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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
一章 オルブライト家

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十九話 ハーレム風呂?

 フィーネとユキが風呂に入りたがっている。


 どこから情報が漏れたのかはわからないが、片付けやクロの世話を他の面々が買って出てくれた。その結果、俺は長旅で疲れた二人を労う慰安担当という大役を任されることとなった。


「さあ見てくれ! これが俺自慢のヒノキ風呂だ!」


 楚々と服を畳むフィーネ。束ねた銀髪、タオル越しでも隠しきれない胸元の膨らみ。同性なら見蕩れ、異性であれば性を意識したことのない少年から枯れ果てた老人まで思わずガッツポーズを取るであろう美の女神を背に、俺は風呂場の戸を開け放った。


 改築されたばかりの木の香りがふわっと漂い――。


「いらっしゃ~い。遅かったじゃないですか~」


 すでにユキが首まで湯に浸かっていた。真っ白な髪を広げて海藻みたいに揺らしながら、全身グダっと伸ばしている。


「……ごゆっくりってあれか? 自分が一番に堪能するから、しばらく時間潰しとけって意味か?」


 脱衣所に服が脱ぎ散らかされていたのでいるのはわかっていた。でもまさかここまで我が物顔をしているとは……そして風呂を使いこなしているとは……。


 そこは待っとけよ。あれこれ説明させろよ。


「見たこともない赤と青の蛇口を触ってたら、突然お湯が出てきたんですよ~。そんなの入るっきゃないでしょ~」


「数分ぐらい待てよ……明らかに今から風呂場に行く流れだっただろ。しかも時間的にお湯が溜まるわけないから、溜めながら入っただろ」


「違いますよ~。ルークさん達が扉開ける直前に、静かに急いで飛び込んだんです~。この如何にもな空気感を醸し出すために!」


「お前は何と戦ってるんだ……」


 まあ、努力の方向性を間違え続けるギャグキャラは置いといて――。


「見ろ、給水も温度調節もワンタッチ! 燃料も不要! 安全性と快適さを兼ね備えた、完璧な風呂だぞ!」


 フィーネが知っているのは加熱鉄板で温めるまで。


 その魔力や回転力を利用して井戸から汲み上げるポンプも、温冷の切り替えや両方捻れば蛇口内部で混ざってぬるま湯が出る混合栓を再現できたことも、加熱鉄板を給水パイプに使用して湯と熱だけ浴槽に流す改良型も知らない。


 今やオルブライト家の風呂は、給水も加熱鉄板の起動も、蛇口を捻るだけなのだ。


「おぉ~! フィーネさん胸おっきー!」


「風呂に触れろよ!」


 この流れで友達の容姿に触れるな。「おぉ~! 凄い魔道具ですね~!」で良いじゃんか。知識や技術褒めれば良いじゃんか。


 いやまあ俺も思ったけどね。小ぶりのスイカぐらいありそうだったね。ちなみにユキは平均サイズ。


「なるほど~。肉体年齢に引っ張られつつも女体への興味も失わない、心身が連動してないタイプですか~。転生者って面白いですね~」


「男なら絶対に巨乳をガン見しておっぱいトークしたがると思ってるお前の思想は何なんだよ……」


「違うんですか~?」


「違わないが?」


 ただちょっと魔道具を褒めてほしかったなって。


 どうせ視線やオーラはバレてるから取り繕わない。


「とても快適そうなお風呂ですね。温かい……でも熱すぎず丁度良いです」


 フィーネがそっと湯面に手を差し入れる。目を細めるその姿は、まるで温泉番組のワンシーン。


 一人だけ空気感が違う。俺達がおかしいとも言う。


「私の調整ばっちりでしょ~? 温水だけだとちょっと熱かったんですよね~」


「あっ、ズルいぞ! 一人だけ抜ける時は『いちぬけぴー』って言わないと駄目なんだぞ!」


「私の地元では『いちぬーけた』でしたし、二人の時は言わなくてもいいルールだったんですぅ~。それにあの会話はあそこで終わってました~」


 くそぉ……続ける気でいた俺がエロ大王みたいじゃないか。ここは真面目な風呂トークをしてイメージを払拭せねば。


「加熱鉄板はそういう魔道具だからな。寒い日はそのぐらいで丁度良いんだよ。熱いのが好きなやつもいるし、水を入れたら簡単に冷ませるし」


「今更真面目ぶっても遅いですよ~……ってフィーネさん、洗浄魔術を使ってるのに体洗うんですか~?」


 俺達の話に耳を傾けながら、フィーネは浴槽横の椅子に腰を下ろし、桶で湯を汲んで自身の体に掛ける。ユキはそんな友人の姿を不思議そうに見つめる。


 何週間も野外活動していたにもかかわらず、二人の身なりが整っていた理由――それが洗浄魔術だ。汚れも臭いも一瞬で消せるので、本来なら風呂すら不要。 当然そのまま湯に浸かっても問題はない。


「汚れていなくても掛け湯をするのがマナーです。体を湯に慣れさせる効果もあります。どちらも我々には意味のないことですが、これは心構えの問題です」


「フィーネさんってキッチリしてますよね~」


 どうやらユキには響かなかったようだ。


 今後も服を脱ぎ散らかし、肌を隠さず闊歩し、湯船に飛び込むだろう。


 小さくため息をつくと、フィーネは備え付けの石鹸を手に取った。


「アクアの宿屋にも果実で色や匂いをつけた高級な泡石がありましたが、やはり石鹸の方が上ですね」


「その辺の発想は同じだな」


 一応、改良しようとはしていたらしい。泡石からの脱却ができなかったのは、現状で満足していたわけではなく、いくらやっても新しい品が作れなかったからで確定かな。



「見てたらやりたくなっちゃいました~。私も洗ってください~」


 洗う面積と感動の無さ、二つの要因によっていち早く洗い終わった俺の後釜に、ユキが収まった。フィーネの隣にちょこんと座り、白く細い背中を見せてきた。


 説教しても言うことを聞かないけど、羨ましがらせればすぐ真似する。まるで子供だ。


「それにしてもこの香りは何ですか~?  女の子が好きそうな花の甘い匂いがしますけど。あ、私がいつも漂わせてるのに似てますけども~」


「そういうのいいから」


 見栄か? 見栄なのか? 


 俺がやってやろうかとも思ったけど罠の気配がぷんぷんするので、大人しくフィーネに任せることに。彼女も苦笑しながら自分の洗浄を中断し、タオルに泡をしっかりと立ててユキの背中を撫でるように洗い始めた。


「ユキ、笑われてんぞ」


「え~? ルークさんの戸惑ってる姿が滑稽だったんですよ~」


「いいや、お前の子供っぽさだ」


「子供っぽいだなんて失礼ですね~。私はもう立派なレディなんですよ?」


 そう言ってユキは胸を張る。平均的なその胸を。


 フィーネの隣に座ってるから、余計に差が際立つんだよな。


「いや~……なんというか、これは反則ですよね~。ましてスレンダー種族のエルフでこのサイズと か、歴代最高記録更新じゃないですか?」


「黙りなさい」


 鏡越しに感じたユキの視線の意味を察したフィーネは、ピシャリと叱りつけ、それ以上の発言を封じた。


 今は体を洗っているため、首から下は無防備。動きに合わせてふるふると揺れる豊かな胸元は、石鹸や泡石に使われるどの果実より遥かに巨大で、柔らかで、高級そうだった。


「そうしたいのは山々なんですけど、目が勝手に……」


 ユキが顔を逸らすも、すぐに視線がフィーネの豊かな胸元に戻ってくる。


「だとしても口は塞げるでしょう」


 ユキの奇行と男共の下卑た視線。どちらも慣れているであろうフィーネも、それ自体を咎めはしない。


「目は口程に物を言うって言葉があるじゃないですか~。お風呂という名の堕落から解放された私の目は、もう誰にも止められませんよ~」


「意味がわかりません。それに、これはただの脂肪です。感心するようなものではありません」


「何をおっしゃいますやら。そこには夢と希望が詰まってるんですよ~。ちょっとそれを使って洗ってみて……いだだだだっ! つ、爪ッ! 指ッ! 肩に食い込んでますー! びっくりするほど痛いですー!?」


「好奇心もほどほどにするように。残りは自分でやりなさい」


「わかりましたよぉ……」


 ユキは涙目になりながら自身を泡立てていった。



 俺はと言えば、二人のやり取りを横目で見ながら風呂を堪能していた。


 ……頼むからこれ以上俺を巻き込むな。


「おやおや~? ルークさん、暇そうですね~? 一人で寂しそうですね~?」


「やめろ。近寄るな。一人が寂しいなんてパリピの偏見だ。落ち着ける時間こそ至高。他人とのワイワイした時間はそのためのスパイスだ」


「寂しがってる人はみんなそう言うんですよ~。自分に言い聞かせるんですよ~」


「その押し付けをやめろ!」


「でも最初にお風呂を作った時にみんなで楽しく入ったそうじゃないですか~」


「くっ……どこでそれを……!」


 あれはレオ兄とアリシア姉しか知らないはず。いや、その後にマリクとエルとも似たようなことをやったし、父さん母さんともやった気がする。後日みんなで笑い話にして盛り上がった。


 犯人は誰だ。起こらないから正直に名乗り出なさい。


「それに慰安担当としてお客様を放置はどうなんですかねぇ~。お風呂の楽しさを教えたり、安らいでもらうのが仕事じゃないんですかねぇ~。一人でのんびりしてていいんですかねぇ~」


「ぐぬぬぬ……」


 言い返せない。


 仕事なんて嫌なことをしてなんぼ。厄介ごとを解決してこそのプロ。製作者として、担当者として、今後一緒にやっていく仲間として、このまま何もしないなんて許されるわけがない。


「仕方ない……語ってやるよ前世のこと」


「おー、いいですねー!」


「陰鬱とした社畜時代を嫌ってほどなぁぁ……異世界の知識も技術も一切出てこず、ただただ人間関係と社会の仕組みに苦しむ男の物語だぁぁ……」


「いやああああああ! つまらない話いやあああああ!」


 あっさり手のひらを返して必死に自身を泡だらけにしていくユキ。


 強引なやつはいつだってそうだ。自分から誘っておいて、興味ないこと嫌いなことになると途端に逃げ出す。何ならそれすら捻じ曲げてやりたいことを貫く。


「ユキってアリシア姉に似てるよな」


 体を洗い終えて湯船に入ろうとしていたフィーネに言うと、彼女は苦笑しながら返してきた。


「ルーク様にも似ていますよ」


「はぁ? 俺はこんなボケキャラでも気を遣えないキャラでもないが?」


「私だって、殻に閉じこもったり空気読めないルークさんとは違いますぅ~」


「はいはい、そうですね。私の勘違いでした」


 お湯と泡、互いの武器を構えた俺達だが、フィーネが面倒くさそうに訂正を入れたことで終戦を迎えた。


 ……この水鉄砲どうしてくれる。




 美少女の背中の泡を落としていくという新世代のブロック崩しもあって、ようやくユキも泡を流し終え、三人揃って湯船に浸かる。


 少し狭苦しいのは、ユキが「気持ちいいですね〜!」と嬉しそうにバタ足しているからだ。しかも縁に手を当てて両手両足を伸ばすビート板スタイル。普通なら大人三人余裕で入れる。


 どういうわけか飛び散ったお湯が水球となってすぐさま戻ってくる上、誰にも掛からないので、問題はスペースを取るだけ。もしフィーネではなくユキの力だとしたら気遣いの方向が間違っている。


「ふぅ……」


 俺はそんな精霊様から最も離れた場所で、背中を壁に預け、湯船の中で伸びをする。肩まで浸かると、全身の筋肉が緩むのがわかる。やっぱり風呂は最高だ。


「そう言えばユキ。体洗うの乗り気じゃなかったけど石鹸あんまだった?」


「いえいえ、お風呂に夢中で気付いてなっただけですよ~。ただの泡石だと思ったらあんな面白いものだったとはビックリです~。フィーネさんも人が悪いですね~。ああいうものがあるなら先に言っておいてくれないと」


「伝えたら伝えたで驚きが失われたと怒るでしょう」


「その時の気分次第ですね~」


 なんて厄介なやつ。


「……たしかにこれは長旅の疲れが抜けていきますね」


 そして俺の隣ではフィーネが、長旅の疲れを癒やすように目を閉じ、吐息を漏らす。その姿は、もはやエルフメイドではなく、ただの女性のように見えた。


「あー! ルークさん、今ガン見してましたよねー?」


「し、してない! してないから!」


「おっぱいトーク第二ラウンドの開幕ですか~?」


「やめろおおぉ!」


 浴室に響く俺の叫びに、フィーネが「ふふっ」と笑った。


 これが本当の水に流すってね。

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