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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十九話 家に帰るまでが旅行 

 王都を離れるにつれて、窓の風景は人工的な建物から野山へと変わっていく。


 並走する2台の竜車は、御者の腕や運や乗客の気分によってそれなりの頻度で順番が入れ替わり、その度に信号待ちしていた知人の車を追い越した時のような煽り合いが起きる。


 他にも、窓から身を乗り出して車両間で会話したり、休憩時にメンバーを入れ替えたり、座席の下上にあるトランクからオヤツを取り出したついでに席を交換したり、団体での旅行でしか味わえないテンション爆上げのイベント目白押しだ。


「アリシア姉、大丈夫かなぁ……」


 それに加えて久しぶりの王都-ヨシュア間の地上移動だというのに、俺は王都に残した姉のことが気がかりでテンションを下げていた。


 楽しい楽しい旅行の終わりや祭り後の空気はどちらにもなり得るのでノーカン。


 防壁の修繕もまず間違いなく成功するので不安はない。


 俺が憂いているのは成功までの道のり。


 アリシア姉の巻き起こすトラブルと、イブが発見するであろう新技術と、魔獣アンチというか怠けた人類が遭う悲惨な目はどーでも良いが、そこから発生した被害が俺に向くのはダメだ。嫌だ。断固拒否する。


 歴女、森ガール、鉄子、カメラ女子など、ガールや女とつけば何でもいいのではないかと思ってしまう名称が多い世の中で、我が姉をカテゴライズするなら『ヤンチャガール』だ。


 本人は正義の味方だとか冒険家だとか宣うだろうが、周りの迷惑を考えずに好き勝手に振舞うあの所業は、紛うことなきヤンチャ者。その他の精神は副産物でしかない。


 しかも今回はイーさんやレイクたんというブースター付き。クロと共に制御側に回る可能性もあるが、イブを唆して混沌に陥れる可能性も十分あり得る。


 不安だ。


「そんなに気になるなら残れば良かったのに」


 同じ愚痴というかコメントを20分に1回するのはハイペースだろうが、移動を開始してから初……何なら最初で最後ならセーフのはず。別の相手にはするけど。


 そう思って放ったものだが、千里眼というチートスキルを持つニャンコには見抜かれていたらしく、正面に座ったヒカリは呆れながら助言した。


「あ、言っておくけど読心術は使ってないよ。呆れてる理由は構ってちゃんだからだよ。言いたいことがあるならハッキリ言いなよ」


 微妙に違った。


 でもそれはそれで激おこぷんぷん丸。


「自分の望む言葉を掛けてくれる人に甘えたり、自己肯定感を高めると同時にコミュニケーションを図れるすんばらしい手法をバカにするな!」


「バカにはしてないよ。鬱陶しいからやめてって言ってるだけ」


「否定するヤツは全員敵だ。俺のやることはすべてにおいて正しい」


「…………」


「すいませんでした。自分チョーシに乗ってました。たぶんしばらくは面白いことも起きないし景色も変わらないので、愚痴を聞いていただけないでしょうか。相談に乗っていただけないでしょうか。その握った拳を下ろしていただけないでしょうか」


「わたしは最初からそう言ってるよ。拳を下ろすかどうかは内容と今度の態度次第だね。気に障るようなことがなければただのトレーニングだよ」


 そう言ってヒカリはより一層右手に魔力を籠めた。


「54321」


「早い早い! カウント早い!」


 語り部することも一息つくことも許さないスパルタ教育の体現者に縋りつく。


 暴力を振るうためでも抗うためでもなく、他者の行動を優しく引き留めるために使われる拳って良いよね。俺って良いよね。


「これはそういう腑抜けた人を努力家にさせるために必要なことだよ」


「いやまぁそうなんだけどさ……限度ってあるじゃん。他人から強要されたら上手くいくものもいかなくなったりするじゃん」


「放って置いたらいつまでもやらないんだろうな~と思って」


 今から宿題するつもりだった息子vsこれまでのおこないから尻を叩かないとしないと思った母親。


 どちらに正義があるかは誰にもわからない。


 というか、怒られるまでやらなかった過去を持つ息子も、息子を信じてやらない母親も、どっちも悪い気がする。


「ふっふっふ……武力介入するのがヒカリさんだけだと思わないことですね」


「黙って運動してろ」


 屋根に生やした鉄柱で横懸垂という、どこかで見たことのある運動をしていたユキ(とニーナとイヨ)をテキトーにあしらい、トークスタート。


 偶然だろうが口ずさんでいた曲も似ていた。ア~ミノ式~♪



「残るも何も俺が居たらダメなんだよ」


 これまで色んな問題を解決してきた俺が居たら甘えるヤツが出てくる。


 そういう気持ちは伝染する。


 だからこれはアリシア姉みたいな、何も知らないけど取り敢えず頑張ってみる、根っからの挑戦者に任せるべきなのだ。


「困るのは自分だから試行錯誤するし、簡単に投げ出せるものでもないし、あの人は妬み嫉みを知らないから成功したら全力で褒めてくれるし『じゃあ貴方達の実力を見せてみなさい』って調子に乗らないように躾けてくれるだろ?」


 指導者としては厳しすぎるのでダメだが、講師や手本としてなら全然ありだ。


「まぁ誰も正解を知らないから文句も言えないね。アリシアちゃんの成功例を真似するしかないね。悪いのは失敗する人達だね」


「そゆこと。俺もヨシュアでやりたいことあるしな。通信障害が起きてる王都じゃ出来ない魔道具開発とか、情報操作とか……あ、そうそう、良さそうな魔獣を見つけて連絡したりも」


「大体はっ、ベルダンの皆さんがっ、やって、くれて、ますけどね~」


「……なに?」


 いつの間にか内容を燃焼系から消費者金融のCMダンスに変えていたユキが、どうやっているのかレオタード姿で地面を滑りながら踊りながら曲を口ずさみながら、ながらながらで不穏な台詞を吐いた。うぉちゅちばへ~♪


「アリシアさんのっ、指導もっ、上手くいく……とっ、良いですね~」


「……ほわい?」


 俺を無視してユキはさらに続ける。


「あ、時間のことなら心配いりませんよ。イブさん達が寝る間も惜しんで取り掛かってるクロさんの調査が終われば間に合いそうです。成功者が指導に回れば講師役は鼠算式に増えますし、レイクさん達も手伝ってくれてますし」


 ツッコミが追いつかない。理解が追いつかない。


 ヨシュアで平穏な日々を送っているはずのベルダンの連中が何故ここで出てくる? アリシア姉の仕事は腑抜けた人間共の心身を鍛えることだったのでは? 寝る間も惜しんでってクロはアリシア姉の制御が第一のはずでは? 調査はその邪魔にならない範囲でやるって話では?


「これ以上私から言えることは何もありません。気になるなら自分の目で確かめてくださ~い」


「む……」


「ほら。そこで心が揺れるのがもうダメだよ」


 すかさずヒカリから指摘が入る。


「ルークはもっと色んなことに無関心になった方が良いよ。アリシアちゃんがどんな教育をしようと、イブちゃんがどんな力を発見しようと、ヘイトは全部レイクたんが引き受けてくれるよ」


「でも巻き込まれるじゃん」


「それはいつも重要人物はべらかしてるルークが悪いよ。防壁の件もそうだけど、今回の旅行で起きたトラブルのほとんどは、どう考えてもイブちゃんとアリシアちゃんが中心でしょ」


「ルークは自分から首を突っ込んでる」


「そうですね。ルーク様が思っておられる以上に我々は世界に対して何もしておりませんよ。人類や自然が自らの意志で動き出したので、ユキも防壁撤去宣言をしたのでしょう」


 ヒカリが『悪いのは環境ではなく自分』という意識の高い発言したのを皮切りに、ニーナ、そしてフィーネが被害者面(?)する俺を咎め始めた。


 しかしこちらにも言い分はある。


「巡り巡って俺に被害来るじゃん」


「これまでがそうだったってだけでしょ。もしかしたら今回こそ何もないかもしれないよ。事前に少しでも被害減らそうと助言や心配するから巻き込まれたように感じるだけで、最初から最後まで無関心を貫けば知らない間に解決してるかもよ」


「つまりメルディ達がヨシュアで何をしてても無視しろと?」


「そっちは知らないけど王都の方はたぶん大丈夫でしょ。むしろ関わり過ぎたまであるよ」


 ヨシュアも大丈夫って断言して。


「でもそれって寂しくない?」


「「「…………」」」


 え? そんなおかしなことかな?


 流されるだけの人生なんてつまんないじゃん。話題に出たり目の前で起きたことには積極的に首突っ込んだ方が絶対楽しいじゃん。


「ルークってそういうとこアリシアちゃんに似てるよね……挑戦的というか平穏を求めないというか」


「平穏は求めてるよ。スローライフ万歳だよ。俺が言ってるのはその中で起きる些細なイベント。折角の人生なんだしみんなの記憶に残るようなことしたいじゃん」


「あ~、なるほどね。焚火をしたかったのに何故かいつも山火事になると」


「そうそう」


「「「それはドンマイ(です)」」」


 いや、『気にするな』『心配するな』って言われても困るんですが……なんか今横切った馬車の乗客達がヨシュアがどうとか騒いでた気がするし。

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