百五十四話 王者は常に勝つから王者
あの後、魔法で攻撃したアリシア姉と喰らった相手が気絶して担架で運ばれていったのでそれ以上の騒ぎにはならなかったけど、場内のザワツキが収まることは無かった。
解説者も初めての出来事になんと説明するべきか悩んだ末、
『心技体、全てが完璧に合わさって生まれた奇跡の一撃でした!』
と締めくくり、次の試合に移っていった。
まぁ実は正解だったりするんだけど、態々教えてやる必要も無いだろう。
そんな事より俺は、あれほどの火力が出るとは予想外だったので姉の容体が気になっていたのだから。
「大丈夫だよな? 魔法の副作用とかないよな?」
もし俺が作った武器によって後遺症があったら・・・・なんて考え始めると震えが止まらなくなる。
しかしフィーネがそんな事にはならない、と落ち込む俺を慰めてくれた。
「大丈夫ですよ。正真正銘、アリシア様の全魔力を消耗したので疲労と筋肉痛はあるでしょうが、それも数週間もすれば自然に治ります」
と言うフィーネの言葉通り、アリシア姉は大会中に魔力が回復せずダルそうだったけど、試合と言う事もあり普段以上のハイテンションでピンピンしていた。
大怪我する事のない大会中の回復は選手同士でしか許可されていないため、先ほどの試合で全てを出し切って消耗したアリシア姉が再び復活することはなかった。
フィーネが言うには短期間の魔力回復は一流の魔術師でないと不可能で、あれほど消耗したアリシア姉は学生の手に負えるものではないとのこと。
当然俺達家族ですら会えないのでフィーネによる治療も出来ない。
気絶ぐらいはよくあることなので、誰であろうと大会が終わるまで選手に会う事は出来ない決まりらしい。
ちなみにこの試合はヨシュア学校が勝利した。
あれほどの攻撃をされた相手校は萎縮し、本来の実力が出せないままレナード君、他(アリシア姉が心配で名前なんて覚えていない)に連敗。つまりアリシア姉の活躍により見事3連勝を飾ったのだ。
魔法による一撃で壊れた床も休憩時間の間に勝手に修繕されていたのは、流石ユキの結界と言ったところか。
そんな一時の盛り上がりを見せたヨシュア学校だけど、全体で見れば残念ながら例年通り最下位争いをする成績だった。
まぁレナード君はそれなりに評価高かったし、アリシア姉は学校と同じく『破壊神』の名称で有名になったけど、如何せん団体戦のルールとして3人が勝たなければどれだけ凄い事をしてもチームとしては負け。
レナード君ですら対戦校で最も弱い相手に苦戦する事があったので、ヨシュアの選手が弱かったと言うより他校が強すぎた感じだな。それでも無敗な辺りは流石である。
そんな中でアリシア姉は1戦しかしてないけど、そりゃ名立たる強者でも成し得なかった歴史に残る一撃を放ったんだから、目の当りにした人々からはそう呼ばれるだろうよ。
それほどの武器を持ってしまったアリシア姉が誰かに狙われる可能性があると思ったのかフィーネが、
「この大会が終わったら早速訓練を開始しましょう」
と言っていた。
待望のフィーネとマンツーマンの実践訓練だ。アリシア姉が聞いたら喜ぶ事だろう。
まぁヒカリが既に経験済みらしいけど・・・・。
ここで少し俺とフィーネ以外の反応を見てみよう。
「もう少しアリシアの活躍見たかったわ~。折角代表選手に選ばれたのに1戦しかしないなんて勿体ないわよね」
「そうだね。皆の記憶に残る試合ではあったけど、親としては子供の晴れ舞台を少しでも長くみたかったよ」
いくらフィーネから安全を保障されたからとは言え、あの魔法を見ても娘の容体を一番に心配する辺りは親だなって感じる。
いや、母さんは普通に試合を楽しみにしてるだけかもしれないけど・・・・。
と口々に感想を言い合う俺達だけど、ふと隣のヒカリが試合が始まってから一切話してない事に気が付いた。
「どうしたんだ、ヒカリ? 体調悪いのか?」
そんな風には見えないし、弱い奴の試合なんて興味ないから見てないだけかもしれないけど、流石にあの試合を見て何も感じないのは変だった。
するとヒカリは真剣な表情で俺を見つめて、
「ど、どうしよう・・・・。
わたし・・・・・・アリシアちゃんの攻撃防げないかもしれない!」
「いや、ユキの結界突き破る攻撃を防げると思う方がおかしいだろ」
今朝アリシア姉が新しい武器を手にした時から脳内で模擬戦を繰り返していたらしく、あの一撃を見て自分も負けるかもしれないと悩んでいた。
仮にも『幻の魔術』と言われる魔法をなんとかしようと考える事自体あり得ない。
一応試合も見てて子供らしい戦闘を研究していたようで、どのくらいまでやって良いのか来年からの参考にするみたいだ。
「ヒカリさん、大丈夫ですよ。千里眼ならば放たれる魔法の範囲を察知出来るので、守りに徹すれば防ぐことも可能です。
帰ったらアリシア様と同じく魔法についての訓練を開始しましょう」
そんな珍しく戦々恐々としているヒカリにフィーネが余計な助言をしてしまう。
「アリシアちゃん以上の魔法を使う人が相手でも戦えるようになる?」
「もちろんです。古龍などは連続使用してきますからね。対応できるようになっていただかなくては困ります」
「うん! 頑張る!」
君達・・・・・・。
規格外の連中は放って置いて、次は高校同士の試合である。
言い方は悪いけど午前が子供達の低レベルな前座試合。午後からが高校生の見応え満点な激戦と言うわけだ。
賭けが行われていることもあってか、盛り上がりは桁違いだった。
昼休憩も兼ねて選手や観客の入れ替えをした後、再び解説者マイクさんのパフォーマンスが入る。
『さぁーーーっ! いよいよ待ちに待った高校の部の始まりでーすっ!!
解説は引き続きマイクと! なんと、なんと! この人がやってくれるぞぉぉぉーーーっ!!!』
『王国騎士団団長、ジャンが担当します。よろしくお願いします』
一流と言っても差し支えない高校レベルになると解説一筋の素人にはわからない事も多いらしく、毎回試合内容を説明出来る人を呼んでいるみたいだ。
で、今回は主催者のセイルーン王族に深い関わりを持つ団長にお呼びがかかったと。
「「「キャーー!!! ジャン様ーーーーー!!!」」」
超エリートのジャンさんは非常にモテるらしく、場内から黄色い声援が飛び交う。
毎回解説者をして欲しいっていう声は掛かってたけど護衛任務が忙しくて不可能だった所、今回だけ特別に許可が出たと言う話だ。
まぁユキのお陰だろう。
イブに付き添って王城に居るみたいだけど、会場にも目を光らせてるっぽいので建前上だけ最低限の護衛で十分だからな。
良かったな、歓声を上げてる女性達。ジャンさん、将来ハゲる髪質だけどそれでもいいのか?
モテる奴は全員ハゲれば良いんだ・・・・加齢臭も付けて。
『第1試合は毎度お馴染みセイルーン高校が担う事になっています! その可哀そうな対戦相手は・・・・レギオン高校!!
ご存じ常勝の王者である我らがセイルーン高校にどれだけ食い下がれるか、見ものです!』
『セイルーンの先鋒はレオ選手。攻守共にバランスの取れた素晴らしい選手ですね。
対するレギオンはゼン選手。なんと奇遇な事にレオ選手の妹に怪我を負わされたズン選手の兄だと言う事です。弟のリベンジなるか、期待したいですね』
おっと、早速レオ兄の登場か。
モニター越しに再会した兄は『マダムキラー』の二つ名を授けたくなるほど美少年に成長していた。高校でもさぞモテることだろう。
「・・・・チッ。イケメンになりやがって」
「ルーク、2年振りの兄をそんな風にいう物じゃありません。レオが結婚出来なくて家を継がなかったら貴方が継ぐことになるのよ」
「イケメンで、勉強出来て、戦闘もこなせて、モテモテで、結婚相手に困らないお兄様、最高!」
モテすぎて逆に結婚できないとか止めろよ?
俺は自由に暮らしたいんだ。
「・・・・・・怪我? 破壊神か!?」
「うん。アリシアはボクの妹でね。
妹にアレだけの活躍を見せたら兄としては負けられないんだよ・・・・ね」
どうやら高校の試合は選手同士の会話が聞こえるようになっているらしく、レオ兄が不敵な笑みを浮かべながらの勝利宣言と、相手の怯えたような声が場内に響き渡った。
『自信家になっちゃって恥ずかしっ』と思ったら、明確な威圧をしたレオ兄は本当に凄かったのだ。
相手が10の魔力を使えば半分5の魔力で対応し、相手が槍や弓を使えば土魔術で作り出した同じような武器で圧倒。
相手の得意分野で戦ってことごとく競り勝つと言う万能ぶりを観客に見せつけることになる。
そんなレオ兄ほどサービス精神旺盛ではなかったけど、セイルーン高校の選手全員が他校とはレベルが違った。
まぁ規模が大きい高校みたいだから自ずと選手層は分厚くなるのだろう。
王族が所属してるから一流の教師も大勢居るだろうし、専用施設も多いと思う。
「それを期待してレオさんの学校訪問したんですけどね~。とても一流とは言えませんでしたよ~」
翌日の話になるけど、イブと共に合流したユキはそんなことはないと否定してきた。
まぁ学生レベルで・・・・な。
レオ兄の成長具合から見ても、国内最高峰の教師陣だろうよ。
「と言う事を思いながら2日目を迎えるルークさんであった~」
「ここまで全部ユキの回想!?
いや正解だけど、だったら俺が主体のリアルタイムな話で良かったんじゃ・・・・」
大会初日がまさかの回想シーンだった。
ちなみに今は1日目が終わって宿屋で寛いでいた所である。
そんなわけで2日目だ。
たまに入れたくなる回想シーンを使ってみました。
回想・・・・ではないかもしれません。