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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
十章 学校編
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百二十六話 入学式1

 今日は楽しみでもあり、恐ろしくもある入学式!


 いよいよ俺の平和で愉快な学生生活がスタートするのだ。


 今日のためにヨシュア学校卒業生であるユチやリンへの聞き込みはしたし、脳内シミュレーションもバッチリ。


 大切なのは初めの自己紹介だな。下手なギャグとか目立つ自己PRは必要ない。無難に、普通に、平凡に、周囲と同じ挨拶をすればいい。


 隣の席になった奴には私生活や好きな物の話題を振って仲良くなろう。

 可愛い女の子だったらヒカリを通じて仲良くなろう。

 自慢話ばかりの貴族だったら前後の席の奴と仲良くなろう。


 よし、イケるっ!


「ルーク何してるの? 学校、着いたよ」


 一応緊張を解くお呪いとして、手の平に『の』と書いて飲み込む自己暗示を繰り返していたら、いつの間にか目的地であるヨシュア学校に到着していたらしい。


 学校を囲うレンガの壁。普通だ!

 土が敷き詰められた校庭。普通だ!

 3階建ての木造校舎。ちょっと古いね! でも普通だ!

 受付をしている上級生が新入生の証である赤い花を緊張気味に手渡してきた。頑張れ!

 それを見て微笑む先生。普通の容姿だ!


 あぁ・・・・素晴らしきかな普通。



 こうして俺の求めていた平穏な学生生活は華々しく幕を開けた・・・・




 ら良かったのに。


「・・・・す、凄いな」


 そこは俺の想像する入学式の風景ではなかった。


 いや渡された花を胸に付けるまでは良かったんだぞ?


 問題は校庭に集まっていた人々だ。



「ウチのランスちゃんは6歳にして浮遊の魔術が使えるザマス! 御宅の坊ちゃんは何が出来ましてー!?」


「オーッホッホッホ! 優秀な家庭教師のお陰で勉強が捗る事、捗る事。掛け算を覚えている最中ですわー! 今の時代、貴族に魔術なんて必要ないですわ~。学問こそ最も必要な教養ですわー!」


「んっまぁー! ウチの家庭教師も高校を主席卒業した優秀な方ザマス! そんなお方に教えていただいているランスちゃんは当然魔術も勉強も学年1位を取るザマスっ!」



 あちらこちらで派手な装飾品を身に付けたおばさん達が子供の初お披露目をしつつマシンガンの如くその子の自慢話を続けている。


 もう『光れば光るほど美しい!』とか『大きな宝石を身に付けるのが義務!』みたいなご婦人ばっかりだ。


 その代表たる人物が先ほど触れた『ザマスおばさん』と『ですわおばさん』であり、2人は遠く離れた校門に居る俺達まで届くほどの大ボリュームで高音を周囲にまき散らしていて、最早騒音と言ってもいいレベル。


 大体なんだよ『ザマス』って・・・・。


 空想の中だけかと思ってたけど、やっぱりそう言う貴族が居るには居るんだな。


「サイ君の『~だぜ』とか、アリシアちゃんの『~なのよ』と同じなんじゃない? 周囲の環境で自然と身に着いた口調なんだよ、きっと」


 ヒカリが俺の疑問に答えてくれたけど流石にアレは語尾として完全に失敗だろ。


 つまりあの人の子供は全員『ザマス』や『ですわ』を付けるんだろ? 負の連鎖じゃないか。どっかで誰か終止符を打ってやれよ。


 もしかしてクラスメイトの半分があの口調とか言わないよな?


「大丈夫よ。あの人達みたいな口調は貴族の中でも珍しいんだから」


 俺が不安そうな顔をしていると昔同じ疑問を抱いたことがあるのか、母さんが説明してくれた。


 どうやら過去に『やっぱりこの語尾は変だ』と思った常識的な貴族も居たらしく、何とか修正したため今ではほとんど現存していないと言う。特に『ザマス』は絶滅寸前のモノなんだとか。


 いや、母親があの口調だったら前世の記憶全部無くす努力をするぞ。そしてまっさらで何も知らないまま洗脳されて「~ザマス」って言う人生を選ぶわ。


 いかん、そんな話しをしながらあの2人を見続けてたら目がチカチカしてきた。


 最初のオバサンの手とか指輪や腕輪、デコレーションしたつけ爪のせいでボクシンググローブみたいになってるじゃないか・・・・総重量何キロだよ?


 あれはもうダンベルの域だ。


 ってか『つけ爪』って文化あるんだな。


「あれはマンティコアの爪を加工したものですね。一部貴族の間ではああいった高価な素材を身に付けることが流行りのオシャレなようです」


 すかさずフィーネが説明する。


 オシャレ? 殴って良し、刺して良しな武器の間違いだろ?



「こ、これが貴族社会・・・・!」


「いやいや、あの人達は有名な見栄っ張りだから。あれだけ派手なんだから難しいでしょうけど頑張ってあっちの方に目を向けてみなさい。普通のご婦人も居るでしょ」


 母さんが言うように校舎近くを見ると、たしかにフォーマルな恰好した人達が集まっていた。それでも宝石類は身に付けてるけど、あのぐらいなら許容範囲内だ。


 どうやら早くも親同士でグループが出来始めているらしい。


「ちなみに母さんは過剰装飾のグループに入るの?」


「・・・・母親が『あんな風』になってもいいのね?」


 ゴメン無理。


 ロア商会で儲けた莫大な資産を全部宝石に使いました、とか普通に言いそうな親は無理。


「お母さんも止めてね」


「お願いされても断るニャ・・・・」


 ヒカリも嫌なようでリリに注意していた。もちろん、贅沢が苦手なリリは娘の意見に賛成している。


 リリは今だって精一杯オシャレとして黒いドレスに茶色いブラウスなのだが、唯一の装飾品であるネックレスにも一切宝石は付いていない。


 もしかしたら金属アレルギーならぬ宝石アレルギーなのかもしれないけど、ロア商店で揃えた総額金貨3枚と言うドレスとしては超格安な格好だ。


 そのままの君で居てくれ。


「あぁ・・・・あのマダム達の中にルークさんを放り込みたいです~。『ウチのルークちゃまは魔道具を開発しましたのよ!』とか言って、マダム達の顔が嫉妬と悔しさで歪むのを見てみたいです~。

 当然その後にはトラブルが巻き起こりますよね~。絶対面白いですよ~」


 お前、恐ろしい事を考えるんじゃない! 式の前に帰らせるぞ!




 もちろん俺達は貴族連中に目を付けられる前に地味グループが集まっている隅の方に避難する。


 途中で母さんが知り合いの貴族に捕まり、世間話と言う名の自慢を聞き始めてしまったので見捨てた。


 その時に息子の俺を紹介したそうだったけど、俺は友達を作らないといけないので断って逃げたのだ。親は親同士で仲良くやってくれ。


「しかし何でこんなに貴族ばっかりなんだ? 一般市民だって同じ入学式のはずだろ?」


「そうだね~。ここに居る地味目な人達も違うみたいだし」


 庶民派な俺は避難場所(?)になっているここなら普通の子供が居ると思ったんだけど、ここも力の無い新米貴族や悪目立ちしているマダム達のお付きの人達の集まりだった。


 つまり貴族関係者しか居ない。


「ルーク様、わかりましたよ。どうやら自慢話がしたい貴族以外は既に校内に入っているようです」


 フィーネが周囲に聞いたらしい。エルフに話しかけられてドギマギしているお付きの人が居たけど、まぁよくある反応だ。


 しかし、なるほど。校庭全てが貴族の社交場になっていた訳か。


 自慢話がある連中は中央に陣取って入学式にやってきた人々を捕まえ、貴族と仲良くなりたい人はこうして離れた場所で話しかけられるのを待っているのである。もしかしたら様子を伺っているのかもしれない。


 だからそんな事に興味の無い人達は早々と校内に入って(逃げて?)、実のある探索や学校生活についての説明を受けているのだろう。


 そちらでも既にグループが形成されているかも・・・・。


 い、いかんっ! 出遅れている!


「俺達も入るぞ」


「エリーナちゃんは良いの?」


 ヒカリの視線の先に居る母さんは俺が衝撃を受けたザマス&ですわマダムを中心とした貴族連中に囲まれていた。どうやらロア商会の出資者だとバレたらしい。


「あれはもう無理だ。諦めろ」


 そんな薄情なセリフを言う俺を責める人間など居るはずも無かった。


 救出できるもんならやってみろ!




「ふぅ・・・・危なかった」


 再び恐ろしい魔の手から逃れてきた俺達。


 校舎に入る寸前で貴族連中を1人で捌ききれなくなった母さんに呼ばれたフィーネが犠牲になってしまった。


「貴族はやっぱり怖いニャ~。フィーネ様ですら呼ばれた瞬間『ビクンっ!』って震えてたニャ・・・」


 そう。フィーネは絶望に塗れた顔で生贄となったのだ。


 俺と一緒に行動できなくなる事、母さんの叫び声、何度もリピートされる自慢話、マダム特有の甲高い笑い声、エトセトラ、エトセトラ・・・・無理もない。


「フッフッフ~。あとの事は私にドーンとお任せあれ~」


 なるほど、つまり人柱に立候補しているわけだな?


 よし、次に誰かに捕まったらユキを差し出そう。



 そして俺達は入学式の第2段階(?)に移行した。

 入学式で新キャラが出ないと言う斬新な展開!


 ・・・・これが進行遅いと言われる原因ですね。

 次は出します。

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