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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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百四十五話 夏休みと大会

 シィから秘密を打ち明けられた後、帰宅した俺は本人の許可を得たのでヒカリに事の顛末を話した。


 するとヒカリは俺達の予想通りシィが普通の人ではない事を知っていたらしい。


「いつから気付いてたんだ?」


「入学式の時、クラス発表されてた掲示板の所でファイ君と初めて会う少し前だよ。シィちゃんを見る前から空間に違和感があったの」


 で、気になったので千里眼を使ってみたら彼女が原因だったと。一目で精神と肉体が合ってないと理解出来たと言う。


 シィ・・・・お前は魔力を食った時にバレたかもって言ってたけど、最初から隠せてなかったらしいぞ。


「そ、そっか。でも正体を隠しておきたいみたいだから内緒な。一応アリスにも」


「わかった~」


 まぁアリスに言ったところで何か変わるとも思えないけど、無駄に広める必要はないからな。


 好きなだけファイと2人でイチャコラしてたらいいさ。




 その翌日、うっかり秘密を知ってしまった事を悪いと思い、謝罪の意味も込めてファイに頭を下げた。


「ボクとシィは主とメイド、餌と捕食者って言う持ちつ持たれつの複雑な関係だからねぇ~。それに魔族と言うだけで毛嫌いする人も多いらしいから秘密にしてたんだよ。

 こちらこそ友達を信用してないみたいで悪かったね」


 しかしファイは特に気にした様子もなくむしろ謝罪されてしまう。


「いいや、別にいいさ」


 お互い悪かったと言う事でこの謝罪合戦はここまでとなった。


 もちろん俺は毛嫌いなんてしないし、正体を知った今でも友達のつもりだよ。サキュバスの夢を壊したことは許さないけど。


 俺だって色々隠してるし・・・・な。


 今更サキュバスが増えようと、どうって事は無い。



 そんな事はどうでも良いので、俺は昨日からずっと気になっていた事を一縷の望みを込めてファイに聞いてみた。


「・・・・サキュバスは・・・・・・サキュバスは本当にエロくないのか!?」


 シィがそう思っているだけで、実は魔力吸引って行為は凄まじくエロかったりしないのかな~ってあの後から悶々としていたのだ。


 で、どうなんでしょう? 恥ずかしがらず正直に、しょ~~じきに答えてください。さぁっ!


「残念ながら素肌に手を当てて少量の魔力を取られるだけだねぇ~。ルークが想像するような事は一切ないと断言するよ」


 何ならここで見せようか? と恥ずかしげもなく言ったファイによって俺の希望は跡形もなく打ち砕かれてしまう。


 さようなら、サキュバスたん・・・・。俺の妄想の中で生き続けてくれ。




 そんな下世話な事を聞いているとアリスがやってきたのでこの話はここで終了だ。


 と言うのも俺達は今から訓練場に移動しなければならないのである。


 たぶん夏休み前の終業式的な集まりだろう。


 『的な』とは、担任が説明義務を怠ったので「次の時間は訓練場に集まれ」としか言われていないから。


 まぁタイミングからして終業式だ。


「・・・・ルークさんは何故泣きそうなんですの? 嫌な事でもあったようですわ」


 でも俺の顔を見たアリスが心配そうに声を掛けてきたので、忘れようとしていたサキュバスの事が頭を過ってしまった。


「気にしないでくれ。夢が1つ、叶わなくなったってだけさ」


 これについて説明しようと思ったらシィの正体まで明かす羽目になる。


 愁い御帯びた俺の事を本当に心配そうに「大丈夫ですの?」と何度も聞いてくれる心優しいアリス。


 いつまでもそのままの君で居てくれ。


「アリスちゃん放って置いていいよ。ルークが勝手に変な妄想をしたのが悪いんだから」


「あぁ~。いつものですわね」


 しかしヒカリの辛辣な説明でアリスはすぐに構ってくれなくなった。


 へっ・・・・この悲しみを理解出来るのは男だけさ。


「俺っていつもそんな妄想してるか? してないだろ?」


 と言う俺の問いかけに返答してくれるクラスメイトは存在しなかった。




「えぇ~。これから長期休暇に入るわけですが、ヨシュア学校の生徒として節度を守った・・・・・・」


 入学式と同じような話を飽きることなく繰り返す先生方の有り難いお言葉で終業式も終わりに近づいていた。


 そんなどうでもいい話など全く聞いていない俺達生徒一同は迫る長期休暇を前にソワソワしっぱなしだ。


 こんな長い休みは初めてなんだぞ! 夢も膨らむってもんだろ!


 俺はどうしようかな~。


 王都で暮らしているイブには会いに行きたいし、知らない土地に行って新作魔道具のアイデアを閃いたりもしたい。あんまり知らないフィーネ達の昔話とかを聞いても良いし、いっそ魔界まで遠出してハチミツ農園を作ったクーさんに会ってもいいな~。


 忙しい夏休みになりそうだ!


「なぁ、なぁ。ファイ達は何すんの?」


 自分の夏休み計画を一旦置いて、隣に居る友達に予定を聞いてみた。


 式の間に喋るな? いや大声こそ出さないものの全校生徒がコソコソ喋ってるから大丈夫だ。


 ってか先生達も気付いてるはずなのに注意しないって事は毎年恒例なのかもしれない。


 おい、そこの担任(28歳独身)。長い話に飽きてるのはわかるけど死んだような目で校長を見るな。仮にも上司だぞ。


 そっちの理科教師(新婚)に至っては奥さんと旅行するつもりなのか校長に隠れてパンフレットを見始めたではないか。この休暇を使って教師としてスキルアップしなくていいのか? いや、旅行のついでに他校見学するのかもしれない。あくまでメインは旅行だろう。


 と、まぁ生徒のお手本となるべき先生達もこんな調子なので、ここでの夏休み中の予定決めは公式であると言えるな!


 もちろんそれは貴族であろうと例外ではなく、俺の問いかけに対して小さな声で答えるファイとアリス。


「ボクは親戚への挨拶周りが忙しいねぇ~。こういう長期休暇は遠方を訪れることが出来る貴重な機会だから顔見せをしないといけないんだよ。

 だからほとんどヨシュアには居ないと思う」


「わたくしも同じですわ。唯一ヨシュア内での活動はヨシュアの産業を調査すると言うお父様に付いて回る事ですわね。もちろんロア商会も対象ですわ」


 どうやら貴族として色々忙しそうな2人。ファイの挨拶周りには当然シィもついて行くだろうし、友達との思い出作りは難しそうだ。



「では最後に大会に出場する選手を紹介します」



 夏休みに心躍らせていた俺の耳にそんな言葉が飛び込んできた。


 なんかこの流れ知ってるぞ。


 『大会』が何を指すのかわからないけど、これはアリシア姉が出てくるパターンのやつだ。入学式で見た。


 すると俺の予想通り、呼び出されてゾロゾロと壇上に並んだ5人の生徒の中にはアリシア姉が居た。


 で、大会って何ぞ?


「え~、大会について知らない生徒は居ないと思いますが・・・・」


 せんせ~、ここに居ますよ~。


「一応説明しておきます」


 よろしくで~す。


 どうせヒカリ達が知ってるだろうけど、今ここで説明してくれるって言うなら聞く手間が省ける。



「これはセイルーン王都で開催される2年に1度の学校別ランキング戦です。

 4日間、王都内に存在する16校がぶつかり合う学校の威信を掛けた試合です。

 詳細は未定ですが、例年個人戦と団体戦の2競技行っていますね」



 なるほど。つまりアリシア姉達はこの夏休みを利用して王都まで行き、ヨシュア代表として他校の生徒と戦うわけか。


 俺も王都に行こうと思ってたし大会の時にしようかな~。


 学生達の力を見てみたいし、どうせならイベントがあった方がイブと遊ぶにしても面白そうだ。




 こうして大会の話以外は特に覚えていない終業式は終わった。


「よし、ヒカリっ! アリシア姉達と一緒に王都に行くぞ! そのためにも急いで計画を立てなければ!」


 教室に帰る途中、王都で開かれる大会とやらを見に行くことを宣言する。


 ヒカリはもちろん行くよな?


「わたしは良いけど・・・・ど、どうしたの? 絶対トラブルに巻き込まれるのにルークがこんな乗り気なんて。今までだったら『絶対部屋から出ない』とか言って引き籠ろうとしてたのに」


 積極的な俺に驚きを隠せないヒカリが熱でもあるのか、と聞いてくる。


 ふっ・・・・ふふふっ。どうせ何をしたって巻き込まれるんなら気にするだけ損じゃないか。


 むしろこっちから向かって行く事で覚悟が出来るってもんさ。


 それに一応なりにも家族が学校を代表して出場する大会を見てみたいと思ったのだ。


 父さんか母さんも見に行くだろうし、オルブライト家総出で応援だ!




「ってわけで俺は大会に合わせて王都に行こうと思うんだけど。イブの予定にもよるけど1週間ぐらいを計画してます」


 家に帰った俺は全員集合している夕食時に夏休みの計画を相談した。


 全員がヒカリと同じように積極的な俺に驚いていたけど人とは成長するものなのだよ。いつまでも消極的なままの俺ではないのだ。


 で、他に行く人は?


「そりゃもちろん私は応援に行くわよ。誇らしいことだもの。でも1週間は無理だから大会が終わったら帰るけど」


 母さんは非常に乗り気で一緒に行くと言ってくれた。


 戦闘力以外では散々迷惑を掛けられたアリシア姉が役立つ日が来た、と涙ながらに喜んでいる。


 たしかに生徒達からの態度でどれだけ要注意人物かって理解出来たよ・・・・。


 先輩達から『破壊神』とか呼ばれてんだぞ。


 いったい今までにどれほどの人体を破壊してきたのか想像もしたくない。


 そして俺以上に苦労させられたのは間違いなく母さんだ。破壊神が活動するたびに謝罪と揉み消しに奔走する日々だったのだろう。


 お疲れ様・・・・。



「僕は仕事が片付けば行けそうだけど、今のところは何とも言えないね」

「俺達は家を空ける訳にいかないから不参加だ」

「です・・・・」


 父さんは保留。マリク、エルはヨシュアに残ると言う。


 ヒカリは俺と一緒に行くと言っていたし、フィーネとユキもこんな楽しそうなイベントを見逃すはずもないだろう。


 つまり今確定しているのは俺、母さん、ヒカリ、フィーネ、ユキの5人か。


 と考えた瞬間、まさかの人物から不参加表明された。



「ごめんなさい~。私も一緒には行けません~」



「ど、どうしたんだっ!? ユキがイベント不参加だと!? 明日は雪が降るぞー!」


 そう叫んだ俺以外も大慌てだ。


「ユキちゃん!?」

「た、体調不良とか?」

「大事な会合でもあるんじゃないか?」


 ユキの人柄を知っているからこそ動揺を隠せない一同。


 こんな如何にも出会いとトラブル満載なイベントに行かない理由が想像も出来なかった。


「何か理由があるのですか?」


 ユキの発言を聞いても唯一冷静だったフィーネが事情を聞き、俺達はユキの返答に注目する。


「実は少し前にイブさんから大会の事を聞いていたので、その日は王族の皆さんと一緒に行動する事になってるんですよ~」


 終業式まで発表を控えていたヨシュアとは違い、大会の準備をしなければならない開催地の王都は既に大会ムード一色だと言う。


 で、俺達より先に約束をしてしまったと。


 でもイベント自体には参加すると言うので向こうでイブと合流したら自動的に付属されるな。


「あっ、ちなみにレオさんも高校部門で出場するみたいですよ~」


 完全なネタバレである。


 たぶんレオ兄から詳しい内容が書かれた手紙が届くだろうけど、『大会の話題が出たからついでに言いました』って感じで大した盛り上がりも無く告げられたレオ兄の気持ちを考えろ!


「あ、そうなの? まだ2年生なのに凄いわね~」

「王都でも優秀なんだね」


 ほら、こんな感想しか出てこない。


 普通は子供が学校の代表に選ばれたとか言ったら祝杯もんだぞ。



「私は優勝にしか興味はないわよ!」


 そんな微妙な空気をかき消すようにアリシア姉が大声で決意表明する。


 何はともあれ夏休みは王都だ!

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