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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

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千三百五十六話 善意じゃないのがバレたら逆効果

 ヨシュアでおこなわれていた一風変わったイベントを調査していたら、これまでの感謝&謝罪というベルダンメンバーの素敵な思惑が明らかになってホッコリ……したのも束の間。


 やらかしてしまったから手を貸すことにしたのか、調子に乗っていたからやらかしてしまったのか、そもそもやらかしではないのか、時系列や意図こそ不明だが余計なトラブルが連鎖的に発生していた。


「HAHAHA~♪ ホント、メルちゃんはジョークがライクですネ~♪ ルークさんもビリーブしてはノンノンノンですヨ~♪」


 発端は俺の作った魔道具らしいので無視するわけにもいかず、詳しい説明を求めようとするが、それより早くハーピーがいつも以上に白々しく笑い飛ばした。


「何が本当かは俺が決める。大人しく質問に答えろ。ノンフライヤーを盗んだのは、ハーピー、お前か?」


「真実を個人の感情で決めるのは良くないデ~ス。気持ちは個々に持つべきものデ~ス。好き嫌いで事象を左右するのは間違ってマ~ス」


 割と真剣に尋ねたというのにこの反応……どこぞの精霊王と同じ匂いを感じる。真面目に不真面目、解決する気のない強者だ。


 ただ俺は、ここで引き下がらなければ何かしらの返答が得られる(こともある)と知っているので、気にせず追及を続けた。


「話を逸らすな。俺が王都で製作したノンフライヤーをヨシュアに持ち込んだのはお前か? 気が付いたら消えてたんだが何か知ってるか?」


「NOデ~ス」


「……一応訊くけど答えたくないって意味じゃないよな?」


「自分の質問の仕方が悪かったことを認めようとせず、責任を相手に押し付ける自己中心的な人間と対話するなんて御免デ~ス」


「スイマセンでした!」


 例えこいつ等の普段の言動が悪いせいだとしても、それはそれ、これはこれ。相手を疑って掛かるのは悪いことだ。


 おちゃらけながらも心の中では失望していそうなハーピーに、俺は深々と頭を下げた。


「口では何とでも言えマス。本当に悪いと思っているなら誠意を見せてくだサイ。今回のゴタゴタで起きたことを全部許すと誓ってくだサイ」


「それは断る。いいから質問に答えろ」


「正義はこちらにありマス。拒否権を行使することも可能デス」


「話にならないな。メルディ。ライム。ここにはお前以外に答えてくれるヤツが2人も居る。というかお前に教えてもらうつもりは最初からない。邪魔するな」


 誤魔化そうとしているハーピーに教えてもらうというのがそもそも間違いなのだ。ライムはともかくメルディは話す気満々だったし、このままベルダンに行ってゴーレムさんやジョセフィーヌさんに訊けばほぼ確実に教えてもらえる。


 俺はハーピーの傍に突っ立っている2人に目を向けた。


「本当にそれで良いんですカ? 脱線しなくて良いんですカ? 淡々と教えてもらって満足なんですカ? 考察の余地がなくて楽しめるんですカ?」


「――っ! も、もちろんだ!」


「動揺を隠しきれていませんヨ。素直になってくだサイ。ツッコミたいんでショウ? 叫びたいんでショウ? 『なんで○○なんだ!』と尋ねたいんでショウ?」


「ぐっ……」


 鋭い指摘に自然とうめき声が漏れる。


「ちなみにノンフライヤーを手に入れ、壊れ、売られ、激怒されるまでで一番深く関わっているのはワタシデス。メルちゃん達は破損と激怒後担当デス」


「だとしても語ることは出来るはずだ! 怒れないのはあまりにも俺に不利だ!」


「何故怒る必要があるんデス? ワタシ達は反省していマス。反省している相手をさらに叱って何になるというんデス? 気付いていない間違いがあれば指摘するだけで良いでショウ。大人なワタシ達はそれだけで次に活かせマス」


 諭すように優しい目をするハーピー。


 主張も至極真っ当なものだ。


 ただ――。


「お前等反省してないじゃん」


「だってその方が楽しいじゃないですカ。双方が」


 ありがとう、で良いのかな。



「ワタシはノンフライヤーを盗んでませんし、ルークさんの元から消えた理由も知りまセ~ン」


「なら質問を変えよう。どうやって手に入れた? 手に入れてから何をした? 今どこにある?」


「それを説明するには、王都に送った適性者について、小一時間ほど語る必要がありマス」


「1分でやれ」


「ヨシュアを訪れた自称凄腕美少女冒険者がワタシ達に気に入られて2日。ルークさんばりの適応力ですべてを受け入れ始めたので、これではつまらないと嘆いていたワタシの足元に、見たこともない魔道具が転がってきまシタ」


 そう言われることを読んでいたかのように、5秒そこそこであらすじを語ったハーピーは、そのまま回想に入った。


『……これは何?』


『さぁ~? でも面白そうデ~ス。ワタシ達に物質転送させる力はありませんし、争いの種になるからと気を利かせて盗むような知り合いもいないので、運命の悪戯としか言いようがありまセン』


(嘘だ。コイツ等ならたぶん出来る。この瞬間にあたしが履いてる黒のパンティを超高額でアダルトショップに並べることだって余裕だ)


『無理デ~ス。銅貨5枚でも売れるか怪しいデ~ス』


(……やっぱり)


 なお値段については触れないこととする。


 戦争になるから。


「――以上デス」


「満足するな。何一つ説明出来てねえよ。自称凄腕美少女冒険者が早くもお前等の性格を理解してることと、自信過剰ってことと、配慮出来るってこと、そして実行犯がユキでお前等は見てみぬフリをしてること以外何もわからねえよ」


「十分わかっているのでは……?」


『ですね』


 そこの強者2人、うるさい。


「1分ではこれが限界デ~ス」


「チッ……もう1分やろう」


 さしものハーピーでも時間の流れはどうすることも出来ないらしく、強者にしては珍しく泣き言をいったので妥協案を提示。さらなる情報を引き出しにかかった。


 あと他人の内心を語るのやめてやれ。括弧の部分は顔に出てたんだろうけど、値段うんぬんに関しては絶対本人しかわからないモノローグだ。たぶん俺に関係ないし。かかわるのはイブとかアリシア姉とか王都にいる連中だろ。


「触った瞬間わかりまシタ。これは王都に居るルークさんが忙しい中もっとお祭りを盛り上げたいと思っていたワタシ達のために作った新作魔道具だト。ノンフライヤーという名前で、バスケットの底にある特殊な装置を使って空気の流れを加速させて常時200度以上を保たせるかつ均一に加熱することで油を使わず揚げ物が作れる優れもので、大型食品には使えなかったり大量加工が出来ないなどの欠点があるもののそれによって現行の調理用魔道具との差別化が図れているため商品化しても問題ないものだト」


「わかり過ぎだろ。絶妙に改ざんしてるし。別にお前等のためじゃないし」


運命ユキさんの悪戯を含めたらワタシ達のためでハ?」


 隠す気ゼロか。


「どんな食材も調理可能というのもわかっていたので、折角なら珍しいものにしようということで、協力してくれたドラゴン達の肉を食べてみることにしまシタ」


「悪魔! それは悪魔の所業よっ!」


 他者の善意を無下にすることほど最悪なことはない。


 利用するだけ利用してポイ捨てどころか己の糧とする。これぞまさに骨の髄までしゃぶる。命をいただくのは自然の摂理だから仕方ないとしても、意志を踏みにじることは許されない。


「ノンノン。最も売上に貢献したドラゴンの尻尾を切り、治療ついでに進化させてあげようという素敵な試みに、本人……もとい本ドラゴン達も客も沸きましたヨ」


「そ、そうか……まぁ本人達がそれで良いなら何も言わんけど……」


 思ったより健全だった。というか理想の共存の形だった。


「美味しかったデス。サッパリとこってりが見事にマッチしていてあっという間に完食してしまいまシタ。その勢いで揚げ物コンテストを開催するぐらい盛り上がりまシタ」


「それは何より」


「ワタシ達もノンフライヤーの力で勝ち上がりまシタ。食材を入れてボタンを押すだけで並みいる猛者を薙ぎ払いまシタ」


 努力を道具の力で否定するのは絶対にやっちゃダメだろ。そんなんだから怠ける人類が出てくるんだよ。本人の実力ありきの大会にしろ。道具の評価は別でやれ。


「って、まさかそのせいで壊れたのか? 数とか質とか無理させたから?」


 だとしたらどう考えてもお前達のせいだ。対戦相手が粘りやがっただの、サクサク調理出来る食材にならないのが悪いだの、もっと食べたいと要望した連中のせいだの、言い訳しようもんならタダじゃおかねえ。


 怒気を孕んだ視線をハーピーとメルディに向ける。


 ライムはたぶん出場してないから睨まない。


「ヘルシーさだけでは勝てない真に努力した実力者が優勝したのですが、彼は優勝賞金の代わりにノンフライヤーを1日自由に使わせてほしいと言い出したのです」


「あああ……なんてことだ……」


 予想通りの展開に嘆く俺。


「というかアンタ達が薙ぎ払ったのは道具の力で負けても仕方ない連中だったのね」


 魔道具を慈しむ心など皆無でいつも通りツッコむルナマリア。


「ノンフライヤーは何事もなく返却されまシタ」


「……え?」


「他の品も作ってほしいと強請る人達の声には耳を傾けず、遊んでいたら壊れまシタ。『ライム入れたら面白くね?』と好奇心で揚げたらプシューッと」


「1000%身勝手な理由じゃねえか!! てか自称凄腕(略)のくだり要らないよな!? 入手時に立ち会った以外関係ないよな!?」


「ノンノン。運命の悪戯はミスティさんを楽しませたいと思っていたら起きたことですし、度を超えた遊びは彼女が王都に行ってしまって暇だったので起きたことデス。止める人間が居なかったのも運が悪いとしか言いようがありまセン」


「責任転嫁も甚だしいわ!!」


『ちなみに私はその責任を感じて協力者になりました』


「そ、そうか……ドンマイ、でもないか。俺特製の魔道具だって気付いてたんだろ。十分同罪だ。二度と遊び道具にするなよ」


 一瞬同情しかけたが、ハーピーだけ箱の正体に気付くというのはおかしいので、騙されたにしても箱詰めされるのを断らなかった時点で同情の余地はない。

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