表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
170/1657

百八話 プリンス

 野生の魔獣が森を荒らしていると思ったユキ達は、討伐するために雄叫びのする場所へとやってきた。


 しかしそこには魔獣オークよりも恐ろしい化け物が存在した。


 血まみれの拳、オークの攻撃を紙一重で回避したのか引き裂かれてボロボロな衣服、そしてそこから見える鍛え上げられた筋肉、滴る汗。


 綺麗好きな人からすれば『汚い』の一言で片づけられる全てを兼ね備えつつ、さらに鬼の形相で魔獣を乱打する怪物だ。


「全く・・・・吾輩が居ないとすぐ魔獣共が増えていかん。今度城に帰ったら注意しなければ」


 拳ひとつで魔獣退治を終えた野性味溢れる男性がユキ達に歩み寄って来た。


 年は20代では絶対に無い。30・・・・いや30代後半の貫禄がある。つまり中年。


「少女達よ、大丈夫であるか? 吾輩が来たからにはもう安心だ! こんな所に居るなんて迷子だな? 家まで送っていこうではないか!」


ブンブンブン!

「・・・・い、いい」


 間違いなく良い人なのだろうが、馴れ馴れしく近寄って来るオヤジは人見知りのイブからすれば恐怖の対象でしかなく、全力で首を横に振って拒否している。


 あまり関わり合いになりたくないのだろう。


 しかしクイーンが「彼は困っている我々を助けるために調査をしてくれているお人好しな人物」だと言い、半ば強制的に同行者として加わった。



 彼こそイブ達が先日知り合った魔王リリスの兄『ジーク』である。



 一緒にハチミツ生産量減少の原因を究明する仲間である以上は、例え苦手な存在であろうと自己紹介をしなければならない。


「なるほど~。つまりリリスさんのお兄さんな訳ですね~?」


 本来なら力のあるジークが魔王として君臨すれば良かったのだが、1つの所に留まるのは性に合わず、こうして世直しをしていると言う。


 そして正義感溢れる彼は困っているクイーンの話を聞き、こうして原因を調査していたのだ。


「つ、つまり私、この人とも血の繋がりがある・・・・の?」


「大丈夫ですか~?」


 衝撃の事実を知ったイブがフラフラと目眩を起こしてユキにもたれかかった。温室育ちで貧弱な少女の精神には耐えられない出来事だったようだ。


 彼女の知る限り王族は美形揃いだった。



「さらに言えば世の女性達が憧れている『王子様』ですよ~。プリンスですよ~」



 追い打ちをかけるようなユキの一言でハッとするイブ。


 当たり前なのだが魔王の兄であり、イブと血縁関係のジークは王族だ。


 しかしおそらく彼は女子が熱狂する『憧れの王子様』とはかけ離れた存在である。


 白馬に乗った爽やかな『王子様』ではなく、魔獣に跨って野蛮に拳を振るう『おうぢ様』。


 もしも王子様に憧れを抱く少女に「ほら、王子様を連れてきたよ」とジークを紹介したら発狂するかもしれない。「こんなの私のプリンスじゃない!」と殴りかかってくる可能性すらある。


 王子様とは爽やかで、優雅で、細身のイケメンでなければならないのだ。


 ジークのような筋肉隆々の毛むくじゃらな中年ではないし、攻撃の掛け声も先ほどの彼のように「ぬあぁっ!」や「どるぅぁっ!」では断じてない。


 百歩譲っても戦闘方法は剣やスピアで華麗に舞わなければならない。ジークのように拳固などもっての外。



 もちろん王族であるイブとて、そんな王子様に憧れていた時期もあった。


 今でこそルークと言う理想の婚約者が居るが、昔は白馬に乗った王子様と世界中を冒険することを夢見る幼女だったのだ。


 その王子様が『これ』である・・・・。


 その悲しみは計り知れない。



 さらにイブの悲劇は続く。


「なんと!? ユキ殿はすでに原因を突き止めていたのか! ならば話は早い。あとはこの勇気と愛に溢れる吾輩の拳が唸るだけであるな!」


 事情を聞いたジークは、そう言いながらビュンビュンと勢いよく風を切り裂く鉄拳を繰り出す。


 先ほどの戦闘で衣類の一部が破れているのでモジャモジャの胸毛が見え隠れし、絶えず流れていた汗が飛び散った。


 それは当然イブやクイーンの方にも飛んでくる。


びっちゃぁぁ~。


「・・・・ひぃっ」

「ブーン(いい人なんですけど・・・・ちょっと見た目が)」


 清潔な人しか知らないイブ、魔獣でも綺麗好きなクイーン。特にクイーンは口の臭い魔獣や、毛むくじゃらな魔獣の相手は部下に任せるほど潔癖症なのである。


 そんな乙女2人にこの『歩く男性フェロモン』という二つ名が付きそうなジークの行為が歓迎される事はなさそうだ。


 飛び散る汗を全力で回避し、ジークと距離を置いていた。


「む? どうしたのだイブ殿、クイーン殿!

 ・・・・ふむ、さては吾輩のシャドーが美しすぎて直視出来ないのだな! 遠慮することはないぞ、さぁ!」


 そう言って恥じらう乙女に自らの肉体美を披露するおうぢ様。彼の全身の筋肉が盛り上がり始めた。


ムキッ!

「さぁ!」


ズザザ!

「「・・・・・・」」


ムキッムキッ!

「さぁ! さあ!!」


ズザザザザッ!!

「「・・・・・・」」


 ポージングを決めて近寄って来るジークと、そんな臭そうな彼から一定距離を保つ少女達。


 そんな事はないだろうが、彼の半径1m以内に入れば妊娠するとでも思っているのかもしれない。それほど雄々しい人物なのだ。



「たぶんその服が原因なんじゃないですか~?」


 ジークの奇行に動じる様子の無いユキは、彼の破れている服を注意する。


「おっと、吾輩としたことが、失敬、失敬・・・・っと・・・・これで良いのであろう?」


 どう勘違いしたのか上半身裸になったジーク。


 どうやら彼の中ではボロボロの格好よりも裸の方が無礼にならないと思ったようだ。普段からどれだけ裸で居るかわかる行為である。


 が、臭い立つ汗・生い茂った胸毛や腹毛・筋骨隆々なシックスパック、その全てが曝け出されただけで根本的には何も解決していないので当然避けられている。


 むしろ悪化した。


ビシィ!

「この見事な上腕二頭筋と胸筋を見るがいい! さぁ!」


「ひぃ・・・・」

「ブーン・・・・」


 何故かマッスルポーズをとってピクピクと胸筋を動かしながら少女達に迫っては逃げられる、と言う事を繰り返している。


 挙句の果てにはクイーンによる攻撃(触れたくないのか魔術のみ)が始まったが、全て拳でいなして抱きしめようとしていた。


 こんなジークだが、戦闘能力はドラゴンを軽く凌駕するクイーンホーネットと対等クラスらしく、魔王血族に恥じぬ力の持ち主である。


 だが今回に限って言えばその力は完全なる迷惑行為でしかなく、間違った方向に使われていた。


 攻撃を防がれたクイーンが悔しそうにブンブン飛び回り、その隣ではイブがクイーンを応援している。


 ジークの肉体から逃れる術はクイーンが彼を倒すことだけなのだ。



「フハハハハ! 肌と肌の触れ合いこそ生物最大の愛情表現であるぞー!!」



 その後もおうぢ様による愛情表現と言う名のセクハラは続いた。



コメントでもありましたが、このおうぢ様は日本一有名な某ライトノベルとは無関係です。

少なからず影響は受けていると思いますが、別人として見ていただければ幸いです。


ハイテンションな筋肉バカオヤジを出したかったんです。

そんな人物と切っても切れない縁である事を知った無口な少女がビクビクする様は萌えますね。


・・・・え? あれ? わ、私だけですか・・・・?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ