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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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閑話 ヨシュアよいとこ一度はおいで4

「こんなスゲェ力を持ってんのに、魔獣に襲われたり貧困に喘ぐ奴等を尻目にのんきにバカ騒ぎたァ、魔獣モドキ様には俺達人の心が理解出来ないと見える。お前みたいなヤツは……ほぎゅ!?」


「おうおうおうっ! 無職のクセに俺の息子に近づいてんじゃねえよ。日頃世話になってる人様の役に立とうともしない社会のゴミは、ゴミらしく掃き溜めみてーなスラムでコソコソ……おぼっふ!?」


「なんか最近こういうの多くない?」


 頭のおかしい魔獣差別主義者にいつものように顔面スタンプを押した私、ミスティ=ブルーネルは、崩れ落ちる男を放置して隣を歩く友人に話し掛けた。


 私が魔境ヨシュアにやってきて4日が過ぎた。


 名実共に凄腕美少女冒険者になるための武具&修行場&仲間を探す傍ら、ひょんなことから仲良くなった自称ヴァンパイアや害鳥と遊ぶ日々を送っている私は、こういった輩によく絡まれる。


 昨日の夕方頃からは特に。


 もはや、人類の敵である魔獣を嫌悪しているというより、魔獣が人間社会に受け入れられたら困る闇組織が動いているのかと思うほど頻繁に絡まれる。


 今朝なんか1人で歩いてたのに絡まれた。


 前に貢がせるだけ貢がせて捨てた男に似てたような気もするし、手に負えない魔獣を押し付けた冒険者パーティの1人や、酔った勢いで過去の過ちを暴露してしまって業績の落ちた商人や、実は動いてなかったけど馬車に引かれそうになってると勘違いして突き飛ばして怪我&持ってたオモチャを破損させた子供の父親にも見えたけど、仕返しがどうとか言ってたからボコされた魔獣アンチに違いないわ。


「そうやって自らの非を認めず責任転嫁するから争いが生まれるのでは……?」


 私の投げ掛けた質問を無視したメルディが、呆れと戦慄の入り混じった様子で指摘してきた。


「用件も告げずに殴り掛かってくる方が悪いのよ」


 私がこれまでに男の顔面にめり込ませた靴底は数知れない。


 私が暴力的ってわけじゃない。男尊女卑やセクハラが横行する冒険者界隈では日常茶飯時だけど、一般人にやることは珍しい。この町に来るまでは両手で数えられるくらいだった。しつこいナンパとか勧誘とか人助けとか勘違いはノーカンで。


 ……え? ダメ? なんでよ? 売られた喧嘩は結果がどうなろうと相手の責任だし、差別主義者は問答無用でボコることを推奨されてるし、目障りな連中に人権はないって世界共通のルールを知らないの?


「アナタ、今、暴行を働きましたね。私見てましたよ。彼等は何もしていないのに手を出し……ぷるばっ!?」


 話に割って入ってきた女の顔面に靴底をめり込ませる。


「用件を告げただけで蹴っているが?」


「これは暴力じゃなくて正当防衛。無実の罪を被せようとしてきたんだから当然のことじゃない」


「いや、事実だが?」


「無実よ。この女もだし、この女が言ってる件も、相手が先に言葉の暴力を振るったのよ。何も悪いことをしてない友人に暴言を吐かれたら誰だって蹴るでしょ。百歩譲っておあいこなのに『何もしてない』とか。公平性に欠けるわ」


 私は人並みの倫理観持ってるのよ。


「暴力に訴えるこの対処方法も、最初やるかどうか悩んでたの、メルディだって知ってるでしょ」


「貴様のそれは、見ず知らずの人間の、主にオッサンの鼻血や唾液が靴裏に付着するという身勝手な不快感によるものだろう……暴力に訴えずに平和的解決を目指す連中に迷惑が掛かるなど微塵も考えていないだろう……」


「この町がそういう感じじゃない」


 誰も居ないところで絡んできた貴族をメルディが……もとい不運にも足下に生まれた闇の沼に沈み、次に絡んできたゴロツキを通行人が殴り倒し、その次に絡んできたヤンキーの股間を子供が蹴り上げ、誰も咎めないどころかよくやったと褒めるような空気だったので、私も遠慮なく暴力に訴えることにした。


 最初に靴底をめり込ませたのはたしか……筋トレでつくった体でイキリ散らかすハゲだったと思う。


 素人ならビビるかもしれないけど、実践経験豊富な私に通用するわけもなく、ついでに敵うわけもなく、秒殺してやった。その時も「お前のせいで俺達が苦労してて~」とかほざいてたが気する。結構な数の通行人が、無言でサムズアップしたり、ニヒルな笑みを浮かべてくれたことの方が印象深い。


 それほどまでに彼女達は町の皆から愛されている。悪を裁くために悪に手を染めることを推奨してるまである。『正当防衛なら仕方ないな』みたいな空気がある。


 私は1000年祭に便乗してバカ騒ぎしてる状態しか知らないけど、たぶん普段から無法地帯で、突然怒声を上げたり暴行事件が起きたり誰かがその場で崩れ落ちても、誰も気にしないんじゃないかしら。酒場で喧嘩や飲み比べからの嘔吐、新人イビリが起きた時より『あーはいはい。またですか』感が強そう。対応も迅速だし。


 ちなみに、キモい以外の戸惑っていた理由をあげるとするなら、人類の敵を擁護して私の華麗な経歴に傷がつくかもしれないのが嫌だから。


 メルディ達と仲良くなってなかったらどちらにも加担してなかったと思う。それどころか冒険者として魔獣は悪だっていう主張を支持してた可能性が高い。


 まぁ今は違うけど。


 嫌がらせも別に気にしてない。嫌がらせを受けるから主義主張を変えるとか馬鹿らしいじゃない。やってることも実力も子供以下で私の敵じゃないし。


「いや、だからそもそもの問題として魔獣アンチではない可能性が――」


「くっ……貴方達はいつもそう! そうやって正義を力でねじ伏せる! 魔獣は悪だって何故わからないの!? 無職がどれだけ世間に悪影響を及ぼしているかいつになったらわかるの!? 早くあいつ等をなんとかしないと国が滅びるわよ!」


 メルディの言葉を遮って女が涙目で叫ぶ。


 女だからって手加減したのが悪かったみたい。気絶もさせられないし、反抗心も削げてない。手は出してきてないからやり過ぎると悪者になるし、ホント、話術でどうにかしようとする女が一番面倒。拳で来なさいよ、拳で。


 あと無職に恨み辛み籠り過ぎでしょ。


「身近に苦労した人でも居るの? それとも彼氏や友人がニートで苦労してるの? 話は聞かないけど良い病院紹介するわよ?」


「きーっ! あくまでも魔獣の味方をするつもりなのね! 後悔することになるわよ! 私は正義の使者の中でも最弱! 魔獣を嫌う人間はいくらでもいるわ! 第二、第三の刺客がアナタを襲うんだから!」


 正義であるはずの自分が批難される町の空気も相まって、これまでに絡んできた頭の足りない男共同様あっさりと反論する術を失った女は、逃げ出す前のありがちな負け犬の遠吠えを始めた。


 どうでもいいけどこれって上手くいった例あるのかしら? 圧倒しておきながら妄想に等しい脅しに屈して「ひぃっ、そ、それは嫌なので降伏しますぅ~」なんて言う人居るのかしら?


「この町でメルディ達を悪人に仕立て上げるのは無理だから、いい加減諦めなさいよ。良い魔獣だっているのよ。彼等だって必死に生きているのよ」


「絶対に諦めないわ! 魔獣を駆逐するその日まで!」


 そして、足跡がついた顔を歪ませて、やたらカッコいい捨て台詞を吐いて逃走した。



「ふっ、興が冷めてしまった」


「それ言いたいだけでしょ。何もしてないじゃない。というかさっさと質問に答えなさいよ。なんで最近こういうの多いのよ」


 真紅の瞳の片方を反対側の手で覆う、いつもの中二ポーズを決めるメルディに、淡々とツッコむ。構ったら負けだ。調子に乗るだけだ。


「くくく……変化とは世界が動いている証拠。是非は後の世が決めることだ。我はただ自らの思うがままに生きるのみ」


「つまり知らないと」


「うぐぅ……」


 いつものように愛を持って見下すと、図星だったらしく、メルちゃんモードで鳴いた。


 最近気付いたけど、彼女は言動に自信がある時は左手で右目を隠し、自信がない時は右手で左目を隠す習性がある。便利だから本人には絶対言わないけど。


 たぶん彼女の仲間も何人か気付いてるけど放置してる。


 メルディ弄りに定評のあるハーピーさんは確定。


「だ、だが! 妙な視線が増えたことは理解している!」


「私はその正体が何なのか訊いてるのよ。絡まれることが増えたんだから、そりゃあ視線も増えるに決まってるじゃない」


「い、いや、それだけではない。今朝ゴーレムとも話したのだが、これまでの好奇に満ちた目ではなく、何かこう……我々を探るような視線も増えたのだ」


「ふ~ん。何か関係があるのかしらね」


 セイルーン王国が、魔獣と共存する必要性を発表したことを知ったのは、この会話をした2時間後のことだった。




「――というわけで、国の一大事が広まるまで2時間も差があるというのは考えづらいし、アンタ達を監視してたのは国からの依頼された連中だったみたいよ」


 仕事の時間だからと一旦は別れたものの、この時間担当しているイベントを知っていた私は、持ち前の愛国精神と友情を胸にメルディの下を訪れた。


 国から事前に知らされていた人達が、魔獣でありながら魔獣ならざる彼女達の生態を調べていたに違いない。


 声明を出すまでの準備期間で裏で色々やるとかよくあることだし。知らないけど。だって私権力者じゃないし。ただ似たような経験はある。学生時代に盗み見られた3サイズ&体重の情報が出回る前に潰したんだけど、これはその逆……というか盗み見た側の行動ね。


「それでメルディ達って成功例なの?」


「ふっ……我の目は誤魔化せん。欲望が丸見えだ」


「ぎくぅ!」


 明確な答えが得られたらそいつ等に売るとか、超一流の武具との交換も可とか、バラされたくなければ力を寄こせとか、そんなこと考えてるわけがないじゃない。


「思考と発言が逆になっているぞ」


 いや、別に逆でもない気が……。


「ま、まぁ、細かいことは良いじゃない。私とアンタの仲でしょ。教えなさいよ」


「くくく……生憎だが我は自らの意志と力で“成った”のだ。知識や技術を与えられただけの魔獣とは違う。参考にはならん」


「あ、そうなの? ならそれ言った方が良くない? じゃないと今後も付き纏われるわよ?」


「くく……果たしてそう上手くいくかな」


「なんで善意で助言してる私が悪人側なのよ。そしてアンタはどの立場なのよ。何を根拠にそんなこと言ってるのよ」


 左手だし。自信ある時のポーズだし。


「友が帰還した」


「あ~、それってアンタ達を北部に押し込めてた連中のこと? 解き放つ力を持ったヤバい連中のこと?」


「うむ」


(うわぁぁ~! おしまいだぁぁ~!)


 私は嬉しそうに頷くメルディの隣で頭を抱えた。



「ちなみに、防壁の補強や魔獣の育成には手を貸せないが、適性者を見抜くことは可能だ。既に何人かは知り合いにリストを送っている」


「………………」


 翌日。何故か私は王都に召還されることになった。

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