百十三話 6歳の神器
散々の誕生パーティだけど、最後に父さんと母さんからプレゼントがあった。
当然俺は喜んだね。
1度底辺まで落ちたテンションは急上昇さ!
「なんだよ~。『実はサプライズ!』みたいなノリだったんじゃんか~。隠さなくても良かったのに~」
何かな、何かな~。
手渡された大きな袋から取り出すと、ソレは来月に入学するヨシュア学校の制服だった。
・・・・これ、プレゼントか? 普通入学前の子供に買ってあげる必需品だろ?
でもそんな文句なんて言わず、折角なので同じくリリから女子用の制服を受け取ったヒカリと一緒に着替えてみた。
ちなみにロア商会では制服は販売していない。というより学校指定の仕立て屋で作ってもらう決まりになっているので、それ以外の店は取り扱いが出来ない。
なんか政治的な金の臭いがするけど昔からの決まりだから仕方ないな。
そんな裏事情を話しつつ、スカートの穴に上手く尻尾を通せず悪戦苦闘しているヒカリを見てホッコリした俺は全員の前に姿を現した。
「「「似合わない」」」
それを見た一同から口を揃えてこう言われたよ。
まさかの大不評だった・・・・いや、うん、俺もそう思うけど。
イメージカラーは黒だし(いや黒なんだよ)、普段着も黒色が多い俺に白のワイシャツと茶色のブレザーは全く似合っていない。違和感ありまくりだ。
パーティスーツと同じでダボダボの制服は俺にはとても着こなせそうにない。
同じダボダボでもヒカリは可愛い感じに仕上がっているのに、何が違うんだろうか? 顔か? まぁ顔だな。あと雰囲気。
生意気な顔してるのにダルそうな雰囲気を醸し出す俺と、すぐにでもCMのオファーが来るレベルの愛くるしい笑顔を振りいているヒカリとじゃ雲泥の差だ。
そんな俺とヒカリはいよいよ来月入学式を迎える。
という俺以外は楽しいパーティも終わり、去年と同じく夜にフィーネとユキを呼び出して神力の説明をする。
「さて今年の神力は『鍬』に決まりました~」
「え~。私達に相談無しですか~?」
俺が神様と決めた事に不満があるとユキが文句を言ってきた。
フィーネは不満とまでいかないけど、ユキのセリフを否定しないところを見るとやっぱり相談ぐらいして欲しかったのかもしれない。
実は2人とも神力の使い道考えるのを毎年楽しみにしてたのかもな。
「んじゃなんか良い案あるのか? 俺を論破出来るならユキの意見を採用するぞ」
俺だって別に神様と決めた物を必ず作らないといけないわけじゃないから、農業の鍬以上にいい意見があれば受け入れるつもりだ。
たぶん何も考えてないだろうけど一応聞いてみる。
そして思った通りユキは何も考えてなかった。一緒にアレコレ話し合いたかっただけらしい。
悪かったって、来年からは2人にも相談しようと思う。
「ルーク様、鍬を持って来ましたよ」
ユキとそんな話をしているとフィーネがどこからか鍬を調達してきてくれた。
今回は鍬自体に神力で魔術を施すので普通の鍬で十分なはずだ。
「んじゃ早速・・・・精霊が集まる鍬になれ~。大地に栄養を与える鍬になれ~。成長が早くなる鍬になれ~」
俺は謎のお呪いを唱え始める。
だって正しい神力の使い方とか知らんわ。なんか願えば良いっぽいから念じているのだ。
俺にはこの願掛けを終わらせるタイミングがわからないから、精霊と魔術に精通する2人に鍬が完成したら止めてもらうようにお願いしている。
「プププッ・・・・きっとその内、踊りだしますよ~。変な踊りとセリフを言い出すんです~」
「しかし確実に精霊は集まっていますね。史上最高の鍬の誕生です」
ユキからバカにされながらも必死で頑張っていると、フィーネから「完成した」との声が掛かった。
ふぅ・・・・なんとかなるもんだ。
でもフィーネ、君はユキが俺の事を「変だ」って指差して笑うのを否定しなかったよね?
色々追及したいけど今は置いておこう。
この翌日。早速俺達は神力の宿った魔道具を試すためにロア商会の農場へとやってきた。
ヨシュアを守る壁の外にある農場では様々な作物を育てていて、広大な土地にも関わらず強い魔獣の魔石を魔除けとして置いているので獣に襲われることは無い『すこやか農場』である。
あるとすれば人による被害だけど、農業と林業が一体化しているこの場所には肉体派の屈強な男達が数多くいるため今のところ襲われた事は無いらしい。
たぶん半分嘘だ。強盗や盗賊は多いけど、被害が出る前に滅しているんだと俺は睨んでいる。
だって農場主の『モームさん』の拳とか、明らかに人を殴るために鍛えられているし、地面には所々血痕が残ってるから窃盗犯を見つけ次第ボコボコにしてるんだろう。
ロア商会の裏経営理念として『敵は全力で排除せよ。そのために力を集めよ』というのがあるらしい。ユチから聞いた。
まぁそんな食堂に次ぐ武闘派農場は気にせず、神器だ。
「やっほ~。モームさんにプレゼント持ってきたぞ~」
「おんや、ルークさんいらっしゃい。プレゼントってなんだぁ?」
この訛った言葉のオヤジが農場の主『モームさん』だ。
『素朴な農家のおじさん』といった雰囲気で、いつも身に付けている麦わら帽子がよく似合っている。帽子を被った姿が、とあるスナック菓子の泥棒ヒゲしたマスコットキャラクターに似ていると感じるのは、たぶん気のせいじゃない。
そのうち彼をデフォルメしてマスコットにしたお菓子売り出そうかな~。
で、このモームさん。丸々太っていると見せかけて実は全身筋肉の鎧を身にまとっているのを俺は知っている。お相撲さんと同じだ。
でも基本的に優しいオッチャンなので、俺がその戦闘力を目撃することはないだろう。
そんな農場主に昨日作った神器を渡した。建前上は凄い魔道具って事にしている。
「新しい魔道具で色んな機能が付いた『鍬』だぞ。ちょっと今から試してくれるか?」
「了解だ~」
モームさんと共にやってきたのは開拓中の畑。
現代知識で農業と言えば、収穫時期の違う2種類の作物を育てる『二毛作』か、数種類の作物を育てつつたまにクローバーを栽培して土地を休ませる『ノーフォーク農法』が有名だけど、どちらもアルディアには広まっていた。
そりゃ少ないとは言え精霊見える人が居れば土壌の状態とか把握できるし、最適な農作方法が広まるわな。
そして俺が連れて来たフィーネとユキの2人も精霊見える方側の人間なわけで。
実際どのぐらい違うのか調べてもらうつもりだ。
「そんじゃま、やってみるべよ~」
お願いします。やっちゃってくだせぇ!
掛け声1つ、屈強な男代表なモームさんが凄い勢いで土地を耕し始めた。
「・・・・いい仕事してますね~。鍬もモームさんも」
「そうですね。ルーク様、この土は凄いですよ。恐らく売れます」
モームさんが持つ鍬によって耕された地面を見ながら2人は大絶賛だ。
売れる土って事は『一瞬で腐葉土や各種専用肥料を混ぜ合わせた土になった』とかそんなレベルなのか。
しかも勢いよく耕し続けているモームさん曰く「全く疲れんですわ」との事なので、この鍬には魔力活性効果もあるらしい。
神器の名に恥じぬ能力だった。
とは言え鍬が出来る仕事なんて耕すぐらいなもんだ。
取り合えず普通の土との成長速度や味の違いを調査するため、モームさん達には観察日記を付けてもらう事にした。
「大切な魔道具だからモームさんがメインで使ってくれよ。どうしても他の人が使えた方が良いならフィーネかユキに言ってくれ」
その時は鍬を使う資格を与えよう。
伝説の剣ならぬ、伝説の鍬なのだ。
もちろん試練とか修行とかはない。
その後も上機嫌で畑を作るモームさんを置いて俺達は帰宅した。
田植えをしていた何人かがこちらに向かってずっと頭を下げてたけど、フィーネが凄く感謝される事をしたんだろう。普段なら作業中は会釈するぐらいだからな。
後日届いた観察日記に書かれていた内容は驚くべきものだった。
なんと全ての作物が4倍近いスピードで成長し、虫に食われたり味が落ちることなく安定して巨大化したと言う。
実際同梱されていたトマトは子供の顔サイズで味も甘くてみずみずしかったし、トウモロコシなんて俺の胴体より太くて、俺や母さんは「本当に食べれるのか?」って疑ったほどだ。
最も驚いたのは神器で耕した土を他の土地に撒いてもある程度の影響力があった事。
どんな作物にも合うように微精霊達が土を変化させるらしく、本当に肥料として使えるみたいだ。
万能肥料としてロア商会での販売も検討中。
難点は肥料の製造方法を知られると神力についてバレる可能性がある事だな。
鍬自体の欠点としては、万能すぎるのでモームさん達が襲われないか心配になるって事。
それと神器とは言え鍬なので、アクアのパイプとは違い結構簡単に持ち運べるから盗難の危険性もある。
いくら強いと言っても農場で暮らす人達は一般人。プロには敵わないだろう。
そんな俺と同意見のフィーネとユキが知り合いに警備してもらうように頼んだらしい。
この2人がわざわざ呼び寄せて警備を任せるってどんな人達なんだろうか?
たぶん古龍とか、俺の知らない強い種族とかが防衛体制整えてくれてるんだろう。
そして彼らはきっと手加減とか苦手なんだ。
強盗の皆さんへの諸注意です。
もしも農場で強盗される際には命の危険があります。心残りの無いような人生を送ったうえで遺言を残してチャレンジしてください。
その際に起きた被害については一切関与いたしません。色々なモノを失う可能性が高いので気を付けてください。
そんな看板を作っておこうかな。
今後量産される作物が楽しみだ。