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異世界の魔道具ライフ  作者: 多趣味な平民
六十三章 魔獣と精霊

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千三百三十六話 人の心人知らず

 他人に自分の考えを押し付けるべきではない。


 従わないからと力づくで強制するのも、復讐心や信念無くおこなうのも論外だが、従いたくないから力で抵抗したり抑圧するのも違うわけで……。


「どうするよ? どこにも正義がないぞ?」


 理由は不明だが魔獣を目の敵にするアンチと、愛社精神だか自尊心から部下の改善案に激怒して追い出したバカ店主と、相談もなくおこなった上認めてもらえないことに腹を立てて妨害活動に加担したプライドの塊のゴミ部下と、金のためなら迷惑行為もいとわないゴロツキ(とバカ店主)。


 正直、全員ぶっ飛ばして争いは何も生まないことを世間に知らしめるのがベストな気がするのだが、帰宅時間が迫っているので徹底的にボコすことは出来ない。


 中途半端は一番ダメだ。皆に復讐心を抱かせてしまうし、その他の悪を安心させてしまうし、「はいはい、結局暴力で解決ですか」と俺達が誤解されてしまう。


 1人でどうにもならない時は仲間を頼るのが一番。


 三人寄れば文殊の知恵。例え世間知らずの王女と、倫理観が崩壊しているニャンコだとしても、異見は異見だ。


「セイルーン王家は魔獣と深い関わりがある」


「国を挙げて魔獣を擁護するってか?」


「そこまではしない。魔獣は私達の生活に欠かせないものって伝えるだけ。魔石もその他の素材も肉や内臓も必要。魔獣のお陰で今の生活がある」


「ん~、主張としては正しいし俺達が今まさにやってることだけど、王族が口出しするのはやめといた方が良いな。魔獣アンチは潰せるかもしれないけど絶対別の争いが生まれる。魔獣のせいで不幸になった人がいることを忘れちゃダメだ」


 ペンは剣より強い。


 誰よりも世間体を気にしなければならない王族が人類の敵を愛するなんて公表すれば魔獣の被害者が黙っていない。大衆も良い顔はしないだろう。金になるからと不敬罪などお構いなしにあることないこと書く記者もいるかもしれない。


 上手くやれば『怒り狂ったアンチが狂暴になって』と責任転嫁の記事が書けるかもしれないが、一歩間違えば大惨事だし、成功したとしても少なからずセイルーン王家に迷惑が掛かる。


 如何にヨシュアに来た際に結構魔獣と遊んでいるとしても。如何にみっちゃんと一緒に暮らしていて、姉妹揃って魔獣を使役(?)していたとしても、国を動かすのはダメだ。


 好き嫌いを明言しなければ観察対象として片付けられる。


 イブも言っていたが魔道具には魔獣の素材が大量に使われてる。観察した成果ということにすれば悪くは言えない。情報や技術の提供者なら認めざるを得ない。


「わたし、神獣」


 続いて提案(?)したのはニーナ。


「……で?」


「……で?」


 続きを促したつもりなのだが同じ反応をされてしまった。


 ボケていないのにボケたように扱われた。そんな感じだ。


「自分が神獣だからどうしたんだよ? 魔獣も同じように進化する可能性があるから凄い生き物だとでも言いたいのか?」


「そう」


「甘い。甘いぞ、ニーナ。世の中はそんなに簡単じゃない。お前は獣人っていう人権を認められた種族。あっちは下等種族であり外敵。呼び方こそ同じだけど人間からしたらまったくの別物だ」


「……? どういうこと? 神獣には魔石ない。成った瞬間血肉に変わる。強者になり得る存在なら迫害するわけにはいかないし、中身が同じならそれはもう同族」


「それを認めないのが人間って生き物だ」


 一代で成り上がった貴族より昔ながらの貴族。努力と化粧で美しくなった元ブスより生まれた時からの美少女。無名の冒険者よりお偉いさんの御子息様。


 人は生まれながらに平等ではない。出生ですべてが決まると言ってもいい。


「この世に誕生した時から立ってる場所が違うんだよ。どれだけ近づこうと、どれだけ差をつけようと、『でも元は○○だよね』と見下されるんだ。自分の地位を守りたいから。ストレスを発散する格下がいることで安心出来るから」


 そんなメンタル弱者の人類が圧倒的弱者(にしたがっているだけで実際は上だったりする)の魔獣を認めるわけがない。条件次第で自分達より上位の存在になるから大切にしろと言われて納得するわけがない。


「魔獣はどこまでいっても魔獣ってこと?」


「そゆこと。魔獣が体内の魔石を取り込んで神獣になっても『魔獣のクセに生意気だ』って嫌悪されるだけ。反感買うだけ。神獣になって人間の役に立ってようやく人並み。やり過ぎるとただの邪魔者。神獣にならなきゃただの害悪」


 本人から聞いたわけじゃないし、自分の立場が悪くなるだけだからないかもしれないけど、みっちゃんのことを良く思わない連中も少なからずいるはず。


 良い魔獣もいるが悪い魔獣もいる。全員が全員「彼等は魔獣だけど良い連中!」と割り切ることは難しい。


 日本人なんて同族すら嫌ってたりするしな。中国とか中国とか中国とか。


 仕事を恵んでやってる。悪いのは全部中国人のせい。そんな決めつけが蔓延ってる。どうして『日本人はテキトーな仕事で満足するバカ』とか『国の発展のためにいくらでも投資してくれる便利な連中』とか下に思われてるって考えに至らないかね。投資家が日本じゃなくて中国に注目してる理由わかってないの? 経済の中心は日本とか本気で信じてんの? いつまで格上気分なん?


「実力があるのに認めてもらえない……世知辛い」


 まるで自分がそうであるかのように悲しむニーナ。


 ツッコまないよ。たぶんボケてもないよ。


「たぶんだけど、獣人やエルフも人類に受け入れてもらえるまで結構時間掛かったと思う。出生は知らないけどたぶん人類が繁栄するより後だろ? 世界の覇者気取ってたら別大陸から来たとかだろ? 争いになって、個では負けたけど数で勝って、歩み寄っただか興味を失っただかで今の形になったと思ってる」


 言いながら視線をフィーネに移す。


「かもしれませんね」


 はぐらかされてしまった。まぁ期待していたわけじゃから別にいいけど。知ったところでだし。


 獣人の出生については前にユキから聞いたことがある。詳しくは教えてもらってないけど、どこかにあるパワースポットで何かして魔獣だか動物だかが超進化して二足歩行や言語を身につけたって話だ。つまり神獣化のようなもの。


 そしておそらく争いの果てに平穏を掴み取ったので参考にはならない。


「時代と心境の変化が大きいですね。戦乱の時代にどこからともなく現れた異種族の傭兵は需要がありました。求められていたのは強さ。それさえ示せば信頼は自ずと得られましたから」


「心境の変化?」


 どうせ訊いても無駄だ。なら少しでも役立つ情報を得たい。


「豊かな生活と豊かな心は必ずしも両立するわけではありません。平和だからこそくだらないことを思いつき、明日も知れぬ身だからこそ優しくなれたりするものです」


「いつの時代も同じようなヤツはいるってことか」


 まぁ参考にはならないっぽいな。


「てか自分を守るにしては不確かな理由で他者に危害を加えるのって、こいつ等が嫌ってる魔獣そのものなんだよな」


「自分のことは棚に上げるもの」


 イブさん、アナタに社会のことを教えたメイドは相当歪んでますね。俺が言うのもなんだけど。そして間違ってはいないけど。




「さて……選択肢としては、ゴロツキ共を叩き起こして折檻か、元従業員を探し出して和解させるかだけど、急ぐ必要がありそうな後者でいいか?」


 いくら考えても魔獣を受け入れてもらうための策が見つからないので、取り敢えず目先のトラブルだけでも解決することにした俺達は、手中にある(いる)ゴロツキより早くしないと逃げられてしまう元従業員探しを優先。


 どうぞ御自由に、と他人事のような空気を纏う2人を尻目に、俺は廊下から外の様子を窺……う前に絡まれた。


「和解ですって!? 迷惑掛けられたのはこちらですよ!?」


「そこの2人。暇ならこっち頼むわ」


「「…………」」


 視線を向けるもイブもニーナもノーリアクション。


「動け。勤続2年のバイトでももうちょっときびきび動くぞ。でもお前等なら状況を理解出来てないかもしれないから指示出してやる。自業自得な店主を何とかしろ」


「……毒で動けなくすればいい?」


「いいと思う」


 よくねえよ。ゴロツキ共と同じ末路辿らせんじゃねえよ。もうちょっと穏便な方法あるだろ。面倒臭いなら仕方ないけど。


 店主がどうなったか見届けることなく、俺は再度廊下から外の様子を窺った。反転アンチになるぐらいだ。困り果てている店主の姿を見るために近くにいるはず。


 美少女2人に囲まれている状況に嫉妬するか満足するかは神のみぞ知ること。


(……あれか)


 着々と開店準備が進む店内をワクワクした様子で眺める客達の中に、周りとは違うイヤらしい笑みを浮かべる白髪の男を発見。店長に教えてもらった元従業員の容姿と一致している。


 念のためにちょっくら心の中を拝見させていただこう。


(くくっ……もうちょっとだ。もうちょっと評判を落とせば経営不振で潰れるぞ。俺の渾身の一品を認めない連中なんて不幸になれば良いんだ! ふひゃひゃ!)


 間違いなくこれだ。


(くそくそくそ! なんで俺の店が人気出なくてあいつ等ばっかり! 絶対こっちの方が美味しいのに! こいつ等全員クソだ! どさくさに紛れて胸や尻を触っても全然気が収まらねえ!)


 ちょっと自尊心が強すぎるのと情緒不安定で倫理観はゴミだが、美味しさを追求する素晴らしい料理人だった。おそらく腕も確か。


 ただ味だけでは人気店にはなれない。客からの注目度や店の雰囲気づくり、接客、レパートリーの多さ、そして何よりも運が大事だ。


(しかも俺のアイディアもパクリやがって……マクドモストカゲ肉以外使わないって言ってたのに、それが嫌なら辞めろとか言ってたのに、辞めた1週間後に各種合いびき肉の商品出しやがって……)


「それはアンタが悪いよ!? なんで引き留める時に言ってやらなかったんだよ!?」


 チェーン展開していることを考えれば、1週間というのは短すぎる。おそらく白髪が辞める前から計画されていたことだ。


 俺はボーっと佇んでいる店主を問いただした。


 毒を盛られて、床に倒れて、俺が振り向く前にフィーネによって治療された……と思う。空気を読んで自主的に沈黙していた可能性も微レ存。仮に毒を飲ませたとしてイブ達がどうやったのかもわからない。接触は嫌がるだろうし。投球か?


「仕方がなかったんです。私が上に行くためには功績が必要だったんです。あのマクドモストカゲと牛肉を混ぜた商品を私が考えたことにすれば、本部は私のことを認めてくれる。そう思ったら伝えられませんでした」


「土下座しろ! そして仲直りしろ!」


「もう手遅れなんですよ……何もかもが……」


「なにいいこと言ってる空気出してんの!? 上司と部下の意志疎通の問題だろ!? 自尊心の問題だろ!? 人間関係に手遅れとかないから!!」


 なんでこんな店と提携したんだろ、ロア商会……。

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