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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十四章 神獣のバーゲンセール

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千三百五十話 道中が一番楽しいまである

「こどもなんだから大人より下手でとーぜんでしょ!!」


 少女が、クセのない緑のセミロングを揺らしながら、怒鳴り散らかす。


 その髪色と髪の隙間から伸びている長い耳は、昔色々あっただかなかっただか、今なお続いているだか続いていないだか、理由はわからないが人間社会から離れてひっそり暮らしているエルフ族であることを証明している。


 一般的にエルフと言えば、長寿で、聡明で、精霊術に長けていて、体術より魔術が得意で、細身で、菜食家という印象があるが、彼女にはどれも当てはまらない……というか将来そうなれれば良いなという希望的観測。現段階では全部違う。


 若いし、バカだし、精霊術の技術は俺(人間)以下だし、暇さえあれば体を動かしているし、細身以前の問題だし、よく肉を食べる。


 子供であることを言い訳に使うのもいただけない。


 身長や知識量の差など、どうしようもないことならともかく、今彼女が怒っている理由と年齢は何の関係もない。バカにされる原因は彼女自身にあるのだ。さらに言うならバカにされたと思い込んで勝手に怒っているだけだ。


 俺は、最高傑作とまで豪語しながら自信満々に見せびらかしてきたラクガキを、鼻で笑っただけだ。


 ……うん、まぁ、正直スマンかった。いくら弄り甲斐のあるクソガキだろうと、個性的にもほどがある絵だろうと、やっぱり子供は褒めて伸ばすべきだよな。俺の絵を大したことないとか言われたから、つい。


「その理屈ならココ達も同レベルになるはずだろ」


 まぁ引かないけど。


 こういう甘えたヤツには、どこかでビシッと上限関係や自分の実力を思い知らせないとダメだ。じゃないと現状に満足してしまう。調子に乗る。自分の非や周りより劣っていることを認めない人間になってしまう。


 俺はそんな優しさをもって、完成間近の子供達の手元に目をやり、おそらく同じシチュエーション(屋台食べ歩き)を描いているチコの絵と比較し、イヨの主張を一蹴した。



 旅の楽しみの1つに風景を眺めるというのがあるが、長旅だったり長時間同じ風景が続くと飽きてくるもの。そういう時は車内の者達とお喋りしたり遊んだりする。


 俺達がやっているのは、その両方を合わせた、今回の旅行で特に印象深かったことを絵で語るゲーム。わかりやすく言うとお絵描き大会。


「うっ……」


 体は横からなのに顔は正面から見ていたりその逆だったりするラクガキと、どちらも合致しているどころかサイズ感や陰影までバッチリの立体的な神作画に、俺やニーナ(想像以上に絵心があった)より劣っているのを年齢のせいにして自尊心を保っていたイヨが唸った。


 揺れで手元が狂ったりしていなければ格差はさらに広がっていただろう。


「なんで体は正面からなのに顔は横から見てんだよ。手の向きもおかしい。あと全体的に平面すぎる。空間把握能力なさすぎだろ」


「くーかんはーくのーりょく! 聞いたことあるわ。エルフが生まれながらに持ってるやつね」


「違う。お前が言ってるのは空間に存在する精霊を感知する力で、お絵描きの上手い下手とは関係ない。あと気付いてないようだから言うけど、関係ある方がダメだからな。精霊術でも絵心でも他のエルフに劣ってるってことになるんだぞ」


「さいのーは器よ。中身はどりょくでしかたまらないし、別のどりょくで器を大きくすることもできるのよ。私の器は大きすぎるから周りよりたまってないように見えるの」


「そうやって言い訳するヤツの大半は水かさが増えてないことに一生気付かないけどな。いつか自分に合う方法が見つかって一気に溜まるだろう、周りに追いつくだろうって何もしないまま終わるけどな」


「なら! わたしの絵のどこが下手か! ぐたいてきに言ってみなさいよ!」


 一言一言区切って自身の怒りと内容を主張するイヨ。


 俺は、やれやれと溜息をつきながら、自分が描いた絵(ステーション計画の視察風景)の裏側に数個の星を描き、それ等を線で結んだ。


「知らないだろうから教えてやる。これは星座。人類は昔から夜空に浮かぶ星を道標とか色んな観測に利用してるんだけど、『それだけじゃ勿体ない』『もっとわかりやすくしよう』って思い立った学者や詩人が星々にストーリーをつけたんだ」


「ふんふん」


 普通、怒っていたら「し、知ってるし!」「だからなによ!」と嘘をついたり反発したりするものだが、イヨは直前まで抱いていた感情を忘れたかのように興味津々に頷いた。


 良くも悪くも気にしていない。


 そんな調子だからいつまで経っても成長しないんだと呆れつつ、俺は親友ラインギリギリまで下がった彼女の評価を元に戻した。


「で、これは顕微鏡座。前に自慢したことがあるよな。物を拡大して見る魔道具。あれを模したものだ。昔は軽気球座って言われてたけど最近変わった」


「ただのマルじゃない!」


 5つの星をグルッと囲んだだけの、どう見ても顕微鏡に見えない円(というか四角)に、イヨが不満の声をあげる。


「ききゅーって空飛ぶ大きな風船でしょ? そっちの方がまだわかるわ。なんで変えたのよ?」


「そもそも定着してなかったらしい。そもそもどっちも『みなみのうお座』の一部だしな。星座なんてそんなもんだ。どの星をどう使おうと勝手。言ったもん勝ち」


「ならひと目でわかる形にしなさいよ……」


 それは言わないお約束。


「次。こいぬ座。名前の通り子犬を模したものだ」


「2つの星をむすんだだけ! 直線!」


「おおいぬ座」


「匠のワザが光るわね! 頭から尻尾、手足までちゅーじつに再現されてるわ!」


「はい。それ」


「え? どれ? なにが?」


 突然の指差し確認に戸惑うイヨ。


 俺は指を手元の星座に戻して続けた。


「お前の絵はこっち。俺達の絵はこっち。今お前が抱いてる気持ちが、俺がお前の絵に対して抱いてるものだ」


「こんな!?」


 俺は大きく頷く。


「ストーリーがあるところまで同じだな。こいぬ座の星は、おおいぬ座に使われてる星の1つより先に現れるから、昔の人はその2つを親子に見立ててそう名付けた。

 でも線だ。パッと見はわからないし、説明されても納得とは程遠い感情が湧く。もっとやりようあっただろって思ってしまう」


「こどもに色々求めすぎじゃない!?」


「だったら最初から喧嘩売ってくんな。先に俺の絵をバカにしたのはそっちだろ。俺は本気を出せとしか言ってない。勝手に優劣つけて、急いで、手を抜いて、言い訳するようなヤツが才能だの努力だの口にするな。お前は実力・精神共に敗北者だ」


「むきぃぃーーっ!」


 言葉で勝てなければ暴力でどうにかする。逆も然り。


 それは敗北を認めているのと同義だが、あまりにも便利なので古今東西老若男女問わず用いられるこの作戦は、イヨを戦場へと駆り立てた。




「――ってことがあってな。その少し前にリバーシで瞬殺したこともあってか、車内から追い出されちまったんだ。どっちもスペック低いのが悪いよな。日頃から努力してないヤツが悪いよな。負けるとわかっていながら勝負を受ける方が悪いよな。

 というわけで誰か変わってくんね? 今戻っても乗せてくれないだろうし。あと一旦停まってくれると嬉しいな。オジサン走るの疲れてきちゃったよ。はぁはぁしちゃうよ」


 後方からやってきた二号車に拾われた(予定)俺は、時速数十キロで並走しながら乗客一同に説明および交渉を持ち掛けた。


 2人が運動していた理由はそれだ。ユキは知らん。


「ったく……ルークさんってホント、ルークさんだニャ。しゃーない。私が行くニャ」


 と、呆れながら立ち上がるユチ。


「ベンチは温めておきました。俺も貴方の温もりを感じながら全力で車内を盛り上げますんで。デュフッ」


「ルナマリアさん席替わって」


「なんで!? 変な声が出たり言い方がアレなのは全部息切れのせいだよ!?」


 空席を見ながら感謝の言葉を口にした瞬間、真顔になったユチから命令に近いお願いがなされた。


 替わってくれないなら譲らない。そんな強い意志を感じる。語尾のニャもなくなっているのでガチだ。


「子供であることを言い訳にするより酷い言い訳だよ。あと、実際にクンカクンカするかどうかと、されるかもしれないって不安になる私の気持ちは別」


「それはそうですけど!!」


「嫌よ。気持ち悪い」


「そりゃそうなりますよね! セクハラ耐久高いユチですらアウトなのに、人間嫌いキャラを売りにしてるルナマリアが席を譲ってくれるわけないですよね!」


「売りって言うな。立ち上がるのも面倒だから座席を微精霊単位に分解して再構築するわね。素材の大半を空気中の精霊でやれば問題ないでしょ」


「面倒の基準おかしくない!? ユチも平然と受け入れてるし!」


「エルフにとってはこれが普通なのよ」


「嘘つけ! なんでもかんでも異種族で片付けられると思ったら大間違いだからな! って本当に分解してるし!? せめて御者に許可取れよ!!」


 気が付いたらルナマリアが先程までユチが座っていた場所に手を伸ばし、布や綿、板を粉々していた。一瞬の出来事に反応すら出来なかった。


 人間嫌いがどうこうより俺という存在を軽んじているだけな気もするが、それ以上に問題なのは勝手にやったこと。いくら客だろうと、エルフだろうと、元より良くなろうと、許されることではない。報連相大事。間違いを咎めるのも大事。


「大丈夫よ。王都を出発する前にアタシ達がロア商会の人間って知って、如何にもタダで手入れしてくれって雰囲気醸し出してたから」


「空気だけじゃダメだろ! 勝手な解釈はトラブルの基って学校で習わなかったのか!? もし本当だとしたら御者テメェには教育的指導炸裂させるからな!」


「…………」


 車内の造り的に防音が効いているとは思えないが、外を駆けている俺の声は間違いなく御者に届いているのに、返って来た答えは沈黙。無反応。


 肯定も否定もしない上、ルナマリアの行動を咎めることもないので、何も言えなくなってしまった。


「荷物はどうするニャ? 持ってきた方が良いかニャ?」


 あ、お願いしますぅ~。お手数おかけしますぅ~。

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