外伝43 出会いと再会
無能の烙印を押された者達を見捨てることなく自分なりのやり方で成長させた……と言えば聞こえは良いが、実際は善意の押し売りと実験台にしただけ。
国の方針に共感して個人の意思で動いているだけのアリシアを咎めても計画に支障はなく、耳を傾けるつもりも一切ないので泣き寝入りするしかないゴロツキ達が、適合者を作り出すのを諦めてくれたことに嬉し涙を流した翌日。
さらに言うなら、心身共に疲労したことで普段より遅い時間に目を覚ましたゴロツキ達が、自室の枕元で『来年までに間に合わないだけで努力しなくて良いわけじゃないですからね。勘違いしないように』という、誰から送られたかわからないが無視するわけにはいかない不幸の手紙を発見して震えあがっていた同時刻。
レイクに呼び出されたアリシアは、連絡が付かなかったイーサン以外のいつメン3人で、王都の片隅にある建物を訪れていた。
「ここに居るのね! 私の生徒が!」
神獣化計画の適性者を選抜する会場の、寂れたと表現しても過言ではない正面玄関で仁王立ちしたアリシアは、レイクをはじめとした担当者が講義だか試験だかをおこなう中で見出した将来有望な者達に心躍らせた。
自分達を呼び出したのはつまりそういうことだ。
「国の命運を左右しかねない取り組みなのにメチャクチャ地味だな」
「私てっきり、多目的ホールを貸し切って候補者の顔すらバレないように大仰に、そして慎重におこなっているのかと思ってましたよ。
たしかにこういったところの方が逆にバレにくいのかもしれませんけど、試験会場と言えば巨大施設と相場が決まっているものです。例え1000年祭の邪魔にもなったとしても定番は守っていただかないと」
そんなアリシアの気持ちに水を差すように両肩の妖精達から不満の声があがる。特にピンキーは個人的感想を通り越して批難になっている。
ユキの宣言によって多少落ち着きはしたものの、それでも十二分に騒がしい町中とは一線を画す静かな場所だ。公民館サイズの建物も個人で貸し切れるレベル。
拍子抜けするのは当然と言えた。
「どーでも良いじゃない。重要なのは訓練段階をすっ飛ばした有能が居るってことよ。試験内容も世間の盛り上がりも私達には関係ないわ」
「そうは言ってもムードって大切ですよ? 性行為も、種の保存のために仕方なくおこなうより、愛と欲望を高めてからの方が気持……ぐえっ」
「さ、行くわよ」
片方は精神的に、もう片方は物理的に一蹴したアリシアは、何十という候補者が集まっているはずだが雑音の一切聞こえない建物内に、授業中に教室を抜け出した時のような背徳感と高揚感を抱きつつ、指示された部屋へと向かった。
「それにしてもアリシア。今回は随分と気合が入ってますね。これまでそんな素振り一切見せませんでしたけど、調教が好きだったりするんですか?」
「ん~。形は違うけど、アッシュ達もフィーネとユキに才能を見出されたわけでしょ。ということは、私が鍛えた連中があの3人を超えることが出来れば、私の指導力がフィーネ達を上回ったってことになるわけよ。
教えるのが上手な人間はそれだけ理解してるってことだし、これを機に武道に目覚めるようなことがあったら私が指導者としても優れてるって証明されるでしょ?
人に教えることで見えてくるものもあるって言うし、自他共に成長したってなったらフィーネ達も私に可能性を見出して鍛えようと思うかもしれないじゃない」
全世界の教育者と生徒と保護者に喧嘩を売るような発言をするピンキーを華麗にスルーしたアリシアは、仕事を引き受けた理由を告げた。
「なる……のか?」
「なるわけないでしょう。3人は幼かったですし、才能を見出されたのではなく生きる術を授けられただけです。この計画に彼等レベルの実力も必要ありません。仮に武の才能があったとしても魔獣に認められるまで育てたら終わりです」
「上回るってのは理想よ、理想。認めてもらえる程度に鍛えられたら十分。それも今すぐじゃなくて未来で良いしね」
またもやアリシアの両肩で議論し始めた妖精達。
それを受けたアリシアも負けじと先程と同じように肩を竦めた。
「一応確認するけど、思ったようにいかなくても『私が認められないのはお前等のせいだ!』とか言うなよ? 他人に勝手に人生託して責めたりするなよ?」
身勝手な大人に悩まされた経験でもあるのかパックが予防線を張ると、アリシアは呆れた様子を維持したまま続けた。
「そんなことするわけないでしょ。『生徒のせいにするなど心が基準を満たしていませんね』って怒られるだけだわ」
「おっ、マジか。オイラが思ってるより冷静だったか。そりゃあ悪――」
「アッシュ達が受けた修行の何倍もキツイことをさせるのよ。魔獣に認められたら終わりってことは、逆に言えば魔獣に認められるまでは好きにして良いってことだし、子供より心身共に強くなってるからきっと余裕でこなせるわ。
昨日も言ったけど人間は戦えば戦うほど強くなれるから、生徒は魔獣と協力して立ち向かうことでより心を通わせられるし、私は魔獣と共闘する冒険者っていう世にも珍しい連中と連戦出来る。皆が幸せになれる画期的な方法よ」
「…………」
パックが謝罪の言葉を飲み込んだのは言うまでもない。
「まぁアリシアは行き過ぎですが、この計画にはそういった身勝手さも必要そうですね。人間は周りに気を遣い過ぎです。アリシアの半分でも我が強くないと野生ではやっていけません。認めてもらえません」
「いや……それはそうなんだけど……」
それはパックも思っていたこと。
何をもって相手を認めるかは各々の価値観によるだろうが、行動理由を求め過ぎて動けなくなり、何も考えずに行動して失敗し、次に活かそうとせず恥じて終わるような愚者と仲良くなりたいと思う者は稀だろう。
一時的なメリットや社会性などを考慮して妥協する人類ですらそうなのだ。
その日暮らしの生活に満足しているであろう魔獣に力を認めさせるのは並大抵のことではないし、これまでに人類が手に入れた衣食住や魔術などの生きるための力は人類のためのもので、他種族が使えるかどうかは度外視されたものばかり。
そんな種族から力を与えると言われても信じる者は少ないし、すぐに引き下がる自信の無さが表れている者では絶対に不可能。強引さが必要な場面は多いだろう。
「私も昔から思ってたのよ。人間って計画性とチャレンジ精神のバランス悪いのよ。もっと冒険したり慎重になったり身勝手になったりシチュエーションに合わせた言動を取るべきだわ。自分と周りを幸せにしようっていう最上を求める精神が感じられないのよ」
ピンキーの二度にわたる指摘を当然のように気付かない、気付こうとしないアリシアは、共感を得られて満足した顔で歩を進めた。
「ちなみに私もどんな方が待っているのか興味津々ですよ。心身の強さを認められた人間が心の奥底にどんなドロドロとした欲望を隠しているのか、物凄く気になります。是非訓練中に暴走させていただきたいです。いいえ、させてみせます!」
「……身勝手もほどほどにしなさいよ」
(((お前が言うな)))
その場に居た全員どころか空気中を漂っている精霊達も心の中でツッコんだが、やはりアリシアは気にせず歩を進めた。
「ア、アンタ達は……!!」
指定された部屋で待つことしばし。
やって来た3人(レイク含めて4人)の中に見覚えのある顔を発見したアリシアは、驚きの中に再会を懐かしむ声をあげた。
「おー。姉御じゃねえか。久しぶりだぜぃ」
「元気そうで何よりです、リーダー」
尖った黒髪が特徴的なヤンチャそうな雰囲気の少年と、癒し効果を持っていそうな笑みを四六時中浮かべる恰幅の良い少年が、それに応じる。
もう1人の女性は驚いて固まっている。
「アリシアのお知り合いですか?」
ピンキーの興味は少年達に向いた。
「ええ。昔、チームを組んでたことがあるわ。こっちの黒髪がレト。そっちのぽっちゃりがフクよ」
「おっと、勘違いしないでくれよ。子供のお遊びみたいなもんだぜぃ。校内の悪を滅ぼしたり町の中で困ってる人を探したり体を鍛えたり、姉御を中心に色々やってただけで実力はからっきしだし、今も冒険者の足元にも及ばないんだぜぃ」
パックとピンキーを現パーティメンバーだと判断したレトは、ピンキーの顔色から誤解されたことを悟って、訂正がてら保険を掛ける。
半分正解である。
もう半分は言わずもがな。適性者の心に秘めた欲望に興味津々だから。アリシアの友人だと知って余計に興味が湧いたようだ。
(当時アリシアが日常的におこなっていたであろうパンチラに興奮していたとか、今でもオカズにしてるとかだったら面白いんですけど……グフフ。腕が鳴ります)
「ヨシュアレンジャーって言って北部では割と有名だったんだよ~」
「姉御がレッド、俺がブルー、フクがイエロー。あと2人、ピンクとグリーンが居たんだぜぃ」
「さっき教えてもらったんだけど、僕達みたいに日頃から体鍛えてなかったから期限に間に合いそうになかったり生活を優先して国からの要請断っただけで、2人も適性者ではあったらしいよ」
まさか初対面の相手にそんな下劣なことを思われているなど想像もしない2人は、自己紹介も兼ねた説明を続ける。
「ふふーん。私の人を見る目は確かなようね」
フィーネ達へのマウントポイント1点獲得したアリシアはドヤ顔をする。
なおこのポイントがどこで使えるかは永遠の謎である。
「で、そっちのアンタは――」
「な、な、ななななああああっ!? アリシア=オルブライトォォ!?」
旧友との交流もそこそこに、残る1人の20歳前後の冒険者らしき女性に声を掛けた瞬間、硬直から復帰した女性……ミスティ=ブルーネルが叫んだ。




