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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百三十八話 活動理念

 ロア商会が協力していることから察するにおそらくマクモス商店唯一の汚点と、それを表沙汰にするために役立ったと言えなくもない自尊心の塊の元従業員の対立は、俺という第三者の介入で幕を閉じた。


「力づくで従わせたの間違いじゃ?」


「おいおい、何を言ってるんだよニーナ。2人とも仲直りしたがってたんだ。でもプライドが邪魔をして素直になれなかったんだ」


 一部始終を見ていたにもかかわらず何やら誤解しているニーナ。俺は相変わらずの理解力に呆れながらも、彼女にもわかるよう噛み砕いた説明を始めた。


「シルベルトさんがいくら妨害してもマクモス商店の人気は衰えず、店主も順風満帆の現状を変えることを恐れて過去の過ちを隠蔽した。2人の溝は深まる一方。

 俺はその後押しをしただけ。バレンタインデーに好きな男子にチョコを渡せない友人を励ましたり、友人の名前を使って呼び出すようなもんよ。相手が幼馴染で、告白の成功・失敗にかかわらず関係が変化してしまうから怖がるようなもんよ」


 な、そうだろ?


 仲良く椅子を並べて謝罪文&報告書を書いている2人に視線を向ける。


 体験談とその時の気持ちと今の気持ちを書くだけ。集中力は必要ないし耳には入っているはずだ。少しなら作業を止めても問題はない。


「は、はい……っ!」


「もも、もちろんです……!」


「ほらな?」


「お仕置きが怖くて本心を口に出せないだけじゃ?」


「人聞きの悪いことを言うんじゃない。集中してなくても別の作業中に話を振られたらビクッとするだろ。2人は、事情を知らない人が見たら勘違いされかねない対応をしたことも含めて、ツンツンしていた過去の自分を上書きするよう真摯に、そして確固たる意志をもって頷いただけ。

 たしかに後押しにはそういう一面もある。失敗した時の責任逃れのために求めることも多い。でもその部分だけを切り取るのはネガティブ思考であり片寄った考えと言わざるを得ないぞ」


「……よくわからない」


「要するに不安なんだよ。罪を認めたり仲直りするのはいいことだけど、それには妥協が必要で、妥協するとどうしても損失が発生する。その瞬間だけじゃなくて未来永劫続くかもしれないものだ。充実している現状維持と、確定している損失&生まれるかどうかもわからない利益。どちらが楽かは考えるまでもない。

 2人とも大人だからそのぐらいわかってるはずだ。そして大人だからこそ、これまでの人生で培ってきた『他人を犠牲にしてでも自分の利益を取る』っていう安定択を失うのは、不安だし不満だし面倒臭い。自分は出来ないのに他人は出来る。そんな理不尽に耐えられないかもしれない。そりゃあネガティブな気持ちにもなる。

 でもそういった困難を乗り越えた時、彼等は強さと優しさを手に入れることが出来る。世間体を気にせず自分の意志で動けるようになる。彼等はその楽しさや必要性を知らない。

 初めては誰だって怖い。けど彼等は一歩前進した。1つの問題を解消した。足を引っ張り合うだけの負の連鎖から高め合う正の連鎖になったけど、ネガティブだった2人は苦労の先にある楽しさより目先の苦労に目がいってしまうし、苦労させてくれたことに感謝するなんて考えには至らない。だからこんなオドオドした雰囲気になってるんだ。自分がこれまでしてきたことへの申し訳なさも含めてな」


「……なるほど?」


 言葉とは裏腹に首を傾げるニーナ。なんとなく言いたいことはわかるが、完全に納得出来たかと言われたらNO。でもこれ以上説明されても困る。そんな感じだ。


 つまりメンドーだから引き下がった。


 でもいいんだ。誤魔化せれば。




「さて……問題はここからだな」


 強欲店長と逆恨みした元従業員が書き上げた報告書を、マクモス商店のトップや警備兵の屯所に送った(フィーネに持って行ってもらった)後。真っ青になりながらもどこかホッとした様子の2人を交えて、俺は一同に新たな話題を振った。


 彼等ぐらいわかりやすい関係ならどうとでもなる、というか俺達が取り組むべきは魔獣アンチとの和解。元々あった火種に油を注いだだけのシルベルト氏とのゴタゴタは本題からズレている。


 情報が足りない。


「妨害活動って一時収まってたんだろ? なんで再発したんだ? シルベルトさんが何かしたのか?」


 ゴロツキ達はまだ気絶しているので、現状唯一あちらの内部事情を知っているシルベルト氏に、アンチの活動理念を教えてもらうことに。


「俺は何もしていな……あ、いえ、していません。ただ再発した原因はわかります」


「おっ、マジか」


 知らなければ叩き起こそうかとも思ったが、幸いにもシルベルト氏は俺の求めている情報を持っていた。


「ただその前に1つ。もう敬語は使わなくていいよ。罪を認めた人間は対等だからな。俺にとっては今アンタは目上の人間。扱いが雑なのは俺が普段から誰に足してもこうだから。気にしないでくれ」


「は、はい! ありがとうございます!」


 ……まぁ「気になるならタメ口やめるけど」と進言しなかった俺も俺なんだけどさ。たぶんここから敬語やめるし最後ぐらい許そう。


「再発した原因は王都の防壁です……だ。無くなるとわかってみんな慌てただろ? その理由は外界に魔獣がいるからだ。外敵さえいなければ。その心が人類に芽生えたのを知った魔獣アンチが活動を再開したんだ。前からマクモス商店とやり合ってた俺にも協力の申し出があって妙だと思って尋ねたら教えてくれたよ。おそらく王都中、もしかしたら世界中で似たようなことが起きているだろう」


「魔獣の恐ろしさや安全の大切さを再認識したわけか……」


「元々火種はあったからな。火をつけるのは容易い」


 言いながらシルベルト氏がケータイの画面を見せてくる。


 そこに映し出されていたのは匿名掲示板にーちゃんねるの書き込み。20分ほど前にニーナに見せられたスレから随分と進んでいる。魔獣批判で盛り上がっているよようだ。世界中で暴れ回っているというのもあながち間違いではなさそうだ。



「こういう連中ってなんで妨害活動なんてしてるんだ?」


「何故って、そりゃあ魔獣が人類に危害を加える悪だからに決まってるじゃないか。例え被害を被っていなくても、俺のようにふとしたことが切っ掛けで嫌いになる連中も少なくない。魔獣は魔道具や食料として人類の役に立っているが、役に立っているからこそ恨まれる対象にもなる。それ等は必ず誰かの犠牲の上に成り立っているのだからな」


 魔獣から採れる素材のせいで用済みとなった原材料や作物の生産者。襲われた人や作物。壊された物品。そうならないために費やす金銭や労力。


 魚釣りで餌にしたミミズは胃袋を取り除けば解決というわけはいかない。自分の親族が血肉となっている可能性もゼロではないのだ。


 見た目が不快でないだけで敵は敵。


 ゴミ捨て場を荒らすカラス駆除の中止を訴える者にマンションの管理人が激怒するように、作物を荒らすタヌキやイノシシを「かわい~」と言う若者に農家が不快感を抱くように、景観維持と衛生のためにハトを駆除することを「税金の無駄遣いだ!」と罵る民衆を市町村が鬱陶しく感じるように、魔獣も嫌われて当然の存在ではある。それを擁護する人間も嫌われて当然ではある。


「それはわかる。でも他人に強要するようなもんでもないじゃん。一部では滅ぼすとまで言ってるみたいだけど『魔獣がいなくなったら無くなるもの多いよ? それとも何かで代用出来るの?』って訊くと全員口を紡ぐし、ほどほどに排除するって言ってる連中はやり方がわからず他人任せ。魔獣そのものじゃなくて生み出されたものに感謝してるだけのヤツも多いのに、全部ひっくるめて『それは魔獣から生み出された悪いものだ!』『感謝するヤツは全員敵だ!』ってのは違うだろ。

 ましてや手を出すとか。一歩間違えば犯罪だぞ。というか犯罪だぞ。復讐だろうと何だろうとやるなら自分1人でやれよ。周りを巻き込むなよ。あとこれは俺の勘だけど荒らしてる連中の大半は愉快犯だと思うぞ」


 前世と今世での経験談だ。


 人は自分の地位が脅かされない迫害なら進んでおこなう。本人達の困っている様子を見て楽しんだり、必死に擁護する者の揚げ足を取って喜ぶものだ。


 論破されそうになったら逃げればいい。話を逸らせばいい。擁護する者の中にはおかしなことを言ったりミスをする者がいるので、そこを叩けば新たな争いが生まれる。過去の過ちを蒸し返すのもあり。例え当事者に許されたことだろうと自分がどう思うかは別。好き嫌いは自由。嫌いという気持ちを出せば必ず異を唱える信者が現れる。許されたんだから無関係なヤツが口を出すなと見当違いの絡み方をしてくる。問題の多くは大ごとにならないように当事者間で話し合われて内々に処理されるので、周りは察するしかなく隠蔽と呼ばれたりするのだが、そこでまた論争が起きる。


 そこに勝利はあっても敗北はない。


 負けない戦いは楽しい。



「依頼者の善悪なんて知ったことか。俺達は受けた依頼を遂行するだけだ」


 手を出すうんうん辺りからは目を覚ましたゴロツキ達に向けた言葉。それに気付いたゴロツキAが面倒臭そうに言った。


「俺達も魔獣には迷惑してるしな。魔獣が襲ってこないからちょっと睨むだけで金が手に入るゴロツキなんて商売やってられるのに、俺達以上に恐れられる存在が蔓延ったら誰も怖がらなくなる。商売あがったりだよ」


 ゴロツキBも続く。


「ゴロツキを商売にするな。捕まるぞ」


 未遂だったからか、何故かフィーネが2人を通報しない方向に持って行ったので今回は無罪釈放だが、実害を出していたら間違いなく犯罪。強制労働行きだ。


「問題ない。今回はたまたま荒らす側だっただけで、普段は用心棒だったり礼儀を知らない小僧共を叱る抑止力として活躍してるからな」


「たまたまだろうがアウトだ、ボケが。そんなの警備兵に頼めよ。冒険者雇えよ」


「俺達冒険者だぞ」


 ゴロツキじゃなかったのか……。


 いやまぁゴロツキ兼冒険者って感じなんだろうけど。基本的に冒険者って憧れてなるもんじゃなくて仕方なくなるもんだし。他の仕事に就けないからやってるバイトみたいなもんだし。


 一般人よりは実力あるから恐喝も魔獣討伐も可能。


 どちらをやるかは依頼内容次第。


「って、まさか荒らしが冒険者ギルドに依頼出してんのかよ? それこそ犯罪だろ?」


「依頼内容の真偽や善悪を確かめるヤツなんていねーよ。そういうところも含めての仕事だ。嫌になったら不名誉覚悟でキャンセルすればいい。面倒な証拠集めを頑張れば慰謝料ぶんどれるぞ」


「……なるほど」


 たしかに言われてみれば、野盗退治を頼まれたけど実は善良な村人だったとか、万病に効く薬が他種族の秘宝だったとか、ゲームではよくある話。


 依頼主が大臣だったら依頼遂行より先に調査のために現地の人々と交流するべきだが、冒険者ギルドのように金品の受け渡しを代行する機関が絡んでいた場合、真偽や善悪を確かめる術は依頼書に書かれた情報のみ。


 ハズレを引いたらそこまでだ。


「――とでも言うと思ったか、バカめ。妨害対象からも情報得られるだろ。被害に遭ってるのに抵抗がなかったり周りの反応見たら絶対おかしいと思うだろ」


「んなこと言われてもなぁ。悪いヤツほど善人面してるってのがこの業界の常識だぞ。武力抗争もいとわないとか、魔獣肉に含まれる毒素を使って悪いことしてるとか、噂程度に知ってたし」


 そう言えばこの店主やらかしてたわ~。シルベルト氏とやり合ってたわ~。


 どちらかが流した情報、あるいはアンチ共によってねじ曲げられた真実から、マクモス商店を悪と断定して動いても不思議ではない。


「そもそも、庭の草抜きから種族抗争まで、依頼があれば何でもするのが冒険者だ。気が付いたら悪事に加担してたなんてよくあること。最後まで善悪に気付かないことも多い。でも批難されることは少ない。金で動くってのはそういうことだ」


 上層部の汚職がバレてもバイトには関係ないってことか。


 運び屋や隠蔽に協力してて何故気付かなかったんだと説教されるのが精々だ。


(これ……芋づる式に見けること出来るのか……?)

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