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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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閑話 課外学習

 何やら『ロア商会会長』と言う立場を存分に利用して校内に潜り込んだフィーネ、そして校長の許可を得て我が物顔で出入りするようになったユキ。


 その代わりと言うわけではないだろうが、俺達1年生の課外学習としてウチが経営する農場と山林に行くことになった。


 普通ならここで「知り合いと会うの恥ずかしい」とか、逆に「俺、凄いだろ」となるわけだが、俺には不安しかない。


 何せそこに居るのは『人間嫌いなエルフ』と『人の話を聞かない魔人』。しかもどちらも常識知らずで好き勝手に人生を謳歌してる奴等だ。


 トラブルの予感しかしないだろ?


 俺は言い出しっぺのフィーネが交渉してくれるもんだと思ってたけど、


「彼女達も大人なのでそれなりの対応してくれるでしょう。普段はああですが、やる時はやる人達なのですよ」


 と絶大な信頼を寄せていて何もする気は無いようだ。



 でもそんな訳がない。


 付き合いは短いけど、あの2人は誰が相手でも変わらないと断言できる。



 だから俺は今、事前打ち合わせとして1人農場に来ていたりする。


「ルナマリア。今度ヨシュア学校の子供達が来るんだけど大人しく出来るよな? してくれるよな?」


「は? 嫌に決まってるじゃない。もし丹精込めて作った畑を荒らしたら同じ目に遭わせるわよ。

 耕した土を踏んだらソイツも魔術で潰すし、葉っぱを千切ったら髪の毛を刈る。茎を折ったら指を折るし、未成熟なジャガイモを引っこ抜こうもんなら一族郎党の背骨を引っこ抜いてやるわ」


 まぁそうなるわな。


 ってかアンタ言う事は物騒だけど考え方は完全に農家の娘だな。何やら完成までに色々苦労したらしいジャガイモ畑の方を優しい顔で見ている。


「その優しさを少しで良いから人間に向けれないか? ほら子供は天使って言うだろ」


「じゃあ人間は家にゴキブリが出ても優しくエサをやって共存しようとするのね? 

 奴等の方がまだマシだわ。だって見た目がちょっと気持ち悪いだけで無害なんだもの。ああ、そう言えば人間の中にはゴキブリより気持ち悪い容姿をした奴もいるわね。やっぱりゴキブリ以下よ」


 そ、そんなにか・・・・。


 ルナマリアは本当に人間嫌いなんだな。



「ベーさんも同じか?」


 基本は山の中に居る『ベーさん』ことベルフェゴールがたまたま農場に来ていたのでついでに聞いてみた。


 課外学習の内容は『農場を見学する』だから山に居れば無関係だけど、結構な頻度で降りてくるので一応聞いておかなければならなかった。


 もちろん今日も今日とて地べたに寝転がっている。


 この人は攻撃的なルナマリアと違って人間嫌いって事は無さそうだけどな。


「あぁ~・・・・えぇ~・・・・・・・」


イライラ!

「・・・・」


「そ~~~ですねぇ~~・・・・・・・・」


イライライライライラっ!

「・・・・・・」


「なんと、言いますかぁ~」


「あぁあああぁぁーーっ! もう! アンタ全部の動作が遅いのよ!!

 もっとシャキシャキ喋りなさいよぉぉぉぉーーーっ!」


 先ほどからベーさんにイライラしていたのは俺じゃない、ルナマリアだ。


 どちらかと言えばスローライフを満喫している彼女を羨ましいと思う立場の俺としては、どれだけのんびりしていても別に気にならない。


 そりゃ急いでる時とかは流石に注意するだろうけど、普段は一緒に居て苦痛じゃない人物である。


「わかりましたよ~。・・・・怒らないでくださいよ~。

 私は別に、山に愛着があるわけじゃないので・・・・」


「そっか。なら良いんだ。ここに来る生徒達に手を出さなければ問題ないよ」


 基本礼儀正しい連中だけど外出イベントなのでテンション上がって木の枝を折ったり、果実を勝手に採ったりするかもしれないけど気にしないようである。


 つまり問題はルナマリアをどうやって子供達から遠ざけるか、だな。


 作物を粗末に扱うとは思えないけど、ちょっとしたマナー違反で泣かされる子供を見たくはない。



「何となく不快に思ったら消し飛ばすぐらいですね~」



 ダメじゃん!?


 ルナマリア以上に恐ろしい事をサラっというベーさん。


 しかも『農作物に悪影響を及ぼす』と言う明確な基準があるルナマリアと違って、ベーさんのは完全に気分次第だ。


「も、もうちょっと具体的な条件を教えてもらえるか? 注意のしようが無いんだけど」


「えぇ~~っと・・・・寝ようと思ってた場所に誰か居たり・・・・イヤらしい視線を向けてきたり・・・・うるさかったり・・・・食欲を無くす発言をしたりとか・・・・」


「わかった、もういい! つまり欲求満たすのを邪魔されるのが嫌なわけだろ? 

 さらに言えば負の感情を向けられるのも嫌と」


「あぁ・・・・それですねぇ~。気に入らないヤツは皆殺しだー」


 やめて!? 力のある人が言うと現実感あるから!



 しかし困った。


 もう八方ふさがりと言ってもいい。


 6歳児に秩序を求め、周囲に気を配った行動も求め、例え目の前に巨大な胸元が見えても無視しろと。


 そんなの出来るわけがない。クッ! どうすれば良いんだ!!


「いや胸元はアンタだけでしょ。フィーネや精霊王と知り合いじゃなかったら、とっくに消し飛ばされてるわよ」


「いつも私の・・・・胸か、お尻を見ながら話しますよねぇ~」


 ・・・・・・出来るわけがない。


 あと消し飛ばすってのは否定しないんですね。今後は出来るだけ見ないよう心掛けよう。



 学校からの頼みを承諾したフィーネには悪いけど、ここは断ってもらった方がいいだろう。


 生徒の命を大事に、だ。


「このマセガキ無視したわよ」


「ルナマリアさんのは・・・・ペッタンコなので見ませんけどねぇ~。目と目が合ってます~」


「あ゛っ?

 いい? 魅力的なエルフってのはどれだけスレンダーか、なのよ。そんなの所詮は無駄な脂肪じゃない。戦闘じゃ邪魔になるし、服の生地だって多く使うし、イヤらしい視線を集めるし、垂れるし、重いし、下見れないし、水に浮くし。

 結局無駄な肉、駄肉なのよ。わかった?」


「「・・・・必死(ですねぇ)だな」」


 大体『視線を集める』って言う時点で魅力的って認めてるじゃん。


 前にベーさんが貧乳のひがみって言った時怒ってたし、実は気にしてるんだな。


「アンタまさかフィーネの主だから殺されないとでも思ってるの?」


 割と本気の殺気を飛ばしてくるルナマリア。周囲の生き物が怖がって逃げてるから止めてあげて。


 かく言う俺は腰が抜けない程度なので、たぶん地面で寝そべっているベーさんが緩和してくれてるんだろう。


 もしかしたら直に受けると俺が失神して自分の寝床が取られるからってだけかもしれないけど。


 まぁなんにしても無事な耐えきった俺は反撃することにした。


「おっと、ベーさんと言う目撃者が居るのに手を出せるのか?

 ちなみにこのまま俺が帰ったらフィーネに巨乳のダメな所を全部話そうと思うんだけど。もちろんルナマリアが言っていた事も伝える」


「!?」


 エルフはスレンダーが良いってのは、言ってしまえばフィーネ批判に他ならない。彼女の胸はご立派なのだ。


「なんだっけ? 垂れる? 無駄な脂肪? 駄肉?

 あぁ~、これはフィーネ怒るだろうな~。俺に殺意を向けたルナマリアは一生無視されるんだろうな~」


「くっ・・・・何が目的よ!?」


 掛かった!


 そう全ては俺の作戦だったのだ。


 これで優位に交渉を進められる。



「あれあれ? 大人のエルフさんは人に頼む時、そんな高圧的な態度を取るんですか~?」


「ど、どう・・・・・・すれば?」


「敬語」


「・・・・」


「け・い・ご」


「・・・・・・お願いします! フィーネには言わないでくださいっ!!」


 『人間への謝罪』と『フィーネとの絆』を比べた結果、ルナマリアは俺に土下座してきた。


「うむ、苦しゅうない。面を上げい」


「うあ~、悪い顔です~」


 ベーさんが引いてるけど、なんか相手がルナマリアだと上から行った方が喜ばれるかなって思うんだ。


 だからこれは親切心ってやつだな。


「俺の条件はただ1つ、今度来る子供達の言動には多少目を瞑る、良いな?」


「なっ!? ・・・・はい」


 怒りに震えるルナマリアは目に涙を溜めながら俺の言う事に肯定した。



「んで、ベーさんは当日山から出ない。お互い不干渉で行こうじゃないか。ほら寝てるだけから簡単だろ?」


「ん~・・・・気分次第ですねぇ」


 まぁなんとかなるだろう。




 結局、課外授業はロア農場で実施された。


 俺との約束があるルナマリアは大人しかったし、ベーさんも山で寝ていたらしい。


 つまり大成功だ。



 ・・・・出発前にフィーネが注意事項を言わなければ。



「これから皆さんが行く場所にはエルフと魔人が暮らしています。

 彼女達は自分勝手な者を嫌います。おそらく無いと思いますが、迷惑を掛けられれば必ず報復するでしょう。

 耕した土を踏まれたら皆さんを魔術で潰し、雑草だろうと葉を千切れば髪の毛を刈り、茎を折れば指を折り、未成熟な作物を収穫すれば同じ数だけ親族の命を奪うでしょう」


「「「・・・・っ!」」」


 なんか同じようなセリフちょっと前に聞いたな。エルフの間で流行ってる脅し文句なんだろうか?


 まぁそんな事言われたらエルフと魔人の事を知っている俺とヒカリ以外は当然ビビるわな。


「地面に落ちている石を踏めば同じように皆さんの頭が地面に埋まりますし、声や足音が原因でミミズやモグラが逃げれば皆さんの舌や足を使えなくする可能性があります」


「「「・・・・・・」」」


 おっと、ここでさらなる追加情報だ。


 ルナマリアが言った条件以上に厳しくなってきた。


「吐く息が作物の成長に悪影響かもしれませんし、心臓の鼓動が従業員の耳障りかもしれません」


「「「・・・・・・・・・・・」」」


 もう対処のしようが無いレベルになってきた。


 実はフィーネさん、山以外に農場にも思い入れあります?


「では皆さん、楽しい課外学習にしましょう。

 あ、キチンと私の後について来てくださいね」



ザッザッザ。

「「「・・・・」」」


 そんな忠告を受けた生徒達は一糸乱れぬ行進をして黙々と農場見学をした。


「こちらが農場を管理しているモームさんと、ルナマリアさんです。この課外学習の実施には彼らの協力が不可欠でしたので皆さん、お礼を言いましょう」


ビシッ!

「「「ありがとうございます!」」」


「あら、エルフを見ても舞い上がらないなんて中々見どころあるじゃない」


 そりゃ言われた事以外したら何が起こるかわからないから必死なんだよ。



ザッザッザ。

「「「・・・・」」」


 皆の憧れ、エルフのルナマリアが農場を案内してくれているんだけど、全員真剣な面持ちで黙々と行進している。


 当然彼女に話しかけたり、農場見学する余裕なんてありはしない。


「今の時期はトマト、キュウリ、スイカなんかが収穫できるわね」


「・・・・説明していただいたのに反応しないのは相手に失礼ですよ」


ビシッ!

「「「ありがとうございます!」」」



 目からは涙が流れ、足は震え、1秒毎に精神が擦り減っているのが手に取るように理解できた。


 農場から出た瞬間に半数が泣き崩れたのは仕方のない事だろう。


「ルーク様が心配されなくとも彼女達は立派な対応が出来たでしょう?」


「まぁ・・・・うん・・・・トラブルは無かったな・・・・・・トラブルは」


 そしてロア商会は『最強(最恐?)』として有名になっていく。

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