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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十五話 人の役割 解答編

 精霊だから――。


 明確な答えをもっていなければ出来ない口調でおこなわれたイブの発言に、俺達は人の役割や魔獣との関係性の議論を中断して、耳を傾けた。


「ずっと考えてた。どうして魔獣は体内に魔石を持つのか」


『ちょ、ちょっと待て。ここで魔獣に触れるってことはつまりそういうことだろ? 俺がやった方が良くないか? 教えてくれたらやるぞ?』


 見ず知らずの人間が多いこの状況で、人を貶めたり十分に考えずに軽率な行動を取る者が多いこの場で、変わり者とは言え王女が口にするには難しい話題だ。


 正解であれ不正解であれ間違いなく荒れる。


 代役の申し出をおこなうも、イブは念話を無視して『それより私が何を言おうとしているか理解出来る?』と質問を投げ掛けてくるような視線を向けてきた。


 これ以上引き延ばすとライブ感が失われたりヤラセっぽくなってしまうので、諦めてこのまま進めることに。何か策があることに期待しよう。


「生物が消費したエネルギーで新たな敵を生み出すってのが、神が作り出した循環システムだからだろ? ただ争うより素材や食糧っていう報酬があった方がやる気にも発展にも繋がるから、精霊を魔石化して敵対するように仕向けてるんだろ?」


「たしかに。人も魔獣も戦えば戦うほど強くなるし、喰らえば各種能力が向上する。でもそれは世界の仕組みのオマケでしかない」


 すると彼女は俺の話を肯定し、そして否定した。


「すべての鍵を握ってるのは神獣」


 イブは、己を取り巻く喧噪など聞こえていないかのように、悠然とした仕草で周囲を見渡した。おそらく魔獣=精霊説のせいだ。


 ただ、そんなことより俺が気になったのは、着地地点がニーナだったこと。


 群衆に訴えかけ、視線を誘導し、神獣と対話しようとするその行為は至って自然だが、彼女はそんなことをするようなタイプではない。自分は好きなようにやるから勝手に聞いて勝手に理解しろと投げるタイプだ。


(この中に紛れてる神獣へのメッセージか? それともフィーネやレイクたんの顔色を窺った流れでそうなっただけか?)


「さっきルーク君も言ってたけど神獣はバランスブレイカー」


 取り敢えず真似をしてみようとした矢先。


 イブが視線をニーナからこちらに戻して話を進めたので、俺も彷徨わせようとしていた視線や思考をすべて彼女に向けた。語り部の真意を見抜いたり理解が最優先だ。


「それは実力だけじゃない。魔獣が神獣化したら体内の魔石は消失する。子が魔獣として生まれようと、人型として生まれようと、その他の生物だろうと、体内に魔石は存在しない。強者だけど倒しても素材は採れないし喰らっても能力は向上しない」


「神獣は争いの種にならないってことか……」


「そう」


 みっちゃんにでも聞いたのだろう。


 イブは確信を持って言った。


「魔獣とは別の役割を与えられてるんじゃないか? このシステムを守るために神から力を与えられたのが神獣だけど、それは同時に正義の心を認められた証拠でもあるわけじゃん? 実行部隊や生産者が知恵と信念を身につけると指揮官になる説」


「そこまでは私も同じ考え。ただ神獣の子が正義の心を持つとは限らない。それでも強者と違って神獣は力を継承する。心身の豊かさを個々で判断せずに血で決めてる」


「そういう連中は遅かれ早かれ良からぬことを企むから、それ粛清するのが神獣とか強者の役割なんじゃね?」


 悪の大王が現れるからこそ争いは起きる。七光りは確実な格差を生む。才能は努力で超えられる。仲間がいれば強敵にも勝てる。例え道を踏み外しても心を入れ替えれば本物になれる。


 そういった差や結果が競争社会を形成するのだ。


「その仕組みこそが神の考えた弱肉強食なんだろ?」


「そう。システムを守りつつ、自分達で生み出した悪を自分達で成敗して、世界を活性化させるのが神獣。マッチポンプで崇め奉られてるのが神獣」


「言い方ッ!!」


「それを可能にしてるのが魔石」


「スルーだとぉ!?」


「……?」


 何かおかしなことでも言ったのだろうか、とばかりに首を傾げるイブ。


 天然ボケはこれだから怖い。これはいいと思った言葉を相手のことなどお構いなしに使いたがる。上手い例えが出来たと自画自賛する。


「別にいいでしょ。嘘だろうと本当だろうと私達にどうにか出来るものじゃないわ。本人達も意図してやってないだろうし。そんなことより話の続きよ。邪魔してんじゃないわよ」


 俺か? 俺が間違ってるのか?


 アリシア姉の正しくも本題から目を逸らす指摘に疑問を抱きつつ、俺は判断を仰ぐようなイブの視線に無言で頷いて、話を進めてもらった。



「才能を持った人が努力したら勝てない可能性がある。でも魔石を取り込んだアドバンテージがあれば勝てる」


「自分で進化した始祖は越えられないってことね」


 ついでとばかりに聞き手をアリシア姉に奪われた。


「でもたまにそれすら超える人が現れる」


「……神獣化した獣人か」


 まぁ負けませんけどね。


 所詮は筋肉バカ。頭の悪さに定評のあるアリシア姉など敵ではない。今のは持ち前の察しの良さで偶然先手を打てたに過ぎない。基礎が違うよ、基礎が。


 生まれながら体内に魔石を持たず、しかし何かの切っ掛けで覚醒し、魔石を取り込んだ以上の力を持つ者……身近な人間だとニーナがそうだ。


「もしかしてスペシャルが生まれる理由わかってんのか?」


「ハァ? 最初に精霊って言ってたじゃない。何を聞いてたのよ」


「精霊と魔獣と魔石と神獣の因果関係を訊こうとしてんの。話の腰を折らないでくれよ」


 と、呆れるアリシア姉に呆れる俺。


 やったったぜ。これでイーブンだ。


「神獣になれるのは魔獣と獣人だけ。人やエルフやドワーフは心技体が揃ったら『強者』と呼ばれるようになる。強者というカテゴリーの中に神獣が含まれることはあっても、強者が神獣と呼ばれることはない。明確に区別されてる」


「あ、それは俺も疑問だった」


 そういう仕組みだから、文字的にそうだから、差別主義者が魔獣蔑視で名付けたなど、それらしい理由はいくらでも思いつくが根拠がない。今のところ獣人の祖先が神獣という結論に落ち着いているが、根本的な問題は解決してない。


 わざわざ区別する意味とはなんだ? 神の名を冠する理由とはなんだ?


「人類と獣は別の生物だから」


「その心は?」


 衝撃の事実ながら心のどこかで考えていた話に、俺は動揺することなく詳細説明を求める。驚くのも納得するのも否定するのもその後でいい。


「魔石は精霊の塊。魔獣はそれを核にして生まれる生物だけど、自分達で繁殖することも出来る。そうやって生まれた子にも魔石がある。戦いでは魔石から生み出された力を用いるし、種の繁栄のために残すべき器官でもあるのに、魔石を持たない神獣の子の方が強い。

 理由は失ったわけじゃなくて取り込んだから。体内に形を変えて魔石が存在してるから。体外なら獣耳や尻尾や鱗。体内なら筋肉量や肉体強化術の魔力変換のしやすさ。

 それ等は魔獣時代の名残。治癒能力が大幅に衰える代わりに精霊術を使えるようになったのが神獣。力は衰えたけど代わりに道具を使うようになったのが獣人」


「ちょっと待て。それだと人類……何ならエルフや魔族より、獣人の方が精霊術の適性高いってことにならないか? 実際は全然じゃん。魔力総量も人類に劣るじゃん」


「簡単。エルフや魔族は精霊を束ねる大精霊や精霊王の子だから。僅かな精霊や血で神獣化する魔獣とは比べものにならない加護を得てる」


「「「んなっ!?」」」


 事情を知っている俺達以外の全員が驚愕する。


 これは拡声器や魔術を使わなくて正解だったな。でなければ世界中がパニックになっていた。この人数なら話半分に聞かれるし、イブ1人の憶測ならどうとでもなる。


(拍手しながら出ていったら怒ります?)


(怒ります)


『わたくしですら1年掛かった真実に辿り着くとは人間のクセにやりますね、と賛辞を贈ったら怒ります?』


『怒ります』


 厄介精霊王と悪徳マンドレイクの脅しには屈せず、俺は一同が鎮まったタイミングを見計らって、彼女の主張は冗談だと言わんばかりの様子で話を進めた。


「仮にそうだとしても人類より劣ってるのはおかしいだろ」


「そうおかしい。生物は環境に適応して進化するのに、ほとんどの魔獣が身体強化しかしない。精霊術は魔術と違って精霊が想いに反応するだけ。知識は必要ない。適性があれば生きたいと思うだけで発動するはず。それだけで生存率が格段にあがるのにしない。魔石に宿った精霊を魔力に変えるだけ」


 クラーケンが水鉄砲を放ったりワイバーンが火を吐いたり、生まれ持った能力や魔力で何かしてくることはあっても、自然を利用した精霊術ではない。


 泳ぐのも飛ぶのも自力だ。


「あっ! そうか!」


「だから素材に力が宿ってるのね!」


 ぐぬぬ……またしてもアリシア姉にしてやられた。イブも感心したようにアリシア姉を見ながら頷く。完全に彼女の手柄だ。


「精霊の生存意欲では発動しない。だから精霊の仲間である魔獣は力を変換するしかないし、それによって肉体に力が宿って人類が活用出来る素材になる。自然界に存在する精霊が、精霊術師に唆されたり何かの拍子に悪いことを企んでも、何も起きない」


 それが世界のシステム――。



「そして人類。人類は劣ってる。エルフみたいに精霊術の適性が高いわけでも、獣人みたいに身体能力が高いわけでも、魔族みたいに全能力が高いわけでも、魔獣みたいに特殊能力を封じられてるわけでもない。ただ賢いだけ。術式を編み出せるだけ」


「十分じゃね?」

「ゴミね」


 頭脳こそ正義の俺と、力こそパワーのアリシア姉の意見が、真っ向から対立する。被る。睨み合う。


「習得しても仲間と力を合わせてようやく他種族と対等。習得出来なければ一方的に滅ぼされるだけなのに? 上位種族の豊かな生活のために魔術や魔道具を生み出す、家畜みたいな扱いされてもおかしくないのに?」


「……すいませんでした」


 軍配が上がったのはアリシア姉。


 そのドヤ顔を今すぐやめろ。


「でも何故か襲われてない。強者によって守られてる。理由はその賢さこそ一番重要だから」


「…………」


 やめてくれた。彼女の気まずそうな顔は先程まで抱いていた怒りを忘れさせてくれた。やはり争いは良くない。正義がない。誰もが納得する答えを導き出す者こそが絶対的正義だ。勝とうが負けようが不満が生まれたらダメだ。


 ただどっちも敗者となったことで俺達は仲直りできた。


 ありがとう争い。ありがとうイブ。



「つまり『あまりにも貧弱だから対等になれるまで守ってやろう』って哀れんだり育成を楽しみつつ、各種族の力を束ねられるようになるまで待ってたと」


 心の中で、何人かの強者や強者と呼ぶには恐れ多い超ド級の連中が、うんうんと頷いている。人類みたいなのがいないとね~と笑っている。


「誰も魔石からエネルギーを取り出すことは出来ない。でも人類は利用することが出来る。その力を魔獣に与えたら神獣とは別の新しい進化が可能になる……かも」


「知恵の神獣。力の新種。人類を頼る必要があるから滅ぼすわけにはいかず、見下したり操るにはあまりにも強大な力ってわけか」


「その究極系をルーク様は御存知のはずですよ」


 レイクたんに言われるまでもなく理解していた。


 魔獣としての実力、人類の英知、精霊王の加護、友情・努力・勝利を手に入れた存在こそ、表と裏の世界を統べる聖なる獣となれる。


 すなわち聖獣。


 翠龍と鳳凰だ。

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