百二十五話 入学式前夜
俺達は明日からヨシュア学校に通う事になる。
その入学式には俺の保護者として母さん、フィーネ、ユキ。そしてヒカリの保護者でリリが一緒に行く予定だ。
最初は人数多いなって思ったけど、昔から貴族がここぞとばかりに張り切ってメイドや執事を連れてくるため、余程じゃなければ大人数でも問題ないらしい。
自分達にどれだけの力があるのかアピールする絶好の機会なんだとか。
まぁ一生に一度の晴れ舞台だし、入学する子供を目立たせるために頑張るのは良い事だよな。
もちろん俺とヒカリを目立たせようと家族が変な事をしたら全力で止める。俺達はそう言うのじゃないんだ。
フィーネとユキが参列する時点でアウトな気がするけど、大人しくするように何度も言ってあるし、ロア商会については母さんに身代わりになってもらうつもりだ。
子供の俺に擦り寄るより直接母さんに擦り寄った方が効率的だろ?
そして緊張で眠れない俺とヒカリは、同じベッドの上で学校生活について語り合っている。
・・・・学校。
『は~い、2人ペアになってくださ~い。あれあれ? 余っちゃったの? 誰かルーク君と組んであげて~』
『お前ヒカリちゃんの何なんだよ! 生意気なんだよ! 一生口きいてやらない。みんなも良いな!』
『ゴメン、人の目を見て話せないコミュ障な人とは友達になりたくないんだ』
『運動音痴なルーク君が完走しようと頑張っています! さぁ、皆で声援を送りましょう。ガンバレ! ガンバレ!』
『君が居たら僕はトップになれない・・・・恨めしや』
なんてネガティブな事を考え出したら眠れるわけがないだろ。
そんな俺と違って純粋に初めて通う学校が楽しみで眠れないヒカリと共に平穏な学校生活に必要な事を話し合っているのだ。
そこで重要になるのが『ヒカリの立ち位置』である。
ヒカリは可愛い。俺がケモナーってのを差し引いても学年、いや学校のアイドルになれるぐらい可愛い。
さらに運動神経に関しては王国騎士団団長ジャンさんのお墨付きを貰うほどだ。イブ達との小旅行から帰ってきたら勧誘されていた。どうやらジャンさんと引き分け、もしくは勝ったらしい。
そんな才色兼備なヒカリがモテない訳が無い!
しかしヒカリはメイドとして同じクラスで俺の世話をしたいと言って聞かないのだ。
それ即ち男子生徒から嫉妬の嵐である。
ちなみに俺とヒカリが同じクラスになる可能性は極めて高い。
冒頭でも言ったけど貴族も多いので、当然その子供の世話をする従者が一緒に入学するケースもあり、学校側としても貴族と問題を起こしたくないので関係者は同じクラスにするように配慮しているらしい。
もちろん俺とヒカリが主従関係ってのは伝わっているはずなのでクラスメイトになるだろう。
いくら言っても俺の世話をすると主張するヒカリの説得は諦めるしかない。
「メイドが主を呼び捨てってのは大丈夫なのか?」
「ん~。同級生だから良いんじゃない?」
あっけらかんと言うヒカリだが、もしも不意に『ルーク様』なんて呼ばれてみろ。場合によっては血の雨が降る事になるぞ。
学年のアイドルに『様』付けで呼ばれる俺に暴行しようとした生徒。そいつがヒカリ、その他怖い年上のお姉さんによって血の雨となるのだ。
だから俺の呼び方は今まで通り『ルーク』の方が嬉しいのである。
幼馴染だから仲良くても普通って作戦だ。どれだけ世話されようとも言い訳出来る立場でありたい。
なんか勘違いさせたらゴメンな。
まぁメイドより幼馴染の方が羨ましいとか言われたら知らん。『リア充は爆発しろ』って内心で思うぐらいにしてくれ。
「お姉ちゃんも行きたいって泣いてたね」
「リリが抜けただけで痛手だから、その分ニーナ達には頑張ってもらわないとな」
俺達は昨日、リリとの最終打ち合わせのため食堂を訪れ、その時に制服を着て通学カバンを持った学生スタイルでニーナに顔見せをしたのだ。
俺達を見たニーナがヒカリが可愛いと言ったのは大賛成だけど、俺の制服姿を見て鼻で笑ったのは許さない・・・・。
その仕返しって訳じゃないけど俺が事情を説明した。
入学式は朝から昼過ぎまであるので、食堂が最も混み合う時間帯に店長のリリが抜けることになり、これ以上抜けるのはどうしても無理だと。
代わりにフィーネかユキが厨房に入れば良いんだろうけど、2人とも面白そうなイベントだと言って絶対出席する心構えだったのでニーナが折れるしかなかった。
「どうして休日にやるんだろうね?」
そう、入学式をよりにもよって休日の昼間にやるというロア商会泣かせの日程なのだ。
じゃなきゃ食堂で働く人たちが何とかしてニーナを休ませただろうけど、どうやっても無理だったらしい。
「世間一般ではそっちの方が親が参加しやすいからな~。
接客業をするリリにとっては普段なら絶対抜けられない時間帯だけど、流石に娘の入学式には参加しないとな」
そんなニーナを見てリリは何度も謝っていた。
誰が悪いわけでもないんだけど、あえて言うなら絶え間なく来店する客だ。でもそのお陰で商売繁盛してるわけだし『仕事のため』と思って諦めるしかない。
これがニーナの選んだ道なのだ。
「わたし、ルークと同い年で良かった」
「じゃなかったらウェイトレスしたかったんだろ?
たまに手伝いに行ってるみたいだし。やっぱり親子でやる仕事は楽しいか?」
学年が違えば自ずと学内で会える機会は少なくなる。
前に聞いた事があるけど、俺と離れ離れになるようならヒカリは食堂で働きたいと言っていた。
見習いウェイトレスとしてたまに勤労に励んでいるらしいし、ヒカリが学校卒業までに経営関係を学んだらあの食堂はリリ一家に任せていいかもな。
ヒカリはアリシア姉に近い根っからの肉体派だから無理かもしれないけど・・・・。
でも今は遠い未来の事より明日の入学式だ!
「学校卒業まではよろしくな」
「卒業しても一緒だよ!」
俺と同い年だったからこそのヒカリの人生がある。
もちろんこの人生が1番であって欲しいと思うのは言うまでもない。
そんな部屋の前でフィーネとユキが立ち聞きしていた。
「学校生活、楽しそうですね~。絶対面白イベントが目白押しじゃないですか~」
「ユキ、まさか小さくなったり出来ませんよね? ルーク様の同級生になるなんて羨ましい事を1人占めするなんて許しませんよ」
「フッフッフ~」
「・・・・何故否定しないのですか? 出来るのですか!? 小さくなれるのですね!?
ルーク様との楽しい登下校。勉強でわからないところを教え合い、運動においては手取り足取り優しく指導。校内で邪魔な存在はあえてルーク様の目の間で始末して『流石ユキだな。助かったよ』なんて言われるっ!!
させませんよ。絶対に入学なんてさせませんからね」
お~い。フィーネさ~ん。本音が駄々洩れな上に声が大きすぎて部屋の中まで聞こえてますよ~。
相変わらず有能なメイドではあるんだけど、最近残念具合に拍車が掛かってきた気がする。
「下手にヒロインを増やされるより良いと思いますけどね~。出会いは無限大じゃないですか~」
「それはそうですが・・・・。教師が突然入れ替わっても問題ありませんかね?」
「問題ありますね~。入れ替わるって今居る教師さんはどうなるんですか~?」
「相手の返答次第ですね。素直にロア商会で雇われるなら良し、断るようなら・・・・ウフフ」
2人とも絶対やめろよ。俺の学生生活に関わろうとするな!
ヒカリ、部屋に戻る時に説教よろしく。
さて、明日も早いしそろそろ寝ようかな。