百十六話 初めての通話
おそらく世界最小の通信機を作った俺は、イブと遠距離通話をするためにプレゼントの髪留めを王城まで届けてもらった。
頼んだ相手はもちろんユキ。配達人としてこれほど有能なヤツも居ないだろう。何せ転移で一瞬だからな。
そこではイブ6歳の誕生パーティが盛大に行われていたそうだ。
イブ達王族にとってはどうでもいいけど、周りの貴族連中が『王族と仲良くなれる貴重な機会』と積極的なため、イベント事は基本的に全て開催しなければいけないらしい。
やれ誕生日だ。やれ何周年記念だ。婚約した、子供が生まれた、1位を取った、などなどパーティ三昧なんだとか。
しかも去年やった5歳のパーティだって小規模とは言いつつ個人の誕生祝いとしては凄まじい規模だったのに、今回は入学前の最終顔合わせと言う事でまた別の招待客ばかりだと言う。
俺? 俺は招かれていない。
イブは誘いたかったんだろうけど、たぶんセイルーン学校の入学者限定のパーティだから泣く泣く諦めたんだと思う。
自慢じゃないけど俺が居たら他の連中とは話しそうにないからな。
しかし・・・・6歳でも誕生祝いやるんですね。
まぁ、そうですよね~。貧乏貴族とは訳が違いますよね~。
誰も俺の誕生日祝いに駆けつけてくれなかったですよ~。
途中参加の従業員も食事しに来ただけですよ~。祝いの言葉なんて無いですよ~。
俺と仲良くなっても良い事ないってことですよね~。
サプライズプレゼントって言う良い事しようとしただけなのに、トラウマが抉られてしまった。
・・・・気を取り直して。
そんなわけで大忙しのパーティ中であるイブにプレゼントを渡すかどうかの判断を仰ぐために帰って来たユキ。
それによって無意味に傷ついた俺だけど、もちろんパーティ終了までお預けすることにした。
魔道具大好き俺大好きなイブの事だし、この『携帯』を受け取ったらパーティそっちのけで遊び始める。間違いない!
という指示を受けたユキは言われた通りプレゼントは渡さず、王城からパーティ料理だけ持ち帰って来て、おおよその終了時刻までウチの食卓で貪り食っていた。
あ、当然母さん達も食べた。調味料はウチの方が多いけど、流石の宮廷料理人の腕に感心して母さんやエルが唸っていた。
そしてユキから『おあずけ』をくらったイブがさっさとパーティを終わらせようとして、マリーさんや王族の人々が大慌てで止めたらしい。
全部ユキから聞いた話だ。
そんなこんなでちょっと早いけど無事パーティもお開きになり、イブにプレゼントが手渡された。
たぶん途中からイブの頭の中はプレゼントの事で一杯だったのだ。それを察した王族の皆様がパーティを早めに終わらせたんだろう。
じゃないとユキから聞いてた終了時刻の2時間も前に終わるとか有り得ない。
イベント1つぐらい飛ばしたな?
何はともあれ、これで初めてイブと通話が出来るのでここからが本題。
「イブさんにプレゼントです~。ルークさん自信作の世界に2つしかない携帯ですよ~」
「っ!? 嬉しい・・・・どうやって使うの?」
「マヨマヨネーズ、マヨネーズ・・・・つまりいつも皆さんが使っている通信機器の凄いバージョンですね~。ルークさんとの熱々ホットラインですよ~」
質問を受けたユキが理屈や製造過程を詳しく説明したらしいけど、マヨネーズで省略。たぶんイブを含めて誰も理解できていない。
それでも最低限の情報は通じたようで、イブが喜んでいた。
「っ! ・・・・つ、つまりルーク君とお喋りし放題?」
「精霊さんが疲れるまでって条件付きですけど、基本的にいつでもOKです~。じゃあ試しますよ~?
ルークさんも良いですか~?」
一瞬でウチと王城を行き来して相互確認をしたユキの合図で通話スタート。
お前の転移、ホント便利な。
お、通話の合図でペンダントが淡く光った。
え~、着信許可、っと。
『・・・・ルーク君?』
長距離通話が出来るかちょっと不安だったけどクリアに聞こえるし、タイムラグも無さそうなので大成功だ。
耳元、と言うか頭の中に、1年ぶりとなるイブの囁くようなウィスパーボイスが聞こえてきた。
ちなみに完全に個人しか聞こえないモードと、周囲に聞こえるモードの2種類あり、俺の周りには誰も居ないので今回は個人設定にしている。
久しぶりの会話だって言うのにイブは相変わらず静かで大人しい。まぁ予想と反してハイテンションで来られても引くけど。
「おう、久しぶりだな」
『通じた!!』
イブの歓声もさることながら、彼女の後ろに居るであろう王族の方々の声が大きくて耳が痛い。
あっちは周囲にも届く設定らしい。
王族もビックリするって事は、やっぱり凄い発明だったんだろうな。
でも、もう作らないぞ。相当高級な物だし、精霊と交渉できる人が必要になるから『作れない』と言った方が正しいか。
そんな事より今は婚約者との会話を楽しもう。
「もうすぐ学校始まるけど、学生生活は楽しめそうか?」
俺の知る限りイブの女友達はニコだけだ。もし彼女と違うクラスになったらコミュ障なイブはどうするか心配だった。
友達居ないから学校楽しくない、とか言って登校拒否も有り得そうだし。
まぁ王族の権力で絶対同じクラスになるんだろうけど・・・・。
『大丈夫、私はもう前までの私じゃない。ちゃんと会話できる』
イブが自信たっぷりに宣言した。たぶん向こうではペッタンコな胸を張って踏ん反り返っている事だろう。
マジでか!?
い、言われてみれば俺とも会話できてるし、ユキから聞く限り魔界でも初対面の相手とコミュニケーションが取れているっぽい。
もしかしたら俺の方が学生生活危ないかもしれない。
いや、絶対男友達作るし。
つ、つつ、作れるし。
だ、だだだ、大丈夫だしっ!
おっほん・・・・気を取り直して。
「皆は元気か? マリーさんがリバーシに夢中になったり、国王様が婚約に反対したりしてないか?」
婚約者の家族の近況も聞いておくべきだろう。
俺の知ってる王族ってイブを除くとこの2人だけで、特にマリーさんの事は気になっていた。
実は結構心配してたんだよな。マリーさんが俺発案のリバーシで迷惑を掛けてないか、家族から無名な貴族に嫁ぐことを反対されてないか、って。
『お姉様は相変わらず弱い。お父様は反対なんてしない。したら家出する』
『ちょっとっ!?』
またもや後ろの方から声が聞こえた。今度は聞き覚えのある声だ。
たぶんマリーさんは『弱い』発言に批難を、国王様は娘の『家出』発言に驚きを、ってことだろうな。
何やらワチャワチャし始めたけど賑やかでとても楽しそうだ。
うん、相変わらずだな。
あっ、気になってたことも聞いてみよう。
「プレゼントした髪留めのデザイン、剣にしたんだけど大丈夫だったか? 気に入らないなら作り直すけど」
通信機としては大成功の品だけど、受け取った本人が気に入らなければ意味が無い。
それこそ常に身に付ける事が前提なのに『パーティでは付けれないデザイン』とか言われたらどうしよう。
センスの有無で言ったら俺は間違いなく『無』だ。一応これでも頑張って無難なデザインにしたつもりなんだけど・・・・。
『大丈夫、私、好き。1日中外さない』
風呂と寝る時ぐらいは外そうな?
でも皆からのアドバイス通り、剣で大丈夫だったらしい。
後ろの方から知らない女性の声で『素敵なデザインよー!』と褒められた。
イブのお母さんだろうか?
成長したイブの姿で、落ち着いていて、女王として外交なんかもお手の物で、国民から愛される素敵な女性を想像する。
もしかして異世界初のメインヒロイン的ポジションの女性が登場するかもしれないな。
いや流石に人妻、ってか婚約者の母親には興味ないけど、割と理想の女性かもしれない。
今までの残念ヒロインとは訳が違うのだよ、訳が。
その後も色々と話した俺とイブ。
たまに後ろからガヤが聞こえるけど、中々楽しい王家みたいで一安心。
実はシスコンの王子様とか、大奥みたいなギスギスした女たちの争いは存在しないらしい。
「じゃあそろそろ切るな。学校が長期休みになったら遊びに行くかもしれないから、その時は事前に連絡するよ」
『えっ!? ・・・・う、うん。また』
何故か動揺していたイブだけど、こんな感じで俺達の初めての通話は終了した。
切れる寸前、また後ろの方から『動揺しちゃ駄目、バレるから!』とか『喋るな、喋るな』って聞こえた気がする。
なんだろう? 気になる。
「どうでした~? 向こうは凄い盛り上がりでしたけど~」
帰ってきたユキが王城の様子を語り出したけど、そんなの聞くまでも無い。
イブ以外の声だって聞こえるんだから、あっちがどれだけ盛り上がってたかなんて、まるわかりだ。
「いやぁ、喜んでもらえて良かったよ。お互い忙しくなるからあんまり通話出来ないかもしれないけどな」
実はイブがストーカー気質で、毎晩必ず連絡してくるとか無いよな?
付き合い始めたカップルや新婚だからって適度な距離感は必要だと思うんだ、俺。
「サプライズ成功でしたね~。フフフ~」
ニヤニヤとした笑みを浮かべるユキに、俺は言い知れない不安を覚える。
なんだよ? 絶対何か隠してるだろ?