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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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閑話 1年1組クリス先生

「ルーク=オルブライト君、ですか?」


「うむ。特別扱いしろとは言わんが、覚えておいてくれ」


 私の名前は『クリスティー=スクワード』。


 ヨシュア学校で教師を始めて早12年。それなりに古株なので周囲からの信頼も厚いと自負しています。


 そして今さっき、私は校長室に居る学校で1番偉い人物から『ある生徒』に注意しろとの助言を受けました。長い教師生活の中で初めての出来事です。


 その生徒とは、私が今年担任をすることになった1年1組に所属する貴族の男の子。


 ちなみにこの担当クラス決めは毎年くじ引きだったりするので、教師歴12年の私は最高3年間同じ生徒を担当したことがあります。


 終業式の時、「この子達の担任も今日までか~」とナイーブになった数週間後、教室へ足を踏み入れた時に生徒達の『またか・・・・』って顔が辛かったです。


 仲の良い生徒からは「嬉しいけど新しい先生を楽しみにしていた」と言われてしまいました。気持ちはわかります。


 ぶっちゃけ名前を覚える必要無いので教師としては楽は楽なんですけどね。


 あっ、実は私もヨシュア学校卒業生なんですよ。


 ヨシュア高校まで行き、卒業後1年間は教職の勉強をして、めでたく17歳の時にこの学校に採用されたんです。


 教師って貴族の中でも結構な人気職なので嬉しかったですね~。もちろん貴族の両親も喜んでくれました。


 流石に大貴族の専属家庭教師や、王族に教えることもある宮廷魔導士などのエリート達とは比べ物になりませんが、そんな選ばれし天才じゃない私には最高の職場だと思います。


 自分の手で子供達を成長させるというのは夢がありますよね。


 まぁ、たまに面倒な生徒もいますが所詮は子供。28年生きている私の手に掛かればお茶の子さいさいです。もう手のひらでコロコロ転がせますね。


 え? 彼氏も作れない年増がほざくな?


 そう言って焦って結婚した連中の不幸せな姿を散々見てきたので、私は慎重に選んでるだけです!


 要は私と釣り合うだけの男性がいないんですよね。そりゃ素敵な人がいれば私だって・・・・。



 ・・・・・・無駄話するな? 興味ない?


 そ、そうですか。では話を戻しましょう。



 校長から妙な事を言われた私は詳しい理由を尋ねました。


「珍しいですね。校長は権力に屈しない人だと思ってましたよ」


「・・・・ん。・・・・まぁ」


 絶対に知られてはいけないことなんですが、教師とは言え1人の人間なので賄賂など受け取って生徒を贔屓することも多いんです。


 しかし私の知る限り校長はそう言った事なく、質実剛健、清廉潔白な尊敬出来る人物だったんですが・・・・ガッカリですよ!


「あ、いやいや、そうではないのだ。

 ・・・・君には担任になってもらうことだし事情を説明しておこう」


 私の失望した顔を見た校長が弁明、もとい理由を話し始めました。


 どうやら若い頃は冒険者をしていた校長。その時に命を助けてもらった人物が「今度入学するルーク君をよろしく」と態々学校まで挨拶にやってきたらしいんです。


「その人物が相当な権力者とかですか?」


 命の恩人というだけでも断りにくいでしょうけど、さらにお偉い人だったりしたらもう手が付けられませんね。


 校長の話を聞くに助けられたのは40年前。つまり助けた人物は今、冒険者として相当な地位に居る可能性が高いです。ギルドのトップとか、凄い功績を残した伝説の人物とか。


 そんな人からの頼み。きっと校長は二つ返事で引き受けてしまったんです。



 しかしここで事態は急変します。


 校長が放った次の言葉を聞いた瞬間私は恐れおののきました。


「いや、戦闘力は凄まじいが権力は皆無だろう。

 ユキさんという少女でな。40年振りの再会だったが昔と変わらない美しい姿だったな」


「ロ、ロリコン・・・・っ!」


 なんて事でしょう。1人の生徒だけ贔屓にすることを無責任に許可しただけでは飽き足らず、まさか少女に性的興奮を覚える変態だったなんて。


 もしかしたら授業風景を眺めて微笑んでいたのは、獲物を狙うハンターのような、収穫時期が間近に迫った農家のような気持ちだったのかもしれません。


 きっと心の中ではニタニタとイヤらしい笑みを浮かべていたんです。


 賄賂以上の大事件ですよ、これは!


 出頭してください! 今すぐに!! 生徒に手を出す前にっ!!!


「いっ、いやいやいや!? 彼女はそういう相手ではないのだぞ!?

 まぁワシが教師を志すようになった理由。憧れの人物だな」


 私がゴミクズを見るような目で校長を軽蔑していると、彼は懐かしそうに人材育成する事の大切さを実感した出来事だと語り出しました。


 結構真面目な話だったので私としても納得するしかありません。


「はぁ~、そんな事が・・・・。そんな人から頼まれたら仕方ないですね~」


「うむ! それに金貨1万枚も寄付されたしな」


「いちっ!?」


 ちょ、ちょっと待って。


 私の給料が毎月金貨1枚と少し。生涯賃金で言うなら500枚は絶対無理。


 とある噂でドラゴンを金貨2000枚で買い取ったと聞いた事があります。


 つまりドラゴン5体分を寄付!? この学校に居る教師全員分の生涯賃金を寄付っ!?


「あ、あのぉ~。そのルーク君からの評価が良かったら私の給料アップも?」


「査定対象にはなる」


 イエッス!!


「このクリスティーにお任せあれ!」


 私は今年1番の元気な声でそう返答しました。


 賄賂とかそう言う次元の話では無いのです。私の代から現役なオンボロ校舎の建て替えすら現実味を帯びる金の話なのです。


 もう一度言います。金の話なのです!




 とは言ったものの担任に出来る事なんて特にありません。


 テストの採点を緩くするとか、多少素行が悪くても見逃すとかそのぐらいです。


 それより今日から地獄の3日間が始まるので、そっちの方が忙しいです。


 それは『入学式』、『授業初日』、『2日目の評判』と言う、1年生の担任になった者は確実に震えあがる恐怖の3日間なのです。


 まず『入学式』。


 これは1年生が初めて学校にやってくる日。


 1年生を担当する私達は『受付をする学生のフォロー』と言う名目で、新入生の顔と名前を覚えるために受付に入るのが毎年の恒例行事。美術の先生に頼んで即席で似顔絵も書いてもらいます。


 それを家に持ち帰って名簿と似顔絵でひたすら生徒の名前を覚えるので、気が付いたら朝、なんて担任あるあるです。


 次の『授業初日』は緊張の連続。


 なにせどんな生徒がいるのか全く情報の無いまま、機嫌を損ねない様に当たり障りのない授業をしなければなりません。貴族と平民の格差とか色々あるのです。


 なので私は毎年、彼らの本心を探るために突発的な自己紹介をさせます。


 これで大体の性格判断をするんですが・・・・。


 今年は違ったのです。


 私は事前に知っていたので平気でしたが、今大人気のロア商会の重要人物が2人もクラスにいると知った子供達はそれはそれは騒ぎました。


 流石に収拾が付かなかったので秘技『黒板キィーッ』を使ってしまいましたよ。


 クックック・・・・魔術の『ま』の字も知らないガキ共は絶対防げない攻撃だ。しかも怪我はせず、体罰にも該当しない素晴らしい鎮静技。


 これで沈まない生徒は存在しない!


 と思っていたら、まさか2人も防ぐとは驚きでした。


 将来有望な生徒ですね。ルーク君よりそちらと仲良くなった方がいいんじゃないですか?


 そんな私の考えは初日で覆される事になります。


 1組で授業した先生達が口を揃えて「ルーク君は素晴らしい生徒だ」と言うのです。


 もちろん私が担当する算数でも、近くの生徒に私よりわかりやすく教えるという教師泣かせの荒業を披露してくれやがりました。今度使わせてもらいます。


 本当の天才とは子供の頃から才覚を表すものなのですね~。


 あ、唯一例外だったのは体育の先生で、「アイツは運動無理だ」と辛らつなコメントを頂いたので根っからの頭脳派なようです。



 最後『恐怖の2日目』ですが・・・・私の評判は上々でした。


 最初の自己紹介で「行き遅れの独身だ」と自虐ネタを披露したのが好印象だったらしいです。


 さらにクリスティーと言う名前から『クリスちゃん』や『クリスティ~』と親しみを込めて呼んでくれる生徒も多かったですね。


 上級生になっても馴れ馴れしくする生徒には算数の授業で教えていない計算をさせます。あら~、先生数式間違えちゃった~とか言えば無問題。


 若干キャラ作りをしているのでミスも許されるのです。



 そして私は今日も子供達の教育に励みます。


 仕事を頑張る女性ってモテる訳ではないんですね・・・・。12年目にしてようやく知った真実です。


 いいんですよ。私は教育者として忙しくも充実した日々を送っているんですから。えぇ、何の不満もありませんとも。近々給料アップの予定ですし、独り身の方がお金を自由に使えますし、家は長男が継ぐので家族からネチネチ嫌味を言われる事もないですし!

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