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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十六話 人の役割 真相編

「クロ……とか」


 すべての生物が協力し、すべての想いが詰まり、すべての努力を経て、すべての力を手に入れた究極の生命体『聖獣』。


 いくら王都、果ては国の存亡にかかわるといっても、あくまでも可能性。他に防ぐ方法はいくらでもあるのに、ン千年の人類史で2体しか生まれていないようなトンデモ生物を防壁1つのために作り出す必要はないだろうと、イブおよび強者達の反応を窺っていると、案の定、イブはアリシア姉を直視して相棒の名前を口に出した。


 あの苦労人は、精霊王が協力し、俺達に代わってアリシア姉の保護者をしてくれという責任転嫁にも近い想いだけが詰まり、そのための教育……もとい努力を経て、アリシア姉の無謀な挑戦を止める力を手に入れた神獣並みの生命体。


 イブの仮説が正しいとするなら聖獣の完全下位互換だ。


 だがそれ故に頑張れば辿り着けそうな領域でもある。


「今更だけでなんでアリシア姉は1人なんだよ? ここはやたら正義感の強い冒険者の傍にいる、やたら賢い竜を調べてみようってなるところだろ。どこに置いてきたんだよ。そもそもここにいるんだよ」


 クロの強さの秘密を明かさなければ理解は得られないのではないかと不安になったものの、一同は既に成功例がいるという情報だけで納得。俺は安堵して近況報告も兼ねて説明を求めた。


 イブ、アリシア姉、フィーネ、レイクたんなど、各方面から圧を感じたような気もするが、不満の声があがらないのはこちらとしても助かるのでスルーさせていただく。責任を取りたくないから他人に任せるなんて甘えは許しません。言いたいことがあるなら自分で言え。じゃなきゃ気付いても無視するぞ。


 それはともかく、クロがいればアリシア姉がアンチ共を殴ることはなかったし、レイクたんに唆されることもなかった……かどうかは微妙だが、もっとスムーズに話を進められたはずだ。


「それは――」


「その前に1つ忠告しておきたいことがあります」


 アリシア姉とほぼ同時に口を開いたフィーネが、誰の許可を得るでもなく真面目な様子で続けた。


「魔獣の件ですが、くれぐれも没頭し過ぎないように。好奇心や欲で動いても良いことはありませんよ。相手を慈しむ心が繋がりを生むのです」


 過ぎたる力は争いを生む。


 無理強いした関係は破滅をもたらす。


 好奇心は猫をも殺す。


 おそらくフィーネの言いたいのはそんなところだろう。


 魔獣の改造・選別・教育などの非人道的な実験や、その力を自慢したり見下したりすることを禁じると。ペットのように大切に扱えと。忠犬ハチ公やタロとジロのような物語を生み出せと。愛し愛され支え合う関係を築けと。


「人類は破壊や殺戮において兵器1つにすら遠く及びません。そして人類が生み出した兵器も強者1人にすら遠く及びません。そのようなものを争って何になるというのですか。敵ではなかった者に敵視されてまで何を求めるというのですか」


「ねぇ、もしかして私の生き様、全否定された? 喧嘩売られた?」


「こっち見んな。あと黙ってろ」


 あえてカテゴライズするならアリシア姉の持つ魔法剣は兵器だ。


 そして強者と同等の殲滅力を持つ。


 ただフィーネの言う『人類の生み出す兵器』ではない。あれは転生者とか強者とか精霊が生み出したものだ。あんなもの量産されてたまるか。



(にしてもフィーネがここまで言うってことは正解っぽいな。何百何千って数が必要なんだろうけど、可愛がってるペットとか人類と共存してる魔獣に魔石から取り出したエネルギーを与えたら、防壁の件なんとかなるっぽいな)


 1匹でどの程度補填可能なのか想像も出来ない。


 そしてこの言い方からしておそらく付与する人間は別……アリシア姉とクロのように心を通わせた相棒であることが必須かはさて置き、そっちの方が楽だし強くなりそうではある。


 方法も個々に合わせて微妙に変える必要がありそうだ。


 ……………………あれっぽいな。


(誰ですか~、デ●モンの進化みたいだなって思った人は~)


 ここにいる俺だ。


 あっちは紋章。こっちは取り出した魔石の力。最終的には自力で進化出来るが最初は補助として必要ってところまでそっくりじゃないか。


 丁度良いので俺は逃げられない内に神様に質問を投げ掛けた。


(俺ってどうなんですか? ヒカリやニーナ、クロ一家、ベルダンの連中、バルダルの宝島の連中、道中で出会った魔獣と、誰かしら育ててる気がするんですけど)


(フッフッフ~。騙されましたね! 私はユキですよ~)


 心の中に浮かんだ声は、口調こそ同じだが聞き慣れたものへと変わった。


(デ●モンとかいう意味不明な話をするよう神様に言われたので、ただ従うのはしゃくだな~と、声真似してからかうことにしたんですよ~)


 未だかつてここまで無意味な神託があっただろうか。


 本人なら……例えば神様が俺をからかう目的で神託を下すならまだわかるが、赤の他人に言伝をするなど、時間の無駄以外の何物でもない。直接言え。


(アンサープリーズ、オーケー?)


(質問に答えてやるってことならやれ)


(心を通わせるのに回数制限なんてありませんよ~。親友を何人でも作れるように付与も無限です~。ただフィーネさんも言ってましたけど没頭し過ぎてもいいことないかもしれませんね~。出来るからって人の仕事まで取っちゃうのはどうかと思いますね~)


 どうやら正解だったらしく、ユキは手を出すべきではないという助言を、遠回しにおこなった。


 ケモナーとして新種やせっせと働く魔獣に興味津々だったのだが、どうやら俺に与えられた仕事は神獣モドキになった者を派遣すること、および彼等に迷惑が掛からないよう手回しをすることのようだ。


 せいぜい人格者になれるよう助言することぐらいだろう。


(まぁここまで言ったら全部言っちゃいますけど、これは人と魔獣を新たなステージへ導くための計画なんですよね~。

 人は時間を忘れて何かに夢中になることがあります。脳がワクワクしていたり、目的のために必死になっていたり、冒険者が生死をかけた戦闘中に感じることもあれば、お年寄りが就寝前の読書中に体感することもあります。

 私達はその状態を『覚醒』と呼んでいます)


 突然始まった答え合わせ。


 上手いこと読み取って助言しろということなのかもしれない。


(発動条件は挑戦的な集中。自分にとって適度な難しさの目標に向かうこと。

 自分の能力に対して挑戦が低い場合は楽しさを感じられず『退屈』になります。逆に挑戦する目標が能力より高過ぎる場合、成功する可能性を信じられずに集中を切らして『不安』になります。自分の能力を的確に知って、身の丈に合った目標に挑むことで、はじめて覚醒状態になれるんです。

 ルークさんも心当たりがあるはずですよ)


 ……ある。


 初めて魔道具を作った時、魔獣と戦った時、再転生した時など、思い当たる節は数多くあるが確定的なのはイブを取り合って勇者と戦った時だ。


(この力は人類を更なる高みへと押し上げることが出来ます。しかし言葉で言うほど簡単なことではありません。情報と娯楽の溢れた日常は、退屈と不安を誤魔化す無限地獄です。本1冊、ケータイ1つ、言葉1つで得られる受動的な『夢中』はたしかに時間と自分を忘れさせてくれますが、能動的に獲得するそれは自分だけの『夢中』ではありません。挑戦が必要なのです)


(……なぁ。それ助言出来なくないか? 自分で決めなきゃダメなんだろ?)


(あ、気付いちゃいましたか。そうなんですよね。他人に定められた目標じゃ意味ないんですよね)


(俺やることないじゃん)


(ちなみに魔獣はいつも命懸けなので常時覚醒状態で、外敵という不安を取り除くことで次のステージに進めるんですけど、誰もそのことに気付いてないので切っ掛けとして魔石から取り出したエネルギーを与える感じです。まぁ気付いたら人類滅ぼそうってなっちゃうんでそれで良いんですけどね)


(やっぱり俺やることないじゃん!)


(というわけで、防壁の生成には個々ではなく全員の力、それも種族を問わない無関係な者達の覚醒が必要不可欠なので頑張ってくださ~い)


(何を!?)


 もちろん恒久的なものが欲しければの話ですが。


 ユキは、俺の激昂した心を冷ますように、セイルーン王国が1000年後も存在しているか否かの分岐点はここだと言わんばかりに、真面目な声で言い放った。



「ライバル視するのはアリシア様の自由ですが、現実から目を背けるのはいただけませんね。強者が本気になったら人類など目にもとまらぬ速さの首トンで秒殺でございます。破壊力と速度と弾数を併せ持ってこその強者。能力にかまけて体を鍛えていないなんてこともありません」


 時間の流れがおかしかったのか、外界は外界で何かしていたのか、気が付くと背後にレイクたんが立っていた。


 手にはアリシア姉の魔法剣。身体能力の差を見せつけるために、高速移動でアリシア姉が背負っていた魔法剣を奪い、俺の背後に立ったのかもしれない。


 もしこれが戦闘なら2人とも敗北していた。


「誰も気付いておられないようですが、大剣を奪う前に王都の3割を消し去る広範囲殲滅魔術も発動しました。そちらのエルフ様に無力化されてしまいましたが」


「なにしてくれとんじゃ、ワレェ!」


 何気なく飛び出した大量殺人未遂発言に自然とツッコミもイカつくなる。どうしようもないとは言え、思考を邪魔した罰も含まれている。


「補足でございますよ。我々がその気になればこのぐらい気楽に破壊出来るのだと、実感の湧かない皆様に知っていたこうと思いまして」


「その辺の空き地とか空中でいいだろ! それならたぶんフィーネも邪魔しなかったよ!」


「それは無理でございます。人類の阿鼻叫喚を眺めるのがわたくしの数少ない楽しみですので」


 自分の楽しみのためだけに迷惑行為(破壊活動)禁止令を無理と言ってのけるレイクたん、マジパねえっス。


「しかし初めて触れましたがこれは良いものですね。譲っていただけませんか? それがダメなら少しの間貸してください。楽しいことが出来そうです。気が向いたらお礼しますよ」


「ふざけんじゃないわよ。これは私じゃなきゃ使いこなせないし、私の人生に必要なものよ。それより今はクロでしょ」


 魔法剣を永遠に借りる&世界に混沌をもたらすつもりのレイクたんから愛刀を奪い返したアリシア姉は、気を取り直してクロを連れていない理由を話し始めた。

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