千三百五十九話 他人任せは楽
「あ~……エルフの方は任せていいか?」
理想のカップリングという個人の感覚のみで是非が決まるものはどうしようもないが、そのやり取りの末に発生した攻めと受け……もとい攻防に第三者が口を挟むのは意味がわからない。冗談にマジギレするのもどうかと思う。ましてや「雑魚は雑魚らしくしていろ」と自分の価値観を押し付けるなど言語道断である。
人間の力を思い知らせてやりたいところではあるが、神獣化の一件で人間の堕落っぷりが露呈したので強く出られないし、ハーピーを追いかけ回していた王女一行にエルフを納得させるだけの力があるとも思えない。
一部の人間がどれだけ優れていようと、彼等自身がエルフに認められなければ、ただの虎の威を借る狐であり親の七光りでしかないのだ。
「まぁそうなるわよね。今回だけよ」
弱者を見下している者を見返すより、既に認められているor秒で認めてもらえるルナマリア達に頼んだ方が圧倒的に楽。
そう思ってルナマリアに依頼すると、珍しく二つ返事で引き受けてくれた。
「てか王女もアルフヘイム王国出身ならお前等がやった方が良くね? エルフ相手には強く出られないだろ?」
「はいはい、やっとくわよ……」
さっすがトップクラスの常識人。
時々度を超えたツンデレを見せて話が通じなくなったり、ちょくちょく面倒事を丸投げしたり、フィーネ関係で対応がバグる以外は一番話が通じる相手だ。
これはヒロインですわ。
「やめなさいよ! ハーピーみたいになるでしょ!」
「フヒヒ。サーセン。悪ふざけでアレなら本気出したらどうなるかな~と思って。スレンダー最高とか叫んだら辺り一面焼け野原になったりするかな~と思って」
数十秒前に光の柱が立ち上った場所を、ビシッ、と勢いよく指差しながら叫ぶルナマリアに対し、俺は誠意ある謝罪と説明をもって応じる。
俺は判断が早いし自分の非を認められる人間です。
「トラブルを起こしたいのか起こしたくないのかどっちなのよ……」
「ケースバイケースだな。俺が起こす分には割と寛容的」
この辺を開拓するという話が持ち上がっているし、このメンツなら殲滅魔法の無効化から土地のみへの被害まで各種選べるはず。
誰にも迷惑を掛けないトラブルは『盛り上げ』とか『助力』って言うんだぞ。
「それじゃあ行ってくるわね」
「おう。頼むわ」
説教もトラブル解決も朝飯前と言わんばかりにそそくさと北門へ向かったルナマリアを見送った後。
「ではワタシも……」
「くく……今宵のアンチェスターフィールドは血に飢えている」
「ざけんな。今更お前等が出て行ってもややこしくなるだけだ。ルナマリアに任せて大人しくしてろ。
あとマントにそれっぽい名前つけんな、メルディ。背広っぽいコート『チェスターフィールドコート』に、古代魔術言語で否定を意味するunをつけただけだろ。これはチェスターフィールドコートじゃないよって言ってるだけだろ。
それよりルナマリアのヤツ、やけにすんなり受け入れたけど両方知り合いだったりするのか? 厄介エルフが何者なのか4人とも知ってる感じだったけどどういう関係だ? 関わり合いになる気は一切ないけど気になるから教えろ。どこに向かって、どういう交渉する予定で、今後どうなると予想してるんだ?」
ついて行こうとするハーピーとメルディを引き留め、ツッコミを入れ、俺は残ったエルフ達に尋ねた。
「どっちも知り合いじゃないわよ」
応じたのは最近ロリ枠をイヨに奪われて出番の減ったヘルガ。
世界各地を巡って経験と知識を蓄えてロリ賢者枠を狙っているようだが、俺が生きている間にフィーネやユキに対抗出来るようになるとは思えない。ドンマイだ。
「……今、無関係かつ失礼なこと考えなかった?」
「HAHAHA。バカなことを。最近お前リア充してんな~と思っただけだ。あのまま一生里に引きこもっているより良いと思うし、外の世界で好き勝手やってるルナマリアを見習って、王族の世話係なんて使命は忘れて存分にやりたいことをやってくれ。ミナマリアさんの世話は周りの大人達がやってくれるだろ」
「私1000歳なんだけど」
「肉体年齢も精神年齢もイヨと変わらないじゃん」
「王都で結構活躍したでしょ!?」
「その主張がもう子供なんだよ。大人はイチイチ手柄を誇ったりしない。1つ2つの功績で過去や未来が決まるなんて思ってないから。継続するのが当たり前だから」
「ぐぬぬ……」
と、子供っぽいところはあるものの、ルナマリアほどツンデレでもないので常識人枠としては有難い存在だ。背伸びしてるわけじゃなくて自然体で大人っぽいところもある子だし。やれば出来る子だし。
「てか知り合いじゃないんかい。エルフの方は全員が知ってる雰囲気だったじゃないか。フリーザなんて『こんなことするのはヤツしか……』って露骨に知り合い感出してたじゃないか」
「コイツのはいつもの誇張よ。違うって言うなら関係性を言ってみなさいよ。王女の近くで騒いでるあのエルフはアンタとどういう関係なのか」
「まったく知らないエルフだ」
一見親子のようだが、クララとフリーザとは幼馴染トリオであり、ヘルガは1000年近い共同生活の中で培った雑な対応かつ先読みでフリーザを黙らせ、従わせた。
フィーネとルナマリアもここに含まれるはずだが、高慢なフリーザですら敬語&様付けがデフォなので、年齢差も相まって上司と部下の関係なのだろう。
それはそれとして、ま~たツッコミどころが多い……。
「え~っと、実力で上回ってるから妨害は効かずエルフの居場所は既にわかってて、たぶんメルディがドラゴンを引き連れて飛来する前後に発生したトラブルは現在進行形でトラブってて、引っ掻き回してるのは4人全員が知らないヤツだと」
「ナ、ナンデスッテー。マダ決着ガツイテナカッタナンテー」
白々しいを通り越して煽りに来ている害鳥は無視するとして――。
「ならどうしてお前等4人共知り合いの雰囲気を出してたんだよ?」
「どこの里のエルフがやったのか検討がついたからよ。
アンタ、エルフの里が魔界にもあるって知ってる?」
「ああ。鳳凰山に行った時にチラッと聞いた。アルフヘイムにあるお前等の故郷アールヴの里が本流で、魔界のは分家なんだろ?」
「そ。血縁問題とか土地問題とか袂を分かった理由は色々あるけど、特に大きいのが弱者とのなれ合い。魔界に行ったのは人間が蔓延る場所に居たくないから。彼等は人間を憎んでるのよ。何の力もないのに世界の支配者面してるって。
下等生物の生態系を気にしたら負けだと思ってるから手出しはしないけど、時々目についた悪行に苦言を呈してるらしいわ。もちろん変装してね。だから今回も強者であるハーピーを追いかけ回してた王女達に激怒したんじゃないかしら」
「はぁ~。徹底してんなぁ。色々と」
人類史に残るバカ騒ぎに顔を出すなんて何を考えてるんだと思ったけど、行動理念は魔獣アンチと同じく『調子に乗ってる敵が気に食わない』ってわけか。
これはルナマリアに任せて正解ですわ。中途半端に人類の優秀なところ見せつけたら本気で敵視される。出る杭は打たれる。
「他にも、アールヴの里に向かう途中だったとか、この町の噂を聞きつけたとか、ロア商会に用事があったとか、何かしら理由はありそうだけどね」
「まさかとは思うけど、全人類が力を合わせたり魔獣と共存すればエルフ並みの力が手に入るから、そうならないように神獣化計画を邪魔しに来たとかないよな?」
「ないわね。彼がここに来たのはルーク達が魔獣と協力する必要性に気付く前みたいだし、防壁の件を伝承か何かで知ってたとしたら強者の存在もわかってるはずだから手出ししないでしょうし」
「なら良いんだけど……」
「ま、ルナマリア様に任せておけば大丈夫よ。用件は高確率でエルフ族関係だし、アルフヘイムの王族ならエルフと関わっておいて損はないし、高慢な連中なら今のうちに教育しておくべきだし」
「ヘルガさんの言う通りデス! 魔界に行った時にルナマリアさんがここで暮らしてることをエルフの里の近くで喋ったりなんてする人なんて居まセン!」
「ハーピー……お前……」
「もちろん冗談デス。そんなことよりお祭りを楽しみまショウ。案内しますヨ~」
信用出来ない。まっっったく信用出来ないが、ルナマリアが戻ってくるまで真偽を確かめることも出来ないので、今は大人しくハーピー達が用意した企画を楽しもうと思う。
イベントプランナーの腕が鳴るぜ。
重箱の隅をつつくクレーマー魂が火を噴くぜ。




