百四十九話 落ち込む姉を慰めました
3年ぶりにフィーネと再会を果たした元教え子のアッシュ、マール、レイン。
彼らは自分達の成長を見せるためフィーネに襲撃を仕掛けたが、それを止めたのはお世話になったフィーネやユキではなく、近くに居たアリシア姉、ヒカリ、レナード君の3人組『破格ーズ』だった。
この名称? なんかアイツ等、凄いじゃん。学生として破格じゃん。
一撃で戦闘を止めたヒカリとレナード君はともかく、戦闘狂のアリシア姉とアッシュの2人は自分と同等の相手と認識してしまい白熱した攻防を繰り広げる。
しかし例え身体能力は互角でも、アリシア姉が使っているのは特注とは言え金で買える剣。
フィーネ特製の盾に幾度となく剣を叩きつけ、最後には全身全霊の一撃を放った彼女の腕力に武器が耐え切れず折れてしまうのは当然の流れだった。
「・・・・・・剣・・・・私の剣・・・・」
そして今、かつてないほど落ち込んでいるアリシア姉を慰めると言う大役を任された俺はどうしたものかと悩んでいるのだ。
ホント、どうすんだこれ・・・・。
他の連中が呑気に夕食のステーキを平らげる中、俺は散々励ましの言葉を考え続けていた。
そっちに集中していたから王都初の外食の味なんてもちろん覚えてないし、入学以来共に戦って来た相棒を失った人へ掛ける言葉なんていくら考えても出てくる訳もない。
てか俺・・・・関係なくない? アンタ等が勝手に戦って武器破損しただけじゃんか。
などと言える雰囲気ではないので、取り合えず武器の寿命だったと伝えてみる。
「ほら、この剣ってアリシア姉が入学する前から使ってたやつだろ? もう3年以上前じゃんか。いくら手入れしててもボロボロだったんだよ」
「3年って俺達の武器もそんぐらいだけど、毎日魔獣討伐してても余裕で現役だぞ。なっ?」
折角アリシア姉を慰めているのにアッシュが余計な事を言い出した。
だまらっしゃい! フィーネ特製のチート盾を使ってるお前は口を挟むな!!
ドスッ!
「察しろ」
「ゴ、ゴメンね~。コイツ空気の読めないバカなんだ~」
口出ししてきたアッシュは仲間の2人から殴られて物理的に静かにさせられたけど、全く同情する気にはならない。
むしろ殴ったマール達、グッジョブだ!
どうせならもっと早く黙らせてもよかったぞ。アリシア姉の耳に届く前にな。
「いいのよ・・・・私の扱いが下手で、実力不足で、魔力コントロールが出来ない弱者ってだけなんだから」
ほら、アッシュの話を聞いてまた落ち込んだ。
自分に厳しいアリシア姉は、さきほどの戦闘行為を脳内で何度も繰り返しているのか、「ここがダメ」「あれもダメ」とダメ出しを始めて負の連鎖に陥っている。
もう慰めるどころじゃない。
このまま戦いを一切しなくなるレベルの落ち込みようだ。
「この調子じゃ明日の試合は無理かな~。僕達の作戦はアリシアを3戦目にして確実に後に繋げるって予定だったんだけど」
対抗戦は3本先取した学校の勝ちなので、例え2連敗していても3戦目のアリシア姉が勝てばまだ望みはある・・・・けど、今の彼女にそんな大事な試合を任せられるかと言われればNOだろう。
本調子なら愛用の大剣を使わずとも素手でなんとかなるかもしれないが、今はそんなハンデすら致命的だ。
「フィーネ、精神面は俺が何とかするから武器だけでもなんとかならないか?」
もちろんノープラン。まぁ良くも悪くも単純な姉なので慰め続ければ回復するだろう。
問題は本調子だとしても試合に勝てるかどうかって事だ。
アリシア姉も学生としては破格の実力だけど、相手も学校を代表する選手なんだから得意な武器が無ければ負けてしまうかもしれない。
試合前に勝手に戦闘して負け、武器を無くし、そのせいで試合に負けて、学校が負ける。
そんな事になったら本気で手が付けられなくなるぞ。
気の弱い人なら責任を感じて引きこもるかも・・・・。あっ、これ俺の事ね。
だからこそ負の連鎖を断ち切るために新しい武器が必要なんだ!
「助力はしますが・・・・ルーク様の愛情を込めた武器でなければアリシア様は使われないでしょう」
なんだよ愛情って。そんなの無いんだが。
「・・・・ルーク、武器、作る?」
俺達の話が耳に入ったのか、突っ伏していたアリシア姉がこちらを振り向いて何故か片言で聞いて来た。
なんですか、その期待に満ちた目は?
夢見る少女のようなキラキラした眼差しは?
「・・・・(ボソッ)実はアリシアってルーク大好きよね。弟を可愛がり過ぎてる感じがするの」
「・・・・(ボソッ)それ、僕も昔から思ってたよ。ルークが生まれた時から毎日のように部屋に行って世話したがってたからね」
「・・・・(ボソボソ)お姉ちゃんも言ってた。実姉じゃなかったら絶対ライバルだったって」
なにやら父さん達が頭を付き合わせて小さな声でブツブツ言っている。
そこ! 何をコソコソ話してんだ!!
「ですから私はアリシア様の武器を用意することは出来ません」
念押しの意味も込めてフィーネが再度手助けだけはすると言って締めた。
「・・・・考えてみる」
だって誰も動こうとしないんだもの! 俺がやるしかないじゃない!!
「じゃあな! 冒険者になるってんならまた会う事もあるだろうよ!」
「成長楽しみにしてる」
「冒険者の先輩として胸を張れるような功績を残して待ってるよ」
店を出た俺達にアッシュ達はそう言い残して去っていった。
どうやらヒカリ達との戦闘で自分達はまだまだ弱者だと思ったらしく、早速王都周辺のダンジョンへ修行に行くと言う。
食事中もフィーネやヒカリから『武器の性能に頼り過ぎているからもっと魔力の扱いを上達させろ』って注意されてたしな。
あれだけ戦えるのにまだ弱いとか・・・・。戦闘狂の皆さんはどうやったら満足するんですか?
え? 一生満足なんてしない? あぁ、そうですか~。頑張ってくださいね~。
絶対俺を巻き込むなよ! 絶対だ!
「じゃあ僕達も宿舎へ戻ろうか」
「・・・・武器、楽しみにしてるわよ」
楽しい食事だったと感謝するレナード君と、さりげなく脅し文句を言うアリシア姉も大会参加者が泊まる宿へ向かう。
残った観戦勢の俺達、と言うか俺はどうするべきか。
「たしか僕達が泊まる宿は鍛冶場なんてなかったな~」
「大会で人が大勢集まってるから新しい宿を取るのはきっと無理ね~」
「イブちゃん達も忙しいって言ってたから王城も使わせてもらえないよ~」
白々しくそっぽを向いて状況説明する3人。
全員ワザとらしいんだよ! 何が言いたい!?
チョイチョイ。
「ルーク様、ルーク様。私の結界なら防音が完璧ですよ。
なんと偶然にも剣を作るのに必要な素材もバッチリ揃っていまして」
さらに武器作りに協力すると言っていたフィーネが『準備万端だから』と、しきりに何かを催促してくる。
これで理解出来ないほど俺はバカじゃない。
「・・・・結局俺が武器作るの?」
「「「もちろん」」」
明日の朝まで12時間ってところだな。
こりゃ徹夜ですかねぇ~。
宿屋に入った俺は、何故か剣の素材になる鉄と丁度いい魔石を持っていたフィーネと共に、庭の一部を占領してアリシア姉の武器製作に取り掛かった。
宿の人には『大会のための秘密特訓』とだけ伝えたので、突如庭に生み出された巨大な風の結界も不思議には思わないだろう。
他の客? 知らん。勝手に色々想像すればいいよ。
さて・・・・人生初の武器開発、始めますか!
どうせなら凄い武器作ってやるよっ!