧すれば半数は気絶すると思うが」


「・・・・・・楽しみに・・・・してきた人達に・・・・それはダメ」


 少し迷ったイブだが、結局ルークと再会することなく諦めて王城へと帰っていった。


「あっ、私が試合の様子を映せますよ~」


 と言うユキの万能さがあったのも大きいだろう。



 そんな訳で自室に戻って来た一行。


 イブが休憩している隣で「暇つぶしに」と言ってユキが試合前の会場の様子を映し出した。


「・・・・っ!? ルーク君が映った・・・・ユキさん、あっち」


「あいあい」


 明日は必ずルークとの再会を誓うイブはその時に試合内容について話そうと心に決めていたが、試合が始まるまではルークを映すべきだと進言する。


「やっぱりあそこだけ人払いをして・・・・」


「もう今更だぞ。ふむ、コイツがユキの言う料理人か・・・・よし覚えた」


 ルークの姿を見たイブが我慢できなくなったようだが、意外にも常識人なアルテミスによって止められる。


 そしてルークは古龍に顔と名前を覚えられたのであった。



「・・・・ルーク君から通話が」


 すると会場に居るルークが事情を聞いて心配したのかイブに連絡が入った。


『もしも~し、イブ元気か~? 人ごみに酔ったんだって?』


「・・・・ルーク君・・・・ゴメン」


 その後、少しだけルークと会話をしたイブは今日の二の舞にならない様に対策を練り始めた。


「オルブライト家が選手のアリシアさんと会話出来て、人が少なくて、私達が誰にも見られなくて、うるさくなくて、人の迷惑にならない場所」


「「難しいですね~(だろ)」」


 条件が厳しすぎる。


 それでもイブは試合と試合の間を使ってユキ達と考え続けた。

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