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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

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外伝45 からっぽイエロー

 世界でも有数の大国セイルーンの中心部……王都の近くには、歴代のセイルーン王一族が眠る白霊山という霊峰と名高い山がある。


 年に一度、墓参りと守護神への挨拶も兼ねてセイルーン王族が訪れる時以外は一般開放されているため、観光名所として多くの参拝客とそれに見合うほどほどの清掃費が投じられている他、建国に携わった強者達の計らいで地下にトンデモ空間が存在しているこの山は、精霊から王国民まで多種多様な者から大切にされてきた。


 まぁそれはそれとして――。


 白霊山からそう遠くない場所にある樹海の奥深くで、少年が倒れたことから話は始まる。



「ぜぇっ……ぜぇっ……も、もう無理……ぜぇっ……魔獣……わけ、ない……」


 ひと気のない獣道・息を切らせた少年・魔獣。


 このワードから『襲われている』を連想することは容易いが、少年は一切振り返らず、ただ前だけを見ていた。地面に突っ伏した今も前だけを見ている。


 言葉の節々から溢れるのは落胆。そして絶望。


 若干の危機感も混じっているが、命を案じるような重々しいものではなく、仕事のミスを上司に怒られないか怖がる程度のもの。


「無理じゃなーーーい!! ガッツを見せなさい!! 死ぬ気で追いかけなさい!!」


 その若干の危機感の矛先、アリシア=オルブライトは、自分の倍の体重はあろう少年ことフクの襟首を掴んで片手で軽々と起こし、叱咤激励した。


「心配してもらえなかったらすぐ立ち上がれって何度言えばわかるの!? 『ふふふ、捕まえてごらんなさ~い』は興味を失ったと思われたら終わりよ!?」


 今彼等は、魔獣との追いかけっこの、神獣化計画の真っ最中。


 夏場の山登りやぽっちゃり体型、十代中盤の新陳代謝の良さを加味しても凄まじい量の汗をかき、息を切らし、足を震わせているのは、直前まで全力疾走していたせい。登山者や冒険者にしては軽装なのも獲物を捕まえるためだ。


「み、水ぅぅ……」


「水分補給したければ魔獣を捕まえなさい! そのための脚力が足りなければ魔力で補いなさい! 魔力が底を尽きてるなら限界突破しなさい!」


「無茶言うな」


 肉体はそう簡単に限界突破出来るものではない。


 支えを失って再び地面に倒れこんだフクの疲労困憊など気にする様子もなく……どころか非難し、遠ざかっていく鹿のような生物を指さしてスパルタ教育を極めた発言をおこなうアリシア。


 そんな少女にツッコミを入れたパックは、身動きすら取れないフクに水筒を手渡し、休憩時間を稼ぐべく話を広げた。


「やっぱこの作戦ダメじゃね? 魔獣に認めてもらうために生身で挑戦ってのは理解出来るけど、逃げる魔獣を捕まえるだけでも無謀なのに、熱中してる時に休憩や水分補給されたら萎えるとかいう謎理論で朝から走りっぱなしで心身共に限界来てんじゃん。気持ちはわからなくはねえけど、必死の形相になってるせいで怖がられて近づくことも出来ないって本末転倒だし、今なんて再開してから5分も経たずにダウンだぞ?」


「でも着実に魔獣との距離は縮まってるわ。明日には捕まえられるわよ」


「弱り切った獲物と勘違いされてるだけだろ。ハンティング開始してからは離される一方じゃん。これなら息をひそめた方がマシだって」


「何言ってんのよ。心で通じ合うためには気持ちのぶつかり合いが必要不可欠でしょ。

 ザコだと思ったら実は強いとか、何かしら特出した能力があるとか、強くなるために努力してるとか、自分と仲良くなるために頑張ってくれるとか、相手に『おっ?』と思わせることから始まるのよ。

 見た目でごちゃごちゃ言うようなヤツは捨ておきなさい」


「第一印象って大事じゃね?」


「わかってるじゃない。そう。第一印象は大事なのよ。最初で心が通じ合えないと本当の意味で仲良くはなれないのよ。無理させたり妥協させるだけ。アピールするんじゃないの。心の底から必死になるの」


「オイラ、恋人は友達の中から選びたい派なんだけどなぁ……知り合ってからわかることってあるじゃん。人って変わっていくもんじゃん」


「そう言われて捕獲に成功したレトは、金玉蹴られて死にかけたじゃない。あれは見た目が良いから近づいたけど合わなかったっていう破局の典型よ。もし己を押し殺してたらあのウッドベアは不幸になってたでしょうね。それじゃあダメなのよ。己を押し付けるってそういうことじゃないのよ」


「それってアリシアが最初から気が合う相手と仲良くしたいだけじゃ……」


「良いじゃない。誰にも正解がわからないなら成功するまでやってみるしかないんだから。失敗に惜しいも何もないわ。私は私が正しいと思うやり方でやらせてもらうだけよ」


「でもこれじゃあやってること他の候補生と変わらないよぉ」


 アリシア達に心と体の未熟さを見抜かれ、それ等を叩き直すべく限界を超えるために限界まで走り続けている王都の者達と自分の何が違うのか。


 4時間ぶりにおこなった水分補給および休息から1分足らずで復活したフクが尋ねる。


「……復活早くね?」


 渡したのはその辺で汲んだただの水。


 補給係として、精霊術に詳しい妖精として、彼の身体能力の低さを理解しているトレーナーとして、誰よりも事態を把握しているパックの驚きを隠せない。


「あ、うん。なんかやたら体調良いんだよね」


 そう言ってフクは会話だけに飽き足らず立ち上がってストレッチまで始めた。


「フクは水属性の適性が高いのかもしれないわね。これまでは他の属性が邪魔してたけど、全部出し切って水に特化した治癒の力が使えるようになって、自分を回復させたのよ」


「これってそういう次元じゃなくね?」


「ならこの状況をどう説明するつもりよ。レイクが切っ掛けを与えてたとか?」


「いや、それはオイラにもわからねえけど……」


「じゃあゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ。理屈なんてどーでもいいわ。さっきも言ったでしょ。成功するまで続けるだけだって。大事なのは出来るかどうか。とにかくフクは水属性を伸ばしていくわよ。相棒も池とか海にいる魔獣が良さそうね。もしくは逆に火属性。

 こんなことならヨシュアブルーに任命しておけば良かったわ。レッドは私だし。ねえ、イエローって何が出来るの?」


「さ、さぁ……? ルークさんならわかるんじゃないかなぁ」


「それもそうね。今度訊いておくわ」


「なんかこのやり方を認めるみたいでめちゃ悔しいんだけど……たぶん出来たとしてもン万人に1人レベルだし……あ、はい、すいません」


 再び生産性のないネガティブ発言をおこなってアリシアに睨まれたパックは、気を取り直して自分なりの意見を出した。


「火属性で真っ先に思いつくのはドラゴンだな。たしかミスティがヨシュアにドラゴンがいるって言ってたよな。あれはダメなのか?」


「無理ね。あそこにいるのは全員強者に従ってる魔獣だから。人類に力を与えてもらうぐらいならそっちに頼んだ方が絶対強くなれるし確実でしょ?」


「……なるほど」


「それ以前に僕にドラゴンを相棒にするほどの能力はないよぉ」


「っ、バカ!」


 フクが正論という名の泣き言を言った瞬間、パックが叫び、アリシアが睨んだ。


「アンタ自分の限界を決めつけてたわけ!? そんなヤツが力を手に入れるなんて世の中間違ってるわ! ちょっと出てきなさいよ、神! 条件を満たしただけで覚醒出来るなんてふざけたシステム作ってんじゃないわよ! 条件の中に熱意も入れておきなさいよ!」


 すぐに察して口を抑えるも時すでに遅し。


 当人フクはおろか神にまで説教を始めた。


「うっ……なんか急に疲労が戻って、きた、ような……」


「神に聞き届けられてんじゃねえか! 違う違う! フクは自信がないだけ! 手に入れた力がどれほどのものなのか、これまで散々失敗したのは格下相手だったせいって事実が受け入れられてないだけ! 格下から力を貰ったら事あるごとにマウント取ってきそうだし、格上だと一生見下されそうだし、どうせ教わるなら対等の相手から教わりたいからな! 足りない部分を補い合える相手が理想! 比較対象がないからフクはそれがわからず自分を卑下してしまう! 仕方ないことだよな!? な!?」


「なるほど……?」


「はい! 納得した! アリシア怒ってなーい!」


「あ、なんか楽になってきた……」


 この機を逃してなるものか。


 パックは畳み掛けた。


「王都のは甘えを捨てて自然の素晴らしさを実感する精神のトレーニングだよな。身体能力の向上はオマケ。ミスティが神獣化に失敗してるんだ。魔獣のレベルは自身の成長に合わせて高くなる……限界突破するのが前提と思って良いだろうな」


 冒険者をしている彼女は、レトやフクとは比べ物にならない身体能力を持っており、これまでに何度も魔獣の捕獲に成功している。


 が、知識や力を与えることには成功していない。


「その理屈だと僕達はどれだけ鍛えても身体能力が向上する限り成功しないんじゃ……」


 思いはしたが口には出さない、学習能力のある世渡り上手な少年の名は、フク。



「レトとミスティはまだ水分補給してないわよね?」


「ああ。あいつ等フクより体力あるからな。レトは例の事件でちょっと休んだけど水分補給はしてないしノーカンで良いだろ」


「フクっていう成功例があるんだから属性を見つける方向に変えるわよ。魔獣を追い掛け回すのは終わり。水分を与えないのはこのまま続行で、食事は葉っぱ、睡眠は土の中、あとはひたすら呼吸だけさせておきましょ。他にも属性に関係ありそうなものを限界まで奪ったり触れ合わせたりするのよ」


「まぁそうなるわな」


 レトとミスティは属性探しに、次のステージに行ったはずのフクは2人より下の基礎ステージで苦労することになるが、それはまた別の話である。

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