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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
九章 女神降臨
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閑話 エルフ現る

 『エルフ』と聞いて、見た事ない人は何を思い浮かべるだろう?


 森の妖精、スレンダーな美男美女、長寿、ベジタリアン、なんか緑っぽい人、大体そんな所だと思う。


 まぁ正解だ。


 ちなみにフィーネが銀髪なので勘違いする人は多いけど、エルフは基本緑髪なんだとか。


 なんて知ったかぶりをしてるけど俺だってエルフの知り合いはフィーネしか居ないし、父さん達に聞いても他のエルフなんてヨシュアでは見た事もないらしい。


 彼らは排他的な種族で人間社会に馴染んでるエルフとはそれほど希少な存在なのだ。


 何故俺がここまでエルフについて語っているのか。


 それは今、目の前にフィーネ以外のエルフが居るからに他ならない。


 人生2人目のエルフ族との出会いだ。



「気安く話しかけるな人間」



 それも相当偏見に満ちた敵意むき出しのエルフだ。


 初めて会った家族以外のエルフ。


 特徴的なのはやはり長い耳と緑色の髪、緑色の目、ほっそりとした身体、そして美少女だと言う事。


 見た目はユキと同じ17、18歳に見えるけど、やっぱり長寿なので数百歳とかなんだろうなぁ。


 あと俺の知り合いで美少女ってだけで察してくれ。



 そう彼女も立派な残念要員だった。



 さてこれまでの流れを順を追って説明しよう。


 まず始まりは、農場の神具を守るためにフィーネとユキが知り合いを呼んだ事。神具とは前に俺が作った『鍬』だ。


 どんな人物か気になったので聞いたところ、ユキは魔族、そしてフィーネは同胞のエルフに手紙を出したと言う。


 ただユキが頼んだ人はのんびり屋の魔族だと言うので、いつヨシュアに来るかわからないらしい。


 ユキから『のんびり屋』呼ばわりされるなんてどんだけだよ・・・・。


 まぁそれは一旦置いておこう。


 で、フィーネの方だけど、唯一知っているエルフがこんな感じの有能メイドなので実は結構期待していた。


 優しく微笑む落ち着いたエルフを勝手に想像していたんだけど、そんな妄想は跡形もなく打ち砕かれる事になる。


 手紙を出した1週間後に彼女がやってきたのだ。



「久しぶりねっ! このアタシを呼ぶなんて一体どういう理由なのかしら!?」



 庭でダラダラしていた俺とフィーネの下に突然空から彼女が叫びながら降って来たのでビックリしたじゃないか。


 あと不法侵入は止めてもらいたい。


 この一言で誰もが気付くだろうけど、彼女はテンション高くてちょっとツンデレ要素が強いアリシア姉って感じだ。


 俺の想像するエルフ第2候補として『実は人間大好きだけど素直になれないツンデレさん』ってのがあったんだけど、今回はそっちの方が正解だったらしい。




「早かったですね、『ルナマリア』」


 ふむ、ルナマリアさんと言うのか。是非お知り合いになりたいお方だな。ちょっと常識無さそうな感じがするけど、中々好みのタイプだ。


 ここはフィーネの主として挨拶するべきだろう。


「初めまして、フィーネの主のルーク=オルブライトです」


 俺は普通の挨拶をしたはずだ。


 にも関わらず、冒頭での対応である。


 さらにルナマリアさんの攻撃は続く。



「は? フィーネの主ぃ? アンタが?

 取り敢えず死ね」



 ・・・・俺が出会って来た人の中で1番口が悪いな。


 例え嫌いな種族だからって初対面の相手に『死ね』は無いだろう。ほら、知り合ったら気の良い人かもしれないじゃないか。


 このままと言うわけにもいかないので、俺は良い人ですよって事をアピールしつつそれとなく注意してみた。


「人間に良いやつなんて居る訳ないじゃない。死ぬのが嫌ならアタシの前から消えなさい」


 そんな俺の精一杯のフォローも何のその。再び罵声を浴びせてくるルナマリアさん。


 その下等生物を見下すような冷酷な視線に俺は恐怖した。


 無関心な感情を向けられるとこんな気分になるらしい。たぶん彼女は本当に俺に消えてもらいたいと思っているし、フィーネと親しそうにしているのも気に食わないのだろう。



「ルナマリア、ルーク様への暴言は見過ごせませんね・・・・」


 フィーネが怒りを隠すことなく例の『ゴゴゴゴゴッ!』をし始めた。


 それによって焦り始めるルナマリアさん。


 フィーネの昔馴染みのようで彼女の恐ろしさは身に染みているのだろう。


「だ、だってフィーネの主でしょ!? 他のエルフとは訳が違うのよ!? ロアよ!?」


 おっと、このルナマリアさん、フィーネの秘密について知ってるらしい。


 なんだろう? 例えるなら王女のイブが庶民のメイドをやるみたいな事なのかな?


 とにかく俺はフィーネの主に相応しくないと怒っている。


「私が誰であろうと関係ありません。ルーク様は私が心から素晴らしい人物だと思ったお方なのです。

 さぁ謝ってください」


 そんなフィーネの言葉に黙りこくったルナマリアさんは少し躊躇いつつも俺に頭を下げてきた。


「・・・・ごめんなさい。人間って自分勝手だから好きじゃないのよ。

 エルフに対して妙な幻想抱いてて鬱陶しいし、森を汚すし、短命のくせに欲望だけは人一倍だし、弱いくせにすぐ人を頼るし、臭いし、バカだし、気持ち悪いし・・・・」


 もうやめて! 全員がそういうわけじゃないから! きっと極稀に違う人も居るから!


 どうやら彼女の人生の中ではロクな人間に出会わなかったらしい。


 まぁ相変わらず睨んではいるけど、元々ツリ目みたいだし勝気女子(?)も好きなので、これでも彼女なりに必死に謝っているのだと素直に受け入れよう。



 そんな人類批判を続けるルナマリアさんを止めるべく、俺は別の話題を振る事にした。


 いくらフィーネが傍に居るとは言え、タメ口を利いたら怒られそうな気がしたので敬語を使って。


「いえ、気にしてませんよ。でも呼ばれた理由は知らないんですか?」


 フィーネが手紙に書かなかったのだろうか?


 しかし隣に居るフィーネを見ると『またですか』って顔をしているので単純に彼女が手紙を読まなかっただけらしい。


 どうもルナマリアさん、オッチョコチョイで『考えるよりまず行動』ってタイプのようだ。


「べ、別に手紙が届いた瞬間、嬉しすぎて内容確認せずに飛んできたってわけじゃないんだからねっ!」


 ・・・・あぁなるほど、この人、フィーネ限定のツンデレさんか。



 つまりルナマリアさんは手紙を受け取った時、『フィーネが呼んでる!』と有頂天になり何の準備もすることなく手紙の送り先にある住所だけ見てヨシュアまで走って来たのだ。


 呼ばれた理由もわからず数日間かけて嫌いな人間達の街まで来るとか、どんだけフィーネが好きなんだよ。


 走って来たって思った理由はフィーネの「早かったですね」って言葉と、頭に乗ってる葉っぱや小枝。


 エルフの里がどこにあるのか知らないけど、たぶん手紙が届くまでに5日。寝る間を惜しんでヨシュアまで全力疾走に2日ってところか。いや、6:1かもしれない・・・・。


 とにかくルナマリアさんは急いできたのだ。




「それでアタシに用って何よ?」


 ルナマリアさんは手持無沙汰なのか、緊張してるのか、両手を後ろでモジモジさせつつ質問してきた。もちろん俺じゃなくてフィーネだけ見ている。


 手紙を読んでないって事を恥じらっているのかも知れないけど、ちょっと可愛い。


 基本怖い人だけどフィーネを通じで仲良くなったら絶対面白い人だ。


 たぶんフィーネ絡みの話題なら無視されないし、やりようによってはボケとツッコミの漫才が出来そうな気がする。


 まずは事情を知らないおバカ2号(1号はユキ)に説明するべきだろう。いやこの人、間違いなくドジっ子じゃん。


 同じことを考えていたのか、フィーネが話し始めた。


「農場の警護をお願いします。出来れば数十年」


「・・・・なんで?」


 もしかしたら単純にフィーネと遊ぶつもりだったのか、仕事だと聞いたルナマリアさんは悲しそうな顔をしながら詳しい理由を聞いてくる。


 ここで呼び出した理由を『貴方のサプライズパーティですよ』とか言ったらこのエルフさん泣くんじゃないだろうか? もちろん嬉し泣き。


 フィーネと2人きりの旅行でも泣くと思う。いや、そっちは浮かれすぎて熱を出して中止になった悲しみの号泣か?



 とにかくフィーネが上手いこと説明してくれたので、俺の神力の事は内緒にしたまま『大事な魔道具があるから守ってくれ』とだけ伝えられた。


「ちなみに私はルーク様に一生ついて行くので、ルーク様がヨシュアに居る限り会う機会も多いでしょうね」


 え、えげつない・・・・フィーネはルナマリアさんが何を求めているのか理解した上で退路を断つ発言をしている。


 たぶん『フィーネの傍に居られる』って条件付きじゃなかったら彼女は断っていただろう。


 しかしそんな条件を突き付けられた彼女の返答は一択だった。


「し、しししし、仕方ないわねぇ~。案内しなさいよ!」


 やっぱりツンデレさんだ。




 なんとなく責任を感じたので俺も農場に同行する。


 決して『もっとツンデレさんを弄って遊びたい』とか言うわけじゃない。


「へぇ~、精霊で一杯ね。この土も凄いじゃない」


 やはりエルフは精霊と仲が良いのか、農場を一望したルナマリアさんは綺麗に耕された農地も含めて感心した様子で褒めてくれた。


 そう言えば最初に聞いた人間批判の中に『森を汚す』とあった。ってことは逆に、こういう精霊を喜ばす活動は歓迎されるんだろう。


 根は素直な良い人なんだけど、嫌いな人物(ってか人間全般だな)に対してはトコトン冷たいので、道中で何度か話しかけたけど1回も会話成立しなかった。


 これはキチンと傾向と対策を練らなければなるまい。



 とか考えてる間にフィーネが例の鍬を持ってきた。


「守ってもらいたいのはこの魔道具です」


「・・・・何よこれ。尋常じゃない精霊が宿ってるわよ!? こんなの誰が作り出したのよ。危ないじゃない!」


 悪用されたら一大事だと言う。


 一応、力自慢の連中が守ってくれてたんだけど、ダメかな?


 そんな楽観的な俺の意見を聞いたルナマリアさんに呆れ果てた顔をされてしまう。


「これだから人間は・・・・。

 いい!? これを体内に入れた魔獣なら別種族に進化できるし、バランスを崩せば街1つ消し飛ばす爆弾になるのよ!?

 なんでそんな危ない物を平然と放置してるのよっ!! バッカじゃないの!?」


 そ、そんな凄い兵器だったなんて・・・・。


 しかしこの人、人間嫌いな割に結構丁寧に色々教えてくれるな。もちろんフィーネが居るからなんだろうけど。


 案外俺達と仲良くしたいけど素直になれない可哀そうな人なのかもしれない。思っても無い事を口に出してしまうとか。



 そんな彼女は俺をバカ扱いした事でまたフィーネから睨みつけられている。


「ルナマリア、いい加減にしなさい。今度ルーク様を見下したら10年間他人扱いしますからね」


「な、なんですって!?」


 これはフィーネ大好きルナマリアさんにとって致命的だ。


 具体的には『挨拶をしない』『話しかけられても無視する』『名前や容姿を忘れる』のだと言う。


 小学生の喧嘩か!


 でも興味はあるので怒らせてみる。俺はドSなのだ。


「実は俺、エルフメイドに興味がありまして。フィーネと一緒にウチで働きませんか?

 メイド服は超ミニスカートと胸元丸出しでヨロシク」


 ルナマリアさんを怒らせるのが目的だけど、フィーネと同じ職場って事でOKが出たらそれはそれで嬉しいので、どちらにしろ俺得なのである。


 俺この人好きだわ。見ていて飽きないし、イジメるの楽しい。


「ふ、ふざけんじゃないわよっ!? 誰が人間の世話なんてするか! キモいのよ!」


 キ、キモくないし! 全世界の男の夢だし!


 まぁ案の定、怒られた。


 一瞬の迷いも無かったので『欲望まみれの下等生物の世話』と『フィーネと一緒』を天秤にかけると前者の方が強いらしい。短絡的で後者を想像できなかったと言う考え方もある。


 そして最後の余計な一言のせいでフィーネも怒った。



「・・・・さてルーク様、私は新しい守護者を呼ばないといけませんので急いで手紙を書かなければ。

 おや、あなたは誰ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ」



「えっ!? い、今ので!? ちょ、ちょっと止めてよ! アナタのライバル『ルナマリア』よ!

 ほら小さい頃、一緒にドラゴン討伐したじゃない! ねぇ!! 無視しないでよっ!」


「ルーク様、ここは騒音がするのであちらに行きましょう」


「ねぇってば! 本当に行かないでよ! ちょ、ちょっと待ってぇぇぇーっ!」


 その後ルナマリアさんが泣くまで「誰でしたっけ?」と言う他人ごっこは続いた。


 美少女エルフの号泣・・・・なるほど、この人は絶対『M』だな。責められれば責められるだけ輝く人材だ。


 実際、泣きはしたもののフィーネに遊んでもらえて嬉しそうだった。




 後日フィーネと共に農場まで様子を見に行ったんだけど、その時コッソリと俺に話しかけてきた。


 例え嫌いな人間でも俺とは仲良くしないとフィーネに無視されるから仕方なくらしい。


「ね、ねぇ・・・・メイドのフィーネってどんな感じ? アタシもメイドになれば一緒に働けるのよね?」


 もしかして『フィーネと一緒』って付けば何でも受け入れるんじゃないだろうか?


 この前はあまりの気持ち悪さからつい否定してしまったけど、実はあのまま「メイドになれ!」って言い続けてたらOK出てたんじゃないか?


 尽くす事が生き甲斐のメイドって案外ルナマリアさんの天職な気もする。


 でも今は守護者として頑張って欲しい。




 ドMエルフが守護する農場は今日も大量の農作物を生産している。


 暑苦しい男共の中に咲く1輪の花(他にも女性は居るけど)ルナマリアさんは農業に精を出しているのだ。


 彼女が強すぎて敵が寄ってこないので暇なのだとか。


 メイドほどじゃないけど、自然を管理する農業も天職らしく気に入っていると言う。


 もちろん非常にわかりにくい言い回しで聞いた話だ。



「だ、誰が人間の世話を楽しんでやってるって言うのよ!? フィーネに頼まれたから仕方なくよ! 仕方なくっ!!」


 今日も彼女はツンデレ道をゆく。

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