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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

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千三百六十六話 ダークエルフ4

「ルーク=オルブライト。貴様……き、貴公の言い分は理解した。たしかに当時と今では状況が違う。世界樹の子が率いるロア商会の力があれば、杜撰な計画が破綻したとしてもなんとかなるだろう。嘘か誠か強者の知り合いも多いようだ」


 ユキがツッコミどころ満載の史実を語った後。


 なんとなく予想はついているが、一応根拠を尋ねようとしていると、ウィルスがおもむろにケンカを売ってきた。これは紛うことなき敵対の意志表示だ。


「お? やるか? 今フィーネが放ったのは夕食の邪魔にならないよう配慮した圧で、その気になればお前等の全身が勝手に震え出すぐらいの圧を放てるんだぞ?」


 これまで一切触れなかったので殺伐どころか食事すらしていないように見えるかもしれないが、喋っていない間にちゃんと食べている。


 どれだけ深刻な議題だろうと作ってくれた人や奪った命を粗末に扱うなんて許されないし、冷めたり固まったり本来の美味しさが損なわれて心が荒んだらスムーズに進むものも進まない。


 楽しむことは正義だ。


 もしただの話し合いならダークエルフ達はもっと語気を荒げていただろう。


 ちなみに、滅多に外界に来ないらしいので「な、なんだこの料理は! 美味い、美味いぞおおお!」的な展開を期待したが、来客を想定していない、かつ調味料や調理法が世間に浸透しているためダークエルフ達がノーリアクションだった。


 まぁここは悲しむより喜んでおこう。


「他人の威光で威張ってんじゃないわよ……」


「平和的な解決方法と言え」


 この開戦の合図を出すかのように構えた手を振り下ろしたところでフィーネは真に受けないと思うが、一応礼は言っておこう。


 ルナマリア、ツッコんでくれてありがとう。


「で、わざわざそれを言うってことは、ユキの話には納得してないんだよな? 間違ってるのは自分達じゃなくてそっちだって言いたいんだよな?」


「あ、ああ……何故魔人は悪ではないと断言出来る? 何故勘違いだと断言出来る?」


 当然の主張だ。誰だって自分が正しいと思っていることを否定されるのは嫌だ。ましてや相手は初対面。


 ユキの力を知っている俺ですら(というかユキの性格を知っている俺だからこそ)根拠を求めたのだから、何も聞かずに彼等が納得するわけがない。


「悪じゃないなんて一言も言ってませんよ~。意図せず争いを激化させたり、自らの意志で殺戮をおこなったり、多かれ少なかれ戦乱の世には関わってます~」


「彼等が言ってるのはそういうことじゃないぞ」


「ほわ~っつ?」


「確信犯であることを理解した上で説明してやる。今さっき自分はまだ生まれてないって言っただろ。つまりお前は、文献を読んだり風の噂で聞いただけの当事者以外からの情報を、改変された歴史を、史実と思い込んでる可能性もあるわけだ」


「何が正しいかは私が決めます!」


「決めんな。根拠を示して、各方面からの視点で語れ。何が正しいかは俺達全員が各々で決める」


 主張自体は間違っていないが今ではない、おそらくただ言いたくなっただけの意識高い系女子(笑)から投げられたボールを叩き落とした俺は、「次ふざけたらフィーネに任せるぞ」と脅迫じみた視線をユキに向ける。


「ではまずはそちらから根拠を提示してください」


「お前はどの立場なんだ……」


 と、急にダークエルフ達を試すようなことを始めたユキにツッコミを入れながらも、遅かれ早かれ尋ねるつもりだったので大人しく返答を待っていると、


「さ、里に文献が残っている! 世界各地にもだ!」


 先程の俺の発言が自分達にも向けられていることを悟ったウィルスは、若干の動揺を見せながら答えた。


 論外だ。


「どこもかしこも争ってたんだぞ。権力者が我が身可愛さに魔人を悪に仕立て上げた可能性や、敵国から流れてきた偽情報の可能性は十分ある。少なくとも俺は善悪を断定してる方が怪しいと思ってる。英雄譚とか偏見の塊だろ」


「魔王にさらわれた姫を助け出す勇者の物語とか凄いですよね~」


 というわけでちょっと脱線させていただいて――。


 魔王は何のために姫を誘拐するんだ?


 一目ぼれして告ったけど断られたのか? それとも人種や立場が違うからと周りに咎められたのか? もしくは勇者きょうてきと戦うための餌か?


 この世界にも地球にもその辺の事情を語られている作品はあまりにも少ない。


 ありがちなのは魔王軍が侵略してきた系だが、やっていることと言えば略奪ぐらいのもので、世界征服を企む交渉の余地がないバカならいざ知らず、そういった輩は生産効率や文明発展といった共存するメリットを説けば和解出来るはずだ。


 というか、そのために交渉に来たら、凶悪な見た目や未知への恐怖で勘違いされたり、文化の違いで敵対されただけじゃね?


「俺はこれも権力者が仕組んだ罠だと思ってる。『どれだけ劣勢でも覚醒者が現れて敵を倒してくれる』『魔族は敵だ。魔人は悪だ。魔獣は恐ろしい存在だ』って、夢と希望を持たせると同時に矛先を人類以外に向けるための作戦さ」


「ん~。間違いではないですけど100点でもないですね~。魔族側が『イキった人類が暇潰しの相手をしてくれる』『必死に心の弱さを隠す人類オモロ』『ちょっと優しくしたら神様扱いされた。今日から俺魔神って名乗るわ』となるパターンも多いですよ~」


「……ねぇ、なんなん? 力持ったヤツって下等生物にちょっかいかける以外の遊び知らないの? 本質は悪じゃないけど結果的に悪になってる自覚ある?」


「平和で良いじゃないですか~。

 人類は数と文明で勝っていて、いざとなれば覚醒者も爆誕するので勝とうと思えば勝てるけど、争いなんて非生産的なことはしたくないから攻めない。

 魔族はその様を楽しんでいるから侵略しない。

 win-winです~」


 いびつ過ぎる……。


 でも、この『何も出来ないことを認めない』って状況が、現代の平和なんだろうなぁ。「本気を出せば余裕だけどそれじゃあ面白くない」を何百年も続けてるわけだ。


「そもそもアンタ等、魔人に魔族が含まれてること知らなかったじゃないか。対してユキは真偽はともかく納得は出来る話をした。可能性を示した。

 俺は何度も魔界に行ったことあるけどみんな優しかったぞ。鳳凰山では魔力を封じずに全力でアトラクションを楽しんでることを羨ましがってた。魔界出身のアンタ達にも身に覚えあるんじゃないか?」


「いいや。知らないな。なんだその世界は」


「弱肉強食を正義とし、必要以上に弱者を傷つけず、常日頃から自分がそうならないよう切磋琢磨するのが魔界の在り方だぞ」


 …………ま、まぁそういうところもあるってことで。


 ユキさん、あとは頼んます。



「我々の情報源は精霊界です。あそこの情報は改変しようがありませんからね」


「嘘を言うな! 精霊界から的確に情報を引き出すなどハイエルフにすら不可能! そんなことが出来るのは聖獣か世界樹の子か精霊王ぐらいのものだ! こんなふざけた強者に出来るはずがない!」


 何故かユキではなくフィーネが代弁すると、これまでの言動からユキを下に見ていたダークエルフ達には到底信じられず否定。


「ハッ! ま、まさか……」


 その一部が刃となってルナマリアの薄い胸に突き刺さり、本人の努力の甲斐あってそのことに気付かない2人は別の何かに気付いた。


 話を進めたいというのもあるし、ルナマリアが「その4人がおかしいのよ……砂漠からお目当ての一粒の砂を見つけるようなものよ……」と向上心と負けん気溢れるツンデレエルフらしからぬマジ凹みをしているので、スルーさせていただく。


「そう! 私こそが精霊の王! 精☆霊☆王!」


「同じことを2回言うな。変な区切り方するな。食事中に立ち上がるな。妙なポーズも取るな」


 お前はどこのスタンド使いだ。


「フッ……興奮のあまりコップのお茶を飲み干してしまったウィルスさんに、注いであげようと思っただけですよ。この精☆霊☆王!がねっ!!」


「じゃあおもむろに懐から取り出したそれはなんだ?」


「見ての通りマヨネーズですよ」


「それをどうするつもりだ?」


「お茶の代わりにコップに注ぐんですよ」


「…………」


「おやおや。なんですかその目は。まさか私が意味もなく初対面の相手にマヨネーズを飲ませようとする精霊王だとお思いで?」


「ああ」


 むしろそれ以外考えられない。


「やれやれ……いいですか? マヨラーでも、マヨラーだからこそ、マヨネーズを美味しくいただいてもらいたいんです。好きになってもらいたいんです」


「でもこれまでは強要してたじゃん。片っ端から食品に塗りたくって、調理工程で入れて、マヨ初体験とか関係なく一緒に試食させてたじゃん」


「あの頃は若かった……」


 逃げんな。否定しろ。言い訳しろ。せめてもうちょっと頑張れ。そして非を認めながらマヨネーズを注ぐな。引き下がれよ。


「……流石は精霊王だな」


「ああ。ここまでされては引き下がるしかあるまいよ」


「どういうこと!? 何があった!? なんでアンタ等が引き下がる!?」


 ユキの主張が認められて面倒な説得ターンをスルー出来たことは嬉しいが、何の脈絡もなく観念して話を進められるのは困る。俺を置いていかないでくれ。


「このマヨネーズは、私、精霊王が丹精込めて作ったもの。ここまで言えばもうおわかりでしょう」


「いやそんなんでわかるわけ……ハッ! そ、そうか! これはテストであると同時に戒めでもあるんだ!

 マヨネーズを自力で分離出来れば合格。昨今ますます酷くなる弱体化を防ぐべくハイエルフやそれに近しい者の血を取り込もうとしていた彼等は、マヨネーズのままでは意味をなさない隠し味(精霊王の力)を体内に取り込むことで目的を達成出来る。

 分離出来なければ不合格。力を得られない上、まっずいマヨネーズを食すことになる。ただし弱体化の原因を俺に調べてもらうことで解決可能。下等生物を頼り、忌み嫌っていた魔人を認めることは末代までの恥だが、致し方なし。

 ――なんて説明してもらわないとわかんねえよ! 実は一昨日ルナマリアから依頼されたとか、神獣化計画や昨日の昼寝がヒントになってるとか、ぜんっっぜんわかんねえよ!」


「「「…………」」」


「わかりましたか。これが我が主様の力ですよ」


 合ってるんだ……これまでの未解決部分をまとめただけなんだけど……。


 俺は、自分のことのように誇らしげなフィーネ、ポカーンと間抜け面を晒すダークエルフ達、何故かドン引く両親とハイエルフ、我関せずで食事を楽しむその他家族を順に眺め、ヌルくなったお茶をズズズと啜った。


(失敗するんだろうなぁ、分解)

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