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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

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千三百五十八話 大事なことは相手に伝わるかどうか

「んで、壊れてるっていう必要な情報を思考生物の察し能力の限界を超えたやり方で出して、思い通りの展開にならず商人を怒らせて、支払われた金を人間の動体視力と冷静さを極めたら読める謝罪文にして投げつけてさらに怒らせた、気の利くバカ2人は、ノンフライヤー改を献上品として受け取った王族ぎせいしゃを煽りに行って激怒されたと……」


 ハーピー達から状況説明という名の自慢話を聞かされた俺は、最後の力を振り絞ってまとめに入った。


 この数分で1kgぐらい痩せた気がする。


 どうせ「ほ~ら、やっぱり使いこなせてない。こんなことになるならもっと強く拒否するべきでした。ごめんなさい。皆さんにこれを扱うだけの力がないことはわかっていたのに。返してください。今ならこのことは黙っておいてあげます」とでも言った(煽った)んだろう。


「惜しイ!」


 が、ハーピーは他人の心境など知ったことかと言わんばかりに、悔しそうな顔で指(羽根)をパチンと鳴らした。絶対にこの状況を楽しんでいる。


 この流れで発言者の心労が増えなかった作品を俺は知らない。


「『ワタシ達は説明し謝罪し受け取ったお金をすべて返しまシタ! 盗品にイチャモンをつけている悪党め! そちらの王族も知らなかったとは言え受け取ったのは事実! 世間に公表してくれル!』とも言いましたヨ」


 ほらね。


「『言いましたよ』じゃねえんだよ! 偏向報道が過ぎるわ!」


 説明も謝罪も返金も事実ではあるが肝心な部分に触れてない。


 それで対価を払ってない悪人扱いするのはあまりにも非人道的な行為だ。


 俺の悪意に満ちた決めつけであってくれた方がまだマシだ。初対面の相手と煽り合いたいなんていう身勝手極まりない理由でトラブルを起こしてんじゃねえよ。


「まぁそこは許してもらえまシタ。魔獣なので仕方ないト」


(許してもらえたんだ……)


 懐深いな、王族。


(しかしそうなると一体何をしたんだ? 不敬罪を超えた言動以上のことってなんだ? こいつ等が危害を加えるとは思えないし……)


「しかしそれはワタシ達の求めていた対応ではありまセン。これでは面白くナイ。そう思い、どこまで許されるか試そうとした、その時デス」


「やめろ」


「え? やめて良いんですカ?」


 飄々と恐ろしいことを口走る害鳥にきつめの口調で言うと、彼女は何故か驚いた様子で首を傾げ、次の瞬間、疑問に答えると共に見当違いの道を進み始めた。


「説明はやめるな。他人に迷惑を掛けるのをやめろ。せめて知り合いだけにしろ」


「え? 嫌ですケド?」


 そっかー。嫌なら仕方ないなー。可能な限り善処してね。


「――とでも言うと思ったか、バカめ! 迷惑掛けた罰として人間達への奉仕……してるな。これ以上ないぐらい祭り盛り上げてるな」


 ダメだった部分に気付いて贖罪したヤツを怒るのは違う。


 肝心な部分が放置されたままだが、俺(トラブル解決の専門家)が帰還するまでこれ以上事態を悪化させないようにし、自分に出来る精一杯をしているのだとしたら、怒るに怒れない。


「くくっ、それだけではない。我々が動かなければ神獣化計画は3年は遅れていた。人材選出の他に、魔獣アンチの行動理念である『魔獣は人類の敵』という共通認識を払拭し、奴等のヘイトを集めたのだからな」


「……良いだろう。罪を償った方向で話を進めようじゃないか。もちろん王族とエルフの怒り具合や怒らせた理由を聞いた上での判断になるけどな」


 彼女達が払拭した(?)魔獣への嫌悪感を超えて敵視されるようなことがあったら、それはもうどんな罰を与えられても仕方ないと思う。


 良かれと思って掃除した結果貴重品を壊して怒られるのと一緒だ。



「王女が持っていたBL本をバカにしたら激怒されまシタ」


「そ、そっか……」


 度を過ぎた趣味趣向を持つ者は沸点の低いところがあると言うが、王族という社会的地位を何よりも大事にしなければならない者でもそこは変わらないらしい。


 どういうシチュエーションでそうなったのかメチャクチャ気になるが、兎にも角にもそういうことなら100%こいつが悪い。反省してるようにも見えないし。


「他人が好きだって言ってるものをバカにすんなよ。一生懸命生み出したものを貶すなよ。いくらエンタメでもやって良いことと悪いことがあるぞ。例えそれが事実だったり個人の感想だったとしてもな」


 余計な一言で関係が崩れるのはよくあることだ。


「あ、いえいえ、今のはわかりやすいように言っただけデス。ワタシはバカになんてしてまセン」


 苦笑しながら手をパタパタさせるという、近所のおばちゃんのような仕草で俺の真剣な注意を笑い飛ばすハーピー。


「その気遣いを別のところにも出せ。今もそうだ。何一つ理解出来ん」


「それはワタシの役目ではありまセ~ン」


 そしてそのまま反省することなくメルディに話を振った。


 出番が多過ぎるという誰目線かわからない発言の流れはまだ続いていたらしい。


「ふっ、ようやく我の出番か」


 いつの間にやら羽織っていたマントをバサッと翻し、メルディはいつもの中二病ポーズで語り部を引き継いだ。



「1000年祭に出席するためにアルフヘイムからやって来た王女が、偶然立ち寄ったこの町でシュナイダーのアダルトコンテンツ用の別名『股下大蛇』の新作を発見したのだ」


 ツッコミ所があり過ぎて怖い。


 ホモ蛇ことシュナイダーは、そのカッコいい名前とは裏腹にBL好きの大蛇で、自分の創作活動のためなら誰が犠牲になろうと構わないという非常に厄介な精神の下、積極的に他者に被害を与えて執筆に励むベルダンメンバーの1人。


 野生の魔獣を焚きつけて男性冒険者達を危機的状況に追いこんだり、気付かれないように装備を剥いだり罠を仕掛けたり、肌と肌をくっ付けさせてキャッキャする、人類の敵である魔獣を体現したような存在だが、本人の性格や活動の裏側を気にしなければただの正体不明の大人気作家。


 一般向け作品『恋のトライアングル』はイブも大好きだし、実力は折り紙付きなのでアダルト向けのファンに他国の王族が居てもおかしくはない……のか? 立場が立場だからそういうのに触れることすら許されなさそうだけど。


「事実、彼女は股下大蛇のファンだったのですから、納得するしかないでショウ。シュナイダーさんについてもオタク男子がスライムや触手生物と女性冒険者の絡みを望むようなものデス。どちらも咎められるようなことではありまセン」


「ぐっ……痛いところをつくんじゃない。わかりやすい上に共感してしまってぐうの音も出ねえよ」


 願望と強制の差は大きいが、実現するだけの力がないだけでおそらく可能なら大半の人間がやっているのでここは大人しく引き下がっておこう。


 別の名義を持っていたことすら知らなかったし、お前はどこの声優だとツッコミたい気持ちで一杯だが、そういう気遣いは大事なのでノータッチ。


 一般向けと分けた方が何かと便利そうだし。


「ホクホク顔で宿屋に持ち帰り、後で読もうと楽しみにしながらパーティを過ごしていたところ、煽りに来た我等が仲間の残り香に気付き、シュナイダーから世間の評判をそれとなく探るよう頼まれていたこともあってBL本の話を振ったのだ」


「皆の前で?」


「いや。我はそういった話に疎い故、ハーピーに任せたのだが、大々的に語るような趣味でないことはわかっていたので事前に注意し、ハーピーも忠告に従ってこっそり耳打ちし、普通にキャラクターの話をしていたはずなのに、突然『サン×ゾロ!? ふざけないで! ゾロ×サンでしょ!』と顔を真っ赤にして怒り始めた」


「あ~」


 まぁカップリングやら展開やらについては色々とあるらしいですからね。前世で得た浅い知識しかないけど地雷を踏み抜いたんでしょうね。


「それに気を良くしたハーピーがからかったらものの数秒で実力行使に出た」


「なにやってんだよ……今回酷いぞ……」


 いつにも増して初対面の相手へのおちょくりが多いハーピーを睨むと、


「そうですカ? 強気な女性を虐げることに快感を覚える男性が多いと聞いたので実践してみたんですケド」


「誰から!?」

 

「ほぼすべての知り合いカラ」


 ですよねー。ホント俺の周りってバカばっか。


「まぁいい。どれだけ人間社会に精通していようとお前等強者は『なんとなく』で信じるし、意味もなく快感を与えるなんて頭のおかしい考え方をするだろう。初対面の相手を煽れるヤツが強気な女性だと勘違いしてもおかしくない」


「諦めたわね」


 うるせえ。文句があるならお前が注意とか解決とか色々やれ。


「なんで強気の女性になろうと思ったんだよ? ドM野郎かドS野郎に恋でもしたのか?」


「ハイ……ルークさんに……」


「殺すぞ」


「その前に死ぬわね。冗談で告白するバカを許す女なんてアンタの周りに居ないでしょ。本気だとしたらハーレム入団試験で上限関係叩き込まれそうだし」


「もちろん本気で、あぶっ!?」


 もう少しこのネタで盛り上がろうとしたハーピーだが、足元から突然光の柱が立ち上り、会話を中断……いや、終了させた。


 本気と書いてマジと読む。


 取り敢えずハーピーはトップにはなれそうにない。


「弁解しておきますけど今回が酷いのではなくこれまでが抑えていたんデス。魔獣の地位向上が大事な時期と言われていたのデ。ワタシは元々煽り煽られる関係こそ至高と思っていマス」


「さよけ」


 まぁありがとうと言っておこう。



「んじゃあエルフは? そいつも一緒に来てたのか?」


 たしかにアルフヘイム王国にはルナマリア達の故郷『アールヴの里』があるが、エルフとの交流自体王族の中でも一部の者しかおこなっておらず、数週間も一緒に旅をするとは考えづらい。


 別件だとしたら意味がわからない。


 彼女達は(少なくともハーピーは)王女の対応で満足しているようだし、激怒関連の話題はここで一旦終わるはずだ。


 あえてこう言わせてもらうが、BLのカップリング如きで敵視するほど頭の悪い王女でもないと思う。というか尾を引いたら俺が動く。そんな国は衰退してしまえ。


「ご存知の通りワタシは気が利きマス。またまた逃げることにしたのですが、エルフはワタシを追いかけ回す人間達を見て『弱者が調子に乗るな!』とキレまシタ」


 もう訳がわからない。


 事情を知らない第三者が絡んでくるなよ。


「これって……」

「ええ……でしょうね……」

「ふっ、俺様以外のエルフでこんなことをするのはヤツしかない」

「はぁ……」


 エルフ四人衆は何か知ってるっぽいし。


 特にやれやれと肩を落とすルナマリア。

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