百十五話 プレゼント作りました
イブ6歳の誕生祝いにプレゼントを贈る事にしたのはいいけど、肝心の贈り物を何にするかで俺は悩んでいた。
デザインと用途は大体決まった。
でも魔道具としてどんな性能を付与させるか良い案が思い浮かばなかったのだ。どうせなら役立つものが良い。
デザインは『剣』で、用途は『髪留め』『腕輪』『指輪』のいずれかだな。
で、魔道具だけど一応俺なりに色々考えてはみた。
防壁・・・・は理屈がわからん。
武器・・・・は危ないから嫌だ。
まず王女を守るって考えから離れた方が良さそうである。
王女なんだから護衛は居るだろうし、ウチで暮らすならフィーネとユキが居るから安全。
とは言え、持ち歩くべき日用品って何だ?
流石に男の俺では想像も出来ないので再び女性陣に相談してみる。
「皆がいつも持ち歩いてる物って何?」
面倒なので全員集まっている食事時に聞いてみた。
「化粧品とか鏡とかかしら」
今回は真面目に答えてくれた母さんだけど、化粧品はまだイブには早いな。
鏡は・・・・大きくなるから持ち歩いてもらうこと前提のプレゼントとはかけ離れるかな。出来れば身に付ける物が良い。
「私はコレね」
そう言ってアリシア姉が見せてきたのは何の変哲もない普通の髪留め。
トレードマークのツインテールを生み出すための必需品だ。前に持っていた仕込みナイフ付きのやつは没収されたらしい。
「ちなみにこれに機能を付けるならどんなのが良い?」
「決まってるじゃない! もちろん戦りょ「あ、戦い以外で」・・・・中からお菓子が取り出せるとか」
戦力強化とかそんな事を言いかけたアリシア姉のセリフを先に潰す。
そんなの想定済みだ。何年一緒に居ると思ってる!
しかし割とタメになる意見だな。常に身に付けてるものだからこそ、ちょっと小腹が空いた時とかに便利そうだ。
フィーネとユキ、エルも大よそ同じ回答だった。
でもそれはつまり食料を常備携帯してるって事で、王女様がツマミ食いしたら行儀悪いし、腹が減って困る事も少ないと思う。
「んじゃ、いつでも会いに来れるように転移装置はどうだ? ユキみたいになったら便利だろ?」
と提案したのはマリクだ。
たしかに転移出来るようになったら絶対便利だけど、俺にどうしろと? 防壁以上に理屈が何一つわからないぞ。
しかし転移・・・・か。
「携帯電話とかどうだろう?」
小型で持ち歩く物だし、転移とまではいかないけど連絡手段ではある。
「「「携帯電話?」」」
もちろん家族全員キョトン顔だ。
「はい、と言うわけで携帯電話に決定しました~」
「「ワーワー! パチパチパチ!」」
あれから色々考えたけど電話以外の案が思いつかなかったので『髪留め型電話』に決定。
大型だけど通信機器は存在するから俺にも製作は可能だろう。
「よし、理屈を教えてくれ」
電波の無い世界で通信ってどうやってるんだろうか?
そんな事を俺が知る訳もないのでフィーネ達に聞く。
「精霊にお願いして魔術変換した声を運んでもらう、と言うのが一般的ですね」
「風の精霊さんなら早いですね~。水中なら水の精霊さんにお任せです~」
ちなみにこの理屈を理解している人は少ないそうだ。取り合えず風属性の魔術で声が届かないか色々やったところ精霊との交信に成功したって感じらしい。
その理屈なら電気を使ってないから『電話』よりは『念話』って言った方が正しいな。
「「へぇ~」」
俺の他にアリシア姉も『面白そう』って事でこの場に居る。
しかし精霊にお願いする対価として結構な魔力を使い、送るための位置情報を認識させるために巨大な装置も必要だと言う。
でもそんな大きな装置はプレゼント出来ないぞ。なんとかならないだろうか? ほら、精霊と相性のいい素材とか、伝導率の良い魔石とか。
「私とユキが精霊に頼み込めば何とかなるかもしれませんね」
「ですね~。でもタダ働きさせるなら、せめて相性の良い素材で作らないとダメかもです~」
もちろん最初からそのつもりだ。
なんせ王女様に送るプレゼントだぞ。用意できる最高級品にしなければ。
そして自由気ままな精霊と言えど、やっぱり労働は嫌らしい。ヨシュアからセイルーンまで声を届けるのは一苦労だとか。
さて、素材の方はユキに任せるとして肝心なデザインに入ろうか。
ブィイイィィーーーン、パキッ。
ブィィィィ。パキン。
「・・・・くっ・・・・・・チッ・・・・・・・・クソっ!」
用意してもらった魔石をルーターで削る作業が思ったより難しく、髪留めサイズまで小さくすると確実に割れたり欠けたりするのだ。
結構イライラする。
「ね、ねぇルーク。割れたので良いから頂戴よ」
なんかアリシア姉が魔石を欲しがってるけど、フィーネが責任を持って処分すると言うので欠片も手元に残らない。
まぁ間違いなく凄い魔石なんだろう。
そんな事を考えて最初は緊張してたけど、10個目を砕いたところでどうでも良くなった。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーーーっ!!! もう嫌だ!! こんなん無理だろ!!」
俺はルーターと砕けた魔石を放り出してギブアップ宣言。
そもそも工程が間違ってる気がする。
魔石を削る以外に形を変える方法・・・・溶かしてみるか。
まずユキ特製の氷を型彫りする。
さっきまでの砕けやすい魔石と違って楽々スムーズだ。
そこに魔石を挟み込み、燃焼。
すると、あら不思議。溶けていく内に氷は万力の如く絞めつけられていき、彫った通りに剣の形をした髪留めが完成するのだ。
「・・・・誰が燃焼するんだよ!」
実は俺も火の魔術が使えるようになっている。
でも攻撃して相手を倒すレベルではなく、マッチの火と同等の火力だった。
フィーネ曰く「その人の想像力で魔術が形成され、魔力によって発動します」との事。
慣れ親しんだ火って言えばマッチやライターぐらいなもんだし、そりゃ納得の低火力だ。
クソ! 草焼きバーナーを日常的に使ってれば、今頃は・・・・。
話が逸れた。
ってなわけで俺は論外として、アリシア姉でも魔石を溶かす火力は出せなかったので、フィーネ先生にお願いした。
ユキも出来そうだけど、
「アイツとは・・・・火の精霊とだけは分かり合えません~」
と言う。
昔なんかあったのか?
どちらかと言えばユキの属性は水寄りなので相性が悪いのかもしれない。
「使おうと思えば使えるけど出来れば使いたくない」と言うユキに頼むより、無難に全属性使えるフィーネにお願いする方が確実だ。
ユキの冷却結界を使っても高温になると言うので、ウチの訓練場を使う事にした。
「では行きますね。
火精霊召喚。バーストエンド!」
フィーネが精霊に呼び掛けると一瞬で辺りは火の海に包まれた。
「あぶっ! こ、こここ、これ大丈夫か!?」
「きゃぁぁぁあああぁあーーっ!! フィーネの魔術よ! 魔術を使ってるわ!! いえ、精霊術よねっ!?」
フィーネの調整が完璧なのか、ユキのお陰なのか、熱くはないけど空間全てが火の海ってだけで怖い。
そんな状況にも関わらずアリシア姉は初めて見るフィーネの魔術に大興奮だ。
まるで憧れの有名人にあった子供みたいな反応をしている。ちょっとうるさい。
そしてアリシア姉の歓喜の叫びを聞き続ける事、数分。
「完成ですね」
そう宣言すると同時にフィーネが呼び出した精霊達を解散させて、俺に氷の容器を差し出してきた。
高級な魔石が溶けたのに器となっている氷は溶けてない、って凄い容器な気がする。
「フッフッフ~。所詮奴等には溶かす事ができないんですね~。やっぱり私の方が上です~」
お前がそんなに嫌うなんて何があったんだよ・・・・。一応精霊達の王なんだから差別しちゃダメだろ。
まぁそんなこんなで完成した髪留め。
通信用の魔道具なので俺の分も作り、これでお互いが連絡しあえるようになるはず。
同じデザインだけど俺は普通のペンダントだ。だって髪留めとか恥ずかしいし。
名称は何にしよう? 携帯念話? 通信機器? 精霊電話?
そんな感じで色々考えたけど無難に『携帯』にした。
電話って付けなければ携帯していることに変わりはないし、どうせ俺とイブしか使わないだろうから何でもいいさ。
その後、フィーネとユキによる交渉(?)の末、この魔道具の中に風の精霊が住み着くことになった。
住みやすい家と身の安全を保障するからタダ働きしてくれって事だ。
オルブライト家で試してみたけど、とてもクリアな音声で通信できたので大成功!
使い方は魔道具を意識して精霊にお願いするだけ。魔力を込めるとなお良し。緊急時には魔力無しで通話可能の優れもの。
そうするともう片方が反応して通話を受けるかどうか決める事が出来る。身に付けたらわかるけど、『あれ? 念話来た?』と感じ取れるのだ。
若干変色もするので、どこかに置いていたとしても気付くことが可能。
精霊さんによって本人認証が出来るので、無許可なら他人は使えないし、許可を出したら使えるっぽい。便利な精霊だ。
あとはユキにセイルーンまで届けてもらって遠距離でも通話が出来るかどうかだな。
喜んでくれると良いな~。