表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1652/1659

外伝47 謎だらけのミスティ

「――って感じね。レト達と魔獣達、どっちの力不足かはわからないけど、知識や技術を教えるので精一杯で身に付いてはいないから、神獣化はまだまだ先になりそうね。切っ掛けさえあれば突然覚醒するものだと思ってたんだけど違ったみたい。まぁ3人共魔獣と仲良くやってるから時間の問題だとは思うけど」


 山籠もりをはじめて1週間。


 定期報告をするべくレト達を残して1人王都へとやってきたアリシアは、例の試験会場で、神獣化の研究と防壁の調査を担当している者達にここまでの成果を語っていた。当然その中にはイブの姿もある。


「それは何より」


「「「そ、そうですね……」」」


 報告を聞き終えた一同は2パターンの反応を見せた。


 片方はいつもより若干朗らかに頷くイブ。


 もう片方は顔を引きつらせる研究者。


 かしこまった雰囲気が苦手なアリシアの我がままによって王城や研究所ではなくこのような場所に呼び出されたことへの不満や、王女のぞんざいな扱いではなく、話の内容……人里離れた山奥でおこなわれている地獄の修練が原因だろう。


 まぁ結果を出している上に巻き込まれたくないので咎めたりはしないのだが。


「そっちの調子はどう?」


 そんな一同の内心を知ってか知らずか、アリシアは平然と話を切り替えた。


 身勝手な批難はもとより、代案を提示されてもよほどの説得力がなければ受け入れる気のない彼女なら当然のことだ。


「クロの調査も防壁の調査も進展無し。候補者の教育は順調。防壁を調べてる時、動けなくなった人達を嬉しそうに鞭でシバいてるレイクたんをよく見かける」


「ふ~ん」


 こちらはこちらでテキトーな相槌。


 気にするだけ無駄だと諦めているのか、彼女達がその行動に疑問を抱いていないのかは謎だが、アリシアが王都でおこなわれている活動について詳しく知る気がないのは間違いない。


 レイクから次のステップに進む許可をもらった者がいれば連れて帰ろうと思っただけである。もちろん絶賛調査対象にされている相方クロも。


 難しい話は難しい話を理解出来る者達でやればいいのだ。


「ただやり過ぎだって、非人道的だって批難する声もある」


「ってことは、賞品が豪華なスポーツ大会開いてそういう声が出ないようにするって作戦は失敗したのね。そこまでするのは報酬が良いからに違いないって羨む声になる予定だったじゃない。一旦わからせとく?」


 実力行使で不穏分子を排除すると書いて『わからせる』と読む。


 あまりにも自然に入れてきた恐ろしいワードにドン引く研究者達を他所に、正義感の強い少女は嬉々として語り始めた。


「ほら。私達がやってることってセイルーン王国が取り掛かってる神獣化計画とは関係ないじゃない? 何をしようと迷惑掛けないわよ?」


 アリシア達のスパルタ教育はあくまでも彼女達が勝手にやっているだけ。国は独自路線で適性者を育てている。


 さらに、彼女達が正しくて国の方針が間違っていたなどということにならないよう、神獣化には失敗したが訓練生が成長したことで防壁の修繕が可能となったことにするシナリオまで用意されている。


 大事なのは真実ではなく事実。


 魔獣と心を通わせた人間でなければ役に立たないなどという真実はどーでもいいのだ。


 彼等を支えるという仕事もあるかもしれないし、足りない分はその他の一般人が補う必要があるかもしれない。そういった可能性を必須情報として広めるだけ。本当に必要な可能性もあるので嘘ではない。防壁の修繕には人類の力が必要なのだ。


「最近山に籠っていたせいで対人戦が出来なくてウズウズしてるだけじゃ……そもそも責任の所在やら騒動が起きる場所が違うだけで迷惑ではありますよね?」


 勇気ある……いや、アリシアという戦闘狂のことを何も知らない無知な研究者が、自分なりの正義に従って冷静に指摘する。


「邪魔者がどうなろうと知ったこっちゃないわよ。口出しして良いのは排除される覚悟のあるヤツだけよ。ま、悪事を見過ごす輩は口出ししないことを理由に殴るけど」


「えぇ……」


 例え暴行事件によって計画に支障が出ようと友人を悲しませる悪漢は問答無用で殴る。支障が出なければ積極的に殴る。悪漢でなくても戦闘を吹っ掛ける。


 それが彼女の倫理観であり正義。


「必要ない。想定してたほどの効果がないだけで失敗じゃない」


 戦いたくてウズウズしていることは否定せず、実行する気満々なアリシアに呆れる一同と違い、イブが臆することなく答える。引き留める。


 こちらも気にするだけ無駄だと諦めているのか、アリシアの倫理観に疑問を抱いていないのかは謎である。


「たしかに計画に影響はないし、レイクたんも気にしてないけど、妨害工作や騒ぎに対して何も出来ないから申し訳なくなる。止めるように言われた時に『本人が望んでやってることだから』って言ったり兵士達に言わせるのが精々」


「十分でしょ。どうせ文句言う連中には『おや? 興味がおありですか? よろしい。では体験させて差し上げましょう』とか言って強制的に参加させてるんでしょ? 面と向かって言えるヤツはまだ見込みがあるから合法的に選別出来てラッキー、とか内心喜んでるわよ。きっと」


「それは私も同感。順調じゃなければレイクたんは怒る」


(((あ、そういう……)))


 嬉々として体罰を与えている理由をはじめ、抗議の声が一定数を超えなかったり最近イブの様子がおかしかったことなど、様々なことに納得のいった研究者達は心の中で呟いた。さきほど指摘した男も同じ反応。早くも諦めたらしい。


「でもそれと私が抱く申し訳なさとはまた別の話」


「まったく……本人が好きでやってることを咎めるとか何考えてるのかしらね。ホント鬱陶しいわ。余計な手間が増えるだけじゃない」


(((アンタ何もしてないじゃん)))


「新しい挑戦にはそういう苦労がつきものだとわかっていてもやるせない」


(((アンタも何もしてないじゃん。過去にやった挑戦も王族の権力でほとんど握りつぶしてきたじゃん)))


「力で黙らせたら批難されるしホントおかしな世の中よね」


(((もしかしてそれを恐れて権力者の皆さん頑張ったんじゃ……)))


 研究者達のツッコミはいつまでも続いた。




「ミスティさんが謎」


 報告が終わると次は議論。


 難しい話に興味のないアリシアと違い、彼女のおこなっている教育および魔獣との関係性に興味津々なイブ達研究者は、嫌がるアリシアを拘束して質問タイムに突入した。


 そして思考と納得を繰り返す中で生まれたのがこの疑問。


 他にもいくつも疑問点はあるが最大はこれだ。


「一部とは言え魔獣と心を通わせることで神獣化への第一歩としたレト君。秘めたる力のお陰で属性特化したフク君はわかる。なんとなく好かれて、なんとなく力を与えて、なんとなく順調なミスティさんは何?」


「何って言われてもねぇ……本人は必死だったから覚えてないみたいだし、サポートしてたイーサンは目を離してたから、レトとフクとは別の方法で魔獣と仲良くなったことしかわからないわよ。魔獣に与えた力と知識が良い感じに作用したんじゃない?」


 と、興味なさげに答えるアリシア。


 当然イブが納得するはずもなく、


「仮定が多いのは困る。せめて与えたものの前後関係ははっきりさせてくれないと」


「ルークもよく言ってるけどそれってそんなに重要なものなの? 『なんか出来た』じゃダメなわけ? 難しく考えても出来ないものは出来ないし、出来るものは出来るじゃない。自分の努力が世界から認めてもらえたってことで良いじゃない」


「それを言い出したら研究の存在意義がなくなる。不確定を無くすのが研究の楽しいところ」


「で、新しい法則を見つけてこれまでの研究がパー。一からやり直しになるのよね。進展どころか後戻りしてない? 結局あやふやなまま理解したことにしてない? この前の錬金術がどうとか化学反応がどうとか嘆いてる連中見かけたわよ」


「それだけは言っちゃダメ。わからないことがわかるのは大事。例え頻繁に常識が変わって大衆に迷惑を掛けようと探求心は持ち続けるべ……き……」


 急に言葉の勢いを失ったイブは、真剣な顔でブツブツ呟き始めた。邪魔出来る雰囲気ではなく全員が押し黙る。



「ミスティさんに会わせて。相棒になったアーススライムも見たい」


「一緒に山へ行くってこと? 別に構わないわよ」


 そしてアリシアに申し出て、2人は――。


「おやおや。何やら面白そうな話をされていますね。ワタクシも同行させていただいてよろしいですか? ああ。教育の件でしたら心配には及びません。オーちゃんを残していきますので。花という生物扱いすらしていなかった存在から虐げられることで彼等の精神はさらに削れることでしょう」


「いよいよ最終段階ってわけね。それを受け入れたら魔獣とも対等になれそうね」


「流石アリシア様。よくおわかりで」


 急遽護衛に加わったレイクたん含め3人は王都を後にした。


 護衛も連れずに外界に行くことは流石に許容出来ないという真っ当な意見も何故か出ず(町中でもどうかと思うという意見はそもそも無視)、王城で涙を流す者が続出したとかしないとか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ