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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
八章 ユキ物語
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百話 布教活動

 ユキは精霊である。


 言わずも知れた『マヨネーズ』と言う調味料が大好きで仕方のない精霊。


 俗にいう『マヨラー』と呼ばれる生き物だ。


 しかしこのマヨネーズ。様々な食材によく合い、見た目は綺麗で、それ自体でも美味しい、という調味料として文句のない品なのだが、味や匂いが若干酸味を帯びているため初めて食べる人達はどうしても敬遠しがちになってしまう。


 世界で初めてマヨネーズを提供する連日超満員の人気飲食店『猫の手食堂』でも、変な臭いのするマヨネーズだけは除ける人が居るほどである。


 しかし、その様な事はマヨラーからすれば万死に値する行為であり、許せるわけがない。


 当然ユキは立ち上がった。


 世にマヨネーズを広めるために。



「また残ってます~」


 と、嘆くユキは閉店後の猫の手食堂の厨房で料理人達と意見交換をしている。


 この食堂が出来てからというもの、彼女の日課に『夜のマヨネーズ調査』が加わっていた。


 これだけ聞けば意味不明な行動なのだが、要は1日どのくらいのマヨネーズが食べられているかを調べているのである。


 ロア商会で開発部長と言う謎の役職に就いているユキは、同時にマヨネーズ促進委員会会長(自称)でもあるため、作り立ての美味しいマヨネーズを人々に提供すると言う使命があるのだ。


 そのために必要な事は、1日の消費量を正確に把握して毎日新しいマヨネーズを届ける事に他ならない。



 しかし何故か最近マヨネーズの消費量が減っていた。


 実は客の不人気を受けてリリ達がトッピングするマヨネーズの量を減らしていたり、たまに客の方から「マヨネーズは付けないでくれ」と言われるので当然と言えば当然である。


「アタシ達も努力はしているニャ。でもどうしても除けられてしまうのニャ・・・・」


 悲しそうなユキを見て店長のリリが「人の好みはどうしようもない」と慰める。


 これが食材であれば調理方法を変える事で食べる人も増えるだろうが、調味料として完成してしまっているマヨネーズを提供する手段は限られる。


 そして現在考えられる最も美味しい食べ方で提供している以上は、食べてもらえなければどうしようもないのだ。


「こんなに美味しいのにどうして除けるんでしょうね~。ゴクゴク・・・・」


 もちろん残ってしまった賞味期限間近なマヨネーズは全てユキの胃の中に消える。


 だが大好きなマヨネーズを飲んでもユキの表情は暗いままだった。




「ルークさん、何か良いアイデアありませんか~? 皆さんにもっとマヨネーズの素晴らしさを知ってもらいたいんですよ~」


 解決策を思いつかないまま今日もテンション低くオルブライト家に戻って来たユキは、マヨネーズの開発者であるルークに相談を持ち掛けていた。


「んなこと言ったってマヨネーズの魅力を引き出せる料理は結構教えたぞ?」


 ルークの言う通り、実際食堂にあるメニューの中でマヨネーズが使われる料理は多い。もちろん今も増え続けている。


 にも関わらず消費量が減っている理由は、最早『マヨネーズは食べない物』として客達が認識してしまっているからなのだ。


 もちろん一部の愛好家には食されているが、ほとんどの客は『飾り』として見ている。


「それじゃあダメなんですよ~。お友達になったマヨネーズの精霊さんも泣いているんですよ~」


 度々言われるこの『マヨネーズの精霊』。「新種かな」と気になったルークが以前フィーネに確認した所、見たことはありませんと否定していた。


 そんな精霊が本当に居るのかはさて置き、何とかしてほしいと駄々をこねるユキに良いアドバイスも出来ず困り果てているルーク。



 いつまで経っても風呂に入らないルークが気になり部屋へとやってきたフィーネに怒られて、自室に引きこもったユキは次なる相談相手を考えていた。


 彼女の辞書に『諦める』という文字はない。



「と言うわけで協力お願いします~」


 その相手とはセイルーン王家。


 会食などの機会も多い王族がマヨネーズを美味しそうに食べれば宣伝効果抜群だと考えたのだ。


 出来れば民衆にオススメしてもらいたい、と言うユキにどうしたものかと悩む王族達。今日はたまたま大勢集まっていた。


「ワシは構わんよ。ただ隠居した身なので世間に顔を出す機会も少ないしのぉ~」

「私も」


 ユキと仲の良い先代国王アーロンと第4王女イブはこの提案に賛成のようだが宣伝効果は薄いと言う。


「私、実はマヨネーズって苦手なのよ・・・・ゴメンね」

「僕もあの酸味がちょっと・・・・」


 第2王女マリー、第3王子レックスはそもそもマヨネーズが嫌いだと言って拒否する。


「我々なら布教することも可能だろうが、やらない方がいいだろうな」

「そうですね。いくら将来の家族のためとは言え、商会として名乗っている以上は加担するべきではありません」


 個人的には協力したいと言う国王と、第2夫人でイブの母親のユウナ。


 どうやらユキの作戦は失敗のようだ。




「どうしましょうか~。あんな完璧な調味料なんですから、万人受けすると思ってたんですけどね~」


 ユキが悩みながらウロウロしているのは王城の廊下。


 気分転換も兼ねて王族に頼みに来たついでに遊んでいるのだ。


「まぁそんなに落ち込みなさんな。先ほども言ったがワシらは協力するぞ」

「ユキさん、よっぽどマヨネーズが好きなんだね」


 隣には隠居して自由気ままに生きるアーロンと、友達少ない引きこもりなイブが居る。


 せめてイブが学校に通うようになれば布教活動の幅も広がるのだが、現状3人に出来ることは少なかった。


「ありがとうございます~。じゃあ今から一緒にこのマヨネーズを飲みながら街を練り歩きましょうか~」


 人の顔より大きい容器を取り出して2人に手渡すユキ。


 これが彼女の考えた精一杯の宣伝活動である。


「「それはちょっと・・・・」」


 当然2人は声を揃えて断った。


 協力するとは言ったものの流石に嫌らしい。



 そんな誘いを断った謝罪と言うわけではないだろうが、顔の広いアーロンがとある提案をした。


「いっそ名のある商会を巻き込んでみるのはどうじゃな?」


 アーロンが言うにはマヨネーズに足りないのは安心感、つまり世界中の商会で販売して知名度が上がれば誰もが食べる調味料になるのではないか、というアイデア。


 さらに自分の知り合いの大商会に頼んでも良いと言う。


「なるほど~。無理に食べさせるのではなく、気が付いたら食べていた作戦ですか~」


 100人いる内の99人が食べていれば残る1人も食べざるを得ない。集団心理を巧みに突いた作戦である。


「ならクレアさんに頼んでみましょうか~」


 ユキの唯一の知り合い商人クレア。


 彼女ならばきっと協力してくれるだろう、とマヨネーズ布教作戦に巻き込むことにした。


「おや? ユキさんもゼクト商会と深い関わりがあったんじゃな。てっきりフィーネさんと言うエルフだけかと思っておったが」


 少なくともアーロンが聞いた情報ではそうだった。


 なのでそんなユキのためにアーロンが頼もうとしていた商会と言うのもゼクト商会だったのである。


 だが既に知り合いと言うなら話は早い。


「ちょっと行ってきますね~」


 と転移したユキ。



 そしてすぐに帰って来た。


「クレアさん、今どこに居るんでしょうね~?」


「ずこー」


 随分ノリのいい先代国王は、老体にも関わらず体を張ったズッコケを見せる。



 後日手紙でクレアと祖父のゼノの居場所を聞き出して、それをユキに伝えた。


 ゼクト商会と直接交渉にやってきたユキは、その時に大量のマヨネーズを無料で配り、ゼクト商会が新調味料として数量限定の格安で販売。


 そしてこの布教活動は大成功した。



 こうしてマヨネーズは一般的な調味料としてヨシュアを始め、世界各国で親しまれるようになる。


 元々食わず嫌いと言うだけで間違いなく美味しいものではあったのだ。


 もちろん好き嫌いはあるが、今日もどこかでマヨラーが誕生している事だろう。



 この数ヶ月後、王都の学校に通うようになったイブはユキとの約束通り友達のニコや学生達にマヨネーズを宣伝したのだが、その時には既に有名な調味料になっており、普通に食べられていたので宣伝効果は薄かった。


「・・・・私、必要だった?」

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