百四十話 おいでませオルブライト家2
前回のあらすじ。
ついにオルブライト家へと足を踏み入れたファイ、シィ、アリスの3人!
しかしそこは惨劇の館だった。
なんとアリスが魔道具の餌食になってしまう。
過度な興奮状態により理性を失ったアリスを助けるため、原因を調査するべく立ち上がったファイだが、今の彼では聖なる結界に阻まれて調査する事が出来なかった。
なんとそこは資格を持った者しか入る事が出来ない場所だったのだ。それによって逆に精神崩壊の危機に追い込まれてしまうファイ。
そんな主を救うため、シィが自らを犠牲にして結界を打ち破ろうとした。
だが無情にもシィは資格を持つ者だったため結界に触れることは出来ず、ファイだけが苦しみ続ける事態に陥ってしまった。
どうなる子供達!
「長いあらすじだったね。しかも事実が捻じ曲げられてるから伝わりにくいよ」
良いんだよヒカリ。大体あらすじって読んでもわからないもんだし。
と言うわけで現状を知りたかったら前の話を読み直してくれ。楽しい遊びを見つけてしまった俺はそれどころじゃないんだ。
「さぁ、催してしまったシィはトイレに行けばいいぞ? きっとアリスと同じリアクションで戻ってくることだろう」
「・・・・変態ですの」
何故か俺を睨みつけるシィ。
え? トイレ行きたいって言うからどうぞって許可しただけなんだけど?
「そうだね。シィが体験した事をありのままボクに教えてくれたらいいよ。アリスはこの調子だし・・・・」
「ルークさん! わたくし怒っていますのよ!? アレはなんだと聞いているのですわ!!
ですわ、ですわ! ですわぁぁぁーっ!!」
怒りで我を忘れているアリスが普段から使っている語尾の『ですわ』を連呼し始めた。
どうやらこれが彼女の怒り表現らしい。
心なしかドリルヘアーも連動している気がする。
母さんが言うには彼女の母親エリザベスさんは自由自在に動かせるらしいので、もしかしたら近い将来アリスの感情表現の1つにドリルを動かすと言うのが加わるのかもしれない。
「・・・・ファイ様が言うなら行きますの」
俺には散々「変態、変態」言っていたシィが主の言う事を聞いて大人しくトイレへと速足で向かった。実は結構ギリギリだったのかもな。
シィが部屋から出て行ったので、俺は以前から気になっていた事を聞いてみることにした。
「なぁ、ファイってシィの悲鳴を聞いた事あるか?」
「いやぁ~、実は無いんだよ。あの通り感情の起伏が少ない子だからねぇ~」
アリスの悲鳴も届いたんだからきっとシィの悲鳴も聞こえるはずだ、と俺達は2人してワクワクしながらその時を今か今かと待ち始める。
「もぉ~、怒られても知らないからね。わたしは助けないよ」
そんなこと言わずにヒカリ先生。いざとなったらお願いしますよ。
アリスの怒り方は暴力行為や八つ当たりではなく『ですわ連呼』なので全く実害がないけど、シィは結構武闘派なイメージがあるので止められる人物、つまりヒカリの協力が必要になる可能性は高い。
うるさかったアリスの口にお菓子を放り込んで黙らせた事で沈黙が訪れた部屋。
シィの悲鳴が聞こえてくるのを待ち望んていると、とある不安が俺の頭を過った。
「・・・・なぁ。息をのむような悲鳴だったら聞こえないんじゃないか?」
「た、たしかに! シィの事だから大声を出すよりそっちの方が有り得るね」
俺達の気持ちは1つになった。
「「トイレの前まで行こう!」」
早速移動を開始した俺とファイ。
早く行かないとシィがトイレから出てしまうからな。
何故かヒカリ達もついてきたけど、邪魔する気はないようなので気にしないことにする。
アリスは自分と同じ立場の人間を作って集中攻撃しようと企んでいるようだし、何もしないヒカリはボソッと気になる事を言っただけだ。
「・・・・実はファイ君も変態だよね」
だよな! 前々から俺も怪しいと思ってたんだよ。だって家ではクラスメイトにメイド服着せてんだぜ。そんな奴が変態じゃない訳がない。
ヒカリさん、俺は違いますよね?
「わたし、ファイ君『も』って言ったけど聞こえなかった?
それにルークもわたしにメイド服着せてるよ」
・・・・てっきりエースの事かと。
メイド服だって俺が強要したわけじゃないし。
「いやいや、この流れならルークの事しかないだろぉ~。
しかしボクが変態と言うのは訂正してもらいたいね。使用人であり友達でもあるシィの意外な一面を見たいと思っただけなのだから!」
「その使用人で友達で小さい女の子なシィちゃんのトイレの様子が気になる時点でアウトだよ」
大人ならなっ!
これは子供のちょっとした悪戯心ってやつだよ。ほら『スカート捲り』とか『気になる女の子にチョッカイを掛ける』みたいな。
そんな大義名分を得た(得たんだよ!)俺達は誰に憚ることなくシィが入っているであろうトイレのドアの前に到着した。
「音は・・・・しないな。
シィと俺達の移動速度の違いから考えてもこの短時間で用を足し終えたとは考えにくい。俺の部屋からトイレまではどんなに急いでも10秒は掛かるが、シィのすぐ後に俺達も移動を開始したのでその差は14秒と言ったところだ。
おそらく彼女は今スカートを下ろしている最中、もしくはトイレに腰かけただけ。つまり悲鳴が聞こえるのは排泄後。これから言う事になる」
「なるほど。しかしその仮説は最短ルートで辿り着いた場合にしか使えないねぇ。
例えば初めて来た家の中で迷っていたらボク達の方が先に着いたと言う可能性もある。何せ一本道ではなかったのだから十分あり得るだろう?
さらに言えばこの中にシィが居るとして、彼女が用を足す時に普段から防音魔術を使用していたら我々の計画は破綻する。実際優秀なシィは短時間なら小さな音を消すことが出来るんだよ。
逆に成功したとしてアリスが大げさなリアクションを取ってしまっただけで、シィが驚きもしない事も考えられるね」
ふむ・・・・もしもの話をしても仕方ないんだけど、こうして色々考えてみると不安要素が多いな。
「ヒカリはどう思う!? 成功確率は何%だろうか?」
「是非女性陣の意見も聞きたいものだねぇ。改善案も出来れば欲しい」
「どうでもいいよ」
絶対零度の視線で冷たい事を言うヒカリ。
俺達は真剣に議論してただけなんだけど・・・・話題がダメだったかな?
ジャーーーッ!!
俺達が静かに室内の音に耳を澄ましつつトイレの前で待つ事、数分。
中から水が流れる音が聞こえた。
それ以外の音は聞こえなかったので予想外に壁が厚かったらしい。いや何かを期待してたわけじゃないし、聞こえたからってどうってことないけど。
それ即ち、次の瞬間には洗浄が始まり、派手なリアクションが!
「・・・・・・あれ?」
いつまで経っても悲鳴は一切聞こえてこなかった。
やはりファイの言う通りシィは声を出さない驚き方をしてしまったのか?
作戦失敗に嘆く俺とファイの目の前で扉が開き、中からシィが出てくる・・・・はずだった。
ガチャ。
「あら? アンタ達そんなところで何やってんの?」
「いや、ちょっと・・・・ね」
しかしトイレから出てきた人物は俺達の予想とは違い、出掛けていたはずのアリシア姉。
いつの間に帰って来てたんだ?
「ルークが友達にクロを紹介するから乗るなって言ったでしょ。だから1人で近場の魔獣退治してたのよ。でもやっぱり街の近くはダメね。強敵なんて居やしないわ。
調子も乗らないから早めに切り上げて帰って来たのよ」
まぁアリシア姉がいつ帰ってこようと関係ないんだけど、肝心のシィは一体どこに消えたんだ?
「ん~・・・・あれ? 部屋に居るよ」
誰にもバレない様に千里眼を使ったヒカリが俺だけにコッソリと教えてくれた。
モソモソと何かを我慢していたあの様子からトイレには絶対行ったはずなのにどういうことだ?
「私がここ使ってたから別のトイレに行ったんじゃないの?
トイレは2階と使用人の小屋にもあるじゃない」
おそらくアリシア姉の言ったことが正解だろう。
そしてアリシア姉は真実を告げるとクロを相手に訓練すると言って庭へと出て行った。
・・・・あれ? この様子を見せたらクロ凄いってなるんじゃないか?
まぁ今更か。それよりシィだ!
部屋に戻った俺達を待っていたシィは、早速体験したウォシュレットの構造をファイに説明し始めた。
つまりネタバレされたことによりファイのリアクションは見れなくなってしまったのだ。残念無念。
「へぇ~。つまり水で汚れを洗うってことなのか。それはアリスもビックリするだろうねぇ」
「ところでシィは驚かなかったのか? なんか淡々と話してるけど」
「予想は出来ましたの」
まぁ、トイレに入って拭くための葉っぱが無かった時点で何かしらの方法で綺麗にするんだってわかるか。
普段から用を足す前に必ず葉っぱの残量を確認していたシィだからってのもあるだろうけど、慌てふためくシィ見たかったな~。
友達との楽しい時間を過ごした俺は、門限があるから帰ると言うファイ達と夕方前に別れた。
あ、結局アリスは怒り仲間が作れず、1人で『ですわ!』と言って帰っていった。
なんだかんだで充実した休日だったと思う。
また遊びに来ないかな~。
書き終わってから気付きましたけど、ファイがトイレに行っても『小』ならウォシュレット体験出来なかったですね・・・・。
ちなみに紙が無いのは温風乾燥だからです。風魔術で一瞬です。
裏話としてビデを使った女性達が気に入って広めたため、女の人は『小』の時も水洗を使うようになりました。