百四十四話 秘密3
唯一の男友達ファイ。彼のメイドであり、ヒカリとも仲の良いシィの正体はエロくないサキュバスであった。
そんな夢も希望も浪漫も無い事実を聞かされて泣き崩れた俺にさらなる追い打ちを掛けるシィ。
彼女は、「サキュバスが人間のメイドをやってる事情を聞け」と言い、一刻も早く帰宅してこのショックを忘れるべく猫耳に癒されようとする俺を引き留めたのだ。
昨日フィーネにはお互い不干渉で学校生活をエンジョイしようとか言ってたクセに・・・・。
なんで俺には詳しく話そうとするかな~。それ完全に巻き込もうとしてるよね?
正直他人の秘密になんて興味も無いんだけど、聞けと言われたら聞くしかない状況な訳です。
「大人しく聞く気になりましたの?」
「・・・・まぁ・・・・はい」
だからさっきからミシミシと音を立ててる俺の右腕を放してくれるかな。そろそろ折れそうなんで。
ついでに大人バージョンの姿になってくれたら少しはやる気が出るかもしれない。
「あまり長時間はなれませんの。だからこの姿のまま話しますの」
あれ? 昨日フィーネと会話してた時は大人ボイスだったから、シィ本来の姿がこの幼女体型って事はないはずだけど・・・・。
そこら辺もメイドをやってる理由に関係してるのかな。
「では聞くも涙、語るも涙の物語の始まりですの・・・・」
今から遡る事10年前。
美食家だったシィは理想の魔力を求めて各地を転々としていた。
魔族サキュバスとしてそれなりの実力もあったので街で男を物色する日々だったと言う。これだけ聞くとエロいんだけどな~。
しかし彼女は運の悪いサキュバスだった。
気に入って魔力吸収した男はことごとく栄養素の少ないハズレ。
それどころか肌に合わな過ぎて自らの魔術で治療が必要な事もあったと言う。
だから彼女はどんどん衰弱していった。
そんな日々が5年ほど続き、大人時代の見る影も無くなり少女となったシィはパトリック家と出会う事になる。
今回こそ! と希望を胸に侵入したのはファイの父親の寝室。
そこで父親から魔力を吸引してようやく安住の地を見つけたのかと思ったら、どう間違ったのか母親から吸引してしまったらしい。
当然男にしか含まれない栄養が必要なので彼女の行為は無駄だと思われたが、そこはファイを産んだ母親。ファイの残り香だけでそこそこな栄養になったと言う。
まぁこの話、なんてことはない。
要はファイの魔力が気に入ったからメイドとして傍に居る事を決意したってだけの事だ。
ちなみにファイやファイの両親はシィの正体を知っているらしい。
その時に言われた条件は2つ。
『息子の友達として人間らしく生きる事』
『周りに迷惑を掛けずファイ以外から吸引しない事』
「私はファイ様と同じような成長をするために魔力吸収を控えているんですの」
厳密に言えば成長はしないけど体内魔力の残量によって姿が変化するので、蓄えた魔力を消耗して一時的に大きくはなれるけど出来ればなりたくないらしい。
精力と同じで過度な吸引は男性側も消耗するし、身体にも良くないと言う。
つまりファイのためを想って変身しないって事。
そんな話を聞かされた俺の感想は決まっている。
「へぇ~」
だって大体予想通りだったし・・・・。
そもそもフィーネと似てるから『またか』としか感じない。
「これだから子供は嫌ですの。どうせ内容もほとんど覚えていませんの」
バレてら。
これ以上苦情を言われる前に話題を変えよう。
「シィは精霊とか見れないんだよな? 精霊に好かれる奴は魔力も美味しいと思うんだけど」
この話の始まりはシィが理想の男に出会わなかったことにある。
どれだけ試行錯誤したのか知らないけど、運の悪さ以上に彼女が魔力を感知出来るほどの実力さえあればファイと会う事もなかっただろう。
「私達に必要な栄養素は精霊とは無関係ですの。むしろ相性が反比例すると言って良いですの」
ところが俺の予想とは違い、その人本来の魅力が必要になると言うシィ。
折角ファイの負担を減らそうと思って別の人物をフィーネかユキに紹介してもらおうと思ったのに。
「ルークは不味かったですの」
「いつの間に吸引したんだ!?
フィーネ達にバレずに魔力を奪い取るとは・・・・シィ恐ろしい子」
「たぶんバレてますの。だから警告の意味も込めて体育の授業であんな事をされましたの」
あぁ、なるほど。
それで昨日の話に繋がる訳ね。
そりゃいくら魔族とは言えフィーネの目を誤魔化せるヤツなんてそうそう居る訳も無いよな。
あれはフィーネからの『今度ルーク様に手を出したら・・・・』って警告だったと言うわけか。
「それとたぶんヒカリも気付いてましたの」
魔力吸引に気付いたけど害はないから放っていたらしい。
俺が倒れるほど吸っていたら自分の首が飛んでいたと震えるシィ。
ヒカリって今どの立ち位置なんだろう?
結構な実力者に育っているのは間違いない。
「じゃあ大人バージョンはお預けか~」
過去話に一切興味がなかった俺の唯一関心事はサキュバスの見た目だった。
話を聞く限りシィに無理させてしまいそうなので諦めようとしたその時、シィが『とある条件下』では消耗が抑えられると言い出した。
これはテンション上がりますよ~。一体その条件とは何でしょう?
「フィーネさんの結界ですの。
昨日もそうでしたけど、あのレベルになると体内の魔力が活性化してほぼ無条件で現役の頃に戻れますの」
そういう事なら話は早い。
「フィーネ~」
「はい」
俺に呼ばれた事で瞬時に現れたフィーネ。
・・・・とユキ。
「オーイエー」
「!?」
流石に気配ぐらいは感知出来ると思っていたシィは驚いているけど、甘い甘い。
密室だろうと平気で現れるこの2人の常識ブレイカーぶりを舐めるなよ。
「たぶん聞いてたと思うけどシィの大人姿見たいんで結界ヨロシク」
「「私にお任せあれ」」
2人のセリフが被った。
「ユキ・・・・ルーク様に呼ばれたのは私です。ここは昨日と同じく私が展開するべきでしょう?」
「面白い事を言いますね~。フィーネさんの結界より私の結界の方が魔力の消耗は抑えられますよ~。なので私がやるべきです~」
名指ししなかった俺が悪かったから早くしてくれ。文章量的にギリギリ・・・・もとい夕飯まで時間が無い。
結局ユキがやることになった。
そして結界の中で何やら呪文を詠唱した途端大人になっていくシィ。
「・・・・これがサキュバス本来の姿ですの」
その姿は、
普通の女性だった。
なんで布地の少ない衣装ですらないんだよ!
肉感的でもないし、目に見えるようなフェロモンが出てるわけでもないし!
トコトン俺の期待を裏切ってくれるな!!
いや美人だけど! そうじゃないんだっ!! サキュバスってそうじゃないんだよっ!!!
この後、今まで通り友達関係を続けることを約束した俺とシィは何事もなく分かれた。
俺のサキュバスたんは何処へ・・・・・・。