百五十一話 魔法剣って凄そうですよね
アリシア姉のために新たな武器作成をしていた俺とフィーネだったが、子供の体では夜更かしに限界が来たので俺は途中でリタイアしてしまう。
そんな俺の代わりに悪影響の出ない程度に手伝うと言うユキと、引き続き続投のフィーネに任せてみたら途中から気分が乗ってきてしまったらしく、伝説級の剣を作り出したのである。
この剣、どうやら魔術の最終形態である『魔法』を生み出せるらしい。
世界の理を覆すほどの力『魔法』。
逆説的な考え方をすれば、人類・・・・いや、世界中の全ての生き物が魔法の出来損ないで満足していると言う事だ。
もちろん普通の貴族であるアリシア姉が手にするには過ぎた代物であることは間違いない。
さらに言えばフィーネやユキ等の特殊な人以外が手にして良い物ではなさそうである。
もちろん俺は持ちたくない。
なんて物を作りやがったんだ!
「私達は悪くないですよ~。ルークさんの指示通りに作っただけですもん」
「力は御貸ししましたが構想はルーク様ですね」
さらにさらに、その責任を俺に押し付けてきやがったではないか!
たしかに魔法陣とか、剣の作り方とか指示したけど!
アリシア姉が使いやすいような持ち手とか、将来性を見越した重量にしたけど!!
何なら魔力伝達率が良くなるように色々工夫したし、切断力と攻撃力が最大になるためのバランス調整にかつてない情熱を注いだけどっ!!
自慢させてもらえるなら魔力、魔術、精霊術、3つが同時発動出来るように物凄い複雑な魔法陣組んだけど!
ドヤァ~。
「私達がやったのって、それに力を加えただけですよ~」
「基礎は出来上がっていましたね。具体的な性能をお伝えした時、ルーク様も大変乗り気だったと記憶しております」
徹夜によって冷静さを失っていた時の俺は全ての事に対して「やっちゃえ、やっちゃえ」と許可していたらしい。
・・・・・・ま、まぁ。全員に責任があるって事で。
「いいの出来た? 楽しみで眠れなかったのよね~」
「が、頑張ったけど・・・・本当に使うの?」
俺の持っている剣を見てソワソワと落ち着きのないアリシア姉に、完成した・・・・してしまった大剣をおっかなびっくりで手渡した。
ユキは薄情にも王城で朝食を取らないといけないとか言って逃げやがった。試合会場であったら覚えてろよ・・・・。
あ、そうだ。折角考えた名前を伝えとかないとな。
「剣の名前は『レーヴァテイン』。神様が使ったとされる炎の剣から取ったんだ」
中二病をこじらせた時に色々調べたから、神話とかには詳しいぞ。
「いいじゃなーいっ! 凄く手に馴染む! 炎って言うのが私に合ってるわね!」
早速ブンブンと素振りを始めたアリシア姉はとてもご満悦である。
しかし魔法と言う未知の力を知ってしまった俺は、いつ不用意に発動するか気が気じゃなかった。
「今のアリシア様では全ての魔力を出し切ってようやく、と言ったところなので大丈夫でしょう」
フィーネが俺を安心させるように説明してくれたけど、それってつまり全ての魔力を出し切るであろう試合については保障しないって事ですよね?
流石にユキ自慢の結界を壊せるとは思えないので観客は平気だろうけど、対戦相手が消し飛ぶとかも無いよな?
するとそこは結界がある限り死にはしないと言ってくれた。
・・・・闘技場始まって以来、初の怪我人が出る可能性は否定しないんですね。
その後も嬉しそうに大剣を振り回していたアリシア姉は試合時間が迫っていると言って大剣を抱きかかえて宿舎へ戻っていった。
出場者は早めの入場らしいのだ。
「ルーク達、凄いの作ったね~」
「騒ぎにならないと良いけど・・・・」
「大丈夫よ、アリシアは勝つわ」
常識ではあり得ない魔法剣を娘が所持したにも関わらず、やたら呑気な連中だ。
ヒカリは千里眼で見たのか大剣の凄さを理解しているようだけど驚いてはない。
まさかあの剣すら抑えられるとか言わないよな?
父さんは心配しているけど、この心配もどちらかと言えば新作武器の事よりも戦闘狂のアリシア姉がやり過ぎないか不安のようだ。
母さんに至ってはどう勘違いしたのか初戦ぐらいアリシア姉なら楽勝だと言っている。
たぶん話題が『剣を使いこなせるのか?』って事だと思ったのだろう。
取り合えず今の俺に1つ言えることは、子供が夜更かしするのは止めましょうって事だ。
「試合開始まで寝るから・・・・」
そう言って俺は睡魔に抗うことなく眠りに落ちた。
俺が目を覚ましたのは多くの人で埋め尽くされた観客席だった。
たぶん会場中に歓声や怒号が鳴り響いているんだろうけど、一切聞こえないので俺の眠りを妨げないようにフィーネが気を利かせて防音魔術でも使ってくれているのだろう。
「試合始まった?」
ざわざわ、ざわざわ。
俺が質問すると同時に周囲の音が聞こえてきたけど、歓声などはなくて思ったより静かだったので試合はまだのようだ。
「おはようございます、ルーク様。さきほど王族や来賓の方々が挨拶し終わったところですよ」
答えてくれたのはエルフであることを隠すために帽子を被ったフィーネ。
なるほどね。そりゃ静かな訳だわ。
いくら盛り上がる場だとは言ってもお偉いさん方の挨拶の邪魔をする勇気はないだろうし。
「って王族が挨拶したなら知り合いも居たのか!?
もしかして。本っっ・・・・っ当に、もしかしてだけどイブが挨拶したとか無いよな?」
公衆の面前でする初めての挨拶を聞き逃したって知られたら絶対怒られる!
ないよな? イブ出て来てないよな!?
「大丈夫よ。ユウナさんは居たけど、あとは初めて見る人ばかりだったわ」
ほっ・・・・。どうやら忙しい王族は一部を除いて決勝戦とかを最後の最後に少し見るだけらしい。
そりゃ高校の方がメインだろうし、子供の試合なんて顔さえ出しとけば文句は言われないだろうさ。
で、具体的にはどんな進行具合?
「え~っとね。参加者全員が並んで、前回の優勝校が挨拶して、偉い人が挨拶して、試合相手が決まったところ」
ワォッ! アリシア姉もう出てるじゃないですか~。
「しかもこっちを見て手を振ってたわね」
ウワォッ! 俺が寝てるの見られてるじゃないですか~。
「偉い人は・・・・大臣と、・・・・・と・・・・・だね。
王族だとユウナ様の他には第2王女のマリー様と、第3王子のレックス様だよ」
ウッワォッッ!! バッチリ知り合い挨拶してるじゃないですか~。
「こちらを見ているようでしたが、ルーク様が以前王城に行ったときに知り合ったのですか?」
ワッホォォ~イッ! 久しぶりに再会したお姉様からの評価最悪じゃないですか~。
「ってか知り合いじゃなくてもイブの家族なんだから、息子寝てたら起こせよ!
心象が大事ってわかんだろ!?」
マリーさんとか1年前にあっただけで深い仲じゃないんだから、きっと俺の評価ガンガン下がってるぞ。
「「「大丈夫だよ(よ)。笑ってたから」」」
「呆れられてんだよっ!!」
寝起きドッキリを仕掛けられた気分になった俺は動悸が収まらないまま、とある矛盾点が気になったので聞いてみた。
「ユキがイブと一緒に行動してるはずだけど、会場に来てないって事はどこに居るんだ?」
少なくとも俺達の近くには居ないし、来賓席にも居ないようだ。
あっ、マリーさんが居る。一応頭下げとこ。
ついでにジェスチャーで『寝てません。目を閉じて考え事をしていました』・・・・っと、これで良し。
たぶん見てないけど謝った事には違いない。俺の気分の問題だ。
で、ユキ達は?
「実はルーク様が寝た後にユキがやってきたのですが、どうやらイブさんが人混みに臆してしまったらしく、今日の所はモニター越しに試合を見学すると言っていました」
元々引きこもりのコミュ障な王女様だから仕方ないけど、会場を埋め尽くす人の波を見て俺との再会を断念したと言う。
『大好きな婚約者ルークとの観戦』と『歩く度に他人の汗を付けられる不快な空間』を天秤にかけると後者が勝つようだ。
「あ、それ違うよ。イブちゃん自身は頑張って会場に入ったんだけど、体調不良になったから泣く泣くお城に戻ったんだって」
精神が肉体を凌駕するとまではいかなかったらしい。
そもそも王女様を一般人と同じ場所に行かせるなよ・・・・来賓とは別の特別席を用意しとけ。
と思ったら、同じことを考えたイブが人混みの解決策として何度もユキに「オルブライト家専用の空間を作り出せないか」と頼み込んだけど、迷惑になると言う王族の反対もあり諦めたらしい。
で、今は王城からユキの魔術でこの会場を見ていると言う。
チッ、やっぱり投影出来るんじゃないか。入学式の時は断りやがったクセに。
試合開始まで少し時間があるようだし陣中見舞いでもしておくか。
「じゃあちょっと連絡してみるわ。
もしも~し、イブ元気か~?」
俺は携帯でイブに話しかけると、すぐに弱り切ったイブの声が返って来た。
『・・・・ルーク君・・・・ゴメン』
「謝らなくていいから。城でユキと一緒に観戦してな。
アリシア姉の武器、昨日俺が作ったんだ。たぶん凄い事になるから楽しみにしててくれ」
『うん・・・・明日こそ頑張る』
そして今までで最も短い通話は終了した。
ブラックの件はノーカウント。あれは通話じゃない、救援要請だ。
しかし俺との会話すらまともに出来ないとか、どれだけギリギリな状態なんだよ。
本当に無理して頑張ってくれたようなので、イブの愛に感謝だな。
さて、生涯最初で最後の武器がこの愛に報いるような試合をしてくれるといいな~。
いよいよ対抗戦の始まりだっ!