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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
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百九話 本気

 おうぢ様を仲間に加えて4人でハチミツが採れなくなった原因を調査し始めた。


「やっぱりですか~」


 そこでユキだけは何かを確信したが、一緒に居る3人には当然何のことだかサッパリわからない。


「「「?」」」


「さて、ここで皆さんに問題です~。魔界深層とは一体なんでしょう!」


 すると突然、魔界について解説を求めてきた。


 順序良く状況説明するために必要な事らしい。


「む? 吾輩たちが暮らしているこの大地の下と言うことであるか?

 強い魔獣が蔓延っているとしか知らぬな」


「ブーン(たしかダンジョンの下層がそう呼ばれていたはずです)」


 答えたのはジークとクイーンの魔界コンビ。


 それなりに有名な話ではあるようだ。


「へー、そうなの?」


 そんな2人の回答にイブが感心している。


 未知なる世界を探求する事においては人より魔族の方が有能らしく、勉強熱心な彼女にも初耳の情報だった。


 だがユキの求めた答えではなかったらしい。


「それも間違いではないんですが、もっと単純に『魔界2階層』ってことですよ~」


 魔界にはクイーン達が暮らす『表層』と、地面の下にある『深層』の2階層あり、ある程度の深さのダンジョンなどを踏破すると辿り着くのだが、その深層へと繋がる入り口が近くに出来ていると言う。


 それによって闇の精霊たちが活性化した影響でハチミツが採れなくなってきたのだ。放っておけばいずれ森全体に広がってしまう。


 調査兵団には悪いが、精霊の見える人物でないと気が付かない問題だった。



「つまり強い魔獣が溢れ出てくる可能性があると言う事であるな!? 吾輩の出番であるぞーっ!」


「ブーン(私の針も敵を貫きますよ! 人の森になんてことをしてくれるんでしょうか!)」


 勢いずく2人だが、イブだけは冷静に思考する。


「・・・・そんな簡単に出来る物?」


 いくら闇の精霊が多い魔界とは言え、そんなにポコポコとダンジョンが生まれていては地盤が弱くなるはずである。


 それに誰も深層について知らないようなので、珍しい現象のはずだ。


「良いところに気が付きましたね~。そうなんです、珍しいんですよ~」


 そしてこれはダンジョンではないと言う。


 ダンジョンが生まれる準備段階として隔離した空間を、たまたま取り残された強大な魔獣が住処として改造した竪穴らしい。


「たぶん大きな穴が深層まで続いてると思いますよ~。みんなで探しましょうか~。

 こう言うのの多くは、人目に付かない影が多い場所か、物が多くてジメジメした所に生まれますね~」


 と言うユキのアドバイスの元、4人はこの事件の原因となっている穴を探し始めた。




 すると、すぐに直径5mほどの穴が見つかった。


 ユキが言うには最近新しく出来た穴らしく、もしかしたら調査団が毎日来ていれば先に発見していたかもしれないと言う。


 そしてそんな事にならずに済んで良かったとも言う。下手に刺激すれば大惨事になっていたのだ。


「あ~、居ますね~」


 その穴に近づいたユキが一言、敵の存在を告げた。


 深い穴なのでユキ以外が覗き込んでも真っ暗な闇が広がっているだけだ。


「むむ? 吾輩には何も見えぬし、感じぬが、強大な敵がいるのであろう? ならば拳で解決するのみである」


 『全てを拳ひとつで解決させる』、そんな彼はアリシアと相性が良さそうだ。


 もしも結婚相手に選んだなら家族全員が全力で反対するだろうが・・・・。



 ジークもクイーンも完全に戦闘態勢に入っているので早速突入することになった。


「じゃあ飛び込んでみましょうか~。私が魔術でフォローしますから安心してくださいね~」


 真っ暗な穴に落ちろと言うユキだが、3人とも迷うことなくダイブする。


 イブ以外は自分で対処できる問題なのだろうが、ユキの信頼度も半端ないらしい。


 突入前にイブにはユキ特製の『ちゃんちゃんこ』が手渡されていた。


 各種結界が張られているため、穴から出るまでは絶対に脱がない様にとの忠告と共に。




 底に着くと同時にユキが魔術で辺りを照らす。


『・・・・・・』


 そこには巨大な古龍が静かに佇んでいた。



「やっぱり古龍です~。気を付けてくださいね~。強いですよ~」


 ユキの予想通り、汚染の原因になっている強大な魔獣は古龍であった。


「ぬっ・・・・これが古龍。初めて見るのである。

 たしかに敵は強大。しかし! 吾輩に正義の魂がある限り、必ずやこの拳が貴様を倒すであろう!」


「ブーン! (私の森に何してくれてんですか! あぁん!?)」


 しかしそんなユキの忠告を無視して、最強種を相手に全く怯むことなく向かって行くジークとクイーン。


 普通の魔獣なら一撃で葬り去る事が出来る攻撃を開始した。



「あれ大丈夫?」


 戦闘能力皆無のイブでも危険な事は理解できたし、力の差も感じ取れた。


 なので彼女は大人しく離れているのだが、そうしている間にも2人の猛攻は続く。


 だが素人目にも効果があるようには見えず、下手に攻撃して怒りを買うのも時間の問題だろう。


 もしそうなればクイーン達など一瞬で消し炭になる。


 それを心配したイブがユキに問いかけていた。


「完全に私に狙いを定めてますから大丈夫でしょう~」


 同等以上の力を持つ人物を相手にした時、足元に居る2匹のアリなど相手にするわけがない。


 鬱陶しいと追い払おうにも、ユキから少しでも目を離せば一瞬でやられる可能性すらあるだ。当然ジーク達に魔術を使った場合も同じ。


 ほんの数秒とは言え、ユキや古龍にとっては致命的な隙が生まれる。


 その結果、ジークとクイーンは無防備な古龍に攻撃し続けることが出来ていた。



「我が必殺の奥義を受けてみろ! ラブリィイイィィ、ボンバーッ!」


 ジークの『正義真拳』の数ある奥義の1つ『ラブリーボンバー』。


 愛を持った丸太のような両腕と厚い胸板、毛むくじゃらな脇や胸毛で相手を絞めつけるイブ発狂ものの技である。幸い古龍の背後からの攻撃だったので正面に居るイブには声だけしか聞こえなかった。


 他にも『ラバーズインパクト』『フェアリーブレイカー』『まごころジェノサイダー』などなど愛と正義の奥義は無数に存在するらしい。それを見た乙女は必ず(精神が)死ぬ。


 もちろんジークほどの身体能力を以てすれば体術としても十分強いので大抵の魔獣なら一撃で仕留められる。


 要は肉体ひとつで何とかする格闘術だ。



「くっ・・・・流石に効かぬか!」


 まぁ格上の古龍に効くわけもない。というか絞めつける部分が無いので不発に終わった。


 同じくクイーンの魔術による攻撃も効果はない。


 根本的にジーク達と古龍の魔力量が違い過ぎるため、防壁に阻まれて触れる事すら出来ないのだ。



「そろそろ私が行きますね~。

 貴重なユキさんのガチバトルですよ~」



 いつまでも拮抗状態で居る訳にもいかないユキが先に動き出した。


 大きく息を吸って、吐く。


 すると普段のおちゃらけた雰囲気から一遍、超真面目モードになり膨大な魔力と共に冷気を纏った。


 そして詠唱を始める。


「雪精霊召喚。我が名に従い敵を滅ぼせ」


 かつてない真剣な口調でユキが命じると、魔力によって生み出された雪の精霊達が古龍を埋め尽くす。


 普段ユキが水や氷の魔術を中心に使うのは加減が出来ないからである。


 彼女は雪の精霊。水も氷も派生した属性に過ぎないのだ。



『グルゥゥウウァァーーーっ!!』


「壁よ、阻め」


 当然、古龍も反撃するが雪の壁で無力化。


 その余波だけでジークとクイーンが吹き飛んでいたので、古龍の攻撃がどれだけ強力なものだったかイブにも理解できた。


 それを防いだユキはさらに凄い。



 流石に危険だと感じたジーク達はソソクサとイブの近くまで退散してきた。


「くっ、吾輩の大腿二頭筋がもう少し鍛えられていれば・・・・!」


 そう言う問題ではない。



「凍りなさい。永遠の眠りを」


 最初に古龍を埋め尽くした雪が張り付いたまま体内に侵入していく。


 そして古龍を構築する全ての物質が雪へと変えられ、古龍の雪像が生まれた。


 何者も抗う事の出来ない圧倒的な力だった。



「・・・・・・・ユ、ユキ・・・・さん?」


 明らかに今までのユキとは違う。


 とても儚げで触れれば壊れそうな存在感。


 その神秘的な雰囲気にイブはビクビクしながら声を掛けた。



「いや~、あのクールキャラじゃないと雪の精霊達が協力してくれないんですよ~。全く、困ったものです~」



 すると突然いつものユキが戻って来た。


 先ほどまでの超真面目な口調はどうやら雰囲気作りで、ユキも雪精霊のはずなのだがキャラクター作りをしないと相手にしてもらえないらしい。


「なんと強力な魔術! 吾輩の愛と正義に溢れた鋼の肉体を以てしても防ぎきれるかどうか・・・・いや、筋肉さえあればあるいは」


 間違いなく無理である。


 精神的な問題ではない。


 もちろん筋トレしても結果は同じ。


「ブーン(やっぱり強いですね~。あんな姿は初めて見ましたけど、ユキさんと昔敵対したのを思い出すと震えが止まりませんね)」


 過去の過ちを思い出し、羽ばたきとは別の振動がクイーンを襲う。



「あ、皆さんは私の力の事はくれぐれも秘密でお願いしますね~。これ以上尊敬されても受け止めきれませんから~」


 最後の自惚れが無ければ尊敬されたのだろうが・・・・。


 所詮はユキである。




 その後、残っていると危険だと言う事で穴を塞ぎ、今回の事件は終わりを告げる。


「では吾輩はさらなる高みを目指すため、ここで失礼する」


「ブーン(ありがとうございました。これはお礼です)」


 そう言ってクイーンからハチミツを受け取ったジークは、ユキの強大な魔術が防げる究極の肉体を求めて修行の旅に出た。


 ちなみに妹リリスと同じようにイブに握手を求めたが断られている。手汗と指毛が嫌だったらしい。



 そんなジークに続きイブ達も帰る事にした。


「また来る・・・・絶対」


 名残惜しそうに新しい友達となったクイーンの手を握るイブ。おうぢ様はダメでも魔獣はOKなのだ。


「ブーン(是非。今度は楽しいイベントを開催しますので、ゆっくりしていってください)」 


「クーさんもお元気で~」



 そんな魔界での一幕であった。

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