千三百七十話 ダークエルフ8
「ふざけるのもいい加減にしてくださいよ!? 頼みやすいからって理由で、確証を持ってる連中無視して俺に開拓を任せるとか、何考えてるんですか!?」
ガウェインさんをはじめとした一同から、労基がすっ飛んでくる量と理由の仕事を投げられた俺は、当然のように異を唱えた。
『ルーク君はトラブルを引き起こしたり愚痴を言いながらも、なんだかんだ最高の結果を出してくれるからね。大丈夫。我々も出来る限りのことはするつもりだ』
「丸投げする気満々じゃねえか。アドバイザーで妥協しろ。あと俺はトラブルを引き起こしてない。巻き込まれてるんだ。国王だからって何をしても許されると思うなよ。汚職でっち上げて支持率下げるぞ」
『信頼してくれてありがとうと言っておこう』
そんな不満と脅しに対し、ガウェインさんは慌てるでも謝罪するでもなく平然と、しかしどこか嬉しそうに礼を言った。
社会への影響や損得勘定など二の次三の次の強者達と仲良くやれているのだから当然である。彼等には『俺も訴えないからお前も見逃せ』なんて理屈は通用しない。嬉々として暴露し、悪が滅びる様子をワクワクしながら眺め、物足りないと思ったら足を引っ掛けて転ばせてケラケラ笑う生き物だ。
周りの大人達も、失敗した時の言い訳ではなく、改善に力を注げる連中ばかりのはず。粗探ししたところで若気の至りが精々だろう。
『しかしやられたらやり返すの精神はどうかと思うよ。それは争いを生む』
「俺のはただの冗談です。そっちは誹謗中傷。勘違いだろうと言い間違いだろうとガウェインさんが俺に汚名を着せたことは事実です。自分の罪を認めず一方的に正義を振りかざすつもりならマジででっち上げますからね。都市開拓してたら気付いたとか信憑性のある感じで」
『お、落ち着きなさい……謝るから。誤解を生むような発言をしてしまって本当に申し訳ない。他意はなかった』
素直に非を認めたガウェインさんは、冷や汗を垂らしながら画面の向こうで深々と頭を下げた。
『さあ。これでお互い水に流そうじゃないか。こちらも王族に対する脅迫やタメ口などの不敬罪を聞かなかったことにするから』
と思ったら愚かにもほどがある発言を繰り出した。
「お断りです。そんなことじゃ俺が負った心の傷は癒えません。むしろ深くなりました。とりま謝っとけばええやろという心の籠っていない対応や損得勘定が成り立つから社会は腐敗するんです。国のトップがそんなことでどうするんですか。大体軽々とテロに屈するのはどうかと思います。どんな理由があっても不敬を働くことは許されませんし、そこは強気にいって良かったと思います。トラブルを引き起こしたことも一度や二度じゃないですし。あくまでも印象の問題で」
『罪や失敗を認めないことが推奨され、指摘することが悪と罵られる社会が嫌いだと?』
「嫌いですね。というか好きな人間なんているんですか? 出来ないから諦めてるだけでしょ? そのせいで苦労する羽目になると気付いてないだけでしょ?」
お互い協力する方が協力しないよりも良い結果になることがわかっていても、協力しない者が利益を得る状況ではお互い協力しなくなる、囚人のジレンマ。
個人ですらそうなのだ。
会社であれば少しでも有益な相手と組みたいと思うのが自然だし、例え正義のおこないだろうと暴露は裏切り。そのレッテルは生涯つきまとう。邪魔者を追い出すために尾ひれをつけた噂が出回ったりもするだろう。
それはそうさせてしまう社会が間違っている。
大人はもっとバカになって良い。
子供の頃に思い描いた理想を追い続け、素朴な疑問を大事にし、どうすれば楽しくなるか考えるようになれば、そんな暗黒社会はすぐになくなるはずだ。
『そうかそうか。弱肉強食でも損得勘定でも利己的でもない社会とは、魔獣都市や戦闘都市にうってつけじゃないか。ルーク君の理想の社会が作れるかもしれないよ。これはもう引き受けるしかないね』
「――っ! は、謀ったなぁぁっ!!」
いつの間にか冷や汗が消えている。
すべてはガウェインさんのシナリオだったのだ。
「い、いいや、まだだ! 今の社会を変えた方が早い! ヨシュアとかもう既に理想形に近い! 世界各地に蒔いた種が芽吹きつつあるんですよね!」
『都市完成後で頼むよ。今は少々立て込んでいるのでね』
時期が来たらそっちの作業も俺にやらせる気だぁああああ!!
「真面目な話をすると都市開拓は本当に俺じゃない方が良いですね」
「俺……わ、私達にやれと?」
天を仰いで数秒。
何事もなかったかのように話を進めた俺のことを冷めた目で見つめる一同をスルーし、ダークエルフ達に視線を向けると、まだ微妙にプルプルしている部下達の代わりに元(?)変態王子が応じた。
「というより全員だな。あと鬱陶しいから普通にしろ。逆に指導理由になるわ」
「わ、わかった……」
変にかしこまられても鬱陶しいので、フィーネやルナマリアに怯える必要はないことを告げ、俺は自分以外を指名するべき根拠を示した。
「魔獣都市も戦闘都市も多種族が手を取り合って開拓するべきです。自分で開拓するのがベストですけど、力や知識を得る前というパターンもあるので同族が手伝ってさえいればある程度部外者意識の軽減に繋がりますし、魔人と魔族と人間と魔獣でやりたいことや暮らしやすい環境も違うでしょう。あとリーダー……人間社会でいうところの貴族のポジションが各種族にいた方が色々スムーズになるはずです」
『人間代表の1人をルーク君にするのはダメなのかね?』
「あれこれ指示したり作るとリーダーの上の町長にされかねません。みんなで一緒に試行錯誤出来る人じゃないと。大事なのは早く安く上手くじゃなくてパワーバランスです。実際各担当がいたリニアづくりですらリーダーにされてましたからね」
「え?」
「うるさい。黙れ」
そんなことはなかったとばかりに首を傾げたユキを一蹴し、さらに続ける。
「リーダーは永住する人の方が良いでしょう。それも現代社会に染まっていない新しい社会の形をつくれる将来有望な若者です。荒事が起きた時に解決させられるだけの武力やコネもあった方が良いですね。いくら経営者でも舐められないに越したことはありませんから」
「俺達ダークエルフに参加してもらいたいというのはわかった。しかし協力するメリットはなんだ? 他種族もだ。暴れたい者達以外は里を離れる理由がない」
「メリットはある。超デカいのがな。魔人が魔界の近くで暴れてたのは闇に惹かれたからだって話があっただろ。たぶんダークエルフも似たような状況なんじゃないか?」
エルフは風属性と土属性に秀でた種族。
その圧倒的な適性ゆえ、肉体が魔界に適応出来ていなかったり、心がエルフ族の誇りを捨てきれず闇を受け入れなかったり、適応は出来ているが上手く使いこなせていないというのが俺の予想だ。
「想いの力は無限。自分が出来ると思ってないことは大体出来ない。お前等はダークエルフであることを誇りに思ってるか? エルフより力が劣るのは血や環境のせいにしてないか? 闇は好きか?」
「む……」
「エルフであることを捨てて魔族になれってこと?」
「ちょっと違う。なるのはダークエルフっていう種族だ。エルフの亜種。エルフであってエルフでない存在。闇の力に長けたエルフ」
トレントの考える時間稼ぎか、単純に自分の知的好奇心を満たすためか、レオ兄から質問が投げ掛けられた。
「何の話よ?」
「なんで聞いてないんだよ。強者なら盗聴ぐらいしとけよ。トレントを迎えに行っててこの場に居なかったとか言い訳にならねえぞ」
「普段『心を読むな』『居場所を探るな』『空気読んで手加減しろ』って散々当たり散らかしてるクセに、都合の良い時だけ力を求めるんじゃないわよ」
「そこを含めての空気読みだぞ」
例えルナマリアが理解していても肝心のトレントが話について来れないのは困るので(ユキは知っていても知らなくても問題ないし、たぶん知っている)、ジレンマという名の我がままを突き付けるのもほどほどにして――。
「つまりアンタなりのダークエルフの力を取り戻す方法なわけね。でもそれって精神でどうにかなる問題なの?」
ダークエルフの肌の色についての仮説を述べると、聞き終えたルナマリアが小さく唸り、首を傾げた。
「無理だろうな。でも何もしないよりマシだろ。手っ取り早いのは魔人や魔族と交わることだろうけど、それは子や孫の話であって自分には関係ないから、俺は各地の自然エネルギーを取り込むことをオススメする」
「ぐ、具体的にはどうするんだ? 取り込んだらどうなる?」
藁にも縋る思いなのか、フィーネやユキが否定しないことで信憑性が出たからなのか、王子が前のめりで話に割って入ってきた。
「色は交われば交わるほど黒に近づくだろ? それと同じで、現地の物を食べたり触れたり過ごしたりして、その土地で特に強い精霊の影響を受けるんだ。
魔界で過ごしてたお前等が闇の力を受けた。でも理由はわからないけどエルフには馴染まなかった。だから結果的に闇になるようにするのはどうかなって」
「足りない部分や過剰属性が何かわからないから適応力に任せるってわけね」
「そゆこと」
生き物は俺達が思っているより万能だ。
栄養やエネルギーは足りない部分に行くようになっている。ある程度変換もしてくれる。自然任せが一番楽で無理がない。
「魔界と黒海っていう闇に近い場所を拠点として世界各地を巡って色を調整していけば、いずれは完全体ダークエルフになれるってのが俺の考え。
大陸と海洋って世界二大大自然じゃん。なんか効果高そうじゃん。海を別で作るなら交通の便とかも良くなりそうだし、開拓を手伝いながら知識とか技術とかコミュ力とか色々身に付けて、巣立ったり帰郷したり相手を見つけたりして、自分なりの闇の力を手に入れれば良いんじゃね?」
「なるほど……転移装置を使えば各地への移動は容易となり、その土地のものが手に入りやすくなる。さらにその土地が適していれば長年暮らすことになる。それ等の大前提として暮らしてみる必要があるわけだな」
「地下鉄もあるしな。パワースポットとして優秀だから転移装置が使えて、転移装置が使えるからパワースポットとして優秀っていう卵鶏理論だ」
俺は、乗り気になってくれたダークエルフ達(核心に迫った辺りで復活した)に笑みを浮かべ、最後に「もちろん協力はするぞ」と言って話を締めた。
さりげなくフィーネの様子を窺ったが、微動だにしないので正解はわからなかった。まぁやってみればわかることだ。たぶん上手くいく。
「いや~。まさか転移装置がこんな形で役に立つとは~。捨てなくて良かったです~。学生時代使っていたノートも、5cmほどの余った銅線も、使用期限が切れた割引券も、大切に保管しておいたらいつかどこかで役に立つんです~」
それは捨てろ。




