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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十三話 素材の強度

 魔獣への敵意を容認しつつも必要以上に表に出すことは禁じる、根拠とメリット、そしてよほどの過激派以外は納得の方針を提示して一同を黙らせたガウェインさん。


 例え行動理由自体が憶測によるものでも、それを否定するだけの理由も信念もここに集まった者達にはなく、おそらく国全体でも「他者を虐げたいから嫌だ!」などというふざけた理由で異を唱えられる者はごく少数。


 しかもそれが国と国民のための努力で、代案も出せないとしたら、どうにかこうにかそれらしい理由を捻り出すこともしないだろう。


 ただでさえ試行錯誤を否定することは悪と呼ばれやすいのだ。


 魔獣をはじめとした各種生物と協力せずに防壁が完成しなかった場合の責任を取ろうと思う者などいるわけがない。アンチお得意の言いたいことだけ言って逃げる戦法が使えるほどテキトーでも、小規模な問題でもない。


 そしてそれは国とて同じこと。


 崩壊が確定しているとは言え、失敗を恐れて何もしなければ責められるし、失敗しても責められるし、成功しても褒めてもらえない、とんでもないプレッシャーの中で決めたことに違いない。


 そういった権力者の挑戦心や各方面との意思疎通、民衆1人1人の信念といった部分も含めて、ユキは人類の成長と言ったのだろう。


 とにかく魔獣は人間社会に受け入れられた。防壁の件が片付くまでの短い間かもしれないが、敵でありながら協力者という絶妙な立場を手に入れた。


 あとは自らの意志で協力する必要があることを過程なり結果なりで示せば、魔獣の利用価値はグンッと上がる。強制しては意味がないので虐げることは出来ない。


 それはすなわち社会的地位となる。


 流石国王。完璧な作戦だ。


 そう安堵したのも束の間。レイクたんのおこなった補足によって、俺もガウェインさんも、その場に居たほぼ全員が震えあがることとなった。



「今後訪れる災厄ってなんだ? それはこの防壁……グレートウォールじゃないと防げないものなのか? どうやったら防壁の強度は上がるんだ?」


「わたくしが全知全能ですべての質問に難なく答えられることを崇め奉るのは結構ですが、答えるかどうかはわたくしの自由でございますよ」


「……今後訪れる災厄ってなんだ?」


 あまり期待せずに尋ねると、案の定、舐めた答えが返ってきたが、変なプライドで流れを止めたくはないので俺はレイクたんの自信過剰を受け入れて、最重要テーマを選択する。


「魔獣の大群です」


 今度はいい意味で期待を裏切ってくれた。


 が到底喜べない内容だ。


「来るのか?」


「さぁ?」


「どっちだよ!!」


 この握り拳は開戦ののろしとなり得るぜぇ~。


 そんな脅しを歯牙にもかけず、天を仰いで挑発的な笑みを浮かべたレイクたんは、すぐに視線を戻して俺達に語り聞かせるように言った。


「わたくしはまだ神ではございませんので。世界のすべてを知ることは出来ても先のことはわかりかねます。明日急に神になりたくなって、現在の神を秒殺し、一晩お祭り騒ぎをした後に世界を創りかえて『こんな生温い世界じゃダメだ! もっと、もっと熱くなれよぉぉ!』と、2日後に戦国時代になっていてもおかしくありません」


(((神になるの前提なんだ……)))


 否定出来ないのが怖いところだが、フィーネが子供の戯言とでもいうように呆れているので、おそらくいつもの冗談。もしくはレイクたんの妄想。


 世界を創りかえるのも神ではなく精霊王。あの人は見守るだけ。たまにアドバイスするだけ。ユキが平穏を望んだから今の世の中は争いが少ないのだ。


 ――と思えるのは、世界の理やフィーネの心に精通している、俺やごく一部の連中だけ。その他の者達は、レイクたんが支配する世界を妄想して震え、その心を見透かされて(被害妄想含む)さらに震えあがる。


 神殺しを目論む時点で相当ヤバい。しかも雑魚扱いした上に祝っている。地球のイベントも似たようなものだがそちらは棚に上げさせていただく。


(あながち間違いでもないですけどね~。私も気が向いたら精霊王引退するつもりですし~)


(そんな役職降りるみたいに軽々しく言うなよ……)


 脳内に突然湧いたユキの言葉に怒り多めのツッコミを入れる。


 精霊王を引退した後、ユキという存在がどうなるかは知らないが、力を失ったり死んだりする可能性は高い。


 それは寂しい。居なくなるのはもちろん、ユキにはいつまでも最強でいてほしい。出来るけどやらない。面白そうだからやる。そんな自己中心的な存在として俺達を振り回してほしい。


(私達にとってはその程度のものなんですよ。特に特殊五行を知っている強者はかなりの確率で転生出来ますからね~。『次はどんな人生送れるかな』『強くてニューゲーム出来るかな』と現世に未練を残さないことでその確率はさらに上がるんです~。生き死にを気楽に捉えようと頑張ってるまであります~)


 緊張したら本来の力を出せないけど、どうやっても緊張してしまう大会本番と一緒だな。悪循環だな。


 意図せず成功した俺は運が良かったんだろう。


(世界も同じです。過去の環境の変化との差について考える人はいても、対処しようとする人はいないじゃないですか。世界全体が寒くなったら『さむさむ……暖房つけよ』ですし、冬から春になったら『そろそろ衣替え……いやもうちょっと待とう。まだ寒い日があるかもしれないし』でしょう?

 大規模過ぎて変化した実感が湧かないんですよ。50年も経てば大概の生物はその状態を当たり前のものとして捉えます。老人の昔話は話半分に聞きますし、200年前のことはもはや別世界の話です)


(まぁ10年前の出来事とか、当事者じゃなきゃ『ふ~ん』って感じだし、当事者でも起きてしまったことは受け入れるしかないしな)


(でしょう? しかも、さっきも言ったように、裏側を知った強者はその力を自分のために使おうと努力します。だから真実を知ろうが知らまいが気にする人はいません。『そういう時代だ』で終わりです)


(どれだけ情報化社会になろうと真実は闇の中ってわけか)


 出てくるのは憶測と偽の元凶ばかり。真実には辿り着けない。


 正義と悪という人類が大好きなコンテンツですらまともに機能しないのだ。世界を変えた元凶などという知っても知らなくてもどっちでもいい存在。いるかどうかも怪しい存在。命の危険すらありそうな真実の探求をする者はいない。いたとしてもちょっと情報操作するだけで真実から遠ざかっていく。


 その情報が正しいものかどうか、誰が発信したものか、確かめる術はない。


(でもそれが今回の件とどう関係あるんだ?)


「彼女が何かせずとも、古龍やドラゴン、魔族、エルフ族のような力を持った者達が気まぐれで戦いを挑んでくるかもしれませんね」


 答えたのはユキではなくフィーネ。


 口に出しているが、固有名詞を出さないことで俺にはユキの、知らない一同にはレイクたんのこととして話を繋げる高等テクニックだ。


「誤解のないように言っておきますが、これは宣戦布告でも忠告でもありません。安定を求めていない生物もいるという単なる事実です。穏健派の強者に臆して身を潜めているだけで、機会を窺っている勢力は実は結構多いのです」


「……なんでございますか? 皆様わたくしが手を出すとお思いで?」


 一斉に視線を向けられたレイクたんは失敬だと言わんばかりに眉をひそめる。


「力を蓄えてるとか支配してやるとか自分で言ってたじゃん。手も出してんじゃん。まさかレイクたん自身が災厄とかいうオチじゃないだろうな? あの手この手で人類の敵を誘導したり火種作って争わせるつもりじゃないだろうな?」


 レイクたんの圧に負けた一同に代わって咎め、核心に迫る質問を繰り出すと、レイクたんは面倒臭そうに肩を竦めた。


「申し上げたはずですよ。全種族の協力が必要だと。わたくしは、下等生物の皆様に試練を与えることはあっても、危害を加えたことは一度たりともございません。強者の方々が皆様のことを守っていたのと同じ。形は違えど愛でございます」


「え?」

「は?」

「ん?」


 場をハテナが支配する。


「わかる!」


 と思ったら反逆者が現れた。


 弟が将来困らないように鍛えるという建前で幼少期から暴行の限りを尽くしていた、アリシア=オルブライトとかいう蛮族だ。


 待望の理解者を得て嬉しそうにしている。


 まさか協力関係になった理由って……それ?


「彼女のような感覚だけの無計画な者と一緒にしてもらっては困ります。わたくしは栄養源となる優秀な人材を求めて計画的に動いておりました。搾取しながら下等生物にすら該当しないゴミを排除しておりました」


(((あ、無能は人じゃないから危害加えるよってことね……)))


 疑問はすぐに納得に変わった。そして自分がそうであることを察して一部の連中が凹んだ。



「鎖の強度は弱いところで決まるという話をご存知ですね?」


 知らなかったら話はここで終わる。


 そんな確固たる意志をレイクたんから感じたが、幸いにも俺は知っていたので説明を続けてもらうことに成功した。


「他がどれだけ強くても環の中で最も弱いところから千切れるってアレだろ。それがどうしたんだよ? 災厄と何か関係があるのか? それとも防壁生成の件か?」


「やれやれ……まだ本件の本質を理解していないのでございますね。良いですか? 世界に生きるものは例外なく共存関係にあります。これはいずれかが極端に強くなっては成り立ちません。バランスが崩壊すれば巡り巡って自分達が困るため各々が努力する必要がありますが、未熟な人類には任せておけないので補助していた。これが王都の現状でございます」


「ふむふむ」


「そして防壁の完成度を上げるために必要となるのは、わたくしの栄養となり得る人材。意志の強さは栄養価に直結します。鎖の強度に直結します。

 もし心も体も弱い者が手を貸し、協力関係にある魔獣や精霊の血肉を防壁内部に使用し、意志の力も魔力量もない脆い防壁を作った場合、強者の加護がなくなったと判断して攻めてくる勢力がいてもおかしくありませんし、一度バランスが崩れれば必ず他のところにも影響が出ます」


 魔獣勢力の拡大。人類の勢力争い。魔族やエルフ族の介入。世界が不安定になったことによる精霊の狂暴化。未知の脅威の誕生。


 そこから起きる変化は計り知れない。


「それだとレイクたんも困るから、こういう展開に持っていくために、魔獣アンチを叩きのめしたり民衆を脅したり回りくどいやり方をしたと」


「その通りでございます。本格的に動き出すのは、防壁が完成して邪魔者が手出し出来なくなってから。バランスを崩す際は一気にやるに限りますので」


 …………ま、まぁいいや。


 要するにガウェインさんの説は正しかったわけだ。

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