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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
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百六話 魔王城

 イブと共にオラトリオ魔王城へとやってきたユキは、城の主である魔王と対面していた。


「お初にお目にかかる。わらわが魔王『リリス』だ」


 ケロちゃんから何か言われたのか、ユキの事を知っていたのか、引きつった顔でユキ達を迎えた魔王はそう挨拶をした。


 彼女は闇の眷属である魔族らしく腰まで届く長い黒髪と黒い目で20代前半の容姿をしているが、魔王である以上、数百歳の可能性も大きい。


 過去に散々な目に遭わされたアイリーンの旦那を知っているかもしれない。もしかしたら彼の娘と言う事もあり得る。


「はじめまして、イブ=オラトリオ=セイルーンです」

「ユキちゃんです~」


 遠縁とは言え親族のイブから挨拶を返し、ユキがそれに続く。


 その辺りを打ち合わせ無しで行えるイブは、引きこもりのダメ王女とは言え流石にマナーを弁えていた。


「うむ、イブ殿とは初めて会うな。と言うよりガウェイン殿と数年前に会って以来セイルーンの王族とは会っていないがな」


 あまり親戚付き合いは良くないようだが、もちろんそんな事をユキが許すわけもない。


 彼女にとっては友達ルークの妻の親戚になる。


 それは言葉にすれば遠い存在だが、両王族を昔から知っているので今後はもっと交流すべきだと言い出した。


「おやおや~。アイリーンさんが居た頃は毎月の様に交流していたんですが、いつの間にか疎遠になっていたんですね~」


 現状を嘆きながらユキは今度誰か連れてこようと画策し始めた。『仲良きことは美しきかな』である。


「あ、あああ、あの・・・・ユキ様? ひ、久しぶりに会う方が盛大な催しになって良いと思うんです私」


 そんなユキの考えを察したケロちゃんが必死に止める。


 実際、前に国王アーロンが魔王城を訪問したときは盛大なパーティが行われたし、普通なら魔界までの移動が困難で時間も掛かるため、これでも交流は多い方らしい。


 たとえ会う機会が少なくとも友好関係は築けていたので、これがお互いにとって丁度いい距離感のようだ。


 決してアイリーン似の第2王女に会いたくないわけではない。


「え~、そうですか~? いっそ空間に穴を空けて移動しやすくしようと思ってたんですけど~。

 ・・・・ちょっと消滅する場所があるかもですけど」


「「消滅っ!?」」


 最後にボソッと聞き捨てならない一言がユキの口から零れた。


「ユキさんは凄い魔術師」


「照れます~」


 見過ごせない一言に動揺する魔王軍関係者だが、イブとユキだけはマイペースに計画を進行しようとしている。


 イブが自由に魔界へ転移できる魔道具を作れないかユキと相談し始めた。


「い、いやいやいやいやっ! 大丈夫ですから! たとえ離れていようとも我々の仲は一生ですっ!」


「あ、ああ・・・・少し興味をそそられるが「ちょっと!」・・・・ス、スマン。

 こ、今度はわらわの方からセイルーン王国へ行こうと考えておったのだ!」


 どこかイブと似た感性を持っている魔王リリスはユキの魔術に興味を示すが、お目付け役のケロちゃんから怒られてありもしない計画について話し出した。


 その話を聞いたユキは『きっと移動時間も楽しむのだろう』と考えて何も言わない。


 これはつまりケロちゃんが悪夢の再会を果たすことに他ならないのだが、この時の彼は魔王城が滅ばない様に必死だったので気付かなかったようだ。




 初対面からひと騒動あった魔王達だが、そんな挨拶もそこそこに城を案内すると言う。


 若干内装が変わっているぐらいで造りは300年前と変わっていない魔王城を散策するユキとイブ、ケロちゃん、リリス。


 色々な部屋を案内しながらユキが当時の面白エピソードを話し出すと、イブとリリスは感心したり笑ったりしているが、ケロちゃんだけはその度に震えていた。


 ユキ本人から語られるとつらい過去の記憶がよみがえってくるのだろう。今は居ない戦友達との思い出と共に・・・・。


「あ、まだケロちゃんハウス残ってるんですね~。使ってくれてますか~?」


 当然一行はアイリーンが監禁(?)されていた部屋も訪れる。


 そこには300年前と変わることなく木製の小屋があった。アイリーン自信作のケロちゃんの家、通称『ケロちゃんハウス』である。


「思ってたより立派」


 魔道具製作者としてこの建築物の凄さを一瞬で理解したイブは感動している。


 おそらく今後一生お目に掛かれないレベルの超高度な魔術と素材を組み合わせた物なのだ。


「そうでしょう、そうでしょう~。アイリーンさんから『壊れない小屋』って言う注文だったので、深層に潜って頑丈な素材を集めてきたんですよ~」


 匠の技を光らせた建築者のユキが褒められて嬉しそうにしている。


 しかしアイリーン亡き後もここに残っていると言うのは妙である。


 塔の最上階とは使い道の多い一等地のはずなので、ケロちゃんが使っていないとすればハウスがここにある理由がわからないし、あれだけ酷い目にあったケロちゃんが使うとは思えない。


「やはり特殊な素材が使われていたのか。邪魔になるから幾度となく壊そうと「わぁあああぁぁーーーっ!!」 そ、そうだな。製作者の前でする話ではないな」


 事情を説明するリリスの言葉はケロちゃん渾身の叫びでかき消されてユキには聞こえなかったが、やはり壊せないか挑戦はしたようだ。


 しかし魔王軍の総力を以てしても壊せないどころか移動すら出来なかった。


 そんな話を遠回しにユキに伝えるリリス。口達者な魔王らしい。


「あ~、ちょっと重すぎましたかね~? 言ってくれれば移動させますよ?」


 と、300年間動かなかった小屋を軽々と持ち上げるユキ。


 自分の作ったハウスが魔王達の生活の邪魔になるのは本意ではないのだ。


「・・・・あ、そこで良いです」


 ユキの実力を垣間見たリリスは驚いているが、ケロちゃんにしてみれば懐かしの光景であり、色々考えた結果このような言葉しか出なかった。


 移動先に『使われる事のない地下室』や『邪魔にならない外』などと言える訳もなくそのまま降ろしてもらう。


「最上階が部下の部屋って言うのは魔王様に悪いかな~と思いまして。ハハッ・・・・」


 事実とは違うだろうが、使っていない理由についてはそう言う事にしているらしい。


 ちなみにケロちゃんはこの小屋を使っていないが毎日掃除はしていると言う。


 なんだかんだ言っても魔王城に現存する最古の建築物なので、同じ古参のケロちゃんとしては愛着も沸いてるようだ。




 なら今使っている部屋に小屋を移動させると言い出したユキに「思い出はそのままにしたいから」と美談を語り、自室への持ち込みを阻止したケロちゃん。


 そんな『説得』と言う名の攻防をしながら一行は外へとやってきた。


「この氷漬けの壁は何?」


 イブが気になったのは1ヶ所だけ氷で出来た壁。


 周囲は魔術とレンガを合わせた立派な造りなのに対し、その部分だけ何故か頑丈そうな氷のみで造られていた。


「あっ、まだ修繕してなかったんですね~。

 ほら、私が兵士さんを訓練した時の名残です。回避が上達したって絶賛されましたね~」


 そんなイブの疑問にユキが当時を懐かしみつつ、当時の出来事について今一度詳しく説明する。


 たしか怪我人が続出した最悪の訓練だったとケロちゃんは記憶しているが、黙っていた方が良いと思ったらしく聞き流していた。


 命懸けの訓練だったため、ユキの言う通り兵士たちの回避能力は間違いなく向上したのだ。


「あぁ・・・・どうやっても溶かせない氷なので、そこを起点に壁を造り直したらしいぞ」


 ユキの説明を聞いてリリスが補足する。


 『消滅したレンガの壁』と『そこに生まれた氷の壁』。


 職人たちは邪魔だと言っていたが、どうすることも出来ず一部を氷の壁のまま改築をしたらしい。


 たまに腕自慢が金を払って破壊チャレンジをしたり、研究者が魔術解析を行ったり、究極魔術を一目見ようと有名な観光名所となっていると言う。当然、破壊も解析も成功者は居ない。


「溶かします~?」


 ユキは迷惑をかけているなら取り除くと言うが、リリスもケロちゃんも何かと便利なのでそのままで良いと拒否する。


 デメリットは見た目だけなのだが、それも見ようによっては芸術的なのでメリットしかない壁なのだ。




 その後もユキから様々なエピソードを聞きながら魔王城探検を続け、ちょうど案内し終わった頃に帰る時間となった。


「案内する場所と言えばこのぐらいですかね~。イブさんどうでした~?」


「満足。ご先祖様の話も楽しかった」


 やはり話を聞くだけより実際に見たり触れたりする方が感動もひとしおのようだ。


「わらわも楽しかったぞ。ケルベロスは昔の事を話してくれないからな」


 ケルベロスとはケロちゃんの本名(?)である。リリスや本人の口から何度聞いてもユキもイブもケロちゃんとしか呼ばなかったが。


「ふっ・・・・色々あるんですよ。色々、ね」


 ケロちゃんはトラウマ体験を思い出してうな垂れているが、その他の人にとっては大変有意義な時間だった。



「また遊びに来る」


「楽しみに待っているぞ」


 そう言って固い握手を交わしたイブとリリス。


 イブにとって初めての親戚付き合いは順調な滑り出しである。

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