百三十話 学校探検
校内の探索を始めた俺達子供5人と、保護者としてついてきたフィーネとユキ。
とは言え普通の校舎なので特に珍しい物も無く、自分のクラスを確認した事ぐらいしか話すことがないのでちょっと教室紹介をしよう。
ヨシュア学校は1学年3クラス、30人弱で構成されている。その教室には木製机と椅子があり、教壇と黒板・チョークを使って授業をすると言う何の変哲もない普通の学校だ。
俺達のクラスは1階出入り口近くの1組。
そこで今、勝手に明日のための席決めをしている所である。
「どうやら自由に決めて良いみたいだね。たぶん先着順なんだろうけど、5人で固まって座る事はできそうだよ」
「わたしルークの隣!」
「私はファイ様の隣ですの」
「わたくしは・・・・ルークさんの隣が良いですわ」
って事は必然的に俺とファイが前後の席になって、俺の隣が女子で埋め尽くされる訳か。
まぁこんな席順にしたら嫉妬の嵐だろう。
両手に花、どころか下手すればシィまで俺のハーレム要員として捉えられかねない。それをシィに伝えたらまた舌打ちされそうだけど・・・・。
現に今も俺達以外でクラスの様子を見に来た連中からの舌打ちが聞こえた。
悔しかったら美少女の幼馴染でも作れ!
嫉妬している連中を逆に睨み返していると、ユキが黒板の前に立って俺達の方を振り向いた。
「は~い。これから皆さんには命懸けのゲームをしてもらいます~」
「「「えっ!?」」」
・・・・ごめんなさい。あのバカは気にしなくていいです。
何を思ったのかユキが教壇から10人ほど居る生徒達に向かって教師風に指示を出したのだ。
今日のユキの格好はメイド服ではなく、いつもの白いワンピース。見ようによっては教室に来た担任にも見えるので、事情を知らない生徒からは勘違いされてもおかしくない。
そしてその担任から教室が戦場になる事を聞いた生徒達は当然驚くし、戦闘力に自信が無い子なんて泣きそうになっている。
俺の隣に座っているアリスもその1人だ。ってユキは俺んちのメイドだって紹介しただろ・・・・。
さっきまで一緒に居たのにパニックでその考えに行きつかないらしい。
ちなみに俺とアリス以外の対応としては、ファイとシィは素晴らしい連携でお互いの背中を守りながら周囲を警戒し、ヒカリに至っては嬉しそうにゲーム開始の合図を待っている。
つまり全員がユキの冗談を真に受けていた。
ここは俺が止めるしかないよな。
未だ教壇で堂々としているユキに向かって静かに語り掛ける。
「部屋での謹慎が1日・・・・2日・・・・・・」
「そ、そのカウントはなんですかー!?」
言うまでもなくユキの暴走を止めるためのものだ。
「最初に約束したはずだぞ。入学式で迷惑を掛けたら罰があると。
このカウントは、どこにも出かけることが出来ず、暇つぶしも一切出来ない部屋で謹慎する日数だよ」
「な、ななな、なんですってーっ!?
や、止めてください~。退屈が1番嫌いだって知ってるじゃないですか~。非情です~、鬼です~」
「ならさっさと教壇から降りて謝罪しろ! 何が命懸けのゲームだ!」
「うぅ・・・・皆さんを楽しませようと思っただけじゃないですか~。ちょっとしたジョークなので気にしないでくださいね~。
しかしファイさん達は良い動きしてました~。グッジョブです」
俺から注意をされたユキが言われた通りにクラスメイト達へ誤解だと伝える。
これから始まる学生生活に夢膨らます少年少女に緊張感を持たせようとしたらしく、俺が止めなかったら全員の背後からビックリドッキリな挨拶するつもりだったと言う。
そんなユキの行動を察した訳じゃないだろうけど、自然に死角を無くす動きをしたファイとシィの事を褒めるユキ。
まぁそれは俺も思ったよ。伊達にコンビを組んでないな。
「フフフ。そうだろう、そうだろう! 貴族として緊急事態には臨機応変に動かないといけないからねぇ~。ボク達はこの通りバッチリさ!
それこそアリシアさん達ランキング上位陣でも掛かってこい! って感じだよ。思い返せば始まりは・・・・・・」
やめて。まだ校内に居るであろうアリシア姉が聞いたら飛んでくる・・・・。
褒められたファイが自慢気に日々の練習メニューやこれまでの功績を語り出したので放っておこう。
「シィちゃんは右利きだよね? ちょっと左からの攻撃に対処出来そうになかったよ。後、空中からの襲撃にも弱いかな。
ファイ君は単純に戦闘能力が低いね。身体能力で負けるとシィちゃんまで危険に晒されるから気をつけて」
ヒカリが2人の構えを見て何やら指導し始めた。
そう言う事じゃないんだけど・・・・まぁ2人は真剣に聞いてるし、実際役立つんだろうから良いか。
そんな教室での一幕。
その他にもユキのジョークと、フィーネの中だけでの常識によってあれこれあったけど、概ね平穏無事に校内探索は終わった。
「見つけたぞ! さっきはよくも無視してくれたな!」
夕方になり、そろそろ帰ろうと校舎から出た俺達にクラス発表でイチャモンをつけた少年Aが再び絡んできた。
どうやら式が終わってからも俺を探していたらしい。
「クラスメイトを無視するなんてイジメの始まりなんだぞ~」
「酷い奴だ」
しかも3人組なっている。
面倒くさいので少年B、Cにしよう。ABCトリオだ。自己紹介されても覚える気は無い。
「エース=アンドレアだっ!」
「ビィ=ビゼルだぞ~」
「ディ=シイフロアだ」
などと考えていたら彼らは勝手に自己紹介を始めた。
最後のヤツそこはシィにしろよ、と思ったらその名前の人は俺の友達だったな。でもなんかモヤモヤする・・・・。
ABCトリオ、改めABDトリオはどうしても俺を悪人に仕立て上げたいようで、罪の無い自分達を苛める酷い奴だと言ってくる。
そんな連中の事など全く気にせずシィを入れてABCDカルテットにしたい衝動に駆られていた俺は、周囲にクラスメイトらしき人が居る事に気付いたので誤解の無いように一応説明しておくことにした。
俺がイジメっ子だと思われたら厄介だし。
「いや、学校生活楽しもうって言ったじゃん」
そう。俺はそもそも無視をしていない。
こういう事も想定して無難な挨拶を返しているので絡まれる理由はないはずだ。
だけどそんな俺の言い分を聞こうとしない3人は驚くべき証言を始めた。
「俺、聞いてねぇーし」
「相手が聞いてないって言うなら無視と一緒だな~」
「酷い奴だ」
なんだその自分勝手な理屈は・・・・。じゃあどうしろってんだよ。
普段ならこの辺でフィーネかユキが止めに入るんだけど、学生同士の喧嘩(?)に介入する気はないのか傍観している。
流石にこの件に関して部外者のヒカリ達を頼る訳にもいかず、俺1人で解決しなければならないようだ。
色々考えたけどどれも平和的解決では無かったので、ここは大人な俺が謝って終わりにしよう。
「はいはい、悪かったよ。明日から楽しくやろうな」
これで良いか? 良いよな?
俺達はこれからアリスの家で遊ぶ予定なんだから邪魔すんな。
「いーわけねーだろ! 侍らせてる女の子達、置いてけよ!」
「俺ドリル~」
「じゃあ俺不愛想な子」
お、お前ら本当に6歳か? 完全に盗賊か酔っ払いのセリフじゃねぇか・・・・。
折角俺が穏便に済まそうと思って謝罪したのに、それだけでは不満のようで変な要求までし始めるバカ共。
物のような扱いをされたヒカリ達からの印象は最悪だったらしく、女性陣から敵意を向けられているけど全く気付かないABDトリオは言いたい放題である。
やれ『デートしたい』だの、『隣の席になりたい』だのと言い始めた。
それは段々エスカレートしていき、
『スカート捲りたい』
『ドリル解剖したい』
『メイド服着せたい』
『ニーソで踏まれたい』
などなど欲望丸出しの6歳児。いや変態達。
獣人のヒカリが居るのに『尻尾を握る』や『猫耳をくすぐる』が何故出てこない!?
まったく・・・・常識の無い奴等だ。
そんな一般常識の欠片もない連中を、そろそろヒカリがキレるからその辺にしとけよ、と俺が止めようとしたその時。
1人の少女が現れた。
・・・・現れてしまった。
「下級生の教育は上級生の義務よね!!」
「「「だ、誰だ!?」」」
今日から俺達の先輩であり、戦闘狂であり、先ほどの試合が消化不良でイライラしているアリシア姉だ。
どうやらこの3人、入学式の最中で寝てしまったのかアリシア姉の戦闘を見ていないらしい。
じゃなきゃあれだけの事をやったアリシア姉の顔も知らないとか有り得ない。
そしてアリシア姉は変態で悪ガキな3人に教師陣から返してもらった大剣を携えて、
「教育的指導ぉぉーーーっ!」
と言いつつ襲い掛かる。いや、指導を開始する。
「「「ギャーーーッ!」」」
ヤラセ試合でよほどストレスが溜まっていたのか人の多い校庭にも関わらず魔術をぶっ放し、大剣をブンブン振り回す。
もちろんここは訓練場みたいな結界なんてないから当たれば一発一発が致命傷になるけど、そこはフィーネが察して結界を展開している。
これなら『学生同士の戯れ』って事にして揉み消せるから一安心だね!
だからと言って自分の体と同じぐらい大きな剣で切られて平気な訳も無い。魔術も同じだ。
ご愁傷様。
自慢の大剣で下級生の身体を切り付け。
「ヨシュアの学生はみんな友達でしょ!」
ザシュっ!
「ヒィィヤァァーーー! だ、大丈夫? 体、繋がってる!?」
目の前で炎を爆発させ。
「イジメなんて許さないわよ!」
ボフンッ!
「熱ッ! 燃えた! 絶対火傷した~!」
万力の如く相手の足を握りつぶしながら地面に叩きつけ。
「女の子には優しくしないとダメじゃない!」
メリメリメリ!
「イダダダダッ! これ女の握力じゃないってー!」
そんな虐待・・・・じゃなくて教育的指導は当然のように入学式帰りの人々の視線を集め、騒ぎを聞きつけた教師が止めに入るまで続いた。
アリシア姉が止められた後、説教ぐらいされるのかと思ったら一応下級生(俺の事だ)を助けたって事で無罪放免になった。
それ即ち『アリシア姉の行動は正しかった』と証明された事に他ならない。
この自主的な治安維持活動によって彼女の暴君っぷりを多くの学生に目撃されてしまう。
バレちゃダメだ、バレちゃダメだ、バレちゃダメだ。
絶対関係者だと知られてはいけない。
俺の考えに同意した全員がそそくさと学校から退散する。
「もし同じような事をしたら、このアリシア=オルブライトが黙っちゃいないわよっ!
文句がある奴は掛かって来なさい!!」
最後に指導完了したABDトリオと周囲の学生に向かって声高らかに宣言するアリシア姉。
止めて~。注目を浴びてる状態で自己紹介とかしないで~。
絶対校庭に居る全員がオルブライト家の名前覚えたじゃん。
その後は勝手に風紀委員を名乗りながら機嫌良く校内巡回に戻っていったので、『俺を助けに来た』と言うよりは『たまたま指導対象に絡まれていたのが俺だった』と言うだけようだ。
「これは明日、クラスメイトへの挨拶で弟だとバレて怖がられるパターンですね~」
させねぇよ!? ただのルークで過ごしてやるし!
「無理な方に夕食のデザートを賭けます~」
「全員そっちに賭けるから成立しないよ。答えわかってるもん」
くそっ! どいつもこいつも!
「・・・・あの教師、さきほどの試合で審判をしていましたね。つまり運動方面の役職。成り代わるなら彼ですね」
フィーネさん?
恐ろしい計画を練っているのか、何やら小声でボソボソと呟いている。
入学式に来ただけなのに俺の学生生活は前途多難そうです。
何か悪い事したかな・・・・。