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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十八話 人の役割 方針決定編

「さて……アリシア姉を監、オッホン! 一緒になって適性を見抜いたり仕組みを作ったり役割を与える知将が必要だな」


「防壁の調査があるから無理」


 厳しいを通り越して理不尽な保安官が着任したことを知ってガックリと肩を落とす一同を尻目に、申し訳程度に視線を彷徨わせ、最後にイブを直視すると、目を逸らしたら負けだと言わんばかりに真っ向から視線を受け止めた。


 そして毅然とした態度で拒絶した。


「ルーク君が残れば良い。絶対に帰らないといけない理由はないはず」


 それどころか責任転嫁という名の改善案まで出してきた。


 押し付けている面倒事の中には、今後アリシア姉が巻き起こすトラブルの処理および責任も含まれる。確定している未来は理由付けに使って良いから責任転嫁。


「いやいや。俺は急ぐ理由がないってだけ。デメリットにならないだけ。そっちはメリットがある。何せ作業にはアリシア姉の力が必要不可欠なんだからな。それに自分でも言ってたじゃないか、クロっていう成功例も調べた方が良いかもって」


 だが引くわけにはいかない。


 俺には俺の信念と作業がある。


「それは違う。話を聞くだけで十分。アリシアさんはアリシアさんで動いてくれればいい。監督が必要だと思うならルーク君がやるべき。協力者はみっちゃんで間に合ってる。お姉様に言えばケロちゃんも貸してくれるしユキさんやレイクたんを頼ることも出来る。有り余る人材は邪魔でしかない」


「いやいやいや。みっちゃん以外は頼まなきゃいけないし、みっちゃんだって忙しそうにしてるじゃないか。なら無償で雇える人材を使うべきだ。本人のやる気を買ってやれ。大体イブが断ろうが遠ざけようがアリシア姉は1人でもやるつもりだ。

 優秀な人材をボロ雑巾にされるの嫌だろ? 魔獣を支持も嫌悪もしてなかったのに恨みで非協力的になられると困るだろ? でも邪魔者はどうにかしたいだろ?」


「それこそルーク君がやればいい。チームが増える分には一向に構わない」


「俺はこういうのは量より質だと思ってるし、そもそもの論点が違う。常に一緒に居ろって言ってるわけじゃない。やり過ぎないように手綱を握っておくだけでいいんだ。上手くやれば役立つこと間違いなしだぞ。

 さあ、ほら、言ってみ。『協力感謝する。一緒に頑張ろう』」


「私には無理。アリシアさんのことを誰よりも理解してるルーク君が指示するべき。協力感謝する。頑張って」


「いや、俺にじゃなくて。アリシア姉に言え。他人事みたいな口調もやめろ」


「ねえ……気のせいかもしれないけど私のこと押し付け合ってない? なんか学生時代思い出すんだけど。先生とクラスメイトがそんな感じだったわ」


 俺とイブの間に漂う不穏な空気を察したアリシア姉が、珍しく凹んだ様子……は微塵もないどころか積極性がないことを咎めている気すらするが、とにかく口を挟んできた。


 ペアになれと指示されたのに中々声を掛けない学生を前にした教師みたいだ。


 そりゃあこんな生徒は嫌だろう。


 自分の正義を押し付けてくるけど主張は正しくて、乱暴なのに何故か恨めなくて、人の話を聞かないクセになんやかんや上手くやれる子供なんて、厄介以外の何物でもない。


 まるで学園漫画に登場する破天荒教師だ。


 法と秩序を重んじる学校側と、やっていることは犯罪だし計画性も皆無だが生徒のために悪しき文化をどうにかしようと奔走する主人公側。


 どちらが正義かわからなくなる。



「まぁそれはどーでもいいわ。結局私は何をすればいいわけ? いつも通り目についた悪を片っ端から成敗すればいいの? それとも国から依頼されたことを明かして、相棒見つける手伝いをしながらしごけばいいの?」


「だからどこの破天荒教師!? 見てみぬフリとか出来ないわけ!? そうやってお節介な誰かがなんとかするから他人任せのクズが増えるってわかってる!?」


「ハァ? 不快なんだから殴り掛かるのは当然じゃない。それとも何? アンタはポイ捨てしたり友達の陰口言ってる連中を注意しないわけ?」


「限度ってもんがあるだろ……」


「アリシアは自分にも周りにもスパルタだから」


 よくこんな生き方をしてて今まで問題にならなかったなと呆れる反面、以外に考えていたことに驚いていると、第三者ニーナの客観的意見が飛び出した。


「今はその厳しさが必要なんでしょ。1件目もそれで上手くいったから、ルークは私にこんな仕事依頼したんでしょ」


 俺は俺に対する意見だと思ったのだが、アリシア姉も同じように自分のことだと思ったらしく、言い訳するように説明し、そして尋ねてきた。


「いやまぁそうなんだけど……アウチッ」


「考えて行動しなさい。説明を求められたら迷わず答えなさい。間違ってるかどうかはこっちが判断することよ」


 間違いではないが正しくもないアリシア姉の考えと、どこまで助言すべきかという悩み。2つの理由で口ごもっていると、スパルタ保安官から愛の鞭が飛んできた。


「生まれてこの方、計画性の『け』の字も持ったことがないアンタが言うな」


 と、ツッコミを入れたかったが、理不尽の権化たるアリシア=オルブライトなら「自分の失態から目を逸らしてんじゃないわよ!」と再び殴って来そうなので黙っておくことに。


 悪人が正しいことを言ったらダメなんてルールはないしな。


「1件目のは一方的にボコされて復讐する気がなくなったってだけだろ。俺達がやろうとしてることは本人達のやる気が大事なんだよ。『俺達のために怒ってくれたんだ。ありがとう』『妨害活動はやめて魔獣と共存しよう』って前向きにさせる必要があるんだ。

 学生時代からその片鱗を見せてたアリシア姉には、それを発展させた本当の意味での教育的指導をやってもらいたいわけ。

 そのために必要なのが計画性。そしていざって時に責任取ってくれたり揉み消してくれる後ろ盾。つまりイブの協力。win-winの関係は素晴らしいと思います」


「何言ってるのよ。拳で語り合えばお互いのことを理解出来るし、敗者は勝者の言うことに従う義務があるんだから、私にボコられた連中は魔獣のことを好きになったに決まってるじゃない」


「それが成り立つのは創作物の中だけだ。現実は拗ねて、無関心を装ったり復讐心を抱いたり、そいつが不幸になるのを願ってるもんだ」


「はぁ……アンタってホント、マイナス思考よね」


「あ゛? やんのか、コラ? テキトー言ってんじゃねえぞ。相手を批難したかったらまず理由を言え。理由を。話はそれからだ」


「だってそんなことしてもなんにもならないじゃない。不幸になるのを願ってどうするのよ。時間の無駄でしょ。一通り拗ねたらどっちの言い分が正しかったか考えて次に活かすし、無関心は装ってるんじゃなくて本当に興味を失っただけだし、抱くのは復讐心じゃなくて次は負けないっていう向上心よ」


 めっちゃポジティブぅ~。


 まぁ俺も時間はもっと有効活用するべきだと思う。その時間やエネルギーがあればたぶん何か凄いこと出来る。人類は自尊心のせいでどれだけ損しているか気付いてないのだ。気付いていないフリをしているのだ。



「とにかく拳で語り合うのは無しだ。いや有りだけどそれだけじゃ足りない」


(((有りなんだ……)))


 一瞬見えた希望の光に歓喜する一同だが、すぐに元のテンションに舞い戻った。


「周りの人間や自然や魔獣と触れ合ったり、自分や他者を鍛えることに楽しみを見出させないとダメだ。

 達成出来そうで出来ない。でも最後にひと踏ん張りしたら出来た。得た力で新しい道が見えた。そういう次のステップに進みたくなる気持ちが大事なんだ」


「……? つまり勝者と敗者の関係でしょ?」


 この戦闘狂はホント……スパルタ教育の語源となった古代ギリシア≪ポリス・スパルタ≫でおこわれていた英才教育を、本気で感心したり推奨したりしそうだ。


 ちなみにスパルタでは、子供は国家のものとされて親は自由に育てる権利を持たず、生まれた子供が病弱であれば谷に投げ捨てられ、健康であれば7歳までは育てられるがその後軍隊の駐屯地に送られる。


 頭は丸刈り。常時下着姿。裸足。成績が悪かったり反抗的な態度を取れば鞭打ち。食事は飢えない程度に与えるが、戦闘訓練の一環として盗みを推奨し、見つかった者は無能として鞭打ちの刑に処す。教育は成人するまで続き、駐屯地を去った後も同じ生活を求められ、国に仕えているという自覚を常に求められた。


 女性は子作りが最優先とされ、強い子供を産める母体の育成のために幼少期から厳しい体育訓練を受ける。妻とは同居したくないが子は欲しいと思う者は、未婚なら本人、既婚なら夫を説得すれば子作りを許される。何故なら子供は国家のものだから。宝だから。


 男性は強い子供が産めそうな女性を、女性は戦争に出ても生きて帰って来そうな男性を魅力的と見なす傾向が強く、アリシア姉の価値観もこれに近い気がする。


「魔力を扱う能力を持たない人間を、魔獣や自然物を体内に取り込むことでそこに宿った力を借りてるだけの世界一の劣等種を、どう思う? 逆に自分がそんな連中を守らなきゃいけない立場だったらどうだ?」


「今の立場に甘んじず改善する気があるなら許すわ。自分の無能さを理解してない弱者だったり、成長を見込めない連中を守れって言われたら、怒り狂うし幼少期から血反吐を吐かせてでも鍛えるわね。すべての物事に優劣と罰をつけて」


 イッツミー。全然甘んじてなかったけどボコられてました。計画性も一切感じられませんでした。あったのは愛と自己満足だけだと思います。


「理解してないどころか数の暴力で世界を支配して思い上がってたら?」


「単身で魔獣の群れと戦わせたり仕事をさせたり、己を鍛える必要性を実感してもらうわ。出来るようになるまで食事抜きとか、生計立てられるようになるまで恋愛禁止とか、得意分野の中でも優劣をつけて差別を推奨するわ。

 どうしようもなかったら血に関与するわね。エルフや魔族の優れた種族の血を取り入れたり、魔獣の血肉を喰らわせて、強引に強化させるわ」


 ほらね。


 個人的にはこういう熱意を持った人は嫌いじゃないし、集団の中に1人居ることで感化されて改善されたりするので良いと思うが、やり過ぎないように制御する人間も必要になるわけで。



「ち、力で屈服させるってどうなんだ……?」


 ゴロツキAが恐る恐る言う。


 お前が言うなという感じだが、暴力を振るう側から振るわれる側になってはじめて見える景色もあるのだろう。


「問題ないな。絶対的正義じゃないとわかってるから、魔獣アンチはひっそりと活動してたんだ。国が魔獣との協力の必要性を訴えれば、やらない連中が悪になる」


「『従わない』じゃなくて『やらない』か……」


「そゆこと」


 重要なのは自主性。愛国心。


 力になれるかもしれないのにやらない。荒らせるから荒らす。


 そんな価値観は誰からも支持されない。


 ましてや自分や自分の大切な人が被害に遭うかもしれないのだ。足手まといがどうなろうと構わないだろう。つまり過激な暴力も許される。


 ……ある程度なら。




「というわけで、アリシア姉は最低限の方針だけ守ってくれたら好きにやってくれて構わない。イブ達は魔獣アンチの居場所を知らせたり、神獣化モドキの成功例を民衆に伝えたり、何かあった時に責任取ってくれればいい」


「…………」


 無言でガウェインさんを見るイブ。


 読心術は使っていないのでこちらに向いていない気持ちは読めないが、おそらく『保安官なら自分ではなく国の管轄のはずだ』と訴えているのだろう。


「出来るだけのことはしよう」


 しかし、1000年祭という歴史的催しを蔑ろにするわけにもいかないガウェインさんの態度は、冷たかった。



「ワタシニ任セルアル」



 そんなイブを助けた(?)のは、謎の商人イーサンこと予言者イズラーイール=ヤハウェ。


「何か良い案でもあんのか?」


 世界から隔絶された予言者モードならこんなことは訊かないのだが、俗世と関わるためにエセ中国人モードになっている今の彼女では安心出来ない。


「ないアル」


「絶対それ言いたかっただけだろ。もし本当にないなら任せないぞ」


「ばるだる4000年ノ歴史ヲ信ジルネ」


「アイディアの有無で答えろ。てかあの国って誕生してから200年も経ってないんじゃなかったか?」


「ワカリヤスク言タダケネ。ばるだるナル前カラ人居タネ。ワタシソノ子孫ネ。色々知テルヨ」


 環境が厳しめなので断言は出来ないがおそらく人は居ただろうし、彼女は子孫ではなく建国に立ち会った当人だし、最近立ち寄っただけの可能性が高いが、ツッコんだところでどうしようもない。予言者に関することだから言語化されないし。


「まぁその辺のことは任せるわ。学生や新人冒険者を鍛えるって建前で国を動かすも良し、悪行を厳しく取り締まって合法的に協力者じっけんだいにするも良し、酒・女・ギャンブルと魅力的なコンテンツで誘惑するも良し、情に訴えかけて頑張ってもらうも良し、神獣や魔獣に助けられて心変わりする定番展開をヤラセとバレないようにするも良し」


(((それやれって言ってるようなもんじゃ……)))


「魔獣はどういった行動を取った時に危害を加えてくるのか、本当に危険な魔獣はどれなのか、有益な情報を大衆に理解させられるし魔獣の善悪もわかる。それでも魔獣が嫌いってんなら、どこがどう嫌いなのか具体的に言わせて、納得したら候補者から外せばいい。無理強いしても意味はないからな」


(((全部言った……)))

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