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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百四十一話 vs悪

「なんだそのふざけた条件。絶対嘘だろ。本当のことを言え。どうすれば防壁は壊れずに済む? あの神様っぽい影は人類だけで可能って言ってたぞ? そもそも防壁がなくなったらアンタが困る理由ってなんだ?」


 防壁を現在の状態で維持するためには全種族の血と肉と魔力が必要。


 ありがちな話だがユキが推奨するとは思えない。そんなことをするぐらいなら結界の撤去を先延ばしにする。闇の力に頼る必要がないからこそ宣告したはずだ。


 何の脈絡もなく現れたレイクたんから告げられた条件に否を唱えた俺は、決して他人事ではない話題に注目する数十の群衆と共に、次の言葉を待った。


「わたくしは嘘をついたことなど人生で一度たりともございませんよ」


 と、その発言自体が嘘、あるいは「人生ではなくマンドレイク生なので」という言い訳を用意しているであろうレイクたんは、店先で治療されているアンチ共に視線を向け、何が嬉しいのか微笑んだ。


「わたくしはその選別をしておりました。過去に感謝し今を楽しみ後世のためとなる有能と、過去を蔑ろにし面白半分に他者を貶め悪しき文化を残す無能。どちらを残すか考えるまでもないことでございましょう」


「「「ひっ……」」」


 事実上の死刑宣告を受けたアンチ共が震えあがる。


 ゴミを取り除けてスッキリ。


 掃除や整地に置き換えれば我々人類も晴れ晴れとした気持ちになれるが、邪魔者とはいえ同族が排除されるのは心が痛む。


「おやおや。何を恐れるのです。これは国の存続に必要なこと。平和のために必要なこと。正義なのですよ。自分が迫害されないように他者を貶める。そこから生まれる産物や生活を謳歌しつつも決して感謝しない。相反する考えを持つ者に敵意を向ける。すべて皆様がおこなっていたことではありませんか」


「「「そ、それは……」」」


 まぁ自業自得だし情報も集めたいのでもうしばらく苦しんでいただくが。


 レイクたんの人柄を察した人々も、安堵とも怒りとも取れる様子で、行く末を見守っている。


「あぁ、そうそう、これも言っておかなければなりませんね。死後のことについてです。皆様も知っての通り、死者の魂は残された人々の想いによって神界へ運ばれ、その量と質によって来世が決定します。

 しかしこれには裏ルールが存在します。残された人々の感謝の念より強い想い……前世で培った悪意で相殺されるのです。

 今回選ばれたのはマイナス域に達した方々。転生することも出来ず、100年後か1000年後か、次の結界が張られるまで防壁の中で虚無を味わい続けるのです。その時にわたくしのように聡く優しい者によって真実を知った者達が感謝し、ようやく他の生物と同じ道を辿ることが出来るのです」


 人はそれを地獄と呼ぶ。


 まもなくそこへ突き落されることを知った一同が顔面蒼白になる中、1人満足気……いや、まだ物足りない様子のレイクたんは俺達に視線を移した。


「そちらの皆様も他人事ではございませんよ」


 そして巻き込んだ。


「ここにいらっしゃる皆様には呪縛をかけさせていただきました。動植物を根拠なく批判した際、抱いた悪意の量で贄に近づく仕掛けです」


「「「んなっ!?」」」


「期限は今年いっぱい。防壁が完成するまでです。せいぜい善行を積んで感謝の念を集めてください。今のように『自分に関係なければ誰がどうなろうと構わない』という倫理観では、いつの間にか贄になっているかもしれませんね」


 顔面蒼白が増えた。



「そんな裏ルールあるの?」


 多少なりとも身に覚えがあれば震えあがること間違いなしの脅し文句を完全スルーしたニーナは、散らかった椅子やテーブルを一緒に片付けていたイブに小声で尋ねた。


「ない。善人だろうと悪人だろうと死んだら神界に送られる。転生の有無まではわからないけど、速度や待遇に差はありそう」


「いやまぁ合ってるけど……どこから手に入れた情報だ、それ?」


 そうだよね、と同意を求める視線を向けてきたので肯定するも、よくよく考えればおかしな状況だ。思わず聞き返す。


 日頃から神様と交流している俺以外、「誕生から死後まで手厚いサポートをしているから練習不足で負けたんですぅ~」とタイムアタックで敗北した言い訳をされる間柄の俺以外、こんな自信満々に答えられるはずがない。


「特殊五行を習得した時に学んだ」


「……聞いてないが?」


「言ってない」


「なんで?」


「ユキさんに『この情報、ルークさんは知っているので、他の人に訊かれてから言うようにしてください。たまには出し抜かないと~』って言われたから」


「どうして同意しちゃったの!? どうして悪戯っ子になろうと思ったの!?」


「プラスに働くことはあってもマイナスに働くことはないと思ったから」


(ぐっ……た、たしかにそうだけど)


 ユキなりのヒントかもしれない。情報共有されても「へぇ~」で終わっていた。何なら「もう知ってたけどね!」とマウント取りにいったかもしれない。


「てことはコーネル達も知ってんのか?」


「ううん。私だけ。母子の関係が似てたみたい。共有もしてない」


 してやられたぜ……。


 これで彼女達が他に情報を隠していたとしても不思議じゃなくなった。でも訊いても教えてもらえないし仲間を疑うのも違う。気にしたらアウトになった。


 こちらとしても下手なことは言えない。それ違うよねとなったら転生者であることがバレかねない。そうでなくても既知ならマウントを取られる。


(この勝負……先に動いた方が負ける……!)


「勝手にピリピリしないで。ルーク君は他に情報持ってないの?」


「あ、ああ……いや持ってない。こっちに話振られたらイブと同じこと言うつもりだった」


 ツッコミというより説教に近い指摘をされた俺は若干ビビりながら答える。彼女は大丈夫だが背後の姉が怖い。イブが合図を送ったら斬り掛かってくるかもしれない。怒りの代行で暴力を振るうかもしれない。


 きっと俺みたいに徳を積んだすんばらしい人間には、リムジンの送迎だったり、寄り道ありなどの豪華特典があるに違いない。


 つまりすべてレイクたんの嘘。


 今回の彼女は色々おかしい。


「『すべての生物』にマンドレイクも含まれてる、とか?」


「たぶん協力ってそういうのじゃない。魔力とか想いの力とかそっち方向だと思う……って、全部ってんならそいつ等も含まれるだろうが! 嫌々する協力なんて想い籠ってないんだから無に等しいだろ!」


 目立たなければ死刑を免れるとでも思っているのか、限りなく空気に近づいていたアンチ共をビシッと力強く指差し、大声でツッコむ。


 直後に、ヒィッ、とひきつった悲鳴をあげた理由は、不意打ちやあまりの勢いではなくそっちな気がする。


「おや。バレてしまいましたか。思考回路をマヒさせれば騙し通せると思ったのですが。流石イブ様。冷静ですね」


「てれてれ」


 脱線、ダメ、絶対。


 というか半分ぐらいは俺の手柄だ。ちゃんと褒めろ。


「人類アンチのわたくしがそのような真似をするはずがないでしょう。アンチとは自己中心的なもの。上げたい相手をとにかく讃え、下げたい相手をとにかく否定するのが、アンチの正しい在り方でございます」


「いや、まぁそれはいいけどさ。冗談で言っただけだし。俺が欲してるのは称賛じゃなくて騙そうとした理由とか首を突っ込んだ理由だし。別に俺のことは嫌っててもいいから情報くれよ」


「なら私を倒すことね!」


「どういうこと!?」


 突然アリシア姉がファイティングポーズを取った。


 いつまで経ってもアンチ共に追撃を入れなかったのでおかしいとは思いつつ、レイクたんの話を邪魔しないように立ち止まったのだろうと思っていたのだが、丁度良い感じで俺と距離を取るためだったらしい。


 意味がわからない。


「何言ってんのよ。レイクはアンチなのよ? ならこいつ等と同じように鉄拳制裁するべきでしょ? 情報引き出したいのなら従わせるのが道理でしょ?」


「ふむふむ」


 まぁそこまではわかる。


 俺にそんな気は一切ないが、戦闘狂のアリシア姉がそう勘違いしても不思議ではない。口は禍の元。例え冗談だろうと容赦しないのがアリシア=オルブライトだ。


「今、私はレイクに操られてるんだから、代わりに戦うのは当然じゃない」


 当然かなぁ……。


 まぁいいけど。


「んじゃこっちも協力者を呼ぶぜ。カモン、フィーネ!」


「あ、それは禁止カードだから無しよ」


「どういうルールだよ!! アンタがルールブックか!?」


「そうよ」


 そっかぁ~。なら仕方ない。何故かフィーネも現れないし。


「なら俺とニーナとイブのスリーマンセルでいかせていただこう。人数差があるからそっちはこのゴロツキ達を使ってくれ。これで3対3だ」


「「「なんで(よ)!?」」」


 個人戦の希望が通らなかったアリシア姉と、突然名指しされたゴロツキ2人が、声を揃えて叫ぶ。組んだばかりなのに息ピッタリだ。


「こいつ等は元々マクモス商店の敵だ。そして昔の偉い人は言いました。『敵の敵は味方』と。

 アリシア姉は俺達と対等に戦える。こいつ等はギルドの依頼を達成出来る。俺達は楽々勝利して情報を手に入れられる。店はトラブルを終わらせられる。レイクたんは人間が苦しむ姿が見られる上に防壁問題が前進する。

 誰も損しない一石五鳥のすんばらしい案だと思わないかね?」


 おおかたそれ目当てでレイクたんと手を組んだのだろうが甘い甘い。


 そして俺の口撃はまだ続く。


「ち・な・み・に! これはあくまでも個人的な意見だけど、何もしないより自分が正しいと思う方に加担した方が贄から遠ざかる気がするぞ!」


「「「うおっしゃあああああ!! 掛かってこいやあああああ!!!」」」


 3対100の戦いが今始まる――。



「ってなんでこっち向いてんだよ。俺達を3人側にすんじゃねえよ。どう考えてもやるならあっちだろ」


 敵意を剥き出しにする一同に呆れながら俺はアリシア姉(と追いやったゴロツキ2名)を指差す。


「復讐を誓っていたはずのアンチ共まで寝返るとはどういう了見だ。まずは初志貫徹で魔獣擁護派を潰すつもりか? それとも数の力に屈したか?」


 ついでにテラスで休憩中の魔獣アンチを睨みつける。


「ふんっ、少しでも助かる可能性があるなら恩を売るに決まっている!」


「そういうとこやぞ、アンチくんよ。問題は善か悪かじゃなくて信念がないことだっていい加減気付け。自分の立場が悪くなったからって意見変えるようなヤツが贄にならずに済むわけないだろ」


「うう、うるさい! 僕達がいる方が正義だ!」


 ダメだこりゃ。


 俺はアンチ共の説得を諦めてその他大勢の客に視線を向ける。


「お前等はなんなんだよ」


「善悪と刑罰の判定者がいて、信念をもって魔獣アンチをボコるヤツもいて、ギルドから正式な依頼で動いてる冒険者がいるアリシア陣営。誰のためでもなく争いを提案する野郎陣営。どっちに加担するか考えるまでもないな」


「ああ。普通はこういう時『戦わない』って選択をするもんだ。彼女が勝っても店が荒らされることもないしな」


「俺達が食べたハンバーガーには毒が入ってました。裏で脅されてました」


「実は自分も。すべてこの店のためだからと過去の過ちを認めさせられました。魔獣肉以外を使おうとすると何故か毎回荒らしが来ました。近々店主ではなくなる自分に怖いものはありません」


「あっ、テメ、この野郎!!」


 ゴロツキと店主の相次ぐ裏切りによって完全に悪にされてしまった。


 全部本当のことなのがまた面倒臭い。上手い具合に隠蔽している。

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