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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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百三十二話 自己紹介

 この世界で初めての学校ということで最初こそ緊張していたけど、ふたを開けてみれば楽しいものだった。


 入学早々出来た友達と隣同士の席になれたし、担任が来るまでの間にヒカリ達以外のクラスメイト何人かと話したけど気の良い連中ばかりだ。


 何より皆それぞれ一刻も早くこのクラスに馴染もうと頑張って話しかけてくれるのでこちらとしても接しやすかったよ。内容も無難な趣味趣向についてだから答えやすかったし。


 そんな楽しい時間を過ごしていた俺達は、初授業にも関わらず遅れ気味にやって来た担任の提案で自己紹介をすることになった。



 なので俺はこの1年1組のクラスメイト達に自己紹介をする順番を今か今かと待っているのである。


 この自己紹介は最初に挨拶した担任(28歳、独身女性)の独断と偏見で突然名指しすると言うもので、それによって前の人と被らないように挨拶するアドリブ力が試される。


 これが中々面白い。


 大人ぶるヤツ、ウケを狙うバカ、緊張で涙目な女の子、いつも通り自慢する貴族の息子、名前を噛んで笑われる少年。


 まぁ子供らしさ、人となりが存分に発揮されている。


 それこそ似たような挨拶をするヤツは明らかに準備していた事がわかるし、人の自己紹介に対する反応は性格の判断材料になる。


 例えば前の席の少年は女子の時だけ顔を向けて真剣に聞いていたし、その隣の少女は貴族の名前だけをノートに書き写していた。


 この他にも全員の名前を覚えようと頑張るクラス委員長的なヤツや、他人に興味を示さないヤツ、教科書を読むガリ勉、などなど子供だからか実にわかりやすい。


 ここまで考えて観察しているのも俺ぐらいだろうけど・・・・。



 俺の右隣りに居るアリスが先に挨拶したんだけど、


「領主の娘ですが気にせず仲良くしてください」


 と、言う何とも控えめな彼女らしい自己紹介だった。


 ちなみにアリスの敬語は生まれついてのクセらしく、どうしても語尾に『ですわ』を付けてしまうんだとか。決して友達以外にはタメ口を利かないとか言う事ではない。



 その後も見ている立場からすれば面白おかしい自己紹介は続き、いよいよ俺の番になった。


 もちろん無理に笑いを取りにいかず、無難な挨拶だけだ。



「ルークです。趣味は魔道具を使う事。将来は製作者になりたいです」



 どうよ? 既に数多くの魔道具を作り出してるけど、あえて『利用者』をアピールする事で魔道具に詳しい理由の説明が付くし、学校生活で少し便利な魔道具を作り出しても将来有望って捉えられる完璧な自己紹介。


 そして当然のようにこれまでと同じ拍手をされて俺は席に着いた。


 さ、残るは後ろのファイか、左隣のヒカリだけだぞ。



「おやおや、ダメじゃないかルーク。

 貴族にとって家名は何よりも大切なものなんだからしっかり名乗らないと! さぁ、もう一度立って! やり直しだっ!」



 俺の自己紹介について不満があるのか、ファイが貴族として家名を名乗れと言い出した。


「・・・・どうしても言わないとダメですか?」


コクリ。

「もちろん。さぁ!」


 同じ貴族として譲れない事なのか、ファイは態々俺の席までやってきて俺を立ち上がらせる。


 ここまでされては嫌々だけどやり直すしかない。


 2度目の自己紹介って事で余計に注目を浴びてる気がする。


 『こんなに注目されては無理だ』と言う顔で後ろを振り返ると、ファイは俺から満足のいく自己紹介が聞けるまで進めるつもりはないらしく、自分の席にドッシリと座って立とうとしない。


 当然俺の顔を見ても助けなんて出すわけもなかった。


 これは俺がやらないと時間だけが過ぎてドンドン気まずくなっていくパターンだ。


 仕方ない。出来るだけ声を小さく。



「ルーク=オ・・・・です。よろしく」



 ほらやったぞ。これで満足だろ。


 近くの生徒にすら聞こえない小さな声での自己紹介だけど、一応名乗った事は理解できたらしく先ほどと同じぐらい拍手をもらった。


「ダメだよ! 聞こえない! もっと大きな声で!! 誇りを持って!! さぁっ!」


 しかしファイはまだ許してくれない。


 クラス中が拍手する中、1人首を横に振って『それじゃあダメだ』とやり直しを強要してくる。


 ぐぅ・・・・も、もう良いんじゃないですか? 消極的な子ならこのぐらいの声量だと思うんですけど。



 俺とファイが長々とそんなやり取りをしていると、当然だけどクラスメイト達もざわついてくる。


「なんだ? アイツ有名な貴族か?」

「ルーク・・・・ルーク? 聞いた事ない名前だけどな~」

「俺も知らねぇ。最近ヨシュアに来た公爵とか?」

「いいえ、きっともっと上の立場なのよ。王族の血縁とか」


 様々な憶測が飛び交い始め、俺が家名を言わないのには何か秘密があるんだと言う空気になって来た。


 ヤ、ヤバい。俺が躊躇したことでドンドン逃げ道が無くなっていく。


 あと非公表だけど最後の女の子、正解だ。



 えぇい! どうかアリシア姉の事を忘れていますように!!


「ルーク=オルブライトです! よろしくお願いします!」



 どうだ!? これなら文句ないだろ!


「ブラボー、ブラボー。貴族はそうでなくっちゃね。

 さて・・・・いよいよ真打の登場だ。みんな静まり返っていい感じじゃないか。そうさ! ボクこそあの有名なパトリック家の長男! ファイ=パトリック!

 王都で公爵を務める有能な叔父も居る将来有望な男だよ。こんなボクと同じクラスになれて光栄に思ってくれたまえ~」


 満足のいく自己紹介だったらしく、担任から指名をされたわけでもないのにファイが長々と自己紹介を始めた。


 でもたぶん誰も聞いてない。


 俺が名乗ってから誰1人として微動だにしてないのだから。



「「「・・・・オ、オオ、オルブライトォォオオォォォーーーーーーッ!?」」」



 長々としたファイの自己紹介が終わるのを待っていたわけではないだろうけど、彼が着席すると同時にクラスメイト達が叫んだ。


 誰か知ってるかな~とは思ってたけど、まさか全員とは。


「あ、あれよね!? ロア商会経営者のオルブライト家!」

「ドラゴンスレイヤーをメイドにしてるって言う!?」

「ヨシュア1の金持ちだって話よ!」

「あの私のお母さんが従業員で・・・・お、お世話になってます」


 あ、そっち?


 クラス中がロア商会の話題で盛り上がり始め、中には関係者も数人居るらしい。


 よかった。アリシア姉の事はどうでもいいようだ。


 これならちょっと権力のある貴族ぐらいの扱いで学校生活を送れそうだぞ。



「たしか入学式で模擬戦をした先輩がオルブライトって名乗ってなかったか? あの怖い女の人」

「ああ。しかもあれだけ凄い戦いだったのにまだ暴れたりなかったのか、校庭で1年生をボコボコにしたらしいぞ」

「俺見たよ。相手が謝ってるのに容赦なく鬼の形相で攻撃し続けるんだ・・・・。まるで心まで壊そうとするみたいに。彼女こそ真の破壊神さ」


 あ~、やっぱり無理ですよね~。


 ロア商会のインパクトが強かったのは間違いないけど、アリシア姉の事を思い出す人も居たので結局俺の想像通りになってしまった。


ガタガタガタ! 

「・・・・ひぃぃっ・・・・き、切らないで」

「燃える~。燃える~」

「ボクラハトモダチ。ボクラハナカヨシ」


 俺の家名を聞いてなんか震え出した集団が居るけど、たぶん昨日絡んできた奴等だ。もちろん顔なんて覚えてないから『たぶん』ね。



 しかし俺の不幸はここで終わらなかった。


 最後に残っていたクラス1の美少女ヒカリが自己紹介をしたのだ。


「ヒカリです! ルークのメイドをしてて一緒に住んでます! ルークが好きです!」


 そんな突然の告白を聞かされたクラスメイト(主に男子生徒)が俺を睨んできた。


 でもロア商会関係者だと知っているから手は出せないのか、ただただ睨むだけ。


 この自己紹介を始める前に「1年間よろしくな!」とフレンドリーに話しかけてくれた名も無き少年も殺気を飛ばしている。


 これはもうファイ以外の男友達は無理かな・・・・。



「はいは~い。みんな仲良くね~。

 ロア商会にはたくさんの寄付をしていただいているので、ルーク君が楽しい学校だと思えるようにしましょうね~。そして来年からも継続よろしくです」


 自己紹介をしている間ずっと黙っていた担任がそう言って締めた。


 先生・・・・そんな裏事情言うなよ。


 俺も今初めて知ったけど入学前にロア商会が多額の寄付をしたらしい。母さん達が指示するわけもないのでフィーネの独断だろう。


 こんな本音駄々洩れなダメ教師がクビにならないって事は、この性格以外はそれなりに有能な女性のようだ。


 あれかな。彼女はユチに近い人物で『金』じゃなくて『権力』が好きなだけで、基本的に権力者に擦り寄っていくけど筋は通すみたいな。


 そう思う事にしよう。



 そんな訳で俺は学校に来た事を後悔しました。


 権力者はどうやっても注目を集めるみたいです。

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