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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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閑話 先輩

「兄貴ーっ!」


 学校の廊下でそう呼ばれた俺は声のする方を振り向いた。


 一応説明しておくと1年生の俺に後輩は居ないし、同学年の舎弟が居る訳でもない。もちろん上級生を支配下に置いたりもしていない。


 俺の事を兄貴と呼ぶのはただ1人、尖った黒髪が特徴的なヨシュアブルーこと『レト』である。


 入学してから知ったけど、アリシア姉と共に戦隊ごっこに精を出すコイツは2年生だったので、残念ながら世間一般で言うところの先輩になるらしい。


 年下の俺を兄貴と呼ぶ理由が気になったので前に聞いてみたら、


「え? 姉御の弟なら兄貴だろ?」


 と訳のわからない事を言っていた。


 あ、『姉御』ってのはアリシア姉の事だ。他のヨシュアレンジャーの連中は『リーダー』とか『お姉ちゃん』とか呼ぶ。


 家では好きに呼ばせていたんだけど、流石に学校と言う子供社会で先輩からこの呼び方をされるのは色々問題があった。


 なにせ俺がそう呼ばれる度に周囲の上級生やレトの友達が、


「は、早くも頭角を現してきたか・・・・!」

「流石はアリシアさんの弟だぜ」

「アイツ2年だろ? ってことは近いうちに3年も」


 なんてことをコソコソ言ってるのが聞こえんだよっ!


 ああ、そうさ! すっかり全校生徒に顔を覚えられたさ!


 ガラの悪い上級生が階段の踊り場でたむろしてるから、怖いな~とか思ってたら俺の顔見てビクッとして逃げてったさ!


 校庭で遊んでた生徒がボールを俺にぶつけそうになった時(ヒカリが楽々キャッチしてくれた)、泣きながら財布を取り出して土下座されたさ!


 別クラスの1年生が「ルークさん怒らせたらどうしよう?」「親に相談して転校するしかないよ」って真剣に話し合ってるの聞いたさ!


 さようなら! 俺の平穏な学生生活っ!!



 ・・・・俺の不満はどうでもいい? レトについて話を続けろ?


 はいはい、やりますよ、やればいいんでしょ。



 てな感じで生徒達に誤解されてしまったからには諦めて番長の座を受け入れるしかないので、俺はアリシア姉が卒業するまでの2年間は絶対目立たない事を心に決めた。


 卒業さえすれば影響力も無くなるはずだからな。


 後釜にヒカリが収まらない事を祈るばかりだ。


 だから例え『上級生を配下にしている』とか誤解される元凶のレトだとしても、俺は今までと変わらない対応をする。


 大人だろ?


「よう、今日も尖ってるな。どうしたんだ?」


 ワックスなんて無いのに、どうやってあのトッキントッキンな髪形を維持してるんだか。あれじゃあ頭洗うのも一苦労だろうよ。


 そんないつも通りの挨拶をする俺に不思議そうな顔をするレト。


「え? いや兄貴を見かけたらあっちから走って来ただけだけど?」


 そう言って指差したのはL字になっている校舎の反対側。つまり2年生のエリアだ。


 そりゃ同じ階だから見えるだろうけど、この距離で態々挨拶に来るなよ・・・・。


「あ、いやいや。次の授業が訓練場であるから移動する途中だったんだぜい。ほら着替えてるだろ」


 呆れ果てた顔をする俺の内心を察したレトが補足する。


 たしかに彼は体操服に着替えていた。


「なんと今日は2年生のランキング戦! つまりここでトップを取れば姉御に挑戦できる大事な試合。

 そして今、俺はとても緊張してる。それを解すためにも兄貴と面白おかしい会話をしようって思ったんだ」


 だから俺が通りがからないかと1年生の廊下を眺めていたら、丁度タイミングよく見つけて走って来たと言う。


「会いたい理由があるなら教室来いよ・・・・。前に用もないのに教室に来て挨拶していった時に怒った事を気にしてるのか?」


 あれはまだ俺の知名度が低い頃だったので、先輩から兄貴って呼ばれる事に抵抗があったんだよ。


「ん~や。大将の前だとかえって緊張するから兄貴1人の時がベストだったんだ」


 タイマンで会話したかったと言うレト。


 この『大将』とはヒカリの事だ。


 ヨシュアブルーとしてアリシア姉指導の下、戦闘訓練もしているレトは自分の強さを試すためにヒカリに挑んだことがある。


 もちろん手も足も出ずボッコボコにされ、ブルーの敵討ちとばかりにリーダーであるアリシア姉もヒカリに挑んで負けた。


 それ以降レトの中ではフィーネやユキ等の別格を除いてヒカリが最上位の存在らしいのだ。



「呼んだ~?」


 俺はトイレに行った帰りなので、教室前の廊下で長々と話せば教室で待っているヒカリが現れるのは当然だろう。獣人だから耳も良いしな。


「た、大将! チッス。お疲れ様です!」


 俺とのほのぼのトークから一遍、綺麗な90度のお辞儀をしてヒカリに挨拶するレト。


 お前はどこの社会人だ。学生は疲れないし、ましてや下級生にそんな挨拶も必要ない。


「あっ、つ、次の授業があるんで俺はこれで。じゃ!」


 レトは緊張気味に再び腰を90度曲げるという丁寧過ぎるお辞儀をして去っていった。


「レト君、いつも緊張してるよね。なんでだろ?」


「なんか2年生は今からランキング戦らしいぞ。だから緊張してるって言ってた」


 まぁ主な原因はヒカリにあるんだけど、俺の言ったことも嘘ではない。


「良いな~。わたしも早く戦いたい」


 うん。これはアリシア姉の後釜確定だな。


 でも俺は何も気にしない。


 さて、次の授業は算数だ。




 後日談。


「紙一重だったんだけどな~。超ギリギリの接戦だったんだけどな~」


 惜しくも2年生のトップにはなれなかったと言うレトは、ヨシュアレンジャーの活動を終えて俺への報告会を開いていた。


 別に聞きたくないけど暇だから付き合ってやろう。


「ブルーはナンバー2なんだから皆のお手本にならなきゃダメでしょ!」


 不甲斐ない結果のレトに説教するのは当然リーダーのアリシア姉。


 アンタも学校じゃ2番じゃないか・・・・。


「で、レトってどの位の強さなんだ?」


 正直インフレが激しすぎて学生の強さなんて全くわからないんだよ。


「今回こそはって思ったんだけどな~。2回戦負けだぜい!」


「弱っ!」


 え? 普通『紙一重』とか『惜しかった』って決勝戦、準決勝戦で負けた時に使う言葉じゃないの?


「1回戦は体調不良の不戦勝だぜぃ!」


 しかも実質初戦で負けてやんの。


「俺に勝った奴も次の試合でボロ負けだぜぃ!」


 さらに優勝候補が対戦相手ってわけでもないらしい。


「ぶっちゃけ体育教師から『お前学問の方が向いてるぞ』って言われるほど運動オンチだぜぃ!」


 もうフォローのしようもなかった。


 ヨシュアレンジャーってそんな弱くて良いんだ・・・・。


「まぁ治安維持が目的じゃないしね。ゴミ拾いとか、足腰の弱くなったお婆ちゃんチの庭掃除とか、忙しい両親の代わりの子守とか」


 めっちゃ良い活動してる!?


 顔隠さずにその活動したらアリシア姉の評価も上がるんじゃないだろうか?


 もしかして前に道端でおばちゃん達が、「最近カラフルな恰好した子供達が・・・・」って言ってた続きは褒め言葉だったのかもしれない。


 アリシア姉達の事だと確信したので、てっきり破壊活動への非難だと思って逃げたけど。


「正体を隠してるからカッコいいんじゃないっ!

 でもたまに強盗とか捕まえるから戦力は欲しいのよね~。ブラックまた来ないかしら?」


 暑苦しいブラックとは二度と会いたくない。アリシア姉との筋肉談義をずっと聞かされる俺の気持ちも考えろ。


 まぁブラックじゃなくても、きっと急成長して戦力になる奴が出てくるだろう。


 ブルーは絶望的だとして、逆に知能派なグリーンが意外と強かったりするんじゃないのか?


「残念ながら俺が戦力的にもナンバー2なんだぜぃ!」


 100m走で2番目だったと言うレト。


 それ1年前の結成当時の記録だろ・・・・。今は絶対抜かれてるから。


 どうせアリシア姉がキャラクターで選んだだけだろうし。



 そんなどうでもいい先輩の話である。



 ヨシュア学校のランキング戦はトーナメントのブロック方式。各ブロック上位4名は総当たり戦になります。

 基本的に勝者の成績は良くなりますが、授業なのでいい試合をすれば勝敗に関わらず教師の評価によって良くなる場合もあります。

 自分をアピールする場が増える分、勝った方が有利ですね。

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