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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
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百五話 王国暮らし

ユキ物語のラストを飾る長編スタートです。

「今朝は何ですか~?」


「はい。若鳥のワイン煮込みフォアグラ添え、コカトリスの卵のオムレツ、デザートにかき氷、全てユキ様から提案していただいたものでございます」


「ユキさんは料理も詳しい」


 ここはセイルーン王城にある王族の食卓。


 そこでイブと共に朝食を取っているユキに王城に居る理由などない。


 ただ『イブとお話しする気分』と言うだけであり、気の赴くままに幾度となく王城への侵入を繰り返している。もちろんマリーの場合もある。


 要は気に入った相手と会いたい時に会う、と言う我がままを叶えているだけだ。


「1人の食事は楽しくありませんからね~。コミュニケーション能力向上のためにも私とお話です~」


「私はルーク君のお嫁さん。そんな私に不可能はない」


 今でこそ自信に満ちた表情で会話するようになったイブだが、少し前までは多忙な王族(もちろんイブ以外)であるため、5歳にも関わらず1人きりで黙々と食事をすることが多かった。


 それではいつまで経っても話術など上達するはずもなく、コミュニケーションの必要性も感じなかったらしい。


 そんな彼女を変えたのはルーク、そしてユキだった。


 さらにこうして食事中もユキと会話するようになってから、イブは会話の重要性を理解するようになっていた。


 なにせ婚約者であるルークの生活を知る貴重な機会なのだ。今ではむしろ積極的にユキに話しかけている。


 ユキの気まぐれが功を奏した『イブの成長』。


 もしかしたらルークの婚約者である王族と仲良くなろうとしているのかもしれないが、十中八九その様な計算はしていない。



 当初は王城にやってくる貴族達から不法侵入の犯罪者扱いされていたユキだが、国王・先代国王・王女達から「客人だ」と言われれば納得するしかなく、今では何事もなく受け入れられた。


 そして何も注意されなくなったユキは我が物顔で王城内を闊歩するようになり、現在では朝食をもらうまでに至る。


「・・・・もぐもぐ」


「ウマウマ・・・・むむむっ? このコカトリスの卵を処理したのは誰ですか~?」


 食事の合間合間に楽しいお喋りをしながらもマナー違反にならないように黙々と料理を堪能する2人だが、そんな沈黙を破りユキが突然シェフを呼び寄せた。


「・・・・わ、私の部下ですが何か問題が?」


「殻を割る時の切断魔術が雑ですね~。それに黄身を溶く時はまず数秒冷やさないと~。

 焼き方や味付けは完璧ですけど、それだけに下処理ミスが惜しいですね~」


 すぐさま傍にやってきたシェフに的確なアドバイスをするユキは、料理人としても魔獣解体業者としても超一流だった。


「も、申し訳ございません! おそらく新人の仕事です・・・・くっ! あれほど忠告したのに」


 自分の指示を守らず手抜きをした新人に対して怒りを露にするシェフ。


 これがもしも大事な会食であったなら、関わった料理人達は首を吊る事になっていただろう。ユキほどの美食家が居ればの話だが。


「まぁまぁ。失敗は誰にでもありますからね~。次から失敗しないように注意すれば良いんですよ~」


「ははっ! ありがたきお言葉!」


「ユキさん優しい」


 ユキに接すれば接するほど彼女の有能さを理解していった王城関係者は、このシェフのように様々な場面で彼女を師匠として崇め、指導を乞うようになっていた。




 そんな優雅で有意義な朝食を終えた2人は今日の予定を決めつつ、目的の無いままフラフラと王城内を歩いている。


「ユキ様、おはようございます。こちらにいらしていたのですね。

 以前いただいたケーキが美味しいと話題になりまして、どこで買えるのか聞きたかったんです」


 と、掃除してるメイドから挨拶をされるユキ。


「ユキ様! 言われた素材集め終わりましたよ! これで新しい訓練器具を作っていただけるんですよね!?」


 庭に出れば王国騎士が嬉しそうに寄ってきて、素材を見せつつ戦力向上に取り組もうとする。


「ユキ様、こちらの防衛費の事なのですが・・・・」


 また、会議室に行けば大臣から国税の相談をされる。



「グッモーニーです~」



 もはや完全にセイルーン王国の中枢に居座るユキを頼る人は多い。


「・・・・ユキさん、私より人気者」


「イブさんだって色んな人と話せるようになったじゃないですか。最初と比べたら凄い進歩です~。

 私は仕事が出来る大人な女性ですから、イブさんより頼られる事が多いだけですよ~」


 隣にいる自分には畏まった挨拶しかしない人達が、ユキには世間話から機密まで様々な会話をしているという事実にイブは不満のようだ。


 これがユキの人柄なのだろうが、自分が王城で過ごした5年間をアッと言う間に抜き去って皆と仲良くなっていた事が悔しいらしい。




「今日は何しましょうか~。魔界のオラトリオ領を親族訪問でもします~?」


「・・・・知り合いが居ないからいい」


 大人とも会話できるようになったイブだが、人見知り自体は治っていないので親族とは言えよく知らない人物と会いたくないらしい。


 しかし「親戚ならいずれ会う事になる」と言うユキの助言を受けて遊びに行くことにした。


 元々珍しい体験はしたいようで、魔界へ行くには賛成だったのだ。



 とは言ったもののユキだけなら転移で一瞬だが、それでは誰かを同行させることが出来ないので移動手段を確保しなければならない。


 普通なら数日かけて魔界までの大海を越えなければならないが、当然そのような時間はない。


 なのでユキは魔界への専用便を使う事にした。



 その準備には広いスペースが必要になるので城の訓練場へとやってきたユキとイブ。


 訓練中の兵士への挨拶もそこそこに、早速魔界へと連れて行ってくれる便を呼び寄せることにする。



「カモン! ホウさんっ!」


ボワン。

「・・・・何度も言うが、ワシは鳳凰じゃ」



 ユキが召喚魔術(など存在しないので遠距離の念話)を使うと、巨大な火の鳥が転移してきた。


 呼びされた鳳凰は周囲の期待に気を使ったのか、煙と魔法陣をそれらしく見せるという小憎らしい演出付きである。本来転移には必要ない物だ。


 そして魔界最高峰の山脈に1羽のみ生息する神獣『鳳凰』をタクシー代わりとして移動手段にするべくユキが事情を説明し始める。


「・・・・つまり魔界の森まで乗せろ、と?」


「イブさんと一緒に転移は出来ませんからね~。よろしくです~」


「よろしく」


 そう言って手を差し出すイブに「うむ」と言いつつ羽で握り返す鳳凰。


「・・・・・・一応、神として崇められる神獣なんじゃが。当然人を乗せた事などないぞ?」


「おぉ~。ホウさんの初体験はイブさんが奪うんですね~。キャー!」


「・・・・ホウさんは女の人? 男の人ならダメ。初めてはルーク君じゃないと」


 ユキの教育によりある程度の性知識を身に付け始めたイブは、折角召喚してもらったけど男性なら乗らないと言い出した。


 ユキが正しく説明出来たのかはわからないが、確実に言えることは『乗車』と『男女の初体験』は全くの無関係ということ。『男性の上に乗る』と言う事をどちらかが勘違いして捉えている。


 しかし鳳凰の回答によっては本当に無意味な召喚になってしまう。


 その回答やいかに。



「いや、ワシに性別なんぞ存在せぬ。何せ死なぬから鳳凰は世界で1人じゃ」


「ならOK」


 どこで覚えたのかグーサインを出して、のそのそと鳳凰に跨るイブ。


 初めての相手が男でなければ問題ないらしい。


「良かったです~。ホウさん呼んだの無駄になるところでした~。

 夜には戻りますのでガウェインさん達には伝えといてくださいね~」


「「「ええぇぇえええぇぇーーーーーーっ!?」」」


 伝言だけ頼むと、色々な事が起こりすぎてついて行けない兵士たちを残して、ユキとイブは鳳凰と共に王城から飛び立っていった。


 そこで起こった一部始終をありのままに上司へと報告した部下達はもちろん怒られたが、ユキが一緒と言う事で不問にされたのは彼女の人徳なのだろう。


 事実、ガウェインに話が伝わった時も彼は笑っただけだった。




 一般的に使われる飛行便ワイバーンの数百倍の速さでオラトリオ魔王城へとやって来たユキ達。


「へいっ! 久しぶりですね~」


 ユキが城を見て誰も居ない空間に向かって挨拶をする。


 おそらく城への再会の挨拶なのだろうがツッコむ者は誰もいない。


 王城近くに降り立った鳳凰は「目立つから」と気を使って帰っていたし、イブは以前語ってもらった王国物語に登場した城だと感動していた。


 そして話を思い出したイブがユキの発言について改めて確認する。


「300年ぶり?」


「たぶんそのぐらいですね~。アイリーンさんが亡くなってからは来た事ありませんからね~」


 いくつ『先』が付くのかわからない先代王女が結婚したのは10代。そして健康が取柄だった彼女が亡くなったは80代なので70年以上は通い続けたはずなのだが、長寿すぎるユキにとってそんなものは些細な差らしい。


「誰か知り合い居ますかね~?」


 魔族は長命な者も多いので300年前に出会った人も居るかもしれない、とユキが知り合いを探すため王城へ入ろうとする。


 が、当然2人の守衛によって不審者扱いされて入らせてもらえなかった。



「おっと~。私の事を知らないと見えますね~。

 昔から居る人に『ユキちゃんが来ましたよ~』と言ってもらえたらわかりますから伝えてください~。

 あ、あと魔王さんの親戚でセイルーン王国王女のイブさんも来ましたよ~、って一緒に言っておいてください」


 前半は全く信じていない守衛たちだが、流石に主の親族が訪ねてきたとなれば話は違ってくる。


 すぐに魔王への伝令に走った。



 そして3つ首の魔獣と共に直ぐに戻って来た。


 その魔獣は間違いなく300年前にアイリーン王女と共に可愛がった愛犬『ケロちゃん』だった。


「あーっ! ケロちゃんじゃないですか~。お久しぶりですね~」


「お、おお、おおおお久しぶりです・・・・お元気そうで何より。

 きょ、今日はどのようなご用件で?」


「旅行です~」


 軽く答えるユキを前に凄まじい動揺を見せるケロちゃんは、今やオラトリオ魔王城最強の幹部として新人魔王の指導役をしながら実質頂点に君臨していた。


 そんな上司を間違った名前、しかも『ちゃん』付けで呼び、それに対して怒らないどころか緊張のあまりブルブルと震えているのを見た守衛達は、自分達がどれほどの人物を相手に話していたのか自覚して泣きそうになっている。


 ユキは間違いなく魔王城に居る誰よりも格上の存在だった。



 そんな周囲の反応を気にすることなくイブが動いた。


「この子がアイリーン様の愛犬ケロちゃん?」


「私ケルベロスです・・・・この少女は誰ですか? どこかで見たことがあるような」


 自分の記憶を辿るが全く思い当たる節の無いケロちゃん。


 だがイブを前にすると妙に落ち着かない気分になるのか、ユキと会った時以上にソワソワしながらも尻尾は自然とうな垂れている。


「何言ってるんですか~。アイリーンさんの子孫ですよ~。イブさんです~」


「イブ=オラトリオ=セイルーン・・・・です」


「えっ!? ちょ、ちょっと急用を思い出しました! 私はこれでっ!」


 イブの自己紹介を聞いた直後、全身全霊の魔力を足に込めて神速で立ち去るケロちゃん。



 の前にユキが高速移動して止めた。


「久しぶりに会ったんですから一緒に遊びましょうよ~」


「ひぃいぃいいいぃぃっ!! トトト、トラウマが! トラウマが甦るぅぅぅっ!!」


 300年経った今でもアイリーンの恐怖は彼の心に刻み込まれていた。


「私も触っていい? ケロちゃん、モフモフ」


 今なお全力で逃走しようとするケロちゃんを片手で押さえつけるユキ。


 そんな彼女の手元はケロちゃんのフカフカな体毛に埋まっており、それを見て彼の毛並みを体感したくなったイブが質問する。


「・・・・首輪を付けたり、無理な芸をさせないならどうぞ」


 こうなってしまっては抵抗など無駄という事を彼は本能で理解していた。


 せめてもの抵抗として酷い事をしないようにお願いして3つ首を下げる。


モフモフ。

「・・・・・・」


 本人の許可を取ったイブは王城入り口で黙って抱き着き続けた。抱き着くのは既にルークにしているので初体験ではないらしい。



「あのユキ様? 彼女は本当にアイリーン様の子孫ですか? たしかに面影はありますけど、性格が真逆と言うか、とても儚げですが」


 首をモフモフされながらユキに疑問を投げかけるケロちゃん。


 部下の前で見っとも無いが、優しく自分を撫で続けているイブに不満などなかった。


 しかしそれ故に傍若無人だったアイリーンの血縁だと信じられなかったらしい。


「もっと似てるお姉さんも居ますけど、今度連れて来ましょうか?」


「いえ、結構です」


 ケロちゃんはイブの優しさが変わらない事を祈った。


 そしてアイリーンと似ていると言う姉のマリーに会わない事をさらに熱心に祈った。




「・・・・ふぅ。満足」


 数十分モフモフし続けたイブは満ち足りた表情で3つ首から離れる。


「じゃあ魔王さんと会えるみたいなので早速行きましょうか~」


 イブが遊んでいる間に魔王へのアポイントメントを取ったと言うユキが王城内に入っていく。


 もちろんケロちゃんも一緒だ。


 新米魔王の運命やいかに!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イヴが鳳凰に乗って飛んでいったことを兵士が報告した国王ってガウェインですよね?アーロンは先代国王だった気がします
2020/03/30 13:20 退会済み
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