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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十五章 神獣のバーゲンセールⅡ

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千三百七十四話 総合遊技場1

 ヨシュア中央部から少し外れた場所に、それはある。


 ――総合遊技場『遊楽』。


 北部復興で名を上げたロア商店街に対抗しようと、アリスパパことエドワード領主が俺に相談してきたのが始まりだ。


 俺はロア商会の人間で、技術提供したのもロア商会なのだが、それは内緒にするとして――。


 スポーツアトラクションからゲームセンターまで、楽しさを提供してもらうのではなく自ら楽しさを生み出すことを目的としたこの施設は、見事北部との共存に成功した。


 個人経営者にも配慮した結果、企業でも商店街でもない新しい形の娯楽施設となり、今や学生から老人までが集う人気スポットとなっている。


「さあ! 着いたぞ!」


 三棟並んだ巨大ビルの一つ、北口の前で仁王立ち。テンションが振り切れた少女達に向かい、俺は声高らかに宣言した。


「ここから先は俺の指示に従ってもらう。意見するのは自由だ。ただし正当性が認められなかった場合は拒否するし、拒否されてもなお感情論で意見するならパーリーナイツは終わりだ」


「昼だけどね」


「イエスかノーで答えろ。10歳以下のお前等は保護者が居なければ立ち入ることすら出来ないんだぞ。俺はここで帰っても良いんだぞ。わかったら『ごめんニャン』と言え」


「典型的な権力を握らせたらダメな人だね」


「……帰るか?」


「ごめんワン」


 猫なのにワン。ありですね。



「はじめてなんですが」


「ではあちらで会員登録をお願いします」


 一応従う気はあるらしく、受付付近をうろちょろする子供達を横目に、カウンター横にある机で申し込み用紙に記載。身分証明書であるギルドカードと共に提出し、チェックしてもらう。


「はい。登録完了しました。こちらが会員証となります」


「ども」


 プラスチック製のトランプのようなカードを差し出してきた受付嬢は、手慣れた様子で説明に入った。


「フードコートをはじめとした一部有料エリア以外は時間内であれば自由にご利用していただけます。時間を過ぎた場合は延長料金が発生するので、お帰りの際に支払いをお願いいたします」


 その後も持ち込みはあーだこーだ、使ったものはこうしろああしろ、退出時はどうたらこうたら、有料エリアはここからここまでなど、長々とした説明が続く。


 アドバイザーをした俺は当然知っていたし、カウンターの奥にデカデカと料金表があるので言われなくてもわかるはずだが、クレーマー対策だろうから大人しく聞いておく。事前に言うのは大事だ。


「それではご利用時間はどうなさいますか?」


「6時間で」


 個人的には3時間で十分なのだが子供達が満足しないだろう。疲れたり飽きたら早めに出れば良い。わざわざ延長手続きをさせるのは可哀そうだ。


「ほら。ガキ共集まれ。手の平に見えないスタンプ押してもらえるぞ」


「なにそれ、楽しそう!?」


「勝手に外に出たら全身にバカって印が浮かび上がる魔方陣」


「なにそれっ!?」


 そして、特殊な光に反応する紋章インクを手に入れた俺達は、魔窟と言っても過言ではない施設内に旅立った。




「で、最初に来るのがフードコートかよ……」


「パフェの分のカロリーを道中で使い切っちゃったんだもん」


 イヨの言い分に耳を傾けながら、俺はポジションが保護者側になりつつあるココと共に、ガラス越しに賑わう飲食街を眺めた。


 卓球やボウリングでひと汗かく予定だったのにどうしてこうなった。直前に腹を満たしてしまったので、このままではラーメン一杯すら完食出来る気がしない。


「長期間の祭りって終わりの見極めが難しいよなぁ」


 そんな時は慌てず騒がず時間稼ぎ。


 空いていたテーブルに腰掛け、店主がフランクフルトを焼く様子を見ながら呟くと、少女達が小首を傾げる。


 約一名、俺の隣に座っていたアホが、意地悪で各エリアのネタバレされるに違いないと両耳を塞いで敵意を剥き出しにしているが、これは気にしなくて良いだろう。


「品切れになるぐらいなら余らせた方がマシだから、ああやって準備したものが終了間際になったらあっちこっちで値引き始まるだろ? 持ち帰るのも邪魔だし少しでも売った方が得だから、赤字にならない程度に……場合によって赤字で売り出したりするじゃん。いや、するんだよ。特に飲食物は」


 再び首を傾げようとする一同に先手を打つ。


「そんなことをして大丈夫なんですの? 味を占めた者達が値引きを狙うようになって正規の値段で売れなくなるのでは?」


「ところがどっこい。なんだかんだ売れるんだなぁ。祭りはそういう場所だ。旅行先と同じで高かろうが雰囲気を味わいたいからみんな買ってくれる。残った商品は関係者に分ける場合もあるから必ずしも手に入るわけじゃないしな」


「1000年祭みたいに昼夜問わずやってて気が付いたら撤収してるような祭りだと、そういうの難しいって話?」


 先日の王都での体験を思い出しながらココが言うと同時に、他の者達も『それがどうした?』と根本的な部分を否定する空気を醸し出し始めた。


 いつの間にか肩から降りたイヨもそれに倣う。そんなことしてるから話についていけなくなるんだぞ。


「チッチッチ、キミ達は愚かだ。金のことしか考えていない。一斉に終わることのない1000年祭の触りしか体験したことのないお前等は知らないだろうが、祭りの最後ってのはなぁ……オリジナル商品つくらせてくれたりするんだよぉ!!」


「なんですってええええ!!」


 今度はイヨが食いつく。他の子供達も興味津々だ。


 俺は笑って続ける。


「例えば余った素材を全部つぎ込んだ超巨大綿菓子をつくってくれる」


「どんなにサービスが良いところでも一回り大きいだけなのに!?」


「それだけじゃない。自分でつくらせてくれたりもする。最後だから1人の客に専念出来るし、行列になることもないからな」


「そのサービスだけで一生戦えるわよ!?」


 それは俺も思う。衛生面だの安全面だのごちゃごちゃ言ってないで好きなように体験させてやれば良いんだ。手作り出来るところは無駄に高いし。


 まぁたまにしか出来ないからこそ特別感が生まれるんだけどさ。


「他にも、フライドポテトなら売り物にならない小さな欠片を、バウムクーヘンなら削ぎ落した部分をおまけでくれたりする。知り合いの店ならたこ焼きやたい焼きの中身を別のものにしてくれたりもする。カキ氷の味をミックスしたり、ドリンクを混ぜたり、金魚すくいの網やヨーヨー釣りの糸を二重三重にしてやらせてくれたり、そこでしか出来ないイベントが盛りだくさんだ」


「神イベじゃない!!」


「略すな。というか満足度の高いイベントの造語なんてどこで覚えた?」


 俺は言ってないぞ。たぶん。


「シュナイダーさんがよく言ってる」


(あんのホモ蛇ぃ……)


 どうせ男だらけの冒険者パーティが人気のない場所に居る時とかに言ってんだろ。罠にハメて好き放題絡ませられるから。もしくは手を出す前に琴線を刺激するシチュエーションになってた時。


 流石にそのままは伝えていないと思うが……。


「ヨシュアだと無理なの?」


「いんや、逆だ。1000年祭だと無理。あれって後夜祭の空気感がないと出来ないもんだし。みんなでワイワイ片付けながらやるもんだし。各国の名産品を取り扱っている店舗は値引きや味を崩すようなことはしないだろうし」


 もはやそういうイベントと言った方が良いかもしれない。


 建物の裏で怪しげな遊びをしていた子供がやってきたヤンキーにビビって帰ったり、そのヤンキー達も見回りの教師や警察官にビビって立ち去り、その後に始まるカップルのイチャイチャ。憧れのあの子が恋人らしき異性と一緒にいるのを目撃してへこみ、それが美形orブサイクでさらにへこみ、相手が自分の知り合いで裏切られた感で二重にへこむ少年少女。


 それ等を肴に柄の悪そうな店主が酒を飲んだり、近くのコンビニで買ったであろう菓子をむさぼったり、生意気なガキが「それくれよ」とねだったり、祭り特有のゆる~い空気が大事だ。


「いつ!? ヨシュアの祭りはいつ終わるの!?」


「予定では今月一杯やるみたいだな。たださっきのフランクフルト屋みたいに自分達の判断で店仕舞いするところも多そうだから、あんま期待すんなよ」


「なんで言った!? じゃあなんで言った!?」


「知り合いが多ければそんなことにならないって忠告がしたくて」


「こ、これが人間社会の……やみ!!」


「違います。コミュ障や友達の少ないヤツは損するよ、生きづらいよって話。知り合いが多すぎても持て余してしまうので、自分の実力に見合った関係性を構築しましょう」


「普通に『お店閉めるのはいつ頃ですか? 自分で作ってみたいんですけど良いですか?』って訊けば良いよ。知り合いじゃなくても子供なら割とサービスしてくれるよ」


「コドモスゴイ!!」


 JKのブランド力を知った女学生のような衝撃に見舞われたイヨは、ポーチから取り出したマジックテープ式の財布片手に、閉店する空気を微塵も感じさせない近くのクレープ店へと走っていった。


 それ個人経営じゃないと無理だぞ、という俺の言葉は当然届かない。



「こらこら、ココさんや。甘やかすんじゃありません。自分の立場を利用するのはもう子供じゃないぞ」


「え~? 助言ぐらい良くない? これが正解ってわけじゃないし、挑戦する心を培うためにも子供に可能性っていう道を示すのは良くない?」


 その考えがもう子供じゃない。


 まぁ助けてやるのは良いと思う。もちろん最終的には自分で解決してもらうが、直接交渉や周りの力を借りる解決方法も教えるべきだ。


「てかなんでその精神があるのにイジメは放置してんだよ?」


「放置なんてしてないよ。わたし言ったんだよ。『嫌なことはちゃんと嫌って言わないと伝わらないよ』『助けてほしかったら自分から動かないとダメだよ』って。でもアイラちゃんは何もしなかった。本人の意思は尊重せずに自分の正義感で動くのはただの押し付けだよ」


 意識高過ぎるよ……6歳に求めることじゃないよ……。


(っていう認識がそもそも間違いなんだろうなぁ。『学ぶ』『実践する』『結果を出す』っていう生物の基本理念に大人も子供も関係ないし。やれるかやれないかだけだし)


 ちょっとした意思表示で解決する問題すらこの有様だ。全人類が清く正しく美しく生きられる社会の実現なんて夢のまた夢だろう。


「あ、ちなみにこれはパパ達からの受け売りね。色んな人の助けや押し付けを断り続けてきたおにぃなら理解してくれるから伝えても問題ないとも言ってた」


「ハッ。買いかぶり過ぎだよ。俺なんてフィーネ達に甘えっぱなしだぞ」


「パパはこうも言ってた。『ルークは自分が楽するために他人を頼ったことは一度もない』って。みんなで仲良く努力出来る環境づくりのためだって」


「それも買いかぶり。将来のための先行投資だ。お陰でこうしてキミ達と仲良くさせてもらってる。ほら。これで好きなもの買っておいで。おじちゃんお金沢山持ってるからね。この後も良いことしようね。でゅふふ」


「わーい!」


「たすかる」


「ど、どうも……」


 銀貨を握りしめて駆け出す子供達を見送りながら、俺は周囲に目を向けた。


「……さて、一番腹に溜まらないやつを探すか」

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