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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十一章 王都大会編
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閑話 その頃、ヨシュアでは

「静かですね~。こんなに静かなオルブライト家はいつ以来でしょう?」


「だな。普段うるさい連中が全員王都に行っちまったから当然っちゃ当然だけど、こうなると少し寂しく感じるもんだ」


 ここは主の居なくなったオルブライト家。


 ヨシュアに残っているエルとマリクの2人は、庭の草木が擦れ合う音すら聞こえるほど静まり返った居間で寛ぎながら思い出に浸っていた。


 普段はうるさいとすら思っていた子供達の声や、貴族としてあるまじき怒声を発する大人達が居なくなると何か物足りなくなるようだ。


「兵士連中にしたって折角俺が朝から晩まで鍛えてやろうと思ったのに、どいつもこいつも子供と旅行するとか、実家に帰るとか、長期休暇を使ってやりたい事があるとか言いやがって・・・・」


「仕方ないですよ。学生さん達はもちろん、働いてる人だって連休を取って遊ぶ時期なんですから」


 今は誰もが待ち望んでいた夏休み。


 大人も子供も自由に過ごす季節なのだ。


 当然それとは対照的に接客業や収穫時期を迎えた農家は忙しくなるので、その手伝いをさせられる人も多い。


 マリクが指導している兵士達の半数はそれが原因で里帰りしていた。



「しっかし・・・・いざ『休め!』って言われると何して良いか悩むな」


「ですね~。私なんていつも通り早起きして8人分の朝食の用意しちゃいましたもん。習慣って怖いです」


「お陰で食べ過ぎて今の今まで動けなかったぞ。

 まぁ何とか消化出来たんだが・・・・動けるようになっても暇だな」


「「何かすることないもんかね~(ですかね~)」」


 どうやらこの2人、暇らしい。


 主の留守中に家を訪ねてくる人が居るかもしれないので留守番をしているのだが、来るかもわからない相手を待っているだけなので退屈していた。



 コンコン・・・・。



 すると玄関からノックが聞こえてきた。


「おっと来客だ。知り合いだったら話し相手になってもらうか」


「お茶とお菓子はいくらでもありますから絶対逃がさないでくださいね!」


 2人は絶妙なタイミングでやってきた訪問者を捕まえる計画を立て始めた。


 不幸にも長時間拘束される事が決まってしまった来客。


 その正体は・・・・。



「学校が夏休みだって聞いた」



 ニーナである。


 ルークやヒカリと遊ぼうと思ってやってきたらしいが、残念ながら目的の人物はこの家に、いやヨシュアにすら居ない。


「「ルーク達は王都に行ってるぞ(ますよ)」」


「っ!? ・・・・ま、また置いて行かれた・・・・また・・・・っ!」


 秘密にする必要もないのでルーク達の旅先を告げた2人だが、最近子供同士で遊ぶ事すら出来ていなかったニーナは色々と不満そうだ。


((これは良いカモが来た))


 マリクとエルは内心ほくそ笑みながら計画通りにニーナを家の中へと招き入れる。


 今日1日空いていると言う絶好の暇つぶし相手が、『昔と比べて扱いが雑になった』と面白そうな話題を持ってやってきたのだ。


 逃がすわけがない。




 ニーナが増えた事で3人になった居間で早速始めた話題は、やはりルーク達王都組の事だった。


「置いて行かれたって言うが、ニーナは皆が王都へ行く事知らなかったのか?」


「たしかアリシア様が知り合い全員に自慢していたはずですよね? 食堂にも行ったと思ってましたけど」


 アリシアと関係性も深い『猫の手食堂』に報告していないとは考えにくいし、例えアリシアが言い忘れていたとしてもルークやヒカリ経由で伝わっているはずだが・・・・。


「もちろん聞いた。でも日程までは聞いてない」


 色々準備があるだろうから夏休み中旬ぐらいだと思っていたと言うニーナ。


 当然ついて行くつもりだったらしい。


「・・・・(ボソッ)なぁヒカリの保護者だからリリには言ってたはずだよな?」

「・・・・(ボソッ)ですです。出発前の夜、挨拶にも来てましたよ」


 実はニーナとヒカリの母親であり、食堂の店長でもあるリリが深刻なウェイトレス不足を心配して絶対にニーナを王都へ行かせないよう緘口令を敷いていたのだ。


 それによって一切の情報が入らなかった彼女は、リリの目論見通りヨシュアに居残りとなった。


 世間は連休で食堂にとっては書き入れ時なので、もちろん他の食堂従業員にも連休などあるはずもなく、連日連夜ロア商会の売り上げに貢献している。


 そうとは知らないニーナは悔しそうにしつつ、事実を悟ったマリク達から憐れむような目で見られて不思議そうだ。


「・・・・何?」


「「なんでもない」」


 つまり食堂が人手不足である以上は今後もルーク達の旅行について行く事が不可能だと決まっている可哀そうなニーナ。


 そんな少女のためにマリクとエルは話題を変えることにした。



「最近ヒカリがドンドン強くなるんだが、そろそろ食堂でも勝つんじゃないか? 飲食無料チャレンジはしてないのか?」


「へぇー! そんなにですか!?

 私は戦いの事はよくわかりませんけど、フィーネさんが鍛えてるのは知ってますからやっぱり才能あるんでしょうね~」


 この飲食無料チャレンジとは様々な名称で呼ばれるが、要は武闘派集団『猫の手食堂』で従業員達の猛攻を凌げればタダになると言う試合だ。


 常連客の間では賭け事になっている有名なイベントで、これまで店側が敗北した事はないので賭けの対象はもっぱら挑戦者が倒されるまでの時間となっている。


 そんな一流冒険者にすら引けを取らないニーナ達に、マリクは「ヒカリならばもしかして勝てるのでは?」と言っているのである。


「まだ負けない・・・・。姉として負けるわけにはいかない」


 いずれ抜かれるだろうと思っているニーナだが、姉としてのプライドもあるのか素直に「負けるかも」とは言えないようだ。


「今度挑戦させてみたいな。もちろん俺はヒカリが勝つ方に賭けるつもりだ。

 ・・・・そういやフェムって参戦する事あるのか?」


「私と同じ犬人族ですよね? 戦っているのを見た人は居ないとすら言われている伝説の料理人ですけど」


 今まで無料チャレンジをした腕自慢達の中には全従業員を呼び出せた強者は居らず、最高記録はフェムを除いた4人である。


 フェムが参戦すれば食堂側の戦力も強化されるので、勝敗に影響すると予想したマリクがどの程度の強さなのか聞いているのだ。


 その正体はエルと同じ犬人族、ではなく魔人のオルトロスであり、フィーネと1戦交えても生きていられたほどの強者。伊達に商店街の平和を守るヒーローをやっていない。


 一応秘密と言う事になっているが、食堂従業員の間では『彼女強いんじゃね?』と噂になっているので隠しきれてはいない。


「たぶん負けることになっても手出しはしない。でも・・・・わたしより強い」


「んじゃやっぱりヒカリの勝ちに賭けるな」


「その時は私の分も賭けてくださいね。もちろん家族としてヒカリさんの優位を確信しています!」




 その後、自分が弱く思われている事に激怒したニーナと、丁度身体を動かしたくなったマリクによる全力の戦闘が行われた。


 勝敗はともかくとして、間違いなく言える事はマリク達の暇つぶしは成功したと言う事である。


「明日も誰か来ねぇかな~」


「フィーネさん目当てでルナマリアさんとか来るんじゃないですか?」


 そして2人は静まり返ったオルブライト家で新たな暇つぶし相手が来るのを待つことにした。


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