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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
九章 女神降臨
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閑話 ヨシュアブラック

 どうやらイブが(と言うか周りの貴族が)またパーティを開催するらしく、今回は俺にも招待状が届いた。


 でも大切な記念日ってわけじゃないようなので俺はパスして、暇なユキだけが参加することになった。


 しかしそのパーティ当日。


 昼過ぎにイブから通話が来て、


「た・・・・助けて・・・・!」


 と救援を求められたのだ。


 当然そんな連絡を受けた俺は『これは一大事!』と思い、フィーネと共に王都へ向かおうとしていると、その直後ユキが転移してきて「なんでもないですよ~」と言うので放っておくことにした。


 間違って掛けてしまったらしい。


 よくわからないままパーティは終わり、ユキが楽しそうに帰って来たのは覚えている。


 なんだったんだ?




 その翌日。


 俺は今、オルブライト家にある木陰でのんびりと昼寝をしている。


 穏やかな気候、時折吹く涼しい風、ちょうど良い枕になる木の根っこ、柔らかな芝生。まるで昼寝のためだけに作られた空間だ。


 うるさい掛け声が鳴り響く鍛錬の時間でもないので、静かな庭でウトウトしていた。


 もちろんそんな平穏はすぐにぶち壊される。



「悪を滅ぼす正義の炎っ! ヨシュアレッド!」



 前にアリシア姉が好きそうかな~と思って、前世で見ていた特撮ヒーローの話をしたことがある。ぶっちゃけ『戦隊モノ』だな。


 すると平和を守る正義のヒーローに感銘を受けた彼女は、何を思ったのか自分でチームを作り出してしまった。


 その名も『子供戦隊ヨシュアレンジャー』。


 思春期真っ只中の少女は年に似合わない『ごっこ遊び』に精を出すようになり、「ヨシュアの平和は私が守る!」と言いながら日々メンバーを招集してはボランティア活動に励んでいる。


 今みたいに活動報告がてら俺に自慢しようと、こうしてポージングを決めて戦隊お決まりの登場シーンを再現してくるので若干鬱陶しいけど、活動自体は素晴らしい事なので家族全員が応援していたりする。



 ごめん、若干じゃないわ。結構鬱陶しい。


 俺の気持ちいいお昼寝タイムを返せ。



 そんなアリシア姉に続き、他のメンバーもいつものように名乗り始めた。


「ニヒルでクールなレッドのライバル! ヨシュアブルー!」


「作戦の事なら俺に任せろ! ヨシュアグリーン!」


「食を求めて東へ西へ! ヨシュアイエロー!」


「チームのアイドル! ヨシュアピンク!」


 全員がロア商会従業員の子供や孤児院の悪ガキ共だ。


 『戦力』ってことならニーナやヒカリを勧誘するべきだけど、アリシア姉がいくら頼み込んでも「絶対イヤ」と断固拒否していたので、知り合いの子供達で我慢したらしい。


 まぁそもそも2人の内どっちがピンクになるんだって話だ。


 ・・・・クールなニーナがブルーかな? どうでもいいけど語呂良いな。


 しかし無力な子供達の世話係となった事でアリシア姉にも責任感が生まれたのか、このメンバーで魔獣討伐とか危険な行為は一切していないので保護者の立場としても一安心である。


 実はアリシア姉って世話好きな良いお姉さんなのだ。


 ただちょっと戦いが好きなだけ。

 そして我を忘れる事が多いだけ。

 それによって周囲の迷惑を考えなくなるだけ。

 あと強敵に勝つまで挑もうとするだけ。

 そんでもって勝ったら勝ったで次なる強敵を求めてうるさくなるだけ。


 まぁ楽しんでいるなら良いだろう。



 でも今回はいつものメンバーの他にもう1人居た。


「正義の鉄拳、今日も唸る! ヨシュアブラックであるっ!」



 ・・・・誰?


 顔の上半分がマスクで隠れているけど明らかに成人男性、いや白のタンクトップが破れんばかりに盛り上がっている筋肉隆々な肉弾戦専門の冒険者だ。


 口に蓄えたヒゲや、声の低さからしても絶対に子供ではない。


 さらにアリシア姉達と同じ決めポーズのはずが、何故かボディビルダーっぽいポージングをして全身の筋肉をピクピク動かしている。


 極めつけは目元を隠すアイマスク。これによって怪しさ倍増だ。



「ちょっと! 決め台詞は『敵か味方か!? ヨシュアブラック!』って言ったでしょ!

 大体セリフが私と被ってるのよっ!」


「むぅ・・・・吾輩としては曖昧なポジションより完全な味方が良いのである。正義の鉄拳と言うのがモットウなのでな」


 呆然とする俺を置いてアリシア姉とブラックが言い争いを始めた。どうやら事前の打ち合わせと違ったらしい。


 でも俺は尋ねなければならないので、嫌々だけどこの争いに割って入る事にする。


「ちなみにその人、誰?」


 良い人そうだけどそう言うフリした変質者って可能性がある。


 この世界にも子供に性的興奮を覚える変態は居るのだ。身代金目的かもしれない。


「へ? あぁ、ブラック? 私達が正義の活動をしてたら『素晴らしいのである! 吾輩も仲間になりたいのである!』って勝手についてきた知らない人」


 をい・・・・。


「あっ、でも活動のご褒美って言って飲み物くれたから良い人よ!」


 それ店で買ったやつだよな? この変質者が持参した液体じゃないよな?


 そんな俺の不安を拭い去るように子供達が声を揃えて説明してくれた。


 どうやら正体を隠すためのアイマスクとジュースはちゃんと露店で買ったみたいだ。


 なら良し。



「で、そのブラックさんはなんでここに居るんだ?」


 活動終わったなら帰れよ。態々ウチまで来るんじゃない。


「なんかフィーネに用があるんだって」


「うむ、吾輩の筋肉が噂のドラゴンスレイヤーにどこまで通用するのか知りたいのである!」


 まぁこういう人もたまに居るので驚かない。


 当然その全員がフィーネの相手にならず恐怖体験でトラウマ作って帰るだけだけ。その噂が広まっているので最近じゃ挑戦者は見かけなかったんだけど・・・・。


 ちなみにフィーネが忙しい時はユキが「会長に挑戦したくば私を倒してからにするんですね~」と中ボス的ポジションになってボコボコにする。何度も挑戦されると面倒なのでこれまた恐怖体験付き。



 用事が済んだら帰るだろうと考えた俺はフィーネを召還することにした。俺が呼んだら出てくるし。


「お呼びですか?」


 ほら出た。




 事情を説明して戦闘開始。


「吾輩の正義の拳を受けてみよ! ぬぁああぁぁぁーっ!」


 準備運動と言う名の汗かきをしたブラックが先制。


 唸る剛腕、飛び散る汗。揺れる筋肉、タンクトップからチラリと見える体毛の数々。


 いつもなら避けて相手の欠点を指導するフィーネだけど、近寄るのも嫌なのか全て魔術で防いでいる。


 ・・・・あれ? なんか聞いた事のある戦闘風景だな。どこで聞いたんだっけ・・・・?



 ドラゴンスレイヤーと知って挑戦するブラックも中々の腕前らしく、手加減した状態のフィーネでは抑えきれず徐々に迫ってきていた。


「クックック! 吾輩の愛を受けるがいいぃ、ぐわっ!?」


 何を思ったのかフィーネに抱き着こうとした変態が突然コケた。


 起き上がろうとしても地面が滑るようで、またコケる。


「摩擦を減らす精霊術であるな!」


 解説ありがとう、変態!


 なるほど、これなら遠距離攻撃でもない限り相手は無力化され、無理に起き上がっても自らを痛めつけるだけ。


 まさに攻防一体の精霊術だ。



「しかし! 吾輩には効かぬ!

 フェエェェーアリィィーッ! ブゥゥレイカァアアアアーーっ!!」



 そう叫んだブラックが地面に顔面をぶつけた。


ぢゅぢゅぢゅ~。


 いや地面にキスをしている。


「ま、まさか!?」


 今まで余裕な表情を崩さなかったフィーネが動揺を露にする。


 なんだ? ブラックの奇行が恐ろしくなったのか?


 仮面をつけた筋肉隆々な中年の変態が地面に吸い付く。それはたしかに気持ち悪い光景だった。


「ふぅ・・・・これでその術は無効であるな」


 なんと! 摩擦が無くなり先ほどまで立つ事すら出来なかったブラックが平然と立ち上がったではないか!


 ど、どう言う事だ?


「吾輩、何故か精霊から逃げられる事が多いのである。しかし逆に言えば相手の精霊術を打ち消せるというメリット!

 たった今、それを実践しただけのこと」


 いや・・・・オッサンのキスが嫌で精霊が逃げただけじゃ・・・・・・。



 しかしフィーネの術を無力化したことに変わりはない。


 この人、相当強いんじゃないか?


「そう言えばフィーネも同じような技が使えたな。『ブレイク』だっけ?

 アイツの『フェアリーブレイカー』って名称も能力も似てるよな」 


 俺が展開した防壁を無効化された記憶がよみがって来た。


 攻撃や防御を消すって反則的な魔術だよな。


「ルーク様。申し訳ありませんが、そのような戯言は二度と口にしないでください。不愉快です」


 ををっ!? フィーネが苛立っている!


 俺に向かってそんなきついセリフを言ったのは初めてじゃないか?


 一生懸命考えた技が変態と同レベルって言われたら仕方ないのかもしれないけど。



 そしてその怒りはブラックに向いた。


「仕方ありません。少し本気を出します・・・・」


 そう言ったフィーネの手のひらには風の塊が出来ていた。


キィィィイイイイィィーーーッ!


 なんか凝縮された魔力がエライ事になってるぞ。


 おい、それ大丈夫か? ブラック死なない?


「面白い! 受けて立つのである!」


 相手も除ける気はないらしく、ドッシリと腰を落として正拳突きの構えを取る。


 まさか殴って相殺しようとしてるのか?


「消えなさい」


 恐ろしいセリフと共に風の塊が飛んでいく。


 いや、俺の目には見えないけどね。フィーネの手から無くなったから、たぶんブラックに向かっていったんじゃないかな~って思っただけ。



「危ないですね~」



 そしてブラックに喰らう瞬間にユキが現れて無力化した。


 これも見えてないけど『パァンッ!』って音が鳴ったから消されたっぽい。


「ジークさん、ダメじゃないですか~。当たったら切り刻まれてお陀仏でしたよ~」


「む? 吾輩の筋肉を以てすれば耐えられると思ったのだが」


「一瞬なら耐えられるかもしれませんけど、無数の斬撃でアッと言う間に消滅しますよ~。

 せめて古龍にダメージを与えられるようになってから挑戦してくださいよ~。そんな貧弱な筋肉じゃ無理無理です~」


 どうやら今のがフィーネの必殺技だったらしい。


 回避以外の方法では必ず死ぬってやつだな。


「ちなみに回避しても風で吸い寄せるので、今のユキのように同等の力で相殺させるしか対処法はありませんよ」


 ・・・・なんで強い奴って必殺技を持ってるかな~?


 どこで使うんだよ。



「ってかこの人、魔界の王子様かよ」


 ユキが名前を言ったからようやく思い出した。


 この人、前にユキから聞いた話に登場したおうぢ様こと『ジークさん』だ。



「・・・・う、嘘? お、おおお、王子様? コレが!? い、いやぁぁぁあぁああーーーーーっ!!!」


 俺の言葉を聞いたヨシュアピンクが発狂した。


 どうやらまた1人、王子様の幻想をぶち壊してしまったらしい。




 話を聞くと、本当なら先日のパーティで俺やフィーネと知り合いになる予定だったんだけど、どちらも不参加だったのでこうしてヨシュアまで会いに来たと言う。


 なるほど、イブが助けを求めた理由はこの人か・・・・。


 たぶん例のラブリーダイナマイト(?)とか言う抱き着き技を喰らって精神崩壊したんだろうな。


 俺とフィーネに会ってみての感想は「予想より素晴らしい人物だ」と言って満足したジークさんは今アリシア姉と筋肉談義をしている。


「だからここを鍛えるなら捻り運動が効率的なのよ!」


「何を言う! 負荷を掛けつつゆっくり動かすに限るのである!」


「それだと背筋が鍛えられないでしょ!」


「ぬぅ・・・・ならば実際にやってみるのである!」


「のぞむ所よ!」


 そう言って2人はお互いの主張する『より良い筋トレ』とやらで身体を鍛え始めた。


 相性は非常に良いみたいだけど友達止まりにして欲しいものだ。


 絶対に結婚相手には選ばないでくれ。これが兄貴とか嫌すぎる。



 その後、魔界で仮面を身に付けた『ヨシュアブラック』と名乗る人物が度々目撃されるようになるけど、正体は謎のままである。


 ジークさん、あのアイマスク気に入ったのか・・・・。

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