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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十五章 神獣のバーゲンセールⅡ

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千三百七十五話 総合遊技場2

「んで、どこから回る?」


 軽食とも呼べない昼食を数十秒で片付け、トイレと水のおかわりで時間を潰した後。俺は、特別な場所でなければ許されない味と量と値段の料理に舌鼓を打つ子供達の前に、エリアマップを広げた。


 初めて訪れる場所、友達、無料、賑やかな声、心躍るBGM。


 これだけのプラス要素があればどんな食事でも有意義なものになるのだ。


「食後に激しい運動はしたくないからゲームコーナーかなぁ」


 全員でつまめる餃子付きラーメンをちまちま食べていたココが、地図を覗き込みながら言った。


 ただ口臭にまで気が回らないのは所詮世間知らずの子供といったところか。身なりより自分の欲望を優先したのだ。よほどラーメンが食べたかったに違いない。


 ゲームコーナーはこの南館の上の階。順路的にも体力的にもベストだ。


「あ、おにぃ、まだ入るなら最後の餃子も食べていいよ。あとこれ。無料で配ってたミントガム。みんなの分もあるからね」


「……ありがとう」


 まさか餃子セット限定のサービスであることまで考えての選択か? どんな料理でも多少は口が臭くなるから?


 そんなことを思いつつ、俺はガムを噛みながら全員の意見を待った。


「文字だけじゃ何もわからない。一通り見て回ることを提案する」


「わたくしもチコさんと同意見ですわ。時間は有限なのです。取捨選択は必要ですわ」


 ダブルハンバーグ定食ライス大盛りという成人男性でも辛いものを平然と処理する肉食系女子チコと、その隣でハムサンド&野菜サラダを胃袋に収めていた女子力の塊ルイーズも意見を述べる。


 立てかけられた各種パンフレットの中には各エリアの詳細を記したものもあるのだが、ネタバレを避けるために見ない方向らしい。


 これは俺の思惑通りだったりする。効率かワクワクか、その選択権を客に委ねたかった。だからこそ卓上のエリアマップは場所と文字のみ記載してもらった。


「ぼぉふぉ!」


 そのことを自慢するかしまいか悩んでいると、イヨが口いっぱいに飯を詰めたまま叫んだ。


「口に物を入れたまま喋るな。次やったら一回見学な」


「――っ!?」


 イヨは慌てて咀嚼を始める。


 これをやらかしカウントするほど俺も鬼じゃない。むしろ手を空ける方法が『置く』ではなく『かき込む』なのが流石と褒めてやりたい。たぶん本人は効率的に動けたって鼻高々だし。


 ちなみに彼女が食しているのはカツ丼。俺を含め全員と勝負したそうだったのでゲン担ぎだろう。


「おにぃは?」


 親友が行動可能になるまでの時間稼ぎか、何かしていないと目と耳に入るからか、ココが質問を投げかけてくる。


「俺はどこでも良いぞ。お前等に任せる。でもゲーセンは行く…………ぱくっ」


「ん~っ!? げほげほっ、ごほっ」


「落ち着け。水飲め。発言はその後でも遅くない」


 俺は咀嚼しきれていないのに飲み込んで咳込むイヨに、水がなみなみと注がれた自分のコップを手渡す。


「ぱくっ」


 で、飲んでいる間にもう一口。イヨのクレープを頬張る。


 お腹一杯なので全部奪う気はない。というかこれ以上無理。甘いものは別腹なんて所詮幻想よ。


「なんで食べた!? なんで2回も食べた!?」


 ただ恐怖心を与えることには成功したようで、イヨは復活するやいなや「みんなで食べようね!」と言っていたことなど忘れて怒り狂った。隣に座っているのに手を出してこないのが不思議なくらいだ。


「そこにバナナクレープがあったから。俺の方が早く食べ終わったから」


「もうしょーぶは始まってるってこと!?」


「まぁそんな感じかな」


 時間が余ったことや食事マナーの悪さへの罰を拡大解釈すればそうなることもあるだろう。




 ユチから布教されたであろうパチスロコーナーに行きたがったイヨの希望を却下して、ゲーセンへ。


 最初はクレーンゲーム。


 メルディ達がやっていた自力タイプもあれはあれで楽しそうだが、こういった繊細な動きが要求されるタイプも乙なものだ。


「……壊れてるな」


 ただ何度やっても取れない。微動だにしない。自分達が製作協力した魔道具の調査も兼ねていた俺が、不具合の発覚に嘆くのは当然と言えた。


「自分の失敗を道具のせいにしないの。このサイズのぬいぐるみが銅貨8枚で手に入るなんて思ってる方が甘いんだよ」


「いいや。これは設定がシビア過ぎる。ぼったくりだ。俺達はこんなアコギな商売をさせるために協力したんじゃない」


 俺……いや、俺とイヨとチコの3人が狙っているのは、50cm以上ある超大型のドラゴンのぬいぐるみ。


 交代で挑戦しているが四回、それも毎回違う方法・角度からアプローチしているのに微動だにしないのは、流石におかしい。


「お上手ですわ! これは取れ……あーっ、惜しいですわ!」


 チコ、二回目の挑戦で惜しくも失敗。ドラゴンの胴体を掴んで持ち上げることには成功したが、動き出した時の衝撃で落ちてしまった。


「がっつり動いたね」


 すかさず観戦していたココが冷静なツッコミを入れてくる。


「取れたー!」


 その直後。イヨが二回目の挑戦で見事ゲット。


「何か言うことは?」


「……遠隔操作か」


 ココの視線から目を逸らしながら、天井近くに設置されていた監視カメラを睨む。


「違うと思うよ。お姉ちゃんがよく『負けた原因を自分以外に押し付けてたらいつまで経っても勝てない』って言ってるけど、わたしは失敗も同じだと思う」


「何言ってんだ。クレーンゲームとギャンブルは別物だぞ。こっちは魔道具。あっちは対人。どっちも実力が関係するって建前であの手この手で不利な状況に追い込むけど、最初から勝てない設定ならただの詐欺だ。賭け金の一部を胴元に取られるのとはわけが違う」


「はぁ……営業妨害で訴えられても知らないよ?」


「大丈夫だって。よくある負け犬の遠吠えだから。周り見てみ。文句言いながらもプレイしてるだろ? あれは経営状態や筐体について考察することで二倍楽しんでるんだぞ。たぶんあいつ等は帰り道でも憶測を口に出して共感するな」


 誰だって損はしたくない。失敗した責任は誰かに押し付けて気持ちだけでも楽になりたい。傷を舐め合いたい。


 それが人間という生き物だ。


「ここから搾取する側になりたいって欲望が生まれて、知識や技術を会得して、布教して初心者という名の生贄を捧げる。ねずみ講だけど楽しいねずみ講だ。店にとっては有難い限りだし」


 あと『プレイすればするほどアームのパワーが上がっていく』という正解から目を逸らさせるためには、こうやって憶測を飛び交わせる必要があるのだ。


 ――というわけでLet's デマ布教。


「遠隔操作じゃないとしたら物欲センサーだな」


「ぶつよくせんさー?」


 店員からもらった袋を抱きかかえたイヨが割り込んできた。


 この話が終わればマウントタイムに入れるのでウッキウキだ。


 させぬ……絶対にさせぬ……。


「世界は精霊を通じて神に監視されていて、『これがほしい』『あと1つで達成』っていう生物の欲求を察知して出し惜しみすることで、長く楽しめるようになってる可能性がある」


「ほんとに!?」


「い、いや、でも心当たりがあるぞ!?」


「俺もだ! この前の二十回やっても取れなかった景品が、後ろのやつに譲った途端にあっさり取られて涙で枕を濡らしたんだ!」


「もしそれが事実だとしたら僕達のやってることは一体……」


 イヨに続いて周りの客達も騒ぎ始めた。


「他人の言うこと簡単に信じるな。詐欺に遭うぞ。これは『そうかもしれない』って可能性を楽しむゲームみたいなもんだよ」


 早い者は会話を振られるより先に、遅い者でも正論パンチを喰らってすぐに、ケタケタ笑いながら散っていった。


 ゲーセンは誰もが一瞬だけ陽キャになれる場所だ。


 テンションが上がっていれば陰キャでも……というか普段こういったノリをやりたくても出来ない陰キャだからこそ、憧れてはしゃぐのは仕方のないこと。絡んでも平気かどうかもこれまでの俺達のやり取りを見て判断したのだろう。



「お前等よく六回で取れたな」


「あん?」


 イヨがドヤ顔で袋を抱える横で、俺とチコはまだ諦めきれず交代制で挑戦を続けることに。設定が甘そうなこの台を捨てるのは早い。


 やがて補充が終わり、イヨのアドバイスを受けながらチコがアームを動かす。


 その様子を眺めていると、見知らぬ男達が気さくに話しかけてきた。


「この台、有名なんだぜ。銅貨二十枚は使わないと取れないって」


「ほぉ~」


 嘘を言ってる感じはない。


 つまりイヨが六回で取れたのは、奇跡か、あるいは今日がサービスデーか。判断するのは俺かチコが何回で取れるか見てからだな。


 俺は空返事で応じる。


「さっきの話じゃないけど、実は俺達プロの間では金額でアームの強さが変わるって説が濃厚でな。例え違ってたとしても取りやすい場所まで移動させて捨てる素人は多い。そこを掻っ攫うつもりでずっと見張ってたんだよ。所謂ハイエナってやつだな」


「いや、プロってなんだよ。素人ってなんだよ。その時間で働いて、稼いだ金で取れるまでやった方が絶対効率良いだろ」


「チッチッチッ。わかってねーな。他人の手柄を横取りする快感は何物にも代えがたいのさ。合法的に出来るのはここぐらいのもんだ」


 社会に出て数年は経っているであろう20代の男が誇らしげに言った。


 色々ツッコミたいのは山々だが、彼等も少し前までは搾取される側だっただろうし、先程も言ったように生贄の循環は必要かつ楽しいものなので何も言うまい。これもある意味、勉強であり努力だ。


「やりましたわ!」


「ふふーん! わたしがアドバイスすればざっとこんなもんよ!」


「いえーい」


「……やっぱ銅貨六枚で取れてるけど?」


 盛り上がっているので交代する必要がないと判断されたのか、連続でプレイしていたチコが再び六回で景品をゲット。やはり俺が見込んだ通り甘い設定になっているようだ。


「今回、俺達はそれとは別の快感を得るためにここへ来た。なんだかわかるか?」


 無視すんな。


 口に出すとココから「おにぃも詐欺だって言ってたよね」という正論パンチが飛んでくるので触れないが、再び景品が補充されるまでの間ぐらい彼等の相手をしてやろう。


「ズバリ。年端も行かない少女とニャンニャンするためだな。ここならアドバイスって建前で声掛けられるし、ゲットした景品渡して仲良くなることも容易い。次回の集合時刻も決めやすい」


「ちげーよ」


「そうだそうだ。それなら通学路を狙うっての。住所もわかって一石二鳥だ。ゲーセンで手に入れたお菓子が余ったってことにすればプレゼントしても違和感ないし、今度好きなものを取ってあげるよってゲーセンデートに持ち込むことも出来る」


「「「…………」」」


「あ、いや、違うぞ。俺は考えることが好きなんだ。子供と接点を持つために一番効率良い方法が何かって考えたらそうかなって。い、い、今、考えたことだぞ」


 ハイエナB改めロリコンBは放っておくとして、


「正解は?」


「新しいグッズが出るって情報をとある筋から入手してな。お前、亀ライダーって知ってるか?」


「まぁ人並みには……」


 魔獣を討伐する冒険者は言ってみれば悪を倒す正義のヒーロー。勇者や英雄のようにエンターテインメントにしていたこともあり、これに目を付けた各企業が売り出した中で特に人気を博したのが、亀をモチーフにした『亀ライダー』だ。


 普段は味方を守る盾をしつつ、全員の心を一つにして放つ必殺の爆裂ボンバー。心優しいイケメンが力を持ってしまったばかりに戦場へ駆り出されるその姿は、人々の心を打った。


「系列店ともなれば、新作グッズをどこよりも早く販売する。それをいち早く手に入れて見せびらかしたり、後からのこのこ現れて待ち時間に顔をしかめてる連中を見下すのが、俺達の目的だ」


「まぁ見てな。もうすぐ景品の入れ替えがおこなわれるはずだ。騒ぎを聞きつけた素人どもが群がってくる様子は圧巻だぜ」


 なんだその超絶陰キャな楽しみ方……。

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